「この子がさ、リーダーに用あるんだって」
ハキハキとした少女の後ろで控えめに佇む少女。
どちらもファントム所属だ。
「何かな?」
コハクが笑いかけると二人揃って赤くなった。
「あの・・・ちょっと・・・人のいるところでは・・・恥かしいので・・・」
「・・・何よあれ」
ヒスイはいつもの席からずっと様子を見ていた。
そして、コハクの側に女性メンバーがくる度にムカムカしていた。
コハクは誰に対しても笑顔を絶やさない。
(お兄ちゃんってホント人当たりいいよね・・・私とは大違い)
ヒスイの側には誰も寄ってこない。
いつもひとりだった。
「それで・・・あの・・・6時に裏庭で・・・」
少女がコハクに言った。
ガタン!
ヒスイは席を立った。
コハクが何と答えるか聞きたくなかったのだ。
(呼び出し!?まさか告白じゃないでしょうねぇ~!!)
ズカズカと廊下を歩く。
(6時・・・行かせない・・・行かせるもんですか~!!)
「え?何?コハクを喜ばせたい?」
メノウの前でこくりとヒスイが頷いた。
(何としてもお兄ちゃんを引き留める!!)
「じゃあ、これやるよ」
メノウが部屋の奥から瓶詰めを持ってきた。
中にはカラフルなキャンディがいっぱい詰まっている。
「一個食べてみて」
「?」
ヒスイは瓶から一粒取って食べた。
「美味しい・・・」
キャンディは口のなかですぐに溶けた。
「どう?」
「どうって?ヒック!」
しゃっくりが出た・・・と同時に・・・
「・・・お父さん・・・コレ・・・何?」
「何って・・・ネコミミ」
猫の耳が生えている、しっぽもある。
ヒスイはぽかんとしたままだ。
「それでコハクのとこいってみなよ。絶対喜ぶから」
PM5:00
ヒスイはめずらしく自分からお洒落をして鏡の前に立った。
挑発的なミニのワンピース。
薄くリップを塗ってみた。少し大人っぽく見える。
そして猫耳。
(これでいけるかな・・・)
これから体を張ってコハクを誘惑するのだ。
お洒落にも力が入る。
正直かなり恥かしい・・・
(でも・・・行って欲しくない。あの子のところに)
ヒスイは帽子を被って部屋を出た。
(決行よ!)
談話室。
「お兄ちゃん」
ヒスイが扉から顔を覗かせ、コハクを呼んだ。
「!?ヒスイ!どうしたの?」
コハクが大勢に囲まれているところへヒスイが顔を出すのは珍しい。
コハクは職務を放棄してヒスイのところへやってきた。
「こっちいこ」
ヒスイはコハクを隣の空き部屋へ誘った。
そこで帽子を取った。
「!!!どうしたの!?それ!!」
(かっ・・・かわいぃぃ~!!!超・萌え!!)
「・・・お父さんにもらった飴食べたら生えた」
(メノウ様ナイス!!)
ヒスイはしっぽをぷらぷらさせて照れている。
(やばい!これはやばい!可愛すぎる!!写真を撮らねば!!)
「ちょっとここで待ってて!」
コハクはカーネリアンにポラロイドカメラを借りようと向きを変えた。
「や・・・っ!いかないでっ!!」
ヒスイがコハクの背中に抱きつく。
「ヒスイ?」
「し・・・したいのっ!今すぐ!お兄ちゃんとっ!!」
「え・・・?」
「・・・いいの?こんなところで」
「うん・・・いい」
ベッドのない部屋だった。鍵もかからない。
部屋の前は人通りが多く、いつ誰に開けられるかわからない。
「・・・可愛いよ、すごく。やっぱりヒスイは猫耳が似合う」
「???」コハクの言っている意味がわからない。
(でも・・・喜んでくれてるみたいだから・・・いっか)
「お兄ちゃん・・・キスしよ」
背伸びをしてもコハクには届かない。
ヒスイは色っぽく微笑んでキスをねだった。
「ん~っ・・・」
コハクはメロメロ状態だ。
舌を絡めるキスをしながら、ヒスイはちらりと時計を見た。
PM5:20
(行かせない・・・絶対!!)
キスが終わるとヒスイはすぐにコハクを求めた。
「ね・・・お兄ちゃん・・・ここから・・・入れて」
服を脱ぐ間も惜しんでヒスイが誘う。
自分から足を開き下着を指で少しずらしてみせる。
そこからヒスイの入り口が覗いた。
「・・・ヒスイ・・・」
(これは・・・夢か・・・?)
ただごとではない。
絶対に何か理由がある。
そう考えたのは一瞬で、コハクは猫耳のヒスイに誘われるがまま中を目指した。
「・・・ちゃんと濡れてる?」
「ん・・・平気」
コハクは指で軽く確かめてからヒスイの中へ入った。
「んんっ!」
耳がぴくぴく、しっぽがぱたぱた、そして・・・牙。
(三種の神器だ・・・ヒスイ・・・愛してる!!)
「は・・・っ!はぁ・・・っ!!」
(だめ・・・まだ・・・はやい)
横目で時計を見る。
PM5:43
(これじゃあ終わっちゃう・・・お兄ちゃんが行っちゃう・・・)
「あ・・・っ・・・ん・・・おに・・・ちゃん・・・もっとゆっくり・・・」
「ヒスイ・・・」
コハクはいつも以上に興奮している。
「やっ・・・いかせないっ!!」
ヒスイは思わず口走った。
(イかせない!?)
違う意味にとったコハクは益々興奮した。
(ヒスイ・・・そんなに・・・)
スルッ。
「・・・え?」
ヒスイが腰を引いて逃げた。時間稼ぎだ。
(まだ・・・だめ)
「こらこら」
コハクはすぐにヒスイをつかまえた。
「今更おあずけされても困るよ」
「あっ・・・やっ・・・」
「ヒスイのココだってこんなに欲しがってるのに」
「う゛・・・っ!!」
ヒスイの腰を掴んで、もう一度中に入った。今度は後ろから。
誘惑していたはずが、いつの間にか主導権を握られている。
「う゛ぅ~・・・っ」
(だめ・・・もう・・・)
涙が出る。
ヒスイは絨毯を握り締めて喘いだ。
「ね・・・ヒスイ・・・鳴いてみて。ネコみたいに。ほら」
「や・・・ぅ・・・おにい・・・ちゃ・・・」
ヒスイは伸びをしたネコのような姿勢になっている。
「鳴いてお願いしたら、もう少し優しくしてあげるよ?」
「・・・にゃ・・・にゃぁん!」
(うっ・・・!!キターッ!!!かわいい~!!!)
「にゃ・・・うぅ・・・」
(猫・猫・私は・・・猫)
ヒスイは時計を見るのも忘れてネコ化に没頭した。
「にゃぅ・・・ん・・・あ・・・ん」
「・・・いい子だ」
コハクが喉を撫でる。
「おにい・・・ちゃん・・・」
「・・・ん?」
「このまま・・・おにいちゃんの・・・好きにしていいから・・・今夜は・・・ずっと・・・一緒に・・・いよ」
「・・・いかないよ。どこにも。こんなに可愛いヒスイを放っておけるはずがない」
「おにい・・・ちゃん・・・」
PM6:15
コハクは移動の呪文を唱えた。
「部屋に戻ろう。鍵を掛けて・・・たっぷり可愛がってあげる」
こうしてお兄ちゃんはあの子との約束をすっぽかした。
思った通りになったのに・・・なんだか嫌な気分だ。
「・・・・・・」
ヒスイはいつもの席で、いつも以上に不機嫌だった。
「ちょっとあんた」
ヒスイに声を掛けてきたのは昨日の二人組の片割れ・・・滑舌の良い方だった。背後に例の少女がいる。
「・・・なに?」
「この子があんたに用あるって。」
「・・・・・・」
ヒスイとその内気な少女は建物を出て裏庭まで歩いた。
「・・・あの・・・これ・・・」
少女から話しかけてきた。決死の覚悟で・・・という感じだ。
「?」
ヒスイは布で包んだ厚みのある板を受け取った。
「昨日、リーダー待ってたんだけど・・・」
そう言われてドクンと胸が鳴った。
「こなくて・・・」
くしゅん!と少女がくしゃみをした。
(・・・ずっとここで待ってたのかな・・・この子・・・)
「・・・これ、私が見てもいいの?」
「うん・・・」
ヒスイは包みを開けた。
「・・・これ・・・は・・・」
布を捲ると額に入った絵が出てきた。
そのモデルは、コハクとヒスイだ。
「勝手に描いてごめんなさい!!」
少女が謝った。
「わたし・・・絵を描くのが好きで・・・たいしてうまくもないんだけど、リーダーが結婚するって聞いたからお祝いに何かあげたくて・・・」
「・・・私が貰っていいの?」
「うん。ホントはどっちに渡しても良かったんだけど・・・あなたがあまりにもキレイだから・・・少し・・・声かけにくくて・・・」
「・・・ありがとう・・・ごめん・・・ね」
ヒスイは小さな声でそう言うと少女の元を走り去った。
(私・・・サイテ~・・・)
「ヒ・・・ヒスイ!?」
「・・・・・・」
その日の夕方、部屋に戻ってきたコハクは目を丸くした。
耳としっぽは消えている・・・が・・・
「子供に・・・戻っちゃった・・・の?」
しかもいつもより幼い。見た目は6歳ぐらいだ。
ふて寝から目覚めたらこうなっていた。
ヒスイ自身理由はよくわかっている。
「よしよし」
コハクはヒスイを抱き上げて背中を撫でた。
(・・・まずい・・・やりすぎた・・・!?)
内心かなり後ろめたい。夕べはやりたい放題だったのだ。
「ヒスイ・・・なんか・・・あった?」
原因は自分ではないかと思いつつ、一応そう尋ねてみる。
「別に・・・」
ヒスイは沈んだ声で答えた。
(まさか萌飴の副作用とか・・・)
萌飴・・・コハクが勝手に命名した。
動物のパーツ能力が封じられた飴。
本来の使用方法は別のところにあるのだが、拝み倒してメノウのところからまるごと一瓶入手してきたのだ。
「う・・・ん・・・」
その夜、元に戻してあげると言って、コハクがヒスイを抱いた。
「ヒスイ・・・?大丈夫??」
「やだ・・・いたい・・・こわい・・・」
ヒスイは足を開くのも嫌がった。
「う~ん・・・」
(まいったな・・・)
怖がられてしまってはどうにもやりにくい。
「もういい。しばらくこのままで」
小さく体を丸めてヒスイが言った。
翌日。
「・・・どうした。その様は・・・」
「オニキス・・・」
いつも持ち歩いている魔道書を重そうに抱えていると、はるか上からオニキスがヒスイを覗き込んだ。
「どうせ私・・・子供だもん。やきもちばっかり妬いて」
見晴らしのいい高台でオニキスに打ち明ける。
オニキスには胸の痛みを説明する義務がある・・・
心臓を共有するようになってからオニキスには包み隠さず話をするようになっていた。
「・・・そんなことがあったのにお兄ちゃんには話してないの。私、お兄ちゃんの側にいるとどんどん嫌な女になる・・・」
6歳の姿でヒスイは溜息をついた。
「・・・・・・」
オニキスはしゃがみ込んでヒスイをじっと見つめた。
「?」
そして・・・デコピン。
「いたっ!」
「・・・何を悩んでいる。お前はもともと嫌な女だ」
「・・・あ!そっか!!」
オニキスの言葉でヒスイの表情が明るくなった。
「私・・・何いいヒトぶってるんだろう」
ヒスイが笑う。
「・・・いってくる!!」
オニキスに手を振って走り出す。
「くすっ。子供だからって手加減しちゃって」
弾かれた額はいつもよりずっと痛みが少なかった。
(オニキス・・・ありがと)
「あれ?ヒスイと・・・オニキス」
コハクは仕事の合間を縫ってヒスイを探していた。
ヒスイのことが気がかりでならない。が、そのヒスイはとても和んだ顔でオニキスと話をしている。
(僕には話さないことをオニキスには話すのか・・・)
かなり気にくわない。
「な・・・っ!」
オニキスがヒスイの額を指で弾いた。
(しかもそれでヒスイの表情が明るくなった)
ムカ~ッ・・・
ヒスイに拒絶された後だ。尚更くやしい。
「・・・ヒスイ」
走ってくるヒスイをつかまえ、木陰に引きずり込んで、キスをする。
「お・・・にいちゃん!?仕事は・・・」
「今、休憩時間」
「ん・・・」
幼いヒスイを押し倒し、細い首筋に唇を這わせる。
「痛かったら・・・言って」
コハクはワンピースの裾から手を入れ、ヒスイの小さな割れ目をなぞった。
「ん・・・っ」
いい反応だった。抵抗もしない。
(よし!いける!外だけど)
「まって・・・あとにして・・・たぶんもう大丈夫だと思うから・・・」
「ヒスイ?」
「行きたいところがあるの。また後でね」
ヒスイはするりとコハクの腕を抜けた。
「じゃ!」
「あ・・・うん。気をつけて・・・」
あっという間に逃げられてしまった。
コハクは行き場をなくした指を舐めてヒスイを見送った。
(・・・おいしい・・・)
「ちょっといい?」
ヒスイは少女を呼び出した。
そして開口一番に謝罪した。
「この間はごめんなさい。お兄ちゃんが約束守れなかったの、私のせいなの」
「え?」
「ずっとお兄ちゃんのこと待ってたんでしょ?そのせいで風邪ひいて・・・」
「ううん。違うの」
「え?」
「わたし、15分ぐらいしか待ってないから」
少女はそう言って、スカートのポケットから取り出したものをヒスイに見せた。
「・・・式・・・神・・・?」
魔法の効力が切れ、今はただの紙だ。
簡単な形式のもので長くは保たないが、鳥形などにしてメッセージを伝えるのに役立つ。
(お兄ちゃん・・・一体いつ・・・)
「“ふたりとも今日は行けない。ごめんね。”ってリーダーから」
「ふたり?」
「そうよ」
少女はくすくすと笑い出した。
「リーダーね、女の子に誘われると必ず“ヒスイも一緒に連れていくから”って言うの。大抵の子はそれで引いちゃう」
ヒスイ同伴。
「ファントムじゃ有名な話よ。だからわたしも・・・」
“6時ね。じゃあヒスイと一緒に行くから。”
「って、言われたの」
「・・・な・・・」
ヒスイは驚きで口をぱくぱくさせている。
(最初からすっぽかす必要なんてなかったんじゃない!!あの時、途中で席を立って、勝手に勘違いして、猫の真似事までして・・・)
カ~ッと全身が赤くなる。
自分で自分に呆れ、言葉も出ない。
少女はまだ笑っていた。
「リーダーがあなたのこと凄く大事にしてるの、みんな知ってるから」
カ~ッ。更に上塗りされる。
内気でも愛想のいい少女だった。
にこにことした顔でヒスイを見ている。
「・・・ありがとう。あの絵、大切にするね」
ヒスイは頬を紅潮させたまま、丁寧にお礼を述べた。
「お兄ちゃん。これ」
ヒスイは部屋に戻るなり、コハクに少女の絵を見せた。
「ああ、それね」
「・・・知ってた?」
「うん。彼女から話は聞いてたから」
「・・・黙っててごめんなさい」
「・・・おいで」
コハクはヒスイを膝の上に座らせた。
「・・・悪い子だ」
声を低くして囁く・・・
「僕がこんなに大切にしてるのに、わからないなんて」
ヒスイの耳が赤くなる。
さっき少女から聞いたことが何かと嬉しいのだ。
「僕達は二人でひとつだ。みんなそう思ってる。だから・・・ヒスイが不安に思うことなんて何もないよ」
(不安なのはむしろこっちだよ・・・)
高台の光景を思い出すと少々凹む。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「みんなの前でキスするの・・・あれ、わざとなの?」
「よくわかったね」
コハクがヒスイの頭を撫でた。
「正確には男避け。ヒスイは僕のものです!って宣言してるの」
「やだ・・・お兄ちゃんってば・・・」
ヒスイの照れ笑い。
「さて。万事解決したところで・・・してみる?」
「うんっ!!」
「ヒスイ。あ~んして」
「?」
幼い頃からの条件反射でヒスイは口を開けた。
そこにコハクが放り込む・・・萌飴。
「ぱくっ!ヒック!」
6歳のヒスイにうさぎの耳としっぽが生えた。
学芸会のうさぎさん状態だ。
(うわぁ~・・・かわいい~・・・萌え!!)
「ちょっと!?お兄ちゃん!!」
ヒスイが怒ると丸いしっぽがぷるぷる揺れた。
(・・・萌飴最高!!!)
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