ギシギシとベッドが軋む。


「あ・・・ん・・・あぁん!」


「・・・・・・」
(ヒスイの声だけ聞いてると、サンゴと錯覚しちゃうんだよね・・・)
メノウが軽く溜息を洩らした。
隣の部屋では今夜も愛が営まれている。
「喘ぐ声まで似てるから、近くでやられると結構シンドイ・・・」
眠れない晩に本音でぼやく。
屋敷には軽く10部屋以上あった。
そのなかでわざわざこの部屋を選んでしまった自分を呪う。
(あいつ等にとっちゃコレが日常だもんな)
「俺も・・・サンゴがいればなぁ・・・」
時折堪らない気持ちになる。
どれほど切望してもサンゴの体に触れることは叶わない。
メノウは窓辺で頬杖をついて新月の空を見上げた。
(・・・サンゴ・・・)





「メノウさま・・・」
優しい微笑みでサンゴが両手を広げる。
「サンゴ・・・」
たっぷりと豊満な乳房にメノウが顔を埋めた。
そのまま抱擁・・・気が遠くなるほど幸せな気分になった。
「あ・・・ぁ・・・メノウ・・・さま・・・」
サンゴは大きく股を広げた。
今度はそこに顔を近づける。
「どこ舐めて欲しい?」
悪戯っぽく笑ってじらす。
「ここ・・・です」
割れ目を自分の指で開く。そうするように教えた。
とろりと愛液が垂れる。
主人の喉を潤すための甘い汁だ。
メノウはそこに吸い付いてサンゴの指も一緒に舐めた。

じゅるっ。

「はむ・・・っ・・・ん・・・」
「あっ・・・はぁ・・・」
「サンゴ・・・もっといっぱい・・・」
清らかなサンゴの乱れる姿が見たい。
「はい・・・メノウさま・・・んっ・・・はぁっ」
サンゴは自分の指を更に奥まで入れた。
メノウを悦ばせるためにぐちゃぐちゃと中を掻き回してみせる。
「あぁ・・・メノウ・・・さま・・・」
従順なサンゴ。メノウの言葉には絶対に逆らわない。
望まれればどんなことでもした。
「そろそろいいよ。指抜いて」
「はい・・・あっ・・・」
指の代わりにメノウが舌を入れた。
「あぁ・・・っ」
突いたり、抜いたり、舌先で本番さながらに刺激する。
サンゴは快感に喘いだ。
「あ・・・っ・・・あぁん・・・メノウ・・・さま・・・」
「ん〜?」
口は使用中。メノウは鼻で返事をした。
「わたしにも・・・ご奉仕させて・・・ください・・・」
「うん。じゃあ舐め合いっこしよっか」
「はい〜」
サンゴは嬉しそうに微笑んだ。

14歳のメノウと19歳のサンゴ。

体格差があるので同時ではなく順番に舐め合う。
立ち上がるメノウの足元に跪き、サンゴは上向きの性器を頬張った。
控えめではあるが、丁寧に舌で尽くしてゆく。
不慣れでひたむきな舌の動きにメノウの興奮が高まる。
「ん・・・っ!いい・・・カンジ・・・」
サンゴの頭を撫でる。
「んむっ・・・はぁっ・・・メノウさま・・・」
「ね〜?サンゴ。俺のこと好き?」
「はい・・・好き・・・です」
メノウの質問にサンゴはとても素直に答えた。
「愛してる?」
「はい・・・愛して・・・います。とても」
「サンゴ・・・顔あげて」
「・・・はい」
サンゴの頬は窓から見える夕焼けの色と同じになっていた。
「・・・俺も好き。最高に愛してる」
メノウは唾液で濡れたサンゴの唇を塞いだ。
「・・・メノウさま・・・ください・・・新しい・・・命を」
「うんっ!」



「ん・・・サンゴ・・・っ!!」
自分の声でハッと目覚める。
いつの間にか眠っていた。
「・・・夢かぁ・・・」
窓の外は朝焼けだった。
「うん。確かにいい夢だった・・・けど」
メノウは下着の中を覗き込んだ。
「あ〜・・・やっぱな〜・・・」
思った通り、洗濯の必要があった。
(なんかコレやっちゃうとすっげぇ虚しくなる・・・)
「ラピスのこと笑えないよな〜・・・俺も似たようなもんだし」
メノウは苦笑いで頭を掻いた。そして呟く。
「そうだとしても・・・夢の中でしか会えないんだから、しょうがないか」



「あ!おはようございます〜!メノウ様!」

着替えて階段を下りると、コハクが待ってましたとばかりに寄ってきた。
「・・・何ソレ」
問題はコハクではなく後ろに控えていたヒスイのほうだった。
「何ソレって・・・サンゴ様のコスプレ」
コハクが説明する。
ヒスイは顔立ちが優しく見えるメイクをコハクに施されていた。
かなり大人っぽい風貌になっている。
銀の髪は見事なウェーブ。髪型はサンゴそのものだった。
瞳はコンタクト・・・しっかりと紅い。
「顔はやっぱりメノウ様ですけど雰囲気は出てるでしょ?」
「・・・・・・」
コハクとヒスイの思想回路はやっぱり謎だ。
さすがのメノウも二人の行動の意味が理解できない。
「ちなみにあの胸本物じゃないですから、触らないでくださいね」
擬似巨乳であることをメノウの耳元でこっそり告白。
「今日一日だけ貸してあげます。メノウ様に」
「・・・ずいぶん偉そうじゃん」
「ええ。ヒスイの所有権は今や僕にありますから」
コハクが得意顔で左手を翳す。
そこには結婚指輪が光っていた。
「今日一日お母さんだと思って・・・」
ヒスイは照れて瞳を伏せたまま、メノウに言った。
「メ・・・メノウ様って呼ぶから」
どういう風の吹き回しか。
いつもならヒスイが一番嫌がりそうな展開だが、意外にもノっている。
しかしあまりにも唐突なプランだった。
「ムリに決まってるだろ〜・・・」
「まぁ、そう言わずに」
コハクはかなり強引な流れに持っていった。
「サンゴ様と行きたかった所とか。ヒスイと行ってみるのも悪くないと思いますよ。親子デートってことで・・・ねっ!」
玄関までメノウの背中をぐいぐいと押して、弁当を渡す。
その後にヒスイがついてくる。気味が悪いぐらい笑顔だ。
「いってらっしゃい〜!」
エプロン姿でコハクが手を振る。
こちらの笑顔も怪しかった。
(こいつら・・・何か企んでる・・・絶対・・・)
「・・・まぁ、いっか」
愛娘とデート・・・確かに悪くない。
「いこっ!おと・・・じゃなくてメノウ様っ!」
ヒスイがメノウに向けて手を伸ばす。
「お父さん、でいいよ。そう呼ばれるの、嬉しいから」
差し出された手を取ってメノウも笑った。



「どこ行く?」
「そうだなぁ〜・・・」
メノウは少し考えてから言った。
「動物園」
「動物園?」
「うん。サンゴ、動物好きでさぁ〜。犬とか猫とか山のように拾ってくるんだよ」
「へぇ〜っ」
「おかげですっかりワンニャン屋敷に・・・」
「あはは!」
亡き妻、亡き母の思い出話に花が咲く。
「お母さん・・・かぁ・・・。優しそうなヒトだよね」
「・・・優しかったよ。ちょっと天然ボケっていうの?そこが可愛くてさぁ〜。年上で体も俺よりずっとでかかったけど、守ってやりたいカンジで・・・」
ノロケが止まらない。メノウの顔はこれでもかというくらい緩んでいる。
ヒスイはどんなお惚気にも笑顔で付き合った。
「ヒスイは行ったことあるの?動物園」
「うん。小さい頃、お兄ちゃんがよく連れてってくれたから」
そんな会話をしながらヒスイが魔法陣を描く。
動物園直行魔法陣だ。
「今日は私が案内するよ」
「ん!よろしく!」



動物園は大混雑だった。

その人混みに紛れ、かえって人目を気にせず楽しむことができた。
キリン・象・熊・カバ・ライオン・虎・・・
園内を軽く一周して、弁当を広げる。
「あいつの弁当美味いんだよな〜」
「うん!お兄ちゃんのお弁当大好き!」
行楽日和。青空の下、お楽しみの時間。
もぐもぐと口を動かしながらお喋りは続く。
「じゃあ次は魔獣館へいってみよ」
「魔獣館?そんなのあるの?」
「うん。最近できたらしいから私もよく知らないんだけど。ここの目玉だって」
パンフレットに書いてある。
植物館。鳥獣館。そこに並んで魔獣館。
「魔獣ねぇ・・・人間の手に負えないと思うけどなぁ・・・」
「魔獣使いでもいるのかな?」
「魔獣使いでも飼い慣らすのは無理でしょ」
「ましてや見せ物だもんね」
空になった弁当箱をバスケットに詰めて二人は魔獣館を目指した。


「!!お父さんあれ!!」


人だかりができている。
その中心には手負いの魔獣。
犬に似た姿をしているが、牙や爪が異常なまでに発達していた。

グルル・・・

取り囲む動物園関係者。
全員が銃口を魔獣に向けていた。
周囲の話では飼育員に重症を負わせた罪で処分されるところだという。
「そんなの人間のほうが悪いわ」
ヒスイが憤慨する。
「・・・させるもんか」
「え?」
聞き取れないほど小さな声でメノウが呪文を唱えた。
「お父さん?何を・・・」
呪文の詠唱が終わっても特に何かが変わった様子はなかった。
「まぁ、見てなって」

一斉に発砲。

魔獣の体に無数の穴があく。
そこから血が噴き出し、魔獣はあっけなく地面に倒れた。
・・・ように見えるだけだ。
幻影。普通の人間の目にはそう映っている。
メノウの幻術にかかり誰もが処刑完了と思い込んでいた。
「これなら逃がしても追われることはないだろうし」
メノウとヒスイは魔獣館の裏手にいた。
傷つけられてぐったりとした魔獣をメノウが治療する。
「コイツのこと知ってるんだ」
「え?知ってるって?」
「獰猛な種族でさ、エクソシストやってた頃に俺も殺そうとしたんだけど、サンゴが庇って・・・それが出会い」
「お父さん・・・」
「サンゴが守ろうとしたものだから・・・俺も守る」
「・・・うん」

ウゥゥ〜・・・

傷の癒えた魔獣が毛を逆立てて唸った。
「あれ、コイツ俺の事覚えてるみたいだ。殺されるんじゃないかって警戒してる」
面白半分にメノウが指先の匂いを嗅がせる。
「あんまりからかうと噛まれるよ?」
魔獣の鼻はヒクヒクと動いていた。
時間をかけてメノウの匂いを吟味した後・・・ペロッ。
サラザラとした舌で指を舐めた。
感謝の意。それから風のように去っていった。
「噛まれると思ったんだけどな」
メノウは遠ざかっていく魔獣の後ろ姿を眺めて、きまりが悪そうに笑った。
あまりの懐かしさから噛まれてもいいような気になっていたのだ。
「・・・お父さんが変わったって事でしょ。魔獣の中には心の善悪を嗅ぎ分ける者もいるっていうし。認めてくれたんじゃない?」

思えば不思議なタイミング。

今日ここに来なければ、魔獣を救うことはできなかった。
思い出の欠片が一つ消えていたところなのだ。
「・・・なんか今日はサンゴの思い出でいっぱいだ」
大きく空を仰ぐ。
「うん。いい一日だった」
「くすっ。まだ続くよ」
「ん?何が?」
「お父さんの“いい一日”」
ヒスイがメノウの手を引いた。
「さ、かえろ!家へ!」



「おかえりなさい、メノウ様」

まず出迎えたのはコハクだったが、リビングではオニキスが待っていた。
驚くことにコクヨウまでいる。相変わらず不機嫌そうだ。
「どうしたの?変な顔触れが揃いも揃って・・・」
「何よ・・・変な顔触れって・・・“家族”でしょ?」
ヒスイがそう言った瞬間・・・

パーン!パパーン!

クラッカーが鳴った。
大袈裟で恥ずかしい演出。考えたのはもちろんコハクだ。
「な・・・なんだよ??」


「「Happy Father's Day!!」」


コハクとヒスイが声を揃える。
「・・・父の日だ」
オニキスが解説。
「あ・・・」
完全に忘れていただけに柄にもなく照れる。
メノウは口を押さえて赤くなった。
「ええと・・・みんなを代表して」
ヒスイが咳払い。メノウ以上に顔が赤い。
「お父さん、いつもありがとう」
「あ〜・・・うん」
まっすぐな言葉の返答に困る。
こんな日がくるなんて思ってもいなかった。
戸惑うメノウをコハクとオニキスが笑顔で見守る。
その足元でフンとコクヨウが鼻を鳴らした。
「お兄ちゃんがごちそうたくさん作ってくれたの!食べよう!お父さん!」
「そうするかぁ〜」
双子親子。ヒスイとメノウは同じ顔で頷き合った。
「「いっただきま〜す!」」





サンゴ・・・

土産話がまたひとつ増えたよ。
いつか、キミのところへいったら、飽きるほど聞かせてあげる。


だからもう少しだけ・・・そこで待ってて。





‖目次へ‖