エクソシスト正員寮。
二人きりの時間が欲しい時は、寮に泊まるコハクとヒスイ。
子供達は10歳になり、それほど手もかからなくなった。
家には長男トパーズもいるので心配はない。
衣服を身につけているほうが珍しい、夫婦の朝。
コハクは先に起きて、紅茶用のお湯を沸かしている。
ベッドには今、ヒスイひとりだ。
「え?えええぇぇ!!!?」
ただでさえ無い胸が更にない。
ペタペタと何度も触って確かめるが・・・
「ない・・・ない・・・ないっ!!」
ヒスイはベッドから転がり出た。
「お兄ちゃんっ!!胸がなくなっちゃったよ!!」
「え?」
コハク、硬直状態。ヒスイの股間を凝視。
(僕が起きた時は普通だったのに・・・)
胸がなくなっただけならまだしも、とんでもないモノが生えていた。
(理由はなんとなくわかるけど・・・また随分イキナリだなぁ・・・)
「お兄ちゃぁぁぁんっ!!どうしよう!!」
駆けてきて、飛び付くヒスイ。
「よしよし」
抱き上げて、髪を撫でた。
(ふむ・・・これは非常に由々しき問題だ)
「どれどれ」
「えっ!?おにいちゃんっ!?」
窓際のソファーをベッド代わりにヒスイを仰向けに寝かせ、出来たてホヤホヤの男性器を手に取ってみる。
「あっ!やぁ・・・っ!!」
「やっぱりヒスイのは小さくて可愛いね」
指先で太さと長さと形を確かめ。
「・・・大丈夫だよ」
何が大丈夫なのか、根拠がないのはいつもの事。
「うぅ・・・ん・・・おにい・・・」
だが、ヒスイはそれで安心するらしく、両脚を開き、勃起した下半身をコハクに任せた。
「ちょっと味見・・・」
コハクはヒスイの先端を口に含み、鈴口を舌で擦った。
ペニスもヒスイのものだと思えば、それほど抵抗がない。
「あ・・・んっ!」
(男だってわかってても入れたくなるんだよなぁ〜・・・)
男同士でもヒスイの役割は変わらないのだ。
くりっ。ぐりぐり。
中指で開発済のアナルにお伺いをたてるコハク。
(よし、イケる)
後背位でなくても挿入はできる。
ヒスイのお尻を高く持ち上げ、体を折りたたむように曲げて。
「そこ・・・やぁ・・・んっ!!」
「大丈夫・・・いつもと同じだよ・・・力抜いて・・・」
ヒスイは抵抗したが、コハクが強引に押し切り・・・
「んぅっ!!!」
「愛してるよ・・・男でも」
「あぁんっ!おにいちゃんっ!!」
コハクは中で。
ヒスイは外で。
ほぼ同時に射精し。
「これはその証明・・・ね」
精液で汚れてしまったヒスイの下腹部を舐めながら、そう言い聞かせる。
「わかった?」
「うん・・・」
男性化の原因は自分にあるとわかっているので、ヒスイがあまり気にしないように、“男でもいい”と言ったものの。
(・・・良くない)
ヒスイが男でもいいとは正直思えない。
抱きしめた体は全体的に骨っぽく。
いつものように愛液が肌を濡らす事もない。
男同士のセックスはコハクにとってかなり物足りないものだった。
(やっぱりヒスイには女の子でいて欲しいなぁ・・・僕が悪いんだけど)
「う〜ん」
服を着せるにも悩む。
ブラをさせるべきか・・・大きな問題だった。
(パンツがモッコリっていうのもなぁ〜・・・)
女性用の下着ではいささか無理があるようだ。
「僕のじゃ大きいし・・・あ・・・そうだ!メノウ様!」
メノウの部屋はすぐそこだ。
「ちょっと借りて・・・ん?」
部屋のドアを開けた所に、教会総帥の使いの者が立っていた。
「“春夏秋冬”・・・総帥がお呼びです」
(またあのヒトか・・・どうせヒスイの顔が見たいとか、子供達を連れてこいとか、しょうもない用事なんだろうけど)
エクソシスト総帥・・・セレナイトとはヒスイが産まれる前からの付き合いなのでそれも仕方がない。
「とりあえず僕だけ行ってくるから」
「じゃあ、先にお父さんとこ行ってるね」
ちゅっ。
エクソシスト正員寮。メノウの部屋。
「おと〜さん・・・」
「んっ?ヒスイ?どしたの?」
突然男になってしまった事をメノウに相談し、原因を尋ねてみると。
「やりすぎだな」
「・・・・・・・」
“えっちの超過”を指摘される。
朝して、昼して、夜して。
場所も時間も関係なくコハクとセックス三昧の日々。
それはもう尋常の域を超え。
本日、性別までも越えてしまった。
飲んだり、浴びたり、タンパク質を摂取しまくるヒスイ。
夏は特に露出度が高くなる為、コハクの欲情率も割増するのだった。
「たまにはさ、えっちから離れて他の事楽しんでみれば?」
父親からそんなアドバイスを受けて。
「ほら、オレの服貸してやるよ」
コハクには上手く話をしておくから自由に遊んでおいで、と。
寮を追い出されるが・・・
「お兄ちゃんがいなきゃ・・・することないもん」
突然与えられた“ひとりの時間”を持て余す。
「オニキスのトコ、行ってみようかな」
他に思い浮かぶ顔もなく。
「男・・・かぁ・・・。まぁ、なっちゃったモノは仕方がないわね」
股間にそっと手を乗せて。
(ちょっとコレはアレだけど・・・)
「オシッコさえ我慢すれば・・・」
結構楽しいかもしれない。
明るく前向きな解釈で、ヒスイは足取り軽くオニキスの元へ向かった。
町外れ。長期滞在中の宿屋にて。
「オニキス。私ね、男になったの」
「・・・・・・・・・」
(何を言っているんだ・・・こいつは・・・)
唐突にそんな告白をされても信じられる筈がない。
「ちょっと触ってみて」
「おい・・・やめ・・・」
ヒスイは、オニキスの手を無理矢理胸の上へ乗せた。
「・・・・・・」
(日頃と大差ない気が・・・)
ヒスイの胸を触った事はこれまで数える程しかないが、小さく弾む感触はしっかり覚えている。
体積が減っているのは確かだが、それほど違和感がなかった。
心持ち声が低くなった気もするが、喉の調子が悪いと言われればそれで納得してしまうレベルだ。
美しい顔立ちも、長い銀の髪もそのままなので、見た目では全然わからない。
「なぜこんな事に・・・」
「やりすぎなんだって」
(あの性欲絶倫男め・・・)
オニキス、脳内理論。
(もしや体が男を拒絶して・・・自己防衛を・・・)
そこまで強要されているのかと思うと、物凄くヒスイが不憫に思えて。
「どこか行きたい所はあるか」
男同士の遊びに付き合う決心をして尋ねた。
「あのね!中央通りに銭湯ができたんだって!」
「銭湯・・・だと?」
嫌な予感がする。
「男湯に一緒に入ると言うのか?」
「そうだよ?」
「・・・・・・」
絶対おかしい。
ヒスイの思考回路を、毎度の事ながら疑う。
はぁ〜・・・っ。
「無茶を言うな・・・」
「大丈夫!だって男同士だもん!」
「・・・・・・」
(お前はそれでいいかもしれんが・・・)
男のヒスイに欲情してしまったら、いよいよ立ち直れない気がする。
しかもそれを見られてしまっては、恥の上塗りだ。
返答を渋るオニキス。
「こんな時じゃなきゃ一緒にお風呂入るなんてできないし!」
「・・・・・・」
(共に入浴するなら、女の時の方がいいに決まっているだろう・・・)
事態はオニキスの本音とは全く逆の方向へ。
「いこっ!背中流してあげるっ!!」
中央通り。銭湯にて。
「お・・・王!?」
城下ではまだ前王オニキスの認知度が高い。
なぜ一国の王が銭湯に!?と、スタッフは大パニックだ。
「・・・いいか、“貸し切り”だ。他の男は入れるな」
番頭に釘をさすモルダバイト前王オニキス。
「男同士、裸の付き合いって言うでしょ!」
(また妙な知識を・・・)
ギザギザと尖った山の頂に、丸い太陽が昇る。
異国的な壁画が一面にあり、それに反って湯船が横に長く広がっていた。
ヒスイは服を脱ぎ捨て、首からタオルをかけている。
堂々と、何一つ隠さない。
(どこのオヤジだ・・・お前は・・・)
「ほら、オニキスもやって!前は隠しちゃダメ!」
「・・・・・・」
生き地獄・・・とはこの事かもしれない。
ヒスイのオヤジ化にまで巻き込まれる羽目になり、この時ばかりは不幸を感じるオニキスだった。
・・・が、結局、裸の付き合いを堪能してしまう。
男でも華奢なヒスイのカラダ。
無造作に束ねた銀髪とうなじに、欲情しないと言えば嘘になる。
背中を流して貰ったお礼に今度はオニキスがヒスイの背中を擦った。
「コハクは知っているのか」
「男になったこと?うん」
(まさかとは思うが・・・)
無節操なコハクの事だ。男同士でも行為に及んでいる可能性は充分ある。
(男になってまで体を求められるとは・・・)
ヒスイの身を案ずればこそ、コハクの元へ帰したくない。
そんな事はできないとわかっていても。
「・・・他に行きたいところはあるか?」
「うんっ!立ち食い蕎麦屋!!」
赤い屋根の屋敷。正門前。
「楽しかったっ!!ありがと!オニキス!!」
自分に向けられた笑顔と言葉。
数々の苦労も、日々の寂しさも、これで全部帳消しになる。
「また行こうねっ!!」
別れの挨拶に手を振って、玄関へ向かうヒスイ。
「ああ」
同じように手を振って、反射的に答えたが・・・
(・・・“また”だと?)
「あいつ・・・いつまで男のつもりだ・・・」
赤い屋根の屋敷。室内。
「ただいま〜!」
気が済むまで遊んだら、寮ではなく自宅に戻るよう言われていた。
時間はまだ早い。午後2時。
ジストとサルファーは遊びに出掛けていて、1階は静かだった。
リビングにて。
とりあえず部屋着に着替えようと、メノウに借りたシャツを脱ぐ・・・が。
ガチャッ。
「あ・・・」
丁度そこにトパーズが入ってきた。
眠気覚ましにシャワーを浴びたところで、銀髪が濡れたまま。
上には何も着ていなかった。
「え〜っと・・・見た?」
「見た」
いつも以上にツルペタなヒスイの胸元。
トパーズはたいして驚くでもなく。
「面白い。そのまま全部脱げ」
「え・・・でも・・・」
「・・・何とかしてやってもいい」
「ホントっ!?」
トパーズも医学にはかなり精通している。
(困った時の神頼みじゃないけど・・・)
もっとよく見てみなければわからないというトパーズの口車に乗せられ、ヒスイは素直に服を脱いた。
途端、ニヤリと。トパーズの口元が歪む。
「・・・男になったか」
「うん」
「よし・・・選べ」
「?何を?」
「オレに奉仕されるのと、オレに奉仕するのと、どっちがいい?」
(ええっ!?何でそうなるのよっ!!)
「ちょ・・・待って!!私、男なんだよ!?」
親子で・・・しかも男同士でこの展開はキケン過ぎる。
「構うものか。男でも女でも突っ込まれる側には違いない」
トパーズは邪悪な笑いで一蹴し。更にトドメの一言。
「むしろ男の方が心置きなく犯れる」
「な・・・ひやぁぁっ!!」
背後からトパーズにペニスを掴まれると、なぜか力が抜けて。
ズルズルと床に両手両脚をつく。
ギユッ!
牛の乳搾りのように強く握られ、引っ張られ。
「ああっ!!」
「ホラ、出せ」
「っ・・・!!」
(トパーズってどういう趣味なのっ!?)
ヒスイの男性化を歓迎していた。
そして当然、挿入を望む。
「慣れたもんだろう?コッチも。アイツがやらない訳がない」
「でも私ソッチはあんまり得意じゃ・・・あ・・・ちょっ・・・」
小さな菊の花。アナルにツンと、トパーズの先端が触れた。
「ムリ!ムリ!絶対ムリっ!!」
ポンッ!
ヒスイが滑稽な叫びを上げたところで、変身魔法が解けるような音がした。
「あれっ??」
「・・・・・・」
トパーズの手の中からペニスが消え、代わりにヒスイの胸が膨らむ。
「戻ったか・・・まぁいい」
そのまま腰を掴まれ、ツルリ・・・トパーズのペニスが後ろから前へ滑って。
「ついでだ」
「!?だめっ!!」
先端がヒスイの入口を広げたところで、なんとか脱出。
(だ・・・大丈夫よね!?今のはっ!入ってない!入ってない!)
「セーフって事で」
自ら判定を下した。
(危なかったけど・・・おかげで元に戻ったし!!)
「ありがと!トパーズ!」
ヒスイは裸のまま笑顔で部屋を飛び出していった。
「・・・・・・」
意地悪に礼を言われるのも妙な気分で。
トパーズは煙草を咥えた。
「やりそこねたが・・・まぁ、いいだろう」
自分の腕の中で女に戻ったのがなんとなく嬉しくて。
世話は焼けるが、その分可愛い。
ふ〜っ・・・
長く煙を吐き、男性化したヒスイの姿を思い出す。
(ヒスイが男になったのは・・・)
無意識の心理が肉体に反映される特異体質ゆえ。
本人が意識している訳ではないが。
「あれでもたまに女を休みたくなる日があるんだろう」
タタタ・・・
全裸で廊下を走るヒスイ。
綺麗に磨かれた窓硝子に、いつも通り控えめな尖りが映った。
「うんっ!」自身に納得。
(代用の場所じゃなくて、もっと意味のある場所でお兄ちゃんと繋がりたいから)
「やっぱり女の子でいたい」
「あ!お兄ちゃんだ!!」
窓の外、まだ小さい金色の光に向かって大きく身を乗り出す。
「おにいちゃんっ!」
「ヒスイ!!」
「元に戻ったよ!!」
「うん。良かった」
窓から帰宅したコハクは、ヒスイの両脇に手を入れ、体を高く持ち上げた。
幼い頃の“たかい。たかい。”と同じで、喜んだヒスイが笑う。
(元に戻ったって事は・・・許してもらえたのかな)
突如男性化したのは、体が休みを欲しがっているからだとすぐにわかった。
(しばらくは男のまま、えっち休業の覚悟してたんだけど。こんなに早く回復してくれるなんて・・・ああ・・・ヒスイ・・・愛してる!!)
「じゃあ早速・・・」
「えっちする?」
「するっ!!」
情熱に身を委ね、深く抱き合う二人。
(あれ?でもなんで裸なんだ?)
「・・・ま、いっか」
あとは――
カラダに訊こう。
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