“宝物”を手に入れたのは、4年前の武道会。


モルダバイト王室付き召喚士。ラピス・ラズリ。
“宝物”である幻竜の名は、ミルキー。


「パパ?聞いてる?」


紺のスーツを着た女性が本日のスケジュールを一通り述べた後、言った。
その女性こそが、ミルキーだ。
淡いクリーム色の柔らかな髪をまとめ、鼻はそれほど高くないが、目はくるんと大きい。
手には分厚い手帳を持っている。
竜年齢と擬人化年齢はイコールではなく、見た目は立派な大人の女性だ。

召喚士秘書。

ラピスのスケジュールは、公私ともミルキーがしっかり管理していた。



城のメイド達は言う。

「ミルキーちゃんはしっかりしてるから」
(そう、私はしっかりしてる)

大臣達も口を揃えて。

「実に優秀な秘書だ」
(そう、私は優秀)

・・・全部、パパのためよ。



行く先々で褒められる、明るく利発なミルキー。
人間界の生活にもすっかり慣れ、ラピスの仕事を理解し支える良き協力者となった。
何かと凹み癖のあるラピスとは対照的に、今、輝いている女性だ。
「パパは私がいないとなんにもできないんだから!」と、怒りつつ、嬉しい日々。
ダメ男ラピスの世話を焼く事が生き甲斐で、家事も得意だ。
「ご・・・ごめん」
ラピスの気の弱さは相変わらずだった。
召喚術の腕は上がったが、全く貫禄が出ない。
すべてにおいて、娘ミルキーに主導権を握られていた。



城下の路地裏にある古アパート。

その三階で二人はひっそりと暮らしている。
「あんまり広いと落ち着かないから・・・」
空が良く見える、この狭い三階の部屋をラピスは気に入っていた。
「パパ、時間よ」
「うん・・・」
ミルキーに急かされ、部屋を出る。
「今日も頑張ってね、パパ」
「う、うん」
可愛い笑顔の激励。
(そうだよ・・・頑張らなくちゃ・・・)
軍事国家グロッシュラーで4年に1回開催される武道会。
優勝者はどんな望みもひとつ叶えられるという。
ラピスはその武道会に参加する為、ミルキーと共に出発した。



エントリー会場にて。

「はぁ〜・・・」
ラピスには大きな悩みがあった。
今週末に開催される武道会。
そこに特級クラスのエクソシストが参加するというのだ。
エクソシスト特級クラスの脅威は各国に届いている。
命が惜しいと参加を辞退する者まで出たという。
武道会の目玉らしく、参加者はその話題で持ち切りだった。
(特級クラスのエクソシストって・・・メノウさんかコハクさん・・・)
どちらにしろ勝てる相手ではない。
大会2連覇を目指すラピスにとっては大きな壁だった。
「せめてメノウさんなら・・・」
召喚術の師メノウが相手なら、胸を借りるつもりで全力でぶつかってゆくだけだ。
だが、もしコハクだったら・・・考えると背筋が寒くなる。
なにせ前回はコハクの力で優勝したようなものだ。
敵に回したくない。
(神様!!どうかコハクさんじゃありませんように!!)


「やあ、久しぶりだね」


ラピスの願い虚しく、会場に現れたのはコハクだった。
今大会から二人一組のタッグ戦が導入され、ルールもだいぶ変更された。
コハクは当然の如く幼妻のヒスイを連れている。
何年経っても変わらず目を引く美少女だが、やっぱり愛想は悪い。
「悪いけど、任務なんで優勝はいただくよ」
コハクに宣言され、返す言葉もないラピス。
「決勝はたぶん君と戦う事になると思うし。まあ、お手柔らかに」
その言葉、そっくり返したい。
一見爽やかなコハクの笑顔、ラピスにとってはこの上なく恐ろしいものだった・・・。
(ど、どうしようぅぅ〜!!勝てるわけないよ〜・・・)
エントリーしたばかりだが、棄権したくなってきた。
(で、でも・・・)
前回と同様の理由で何としても優勝したい。
(頑張らなくちゃ・・・)



度々心が折れそうになりながらも、ラピスは決勝まで勝ち進んだ。
予告通り、コハク達も勝ち上がり・・・決勝戦前夜。

大会参加者用宿泊施設にて。

【幻竜×召喚士】

夜もおませなミルキー。
「ミルキーがパパを優勝させてあげる。なんにも心配いらないから・・・」
賢いだけに早熟で。
城のメイドから借りた漫画の影響でセックスをしたがるようになった。
当然、主導権を握るのはミルキーで、ラピスは言いなりだった。
明日の試合の事を考えると、それどころではないのだが、NOとも言えず、ベッドの上。
まずはティッシュを鼻に詰められ、服を脱がされる。
ところが・・・悩み多き青年のペニスは本人同様引っ込み思案で。
なかなか大きくならない。
ミルキーは両脚を開いて待っていた。
早く!早く!とねだるので、ラピスはオロオロ・・・
半勃ちのまま、柔らかいペニスを指で摘み、押し込む。
「あ・・・パパぁ・・・」
「うっ・・・あっ」
完全勃起した状態より敏感なので、ラピスの口からも思わず声が洩れた。
「パパ・・・もっと頑張って」
そう言われても、一向に硬くならず。
ミルキーの言葉ばかりが繰り返される。


頑張って。もっと頑張って。


「・・・っ!!」
毎日聞いている言葉なのに、今夜はやたらと耳に残って。


「頑張ってるよ!」


「パ・・・パ?」
いつもは大人しいラピスが突然反抗したので、ミルキーは驚き、目をぱちくり。
「頑張ってるけど、だめなんだ・・・」
ラピスは震える涙声で言った。
「ミルキーにはぼくよりもっと相応しいひとがいるよぅ〜」

すると・・・

「パパのバカァ!!!」

バキッ!!ホゲッ!!

ミルキーに頬を殴られる。
「ミルキーは・・・パパがいいのにっ!!」
「あっ・・・ミルキー!!」
ミルキーは部屋のトイレに立てこもってしまった。



【熾天使×吸血鬼】

「明日はラピス達と戦うんだね」
お風呂上がり。
ヒスイはワンピースタイプのバスローブ姿でベッドに腰掛け、両脚をぶらぶらしていた。
「・・・本気で戦うの?」
「勿論。任務は100%遂行しないとね」
コハクはベッドの傍に寄り、ヒスイの頭を撫でた。
「うん、でも・・・んっ!」
ヒスイの話はそこそこに、唇へ、濃厚キス。
「んぅ・・・・・・っ」
首筋と肩にキスが続く。
「ね、ヒスイ・・・コレ、見て見ぬフリ?」
いつもの事だが、コハクのペニスは入浴中もずっと勃ちっ放しだった。
「だって・・・明日決勝戦だよ?」
「大丈夫、大丈夫、ソッチはうまくやるから」
「ん〜・・・じゃあ、いいよ」

今夜も深く結びつきたい・・・飽くなきコハクの欲望。
ヒスイの体を横向きに寝かせ、側位スタイルで片足を持ち上げた。
「あ・・・おにいちゃ・・・」
ヒスイの陰裂の左右はふっくらと厚みがあって。
コハクは、それを押し潰すように強く股間を密着させた。
「んぅっ!!」
これでもかとペニスを深く挿入し、付け根をピッタリ押し付け。
器用な腰使いで、回転摩擦を加える。
「う゛っ・・・あぁっ・・・」
膣内でグルグルと暴れ回るペニス。
先端が子宮に当たり、他は膣壁に擦れる。
「あくっ・・・ん・・・んんっ!!」
二点を同時に刺激され、下腹部が重く痺れる・・・ヒスイは恍惚としていた。

タオル地のワンピースの裾は捲り上げられ、片方の胸だけがはだけて見える。

「んっ・・・んっ・・・う゛っ」
コハクが腰を動かす度、ユサユサと揺れるヒスイの体。
片手でシーツを掴み、鈍く、呻く。
「んぐっ・・・はぁ・・・あ・・・」
「そうそう、こっちも・・・ね」
下半身に神経が集中する中、不意に乳首を摘まれ。
「あんっ!!おにぃちゃ・・・」
驚き、感じるヒスイ。
膣内を一段と潤ませ、コハクを悦ばせる。
「よしよし・・・」
甘い声で、クリクリとヒスイの乳頭を弄りながら、更に高く脚を持ち上げ。
ペニスで濡れた粘膜を愛でる音が響く。

ぐちょぐちょぐちょ・・・

「あっ、あっ、はぁ、はぁん・・・」



「う゛っ・・・」
ボタボタ・・・ギャラリーのラピスから鼻血。
部屋のトイレが占拠されてしまったので、施設内の公衆トイレで用を足した帰りだった。
偶然通りかかった部屋からヒスイの声。
ラピスは足を止め、隙間から・・・見てしまったのだ。
(いつもツンとしているヒスイ様が・・・あんな風になるなんて・・・す、すごい)
改めてセックスの効力を知ると共に、徹底的に主導権を握っているコハクを崇拝。
「あっ・・・あんっ!!」
ここまでは気持ちよく喘いでいたヒスイだが、吸血鬼なだけに、血の匂いには敏感で。
「お・・・おにいちゃんっ・・・ラピスが・・・あっ、あぁんっ!!ひぁ・・・っ!!」
最後まで言い終わらないうちに、コハクに精を撃ち込まれ、満足したヒスイの体も絶頂を迎えた。
「う゛〜っ・・・」
他はともかく、ラピスに濡れ場を見せるのはヒスイ的に屈辱らしく。
「ちょっと!!何見てるのよ!!」
泣き出しそうな顔で怒鳴った。
(ヒスイに可哀想なことしちゃったな)
ラピスが覗いている事は知っていた。
ヒスイが気付き、セックスが中断しそうなムードになったので、強引に中出ししてしまったのだ。
(よっぽど嫌いなんだなぁ・・・早いとこ追い返さないと・・・)
愛妻の機嫌を損ねてしまう。
捲れたヒスイの裾を元に戻して。


「こんばんは」


ティッシュの差し入れと共にコハクが部屋の扉を大きく開いた。
「いつもは一般開放してるんだけどね、今夜は禁・・・」
「ずびばぜん〜・・・」
俯いていたラピスが顔をあげると・・・鼻血と涙が滝のように流れていた。
あまりに凄惨な顔面にコハクは唖然。
(ホントにダメダメだな・・・)
どうする?と、視線でヒスイに尋ねる。
ヒスイもぎょっとしていた。
いきなりこの場で号泣・・・訳が分からない。
「・・・入れば?」
ヒスイは渋々入室を許可した。



「ぼく・・・ぼく・・・感動しましたぁ・・・」
堂々と愛し合う二人の姿に並々ならぬ感銘を受けたという。
「コハクさんの腰使いが素晴らしくて・・・」
「はは・・・それはどうも」
夫婦のセックスをお披露目するのはよくある事だが。
(ここまで感動されちゃうと・・・)
あしらいにくい。
「何かあったのかな?顔、腫れてるみたいだけど」
優しくコハクが尋ねると、堰を切ったようにラピスが語り出した。

先程の出来事を。

「だから・・・ぼくなんて・・・全然ミルキーに相応しくないんです〜・・・アレも小さいし・・・」
いつも勃ちが悪く、自信を持ってセックスに臨めない。
「ぼく・・・勃起不完全症候群じゃないかと思うんですぅぅ〜」
ラピスは男の深刻な病気を思い切ってコハクに打ち明けた。
「ふ〜む・・・」
腕を組むコハク。
自分には全く縁のない病気だが、どういうものかは知っている。
(とことん不憫な・・・)
「ぼく・・・どうすれば・・・」
「そうだねぇ・・・」


その答えは、明日の試合でわかると思うよ。


ふぁぁ〜・・・ヒスイの大欠伸。
男同士の話に次第についてゆけなくなり、ベッドの上でゴロゴロ。
「・・・・・・」
(何でこうなるの?)
明日、戦う相手の性の相談にのる羽目に。
「ミルキーがいいって言ってるんだから・・・それでいいじゃない」
(頑張ろうとしすぎなのよ・・・)



翌日。武道会決勝戦。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
ミルキーを怒らせたまま、優勝決定戦が始まってしまった。
それでも。なんとしても勝ちたい。
コハクには昨晩ずいぶん世話になったが、試合に私情は持ち込めない。
ラピスはブンブンと頭を振り、気持ちを切り替えた。
「ぼく・・・これだけは得意だから」

ヒスイを召喚して人質に。

“参りました”と言って貰うだけでいい。
コハクがどれだけヒスイを大切にしているか知っているからこその作戦だ。
(もしかしたらコハクさんに殺されちゃうかもしれないけど・・・)
恐怖で膝が笑う。
「しょっ・・・召喚っ!」
対象を決めないで召喚術を行使すると、百発百中ヒスイなのだ。
召喚に失敗した時もヒスイを喚んでしまう。
こんなに緊張していたら、ラピスの場合まずヘマをする。
それでいいのだ。


「!?」


少し先で魔法のステッキを構えていたヒスイの体が消え、ラピスのすぐ近くに現れた。成功だ。
「ヒスイ様、ごめんなさいっ!!」
謝りながら、捕獲。しかし。
「くす・・・別にいいよ。手間が省けた」
ヒスイの声・・・ではあるが、口調が違う。
「コ、コハクさんっ!?ぐふっ・・・!!」
前回の大会で使用した入れ替わりの魔法だと、ラピスが気付いた時には、細い肘が鋭くみぞおちに食い込んでいた。
「君ならこうするだろうと思ってたよ」
もう一発、ラピス相手に肘打ちを繰り出す。
肉体的には一般人と変わらないラピスはそれだけでグロッキーだ。
地面に両膝をついた。

そこで。


「パパをいじめないで!!」


ミルキーが叫び、擬人化が・・・解ける。
4年前に比べ格段に成長した幻竜が出現した。
ラピスが攻撃された事に腹を立て、かなり興奮している。
ズシンズシンと地面を移動し、ヒスイの姿をしたコハクを踏み潰そうとした。

その時。


「ちょっとっ!!お兄ちゃんに何するのよっ!!」


今度はコハクの声でヒスイが叫び、幻竜ミルキーにぶつかっていった。
「ヒスイ!!!」
(まぁ、僕の体だからどう使ってくれても構わないけどね・・・)
普段はヒスイの戦闘参加を認めないコハクも、傷つくのは自分の体なので、今回は大目にみる。


「優勝はパパなんだから!!」
「お兄ちゃんに決まってるでしょっ!!」


傍目には幻竜と熾天使の壮絶な戦い。
けれども実際は、愛する男を守ろうとする純粋な女の戦いだった。
ヒスイもミルキーも体を張ってパートナーの優勝を主張していた。
「君の事が本当に好きなんだね」
昨晩の答えをラピスにもたらすべく、コハクが口を開いた。
「そんな・・・ぼくなんか・・・」
自虐的な言葉で自身を呪うラピス。昔からこんな感じだ。
コハクは苦笑いで言った。


「君に足りないものは“信じる勇気”だ」



「信じる・・・勇気?」
ラピスが反復した。
「自分に向けられた愛を信じる事ができずに、“ぼくなんか”と逃げてばかりいたら、いつまでたっても幸せになれないよ?」
そこまで諭し、ラピスの心を揺さぶったところで。
「さて、お喋りはこのくらいにして・・・」
突き放し、試合再開。
「ドラゴンキラーって聞いたことある?」
「!?」
「世界には特定の種族に劇的な殺傷力をもたらす武器が存在する。ヒスイが持っている剣がそうだよ」
今はまだ鞘に収まっている状態だが。
「30分経っても決着がつかなかったら使うように言ってある」
「!!そ、そんな・・・」
会場に設置された時計を見ると、試合開始から29分経過していた。
「ミルキー!!逃げて!!殺されちゃうよぉぉ!!」
ラピスが声を張り上げても、ミルキーは戦いを止めようとしない。


「パパ・・・ごめんなさい。パパの分まで頑張るから、ミルキーのこと嫌いにならないで!!」


「ちがうよぅ〜・・・悪いのはぼくの方なのに・・・」
コハクのハッタリに見事引っかかり、思い詰めるラピス。
(このままじゃミルキーが・・・)
パートナーを愛するが故の戦意喪失。そして。


「ま・・・参りました」


「パパぁ!!ごめんなさい!!」
幻竜姿のまま、さめざめと泣くミルキー。
「いいんだよぅ〜・・・」
ぼくこそごめんね、と、ラピスも大泣き。
「ミルキーはパパがすき」
「ぼ、ぼ、ぼくも・・・ミルキーが・・・す、す、す・・・すき・・・だよぅ」


“ぼくなんか”ではなく、“ぼくも”と。


ミルキーの愛を信じて。
ラピスも正直な気持ちを伝えた。
「パパ!!」

ドスドスドス!!

抱擁を求め、ミルキーが突進。
「わぁぁぁ!!ミルキー!!そのままじゃ無理だよぅぅ!!」
ラピスが逃げる。
「これで夜もバッチリ・・・ね?」
4年前と同じように、ヒスイの顔でコハクが笑った。
「あ・・・ありがとうございましたっ!!」



仕切り直して、閉会式。

「僕等の願いは・・・彼の願いです」
表彰台でコハクは迷いなく言った。


「モルダバイトの召喚士ラピス・ラズリの願いを叶えてください」


それだけ述べると、ヒスイを抱き上げ、表彰台から飛び降りた。
「さ、帰ろうか」
「うんっ!」
二人はそのまま閉会式を抜け出した。
「良かったの?ラピスに譲って」と、ヒスイ。
今回の任務は“優勝”。そして“願い”の内容まで決められていたのだ。
「教会の願いも、彼の願いも一緒だから」
「ん!そうだね!」


重なる願い。


それは、世界平和。




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