暖炉と絨毯。ヒスイ愛用の特大クッション。

そこは屋敷のリビングであり、子供達の遊び場でもあった。

兄、ジスト22歳。妹、アクア12歳。

ヒスイのクッションを拝借し、昼寝をしていたジストの元へアクアがやってきた。
「ジス兄ぃ〜、あそぼ〜」
昼寝といってもすでに寝飽きていて、目をつぶっているだけだった。
アクアの声にジストは飛び起き、喜んで誘いを受けた。
「何して遊ぶ?」ジストが尋ねると、アクアは絨毯を指し。
「よつんばいになって〜」
「四つん這い?」
言われたとおり、床に両手両足をつくジスト。
するとアクアが後ろから腰を掴み、ジストのお尻へ向け股間をぶつけてきた。
もしやこれは・・・と思いつつ。
「ア・・・クア?何・・・やって・・・んの?」


「パパママごっこぉ」


夫婦の夜の真似事・・・アクアの大好きな遊びだ。
「アクアのココが当たったら、ジス兄はあぁん!て言うの〜。わかったぁ?」
遊び方をジストに指南するアクア。
「え?オレがヒスイ役・・・なの??」
「そ〜だよ。だってアクア、ヤられるよりヤるほうがいいもん」と、再びアクアの腰が動く。
「わっ・・・」
「・・・ホラぁ、早く言ってぇ」
じゃないと面白くない、アクアがスネるので。
「あ・・・あぁん!」

ヒスイ風に喘いでみて、真っ赤になる・・・さすがにこれは恥ずかしい。
それでも、気の優しいジストは、妹の困った遊びに付き合ってしまうのだった。
「まだまだぁ〜」
ガクガク、アクアがジストの腰を揺らす。
「・・・っ!!」(こうなりゃヤケだっ!!)
幸いにも他の家族は皆出掛けている。
ここは兄として妹を失望させる訳にはいかないと、腹を括り。
「あぁんっ!」「あっ・・あぁ!!」ジスト、熱演。
はっ、はぁっ、息までリアルに乱れてくる。
「よしよぉし、いいこだね〜」
コハクお決まりのセリフでアクアに頭を撫でられ。
「あ・・・ぁ、おにぃ・・・ちゃぁんっ!」


「っ・・・」とアクア。
「あっ・・・」とジスト。


子供達の遊びもクライマックスを迎えた。
「ふぅ・・・なかなか良かったよぉ」
「・・・・・・」(オレ男なのにっ!!)
アクアに喜んで貰えたのは嬉しいが、複雑な気分だ。
アクアとは昔から下ネタ遊びばかりしている。
それは恥ずかしくも・・・楽しくて。


まさかこの日が最後になるとはジストも思っていなかった。


ある日のこと。

「アクアに好きなヤツがいたなんて、オレ、全然知らなかった・・・」
ショックのあまりジストはしゃがみ込み、銀の髪を掻き毟った。
任務で数日家を空けた・・・その間に事件は起きた。
誕生12年目にして、アクアは赤い屋根の屋敷から姿を消した。
どうやら意中の男と同棲を始めたらしいのだ。
「コクヨウって、ジイちゃんと組んでる獣だろ?」と、帰省中のサルファーが言った。
銀の獣、コクヨウ。ジストもサルファーもほとんど面識がない。
竜狼と呼ばれる希少種で見た目はかなり獰猛そうだが、首輪をしているため、メノウのペットと思っていたぐらいだ。言葉を話せることは最近知った。
「って、どこいくんだよ」
「勝負するんだよっ!」
ジストはいきなり立ち上がり、木刀を手に屋敷を飛び出した。
「アクアに相応しい男かどうか試してやるんだっ!!」



エクソシスト寮。『国士無双』コクヨウの部屋前。

「よしっ!」
自身に喝を入れたジストが殴り込みをかける寸前、扉の向こうからアクアの甘ったるい声が聞こえてきた。
「ね〜、コクヨ〜、えっちしよ?」
ジストはほんの少し扉を開けて・・・中を覗き込んだ。
室内では裸のアクアがコクヨウを追い回していた。
「うるせぇ!こっち来んな!!」
「つ〜かまえたぁ」
言葉通りコクヨウを捕獲したアクアは、馬乗りになり、その背中に早熟な割れ目を押し付けた。
「だって〜、アクア、コクヨ〜のこと好きなんだもん」
アクアの口が「好き」「えっちしよ」を何度も繰り返し。
コクヨウの体毛に顔を埋める・・・うっとりと、幸せそうに。
対するコクヨウも・・・
「帰れ!帰れ!」と吠える割には尻尾がパタパタ動いていたり。
「なんだアイツ、まんざらでもなさそうだぜ?」
ジストの隣にはサルファー。いつの間にか追い付かれていた。
「・・・・・・」
「勝負しないのかよ」
滅多に本気を出さないジストの真剣勝負が見られると思い、わざわざ後を追ってきたサルファー・・・
横目でジストをけしかける、が。
「・・・そう、思ってたんだけどさ」
ジストは俯き、鼻を啜って。
「アクアが好きだって言ってるんだから・・・しょうがないよな」
「甘いんだよ、お前は、昔から」
サルファーにボロクソに言われながらも、潔く身を引く決意をし、ジストは寮を去った。



それから数日後。

赤い屋根の屋敷。キッチン。
夕食の準備をしているコハクの傍らで。
「父ちゃん・・・」
「ん?」
「オレまた弟か妹、欲しいな〜・・・」と、おねだりしてみる。
「そうしてあげたいのは山々なんだけどね」苦笑するコハク。
アクアがいなくなって一番寂しがっているのはジスト・・・それは知っていた。
しかし、すぐにOKできない理由があった。
「子作りと言っても、男は出すだけでしょ?あとは女性に任せるしかない。だからこそ、体のことを一番に考えてあげないとね」
「うん。うん」
ジストはコハクの話に深く頷いた。
「出産は魔力も体力も消耗するから・・・ヒスイは体が弱いし、無理はさせられないんだ」
コハク曰く、ヒスイはまだ休息中の体なのだそうだ。
「だから、もう少し待ってね?」
出産後、魔力と体力を回復するため何年も子供の姿で過ごすヒスイ。
その姿を見てきたからこそ、納得。
「うんっ!わかったっ!!」
ジストの快い返事。だが、アクアがいなくなった直後なだけに、寂しさが拭えない様子で。
「そうだ、シトリンに頼んでみたらどうかな?」
「姉・・・ちゃんに?」
コハクの提案にハッとする。体の丈夫なシトリンになら安心して頼める、と。
ジストはキッチンから走り出た。
「オレっ!姉ちゃんとこ行ってみるっ!!」



そして・・・ジストは意気揚々とモルダバイト城へ乗り込んだ。

「姉ちゃんっ!ちょっとお願いがあるんだ」
「おお!!可愛い弟の頼みなら何でも聞いてやるぞ!!」
ところが、第2子をねだられたシトリンの返答は・・・


「タンジェに頼め!!」


シトリンは、自由で身軽な今の生活が気に入っていた。従って。
「そろそろ私も孫の顔が見たい!!」
あいつにそう言っておいてくれ!と、娘タンジェにバトンを渡す。
「わかったっ!オレっ!!タンジェのとこ行ってみるっ!!」



エクソシスト寮。『風林火山』サルファーの部屋。

「お母様がそんなことを?」
「うんっ!オレも見たいっ!!」
今度はタンジェに熱烈おねだり。
対する、タンジェの返答は・・・


「サ、サルファー次第ですわ」


子作りの話をされ、照れているのか、タンジェはモジモジしながら。
「わたくしはいつでもその・・・」
「わかったっ!じゃあサルファーに聞いてくるよっ!!」
早速移動。サルファーは寮内の大食堂にいた。
「サルファー!あのさっ!!」
「ハァ?何言ってんだよ」
鬱陶しそうな顔をしたサルファーに一蹴される。
「子供なんて面倒臭いだけだろ」と、子供嫌いをアピールするサルファー。
「僕にはまだやりたいことが沢山あるんだよ」
子供の世話なんて御免だね、と吐き捨てる。
すかさずジストが言った。
「オレが育てるよっ!!」
お前の子ならオレの子も同然と、サルファーの肩を掴んで食い下がる。
「オレっ!子供大好きだしっ!!任せてよっ!!」
「やっぱり馬鹿だな、お前。そんなに欲しいなら自分で作ればいいだろ」
サルファーの言葉がグサリ、突き刺さる。
「う・・・そう言われてみればそうなんだけどさ・・・」
なにせ相手がいないのだ。
「誰でもいいだろ?その辺ので手打てよ」
「そういうワケにはいかないよっ!!一生にひとりなんだからっ!!」
ムキになってそう叫んだところで、ジストの夢は潰えた。
頼みの綱だったサルファーには全くその気がなく。
しばらくは、一族に新しい命が誕生することはなさそうだ。


「う〜ん。ヒスイみたいなコいないかな〜・・・」


帰り道、辺りを見回しても、そんな奇跡の出会いがある筈もなく・・・
ある筈も・・・
「・・・あっ!ヒスイっ!!」
ヒスイみたいなコ、ではなくヒスイ本人との出会い。
ヒスイは両手に大きな紙袋を下げ、ノロノロ歩いていた。
「ジョールのところに旅行のおみやげを渡しに行ったんだけど」
逆に土産を沢山貰ってしまったらしい。
「オレが持つよ」と、ジスト。
荷物を全て引き受け、ヒスイと並んで歩く。
ヒスイの歩調に合わせ、ゆっくりと。
「・・・ねぇ、ジスト」
「んっ?」
「アクア、いなくなって寂しい?」
ヒスイからの質問に少々驚きつつも、ジストは正直に答えた。
「うん」
するとヒスイは・・・


「じゃあ、お兄ちゃんに頼んでみれば?弟か妹が欲しいって」


「父・・・ちゃんに?」
「うん。お兄ちゃんがいいって言ったら、私産むから・・・ジスト?何笑ってるの??」
あははっ!!見事振り出しに戻り、ジストは大笑い。
「?何がそんなに可笑しいの?」
夕闇の中、ヒスイはきょとんとした顔でジストを見上げていた。



赤い屋根の屋敷。

「「ただいまっ!」」
ジストとヒスイが声を揃え、玄関を抜ける。
「おかえり」
まずはコハクの出迎え。広げた両腕にヒスイが飛び込む。
「ただいま!お兄ちゃんっ!」

ん〜・・・っ。ちゅっ!

ヒスイにおかえりのキスをした後、コハクはジストに視線を向け、旅の成果を尋ねた。
「どうだった?」
「オレ、やっぱり待つことにするっ!」と、ジストは元気良く答え。
「ね、父ちゃん」
「うん?」
「何年先でもいいから・・・楽しみにしてていい?」
コハクは穏やかな微笑みで、しっかりと頷いた。
「もちろん」



ジストがリビングに戻ると。

「よっ!おかえり」
そこにはメノウがいて、トパーズとチェスをしていた。
「ふぁ・・・なんか眠い・・・」
続けて現れたヒスイも、ぽふっ!クッションに身を投げ。
(そっか!そうだよな!)
リビングにはいつも誰かしらいるのだ。
たとえそこにアクアの姿がなくとも、自然と家族が集まる大好きな場所であることに変わりはない。
ジストはヒスイの傍らに腰を下ろした。
(ヒスイ、産むって言ってくれたしっ!)
朗らかな笑顔で、少し先の未来に想いを馳せる。


いつか、弟か妹ができたら。


またここで一緒に遊ぶんだっ!




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