街がクリスマスムード一色に染まる、12月のとある日曜日。
ジスト、サルファー、スピネルは、ツリーの飾り付けに使うオーナメントの買い出しに来ていた。
ひと休みしよう、と、スピネルの提案で入ったカフェ。
話題はやっぱりクリスマスだ。
「サンタクロースのプレゼントが毎年楽しみでさっ!」と、ジストが顔を綻ばせる。
毎年靴下に入っているプレゼントは、普通の店では買えないような品ばかり。
ツボを押さえた、ナイスチョイスなのだ。
「そんなの当り前だろ」と、サルファー。
「サンタクロースは父さ・・・」
そこまで言って、眉を顰め。
「・・・お前、まさかまだサンタクロースがいるって思ってる?」
「うん!ヒスイも“いる”って言ってるしっ!」
「・・・あのバカ女」サルファーが舌打ちすると。
「ヒスイはバカじゃない」ジストがすかさず反論した。
「現実的に考えろよ。一晩で、世界中の子供にプレゼントを配るなんて、できる訳ないし。この歳で信じてる奴なんかいないだろ」
「そんなことないよっ!!」
「お前が信じてるのは、サンタクロースじゃない。あの女だろ」
鋭すぎるサルファーの意見に。
「っ・・・!!」
何も言い返せず、唇を噛むジスト。
「どうでもいいけど、お前、あの女の名義で通帳作ってるだろ。それちょっと変態入ってるぜ?」
更にそう畳み掛けられ。降参寸前だ。
「う・・・」
その件に関しては、自覚がある。頼まれてもいないのに、こっそりヒスイのために貯金をしているのだ。
「えと・・・ヒスイには言わないで・・・くれる?」
「ここ、お前の奢りな。あと、サンタクロースはいないってことで」
「!!奢るのはいいけど、サンタクロースはいるよ!!」
「いない!」「いるっ!」
「いないって言ってるだろ!昔から頑固だな!」
「いるって言ってるだろっ!昔から夢がない!」
するとそこで・・・
「兄貴に訊いてみたら?」と、見兼ねたスピネルが発言した。
「教師やってるんだし、教えてくれるんじゃないかな。一番正しい答えを」
次の瞬間、ジストは支払伝票を手に立ち上がり。
「うんっ!そうするっ!!」
教会敷地内の、礼拝堂懺悔室。
エクソシストが、神父・シスターとして、当番制で駐在している。
本来、罪を告白するところだが、顔が見えないとはいえ、同僚同士・・・お悩み相談室と化すことも多々ある。
「今日は兄ちゃんが神父のはず・・・」
途中、図書館に寄って、サンタクロースの絵本を借りた。
直接面会し、トパーズに教えを乞うつもりだ。
ジストが、裏の出入口に回った、その時。
「サンタクロースはいるんだってば!」と、ヒスイの声。
(ヒスイ!?)
こちらはこちらで、サンタクロースがいるかいないか、口論になっているようだった。
扉に耳を寄せるも、声を抑えているのか、ほとんど聞き取れない。
以下、トパーズとヒスイ。
「私、知ってるのよ。サンタクロースの正体・・・」
ヒスイは胸に手をあて、いつになく真剣な顔をしていた。
「ほう、言ってみろ」
椅子に腰掛け、脚を組むトパーズ。
ヒスイは、他言無用と何度も念を押し、周囲の無人を確認してから。
トパーズの肩に両手をのせ、耳元でこう打ち明けた。
「サンタクロースはね――」
「実は、お兄ちゃんなの」
「・・・・・・」
サンタクロース=コハク。ヒスイにとっては、確かに真実だが。
ソリに乗って空を駆け。世界中の子供にプレゼントを配る架空のサンタクロースと、コハクを何故か同化させてしまっている・・・これは重症だ。
「・・・・・・」
(阿呆な勘違いを、妙な具合にこじらせやがって)
「こういうのって、ほら・・・正体がヒトにバレたりするとアレでしょ?」
「バレるとどうなる?説明しろ」
「だからっ!もう変身できなくなっちゃうっていうか・・・」
「・・・・・・」(変身?バカ言え)
無駄な想像力が働き、とんでもない合併症まで起こしていた。
「とにかくっ!この時期は、サンタクロースがいるかいないか、訊きにくるコが多いの!」
総帥セレナイトのはからいで、12月だけ教会の礼拝堂を一般開放しているのだ。
そのため、迷える子羊達が外から続々とやってくる。
「質問されたら、“いる”って答えて」と、ヒスイ。
「クク・・・偉そうなことを言っているが」と、トパーズが笑う。
「ひぁっ・・・トパ・・・っ!?なにす・・・」
ヒスイを膝の上に乗せ、耳を甘噛み。それから一言。
「そもそも、お前は“子供”か?」
「えっ!?」
(そ・・・そういえば・・・私、一応“お母さん”よね・・・)
「え・・・あれ???」
サンタクロースにプレゼントを貰う資格があるのか・・・悩んで、黙る。
ちょうどそこに。
「兄ちゃん?」
ジストが、遠慮がちに、扉の隙間から顔を覗かせた。
ヒスイの手前、気まずかったが、トパーズに絵本を見せて。
「サンタクロース・・・いるよなっ?」と、尋ねた。
対する、トパーズの回答は。
「この本に書いてあるような、サンタクロースはいない」
「フィクションだ」容赦なく、宣告。
「あっ!!」という、ヒスイの抗議の声を手で塞ぎ。
「夢を守ってやる歳でもない」と。
トパーズは、絵本を置き去りに走り去るジストを見送った。
「はぁ・・・」
ヒスイと共通の夢に破れ、俯き歩くジスト。
しばらくして、その視界に、金色の猫が現れた。
「あれっ?姉ちゃん?」
「おお!ジストか!!」
混雑する街中で、思いがけない出会いだった。
「どうした、浮かん顔をして」
「うん・・・」
ジストは、猫シトリンを抱き上げ。
サンタクロースがいるかいないかで、身内※ごく一部が、諍いになっていることを話した。
「・・・そうか」
猫シトリンが、腕の中から見上げる。
「私もな、信じていたぞ。サンタクロースは絶対にいる、と」
しかし、学校では、“サンタクロースは存在しない”派が多数・・・
「そこで、今のお前のようにな、兄上に訊いてみた」
「姉ちゃんも?」
「ああ、兄上は何でも知っているからな」
「兄ちゃんは、そんとき何て言ったのっ!?」
『サンタクロースの正体は、人間の大人だ』
「人間の大人は皆、サンタクロースがいないことを知っているから、サンタクロースになれる――兄上はそう言った」
12月25日。
サンタクロースにプレゼントを貰ったら。
近くにいる大人に聞こえるように、大きな声で言えばいい。
「サンタさん、ありがとう!」
「・・・我々のサンタクロースは、オニキス殿だった。私は、嬉しかったぞ」
「そっか!」(オレのサンタクロースは、父ちゃんだったんだ!センスいいはずだよなっ!)
笑いながら、子供の夢から醒めるジスト。
サンタクロースを信じている限り、誰かのサンタクロースにはなれない。
皮肉な理・・・だけれども。
「兄ちゃんの言った通りだ。オレわかったよっ!絵本に書いてあるようなサンタクロースはいないけど、好きな人を喜ばせたい気持ちがあれば、誰でもなれる――」
「サンタクロースは、きっと世界中にいるんだ」
「ふ・・・そうだな」
猫シトリンは、体を伸ばし、ジストの頬を舐めた。
「姉ちゃん、オレ決めたよ!サンタクロースになるって!まずは父ちゃんに、これまでのお礼を言わなきゃなっ!」
「ん?あ、ああ、そうか?」
おかしな展開になってきた気がしないでもないが。
「まあ、頑張れ」
「うんっ!!」
そして・・・12月25日。ヒスイの靴下には。
「あれ?プレゼントが2個???」
(もう子供じゃないから、貰えないんじゃないかと思ってたけど・・・)
なくなるどころか、増えている。
「う〜ん・・・」
首を傾げるヒスイを、ジストとコハクが笑顔で見守っていた。
「・・・ま、いっか」
ヒスイは、ふたつのプレゼントを腕に抱き。
「サンタさん、ありがと!」
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