アイボリーとマーキュリー、双子6才。
小学校に通い始めた、ちょうどその時分。“キャラ弁”なるものが流行していた ――
キャラ弁とは、漫画やアニメのキャラクター、動物などをモチーフとした弁当のことだ。
食材を巧みに使いこなし、デザインするのである。
料理上手で手先が器用、そのうえ遊び心のあるコハクのキャラ弁は、学校でも大人気で。
双子の自慢でもあった。
早起きして、今朝もコハクにべったり・・・キャラ弁の完成を待ちわびている。
「はい、できたよ。これはあーくんの分ね」と、コハク。
双子だからといって、同じ中身にはしない。それぞれのリクエストに応えるようにしている。
本日のキャラ弁は、サルファー推奨漫画より。
「やるじゃねぇか!コハク!!」
アイボリーは嬉しそうに飛び跳ね。喜びを露わにしている。
「さて、次はまーくんの・・・」コハクは改めて、腕まくり。
「・・・・・・」(お兄ちゃん・・・朝からモテモテ・・・)
カーテンに隠れ、ヒスイが様子を覗っていた。ちなみにまだ、寝間着だ。
「・・・・・・」(いいな・・・)
子供達の世話をしているのは、コハク。懐くのは当たり前だが。
(仲間に入りたい!!)という気持ちから、ヒスイは思い切ってカーテンを飛び出した。
「お兄ちゃんっ!私もキャラ弁作る!!」
「え?」
「だって、ほら・・・一応、お母さんだし・・・普通はそういうのって、お母さんが作るんでしょ?」
照れ臭さに、モジモジしながら言ってみる。ところが。
「俺、パス。コハクの弁当あるし」
嫌な予感がするから、と。コハクより先にアイボリーが答える。
「・・・・・・」
以下、マーキュリー、密やかな心の声。
(あーくんって・・・お母さんのこと、すごく気に入ってるのに・・・)
こういう時、結構ドライだ。
(それで、結局こうなるんだ)
流れ的に、言うしかない。
「僕が、お母さんのお弁当を持っていきます」
マーキュリーは、アイボリーより、物事を要領良くこなす方だが、ヒスイのことになると、どうしてか、貧乏くじを引いてしまうのだ。
「まーくん・・・」(助かったよ)
マーキュリーに向け、コハクが目配せする。
ヒスイ乱入のこの展開に、ひやっとしていたのだ。
「じゃあ、まーくんのお弁当は私が作るね!!」
ヒスイは、ベッドルームからエプロンを持ってきて、いそいそと身支度を始めた。
料理がしやすいようにと、コハクが髪を結び。スタイルだけは立派だ。
家事ではなく、エッチでしか使ったことのないエプロンだが・・・だからこそ新鮮で。
「可愛いじゃんか!写真撮っとこうぜ!」アイボリーが提案すると。
「それはいい案だね」コハクは大乗り気。
三脚にカメラ、タイマーをセットし。家族4人で、なぜか記念撮影だ。
それから朝食を済ませ。
「いってきます」と、マーキュリー。
「まーくんの分は、後で届けるから」
そう言って、コハクが見送る。
「はい」
「楽しみにしててね!!まーくん!!」
コハクの後ろから、ヒスイが顔を出した。
「・・・はい」
マーキュリーは、とりあえず笑顔で返事をしたものの。
「ひとりでできるもん!」と、ヒスイがコハクに言っているのを聞いて、不安が募る。
ヒスイの料理の腕前については、誰も口にしないだけに、それこそ嫌な予感しかしない。
そして、お昼休みに入ってすぐ。
「まーくん、お待たせ」
ヒスイ作のキャラ弁を、コハクが配達に来た。
「お母さん・・・は?」
てっきり、一緒だと思ったのだが。
「ヒスイはちょっと・・・前髪が焦げちゃって」
「・・・・・・」(前髪が、焦げた?)
色々疑問に思いながら、弁当を受け取るマーキュリー。
「具合が悪くなったら、すぐ家に連絡してね。あと、他の子には食べさせないこと」
さりげないコハクの物言いが、嫌な予感に拍車をかける。
席に戻り、弁当の蓋を開けると。
「・・・・・・」(真っ黒だ・・・)
予想を上回る、酷い出来。焦げしか入っていない。
「まー!?何だよ、その弁当・・・」
キャラ弁どころじゃない、衝撃の弁当に、アイボリーをはじめ、クラス中が大騒ぎだ。
マーキュリーの周囲に人だかりができる。
「・・・今日のお弁当は“ブラックホール”だから」
淡々とした口調で、マーキュリーは自らをフォローした。
ブラックホール・・・と言えば、なんとなく聞こえはいい。
クラスメイトの男子が歓声を上げる。
「まー、やめとけって。そんなん食ったら死・・・」
「全部食べるよ。残したりしたら、感じ悪いじゃないか」
躊躇なく、マーキュリーはそれを口へと運んだ。
「・・・・・・」(やっぱりまずい・・・)
苦味しかなく、口の中はパサパサ。
「・・・・・・」(こんなもののために、前髪焦がすなんて、おかしいよ、お母さん。でもこれは・・・僕のだ)
「まー?何、笑ってんの?まさかソレ、旨いとか???」
ちょっと食わして〜と、アイボリーを筆頭に何名か申し出るも。
マーキュリーはやんわりと断った。
(誰にもあげないよ)
コハクに注意を受けるまでもなく、分けてやるものか、と、思う。
「どんな味すんだよ、なぁ」
「どうかな」(強いて言うなら・・・)
限りなくビターな。
それは、オトナの味。
「君達には、まだ早いよ」と、笑って。
数多の女子をキュンとさせるマーキュリーだったが。
・・・腹痛で動けなくなるのは、もう間もなくの、話。
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