※『世界に春がやってくる』11話以降のお話です。
モルダバイト西。
国境を跨ぐ砂漠に3ヶ月に1度現れるといわれる幻の移動都市アキハバラ。
別名、オタクの聖地。
稀少な漫画を取り扱う大型書店や、オリジナル同人グッズの販売店、コスプレ専門店、更にはメイドカフェと呼ばれる新感覚の喫茶店があるという・・・
・・・噂だ。
「そうっ!一部の間での噂なんだけど、僕は絶対にあると思う!」
声高く力説する美形オタクのサルファー。
「どうしてもこの目で確かめたいんだ!お願いっ!!父さんっ!!」
「へぇ〜・・・幻の移動都市アキハバラかぁ〜・・・」
コハクもまんざらではない様子だった。
「コスプレ専門店があるんなら・・・」
当然、ヒスイを連れて行く。
(ヒスイにコスプレさせまくるのもいいな・・・うん)
実際に存在するかどうかわからない幻の都市。
無駄足になる可能性もあるが、実在するならかなりオイシイ。
「よし。じゃあ、みんなで行ってみようか」
「ありがとう!父さんっ!!」
日の出前。プチ家族旅行に出発。
サルファーを筆頭にコハク、ヒスイ、トパーズ、ジスト。
モルダバイト西まではトパーズが召喚した神獣ガルーダの背に乗ってゆく事にした。
国境付近で目立ってはまずいので、その先は徒歩だ。
視界いっぱいに広がる砂漠に驚嘆するヒスイと子供達。
「モルダバイトにこんな所があるなんて・・・」
砂漠の規模としては大きくないが「砂地に足を取られて転んだら大変!」と、ヒスイをレンタルラクダに乗せ、
コハクが手綱を引く。
「父さんっ!!アレ!!」
30分も歩かないうちにサルファーが声を弾ませ、前方を指差した。
「これが・・・アキハバラ?」
都市のイメージとは随分違っていた。
太陽を遮る程の箱形巨大建造物。
「カッコイイ!!要塞みたいだ!!」
脇目も振らず、サルファーが我先にと突入した。
窓口でしっかりと家族5人分の入場料を取られた。
一家の主、コハク。
(室内テーマパークのようなものかな?)
何千年と生きてきた熾天使でさえ不思議に思う近代施設。
1階:入場券売り場。メイドカフェ。
2階:オリジナル同人グッズ取扱店。
3階:地域最大級の大型書店。
4階:コスプレ専門店。
5階:仮想世界バーチャルワールド。
「凄い!!これこそ僕等の聖地だ!!」
サルファーは大興奮。
2階・3階を目指し、単独行動に乗り出す。
「じゃあ!またあとで!!」
「じゃあ、私も3階・・・」
サルファー同様書店を目指すヒスイだが・・・
「そっちは後でね。まずは4階からいこう!」
有無を言わさずコハクがコスプレ専門店へ引きずっていく。
「・・・・・・」
トパーズも黙って同行した。
「何?何?オレも行くっ!!」
よくわかっていないジストも続いて。
4階。コスプレ専門店。
「「おおおおおお!!」」
ここで大興奮なのはコハクとジスト。
冷静を装っているがトパーズも密かに。
コハクとジストが夢中になって衣装を選んでいる間、ヒスイが逃げ出さないように捉まえておく役割を担う。
打ち合わせをした訳でもないのに、妙なところで連携を発揮する似た者親子。
「父ちゃんっ!これはっ!?」
「いいね!それ!」
「でもさっ!こっちもヒスイに似合いそう!」
「うん!いいね!この際みんな買ってしまおう!」
「父ちゃん!太っ腹っ!!」
「・・・・・・」
(何、アノ変な服。まさかアレを着ろって言われるんじゃ・・・)
「冗談じゃないわよ!いい笑い者だわ!ちょっとっ!離してっ!
トパーズっ!!」
「安心しろ」
「何がよ」
「ここは“そういう場所”だ。諦めるんだな」
数十分後・・・
「それでは5階バーチャルワールドにてお楽しみ下さい。お買い上げありがとうございました」
5階。仮想世界バーチャルワールド。
ひとつの“街”になっており、コスプレキャラになりきって
交流を楽しむフロア。もちろん写真撮影可だ。
その一角。青空と緑の空中庭園。
天井が人工の空になっており、外界の天候の影響は受けないように造られている。
案内パンフレットによると一番の人気スポットらしいが、この時間殆ど貸し切り状態だった。
「恥ずかしいよぉ・・・お兄ちゃん」
「大丈夫!めちゃくちゃ可愛いから!!」
長い箒に跨って。
大きなとんがり帽子。
黒いワンピースの・・・魔女っ子ヒスイ。
コハクが秘蔵のポラロイドカメラを構える前でモジモジ。
全身からイヤイヤ感が漂っている。
「・・・角度が悪い」
「あんっ!!」
股に軽く挟んでいた箒をトパーズに持ち上げられ、柄が割れ目に食い込んだ。
「「!!」」
コハクとジストの瞳孔が開く。
(ウマイ!!トパーズ!!)
この時ばかりはコハクも褒め称え。
成る程その手があったか、と、早速便乗。
ポラロイドカメラはジストに託す事にした。
「使い方はわかるね?」
「うん!ここんとこ押すだけでしょ?」
「いい?ヒスイのパンチラ狙って」
「オッケー!父ちゃんっ!!」
子供ならローアングルからの撮影でもそれほど怒られはしないだろう。そんな目論見もあった。
「後は僕に任せて」
トパーズの肩を叩き、オイシイ場面に乱入するコハク。
「そうそう。箒の角度がね・・・」
「ちょっ・・・おにいちゃ!?やっ・・・」
グリグリ。クニクニ。
「こうかな?ん?」
柄が前後左右、回転。
角度調整とはほど遠い動きで割れ目の奥まで刺激する。
「お・・・おにいちゃん・・・なんかへん・・・あっ」
「やっぱりこっち?」
ぐいっ!と。前方を高く傾ける。
「あっ・・・」
刺激が性器に伝わったのは声でわかる。
「・・・違う。こうだ」
トパーズも黙っていられなくなり、口を挟んで。
コハクとは間逆の後方を高く掲げた。
「ん・・・っ!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
結局睨み合いになる二人。
「前だってば!」
「後ろだ」
「やぁぁんっ!!」
股の間で上がったり下がったり、シーソー状態。
あまりにも激しい攻防が続いて・・・
パンチラどころではない。
(ヒスイのパンツがズレたぁ!!)
思わぬシャッターチャンス。
これをカメラに納めれば、みんなが幸せになれる、と。
歩伏前進で近づくジスト。
「ひぁ・・・っ!!」
前後同時に持ち上げられ、ついにヒスイの両足は地面から離れてしまった。
涙目で叫ぶが、そこで・・・・パシャッ!
「・・・え?」
シャッターを切る音が聞こえて見下ろすと・・・
「ジ、ジストぉぉ!!?」
「わっ!ごめんっ!ヒスイっ!!」
「何してるのっ!?」
わざとバランスを崩し、箒から身を投げるヒスイ。
地面に落ちてすぐ立ち上がり、逃げるジストの後を追った。
「こらぁ!!待ちなさいっ!!」
「もうっ!みんな変っ!!」
魔法で足止めし、ジストから取り上げた衝撃写真をビリビリ破きながら、憤慨。
アキハバラに来てから、いつにも増して男性陣の行動がおかしい。
ヒスイにはコスプレの“萌え”などわからない。
不審に思うばかりだ。
手入れの行き届いた芝生の上、膝を抱えて座り込む。
(こんな時オニキスがいれば・・・)
都合良くそんな事を考えてしまう。
オニキスならアキハバラでも平常心を保てる。
今回に限らず、家族旅行のメンバーに必要だ、と思う。
「ヒスイ、ごめんね。大丈夫?」
「お兄ちゃん・・・」
ヒスイを見つけるのはやっぱりコハクだ。
「ヒスイがあまりにも可愛いから、つい・・・その」
「ん・・・いいよ」
反省した様子のコハクに頭を撫でられ、ヒスイの機嫌もすぐに治った。
「ね、ヒスイ」
「何?お兄ちゃん」
「アソコ、ムズムズしない?」
「・・・・・・」
それはつまりえっちのお誘いで。
「し、しないもんっ!!」
いつもなら素直に応じるが、散々振り回されたお返しに嘘で抵抗を試みる。
「どれどれ、お兄ちゃんに見せてごらん?」
・・・逆効果だった。
這って逃げようとした腰を掴まれ、摩擦でよれたパンツを下ろされる。
「んっ・・・!!おにっ・・・」
手の平で陰部を撫で上げられ、あっさり嘘を暴かれる。
コハクの手の平にはべっとりと愛液が付着していた。
「我慢は良くないよ?ヒスイちゃん」
「あっ・・・ぅ」
硬くなったコハクの肉棒が直に当てられる。
「箒より、こっちの方がいいでしょ?」
箒とは似て異なる熱い肉感。
「ほら・・・これなら擦っても痛くない」
「あ・・・」
背後から、感触の違いを女性器に確かめさせ、甘く、じらす。
「うっ・・・」
ぬるぬるとした快感に、ヒスイが小さく声を洩らした。
(ああ・・・魔女っ子ヒスイとえっちできるなんて・・・)
アキハバラ最高!と心で叫び。
湿った先端でにゅるにゅると何度か入口をなぞって、嵌め込む。
「あ・・・ふっ!!おにいちゃ・・・」
箒の次はコハクが食い込み、休む間がない下半身。
(もうっ!アキハバラなんて絶対来ないんだからっ!!)
2階。サルファー。
「ちぇっ。あっという間に使っちゃったな」
買い物のし過ぎで完全金欠状態だった。
とはいえ、このチャンスを逃したら、次はいつ来られるかわからない。
「ジストに金借りよう。あいつは別に買うモノなんてないだろうし」
(ジストはどうせあの女と一緒だ)
コハクの張り切り具合からして、ヒスイが5階にいるのは間違いない。
サルファーは階段へ向かった。
その踊り場で、偶然遭遇。
“オタク狩り”
ガラの悪い連中数名にいかにもオタクな青年がカツアゲされていた。
赤の他人を助ける義理はないが・・・
(丁度いい、逆に狩ってやる)
「おい。そいつから離れろ。僕が相手だ」
(悪人から取る分にはいいよな)
人間のチンピラ相手に武器など必要ない。
サルファーはあっという間にグループ全員を倒し。
「オタク舐めんなよ」
逆に金銭を巻き上げる。
「ハァ。ハァ。ありがとうございます!!」
キャラT。額にバンダナ。ガリガリで見るからに弱そうなオタク青年がサルファーに平伏す。
気高く、強く、美しいオタクのサルファーに感動したらしく。
「貴方はオタクの星だ!!」
と、訳の分からない事を言い出した。
「サルファー氏はロボ系?美少女系?」
「どっちかと言えばロボ系だな」
異質なコンビ。
外見だけで判断するなら、有り得ない組み合わせだ。
青年は創作実写両刀の美少女系らしく、これから5階に美少女を探しに行くという。
かなり本格的なカメラを首からぶら下げている。
二人は共に階段を駆け上がった。
「サルファー氏!!」
「何だよ」
5階に到着してすぐ別れたはずの青年と再会し。
「我等が魔女っ子が!!りょ、陵辱されているであります!!」
「はぁ?」
青年から妙な報告を受け、魔女っ子陵辱現場に足を運ぶ。
「あ・・・あんっ!!あんっ!あん!!」
魔女っ子の正体は・・・ヒスイ。
後背位でコハクに揺さぶられ、喘いでいた。
「な・・・」
あまりに不謹慎な光景に言葉を失うサルファー。
家庭訪問の悪夢が甦る。
(何やってるんだよぉぉ!!!)
「さ・・・最高」
鼻息荒く隣の青年がカメラを構えた。
ヒスイを“これまで見てきた中でも最高の美少女”と称し、陵辱の美学を語る。
相手の男・・・コハクの姿は強制排除。
必要なのは美少女を犯す下半身だけだ。
「お前っ!何やってんだよ!!」
サルファーが怒鳴る。ところが・・・
(こいつ!!人間じゃない!!)
カツアゲされていた時とはまるで別人。
押しても引いても、微動だにせず。
パシャッ!
不動のまま一枚。もう一枚。
夫婦の淫らな行為がフイルムに焼き付けられてゆく。
「くそっ!!」
コスプレSEX・・・一族の名誉の為、恥の流出だけは防がなければと必死になって。
サルファーは捨て身の体当たりで挑んだ。
「邪魔をしないで欲しいであります!サルファー氏にも焼き増しして・・・」
「いるわけないだろ!!そんなの!!」
この場面では全く自慢にならないが。
「僕の両親なんだよ!!」
芝生に転がり、カメラの奪い合い。
そこに。
「記念写真をありがとう」
頭上からコハクの声。
同時に、どっちつかずになっていたカメラを上からひょいと取り上げた。
「父さん!?」
ズボンのチャックは辛うじて閉まっているが、その膨らみから慌てて納めた感が漂っている。
「まさかこんな所で会うとはね」
コハクの言葉はオタク青年に向けられていた。
「久しぶり。堕天使アザゼル」
「セ、セラフィム!?うぁぁぁ!!!」
熾天使コハクの笑顔を見るなり、一目散に逃げ出す堕天使アザゼル。
その姿はすぐに見えなくなった。
「ちょっと変わった奴だけど、あれでも一級悪魔だから。
君が無事で良かったよ。ありがとう」
ヒスイのエロ萌写真流出阻止に一役買ったサルファーに礼を述べ。
「はい、これ」
「え・・・」
お小遣いを奮発。
「ジストと一緒にメイドカフェとやらへ行っておいで」
「父さんっ!大好きっ!!」
日頃無愛想なサルファーもコハクには素直に甘える。
臨時収入をポケットに詰め込んで、満面の笑みだ。
何より嬉しい、コハクの理解と協力。
(僕・・・父さんの息子で良かった!!)
さすがにそれは照れ臭く、面と向かっては言えないが。
「僕、ジスト探してくるっ!!」
刻が経ち・・・消えゆく建物を背に。
「良かったね〜・・・アキハバラ」
コハクはまだ夢心地。
眠ってしまった魔女っ子ヒスイをおんぶして砂漠を歩く。
ラクダの背には子供達。
はしゃぎ疲れて、こちらもウトウト・・・
手綱を引くのはトパーズだ。
「・・・まぁ、悪くない」
「それにしてもコレ、誰が造ったと思う?」
周期的に移動を繰り返し、砂の中から現れる。
明らかに魔法の力だ。
「・・・ジジイだろ」
「・・・だよね。こんな事できるのメノウ様ぐらいしかいない」
「面白い事なら何でもやる奴だ」
「そうそう」
もっと家でのんびりすればいいのにね。
モルダバイト城。
「すいませんっ!!王!!オレが不甲斐ないばかりに!!」
土下座する現モルダバイト王ジンカイト。
学問の国モルダバイトでは近年妙な文化が発達している。
「このままじゃモルダバイトがオタクの国に・・・」
「・・・・・・」
オニキスの手には一通の封書が握られていた。
(ヒスイはいつから魔女になったんだ・・・)
“アキハバラに行ってきました!萌萌!!”
魔女姿のヒスイの写真と、そんな内容のメッセージカード。
差出人はコハクだ。
(アキハバラ・・・移動都市か・・・)
風の噂で聞いていた。どういう場所なのかも。
「・・・顔を上げろ、ジン」
「王・・・?」
手元の写真を見つめ、苦笑いするオニキス。
「確かに国として推奨するには微妙な文化だが・・・まぁ、いいだろう」
平和な証拠だ。
お題:姫様
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