※こちらの作品は『世界に咲く花』と『世界に春がやってくる』を読破された方向けです。
この夏最後のイベント。
一家で繰り出す、夏祭り。
グループ、壱。
「ははは!ヒスイはわたあめに夢中だね」
わたあめに顔を埋めるヒスイを見守るコハク&オニキス。
お馴染みの三人組だ。
「ヒスイ」
「うん」
名前を呼ばれたヒスイがわたあめから口を離す。
代わりにコハクが顔を寄せ、わたあめを齧った。
その行動には見せしめの意味もあったが、コハクの予想に反してわたあめはヒスイの元へ戻らず、オニキスに順番が回る。
(えっ!?そうなの!?)
「はい、オニキス」
「・・・・・・」
ヒスイからわたあめを差し出されたのは嬉しいが、コハクの直後というのが喜び半減だ。
「食べないの?」
「いや・・・」
ヒスイの好意を断れる筈もなく、仕方なしに屈んで齧る。
それからまたヒスイが齧った。
仲良く(?)三人で回し食い・・・夏の一幕だ。
グループ、弐。
「りんご飴、旨いよ。食う?」
「・・・・・・」
メノウが熱心にりんご飴を舐めている。
話し相手はトパーズだ。
「なぁ、お前さ、何でまだその眼鏡かけてんの?」
度が入っている訳ではないのだ。
つまり・・・伊達眼鏡。
かける必要がないと言えば、ない。
だが、今夜も浴衣に眼鏡というスタイルで。
瞳が紅かった頃はレンズを通して翠色に見えていた瞳。
現在では逆に、翠色の瞳が紅く見える。
「・・・単なる習慣だ」
「ふぅ〜ん」
亡き妻と同じ紅い瞳は不吉の証。
(なのに、好きだったんだよな)
じっ・・・と、下から一途にトパーズの瞳を覗き込む。
「うん。やっぱ綺麗な色だ」
手にしているりんご飴にも負けない艶やかな紅。
「いちいち見るな。気色悪い」
トパーズが目を逸らす。
「いいじゃん。もっと見せて〜・・・」
何気に連む、おじいちゃんと孫コンビ。
グループ、参。
モルダバイトの若夫婦。シトリン&ジン。
シトリンはハッピを着用。御輿を担いだり、昼間から大忙しだ。
揃いのハッピを着たジンもハイテンションだった。
今日ばかりは公務も身分も忘れ、祭りに没頭・・・
日頃よっぽどストレスが溜まっているのか、異様なまでのハジケ具合が・・・イタイ。
グループ、四。
種違いの三つ子。
「決めたっ!この出目金、オレの“ヒスイ”にするっ!!」
金魚すくいの露店から動かないジスト。
黒出目金の稚魚に一目惚れしていた。
「目がでっかくてヒスイみたいだろ!可愛いっ!!」
「・・・・・・」
クールに見守るサルファーはジストの美的センスに首を傾げていた。
(出目金?これのどこが“可愛い”んだよ・・・気持ち悪いだけだ)
「やめとけよ。どうせすぐ死んじゃうぜ?」
「死ぬもんか!!こんなに元気なのにっ!!」
ビリッ!バリッ!ビリビリ!
ジストの“ヒスイ”は迫り来る掬い棒の中心を突破し続けていた。
「“ヒスイ”ぃ〜・・・何で逃げるんだよ。オレの事嫌い?」
金魚にいくら話しかけたところでスィーッとかわされ、プラスチックの輪に張られた薄紙は破れてばかり。
「くそぉ〜・・・なんで獲れないんだろ。おじさんっ!もう一本っ!!」
(世界の神なのに・・・金魚一匹ままならないなんて)
ジストを不憫に思いつつ、笑ってしまうスピネル。
おしとやかに浴衣を着こなして。
(それにしても・・・)
サルファーの頭から生えているモノが気になる。
ヘアバンドから二本の触覚。先端が蛍光になっていた。
(サルファーのセンスも時々よくわからない・・・ボクは変だと思うけど・・・)
本人はとても気に入っているらしかった。
金魚すくいで破産しそうなジストに比べ、光る玩具やブロマイドなど、手堅い買い物をしているサルファー。
「次はお面だ!」と、意気込んでいる。
趣味趣向が全く合わない、ジストとサルファー。
(この二人・・・見てて飽きないな)
それから1時間。
大人グループ壱と弐が合流した。
「お〜い!」
「あ!お父さん!トパーズ!」
射的の前でメノウが手を振っている。
傍らには景品が山のように積んであった。
「俺こういうの得意だからさ!」
天才は何をやっても天才なのだ。
「ほらっ!ヒスイも選べよ。何でも好きなの獲ってやるから」
「ん〜とね・・・」
棚に陳列された景品をヒスイが吟味する。
その時。
カチャッ。
弾を充填する音。ヒスイに銃口を向け、笑うはトパーズ。
「・・・倒せば貰えるんだったな?」
「・・・え?」
パンッ!
ヒスイの足元へ向け、トパーズが発砲した。
直撃はしながったが、驚いたヒスイは体勢を崩し・・・
ドサッ!
派手に尻もちをついた。
「何やってるの!?」
当然、コハクは激怒し、トパーズに食ってかかった。
「打たれて倒れた。コレはオレのものだ」
あからさまなこじつけでヒスイを連れ去ろうとするトパーズに、手が出る寸前のコハク。
「ヒスイは景品じゃないでしょ!!ふざけるのも大概にしないと・・・」
「おいおい、こんなトコで喧嘩はやめとけって」
「こんな時ぐらい仲良くしたらどうだ」
メノウとオニキスが仲裁に入る。
二人いるだけに火消しが早い。
険悪ムードは掻き消され、その場は一旦収まった。
「そうそう。みんなでアレやろうと思ってさ」
夏祭りのメインだ!と、メノウが語る。
境内で催されている“肝試し”。
「結構怖いってんで評判なんだよ」
ジン達と待ち合わせをしているという。
境内の階段下には背の高い夫婦が先に到着していた。
「じいちゃ〜ん!!」
ジストとサルファーも駆けてくる。
そのすいぶん後をスピネルがのんびり歩いて。
「よしっ!全員揃ったな」
メノウは一族の長らしく前に立ち、顔触れを確認した。
「んじゃ、くじ引きでメンバー決めようか」
結果メンバー。
1番手。コハク&メノウ
2番手。ヒスイ&ジスト
3番手。オニキス&シトリン
4番手。サルファー&スピネル
5番手。トパーズ&ジン
「・・・メノウ様かぁ・・・」
ヒスイとの組み合わせを熱望していたコハクにしてみれば、思わず舌打ちしたくなる状況だ。
「そんな露骨に嫌そうな顔するなよ。たまには付き合えって」
「あぁ〜・・・ヒスイぃ〜・・・」
(ん?待てよ。いいこと思いついた)
転んでもタダでは起きない男、コハク。
しょうもない閃きで急に表情が明るくなった。
「いいじゃん!何たって俺達1番手だし?」
「くす・・・そうですね」
恐らく同じ事を考えているであろうメノウと顔を見合わせ、ニヤリ。
「や・・・ったぁぁっ!!ヒスイと一緒だっ!!」
ジストは大はしゃぎ。
黒出目金の“ヒスイ”にはこっぴどくフラれてしまったが、今日はツイてると思う。
「ちょ・・・ちょっと待ってくれ」と、シトリン。
近くの木の裏へ姿を消し、次に出てきた時には、ハッピから浴衣姿へ華麗なる変貌を遂げていた。
変身能力、フル活用だ。
シトリンがお洒落をする事はあまりない。
・・・にも関わらず、今夜は妙に気合いが入っているように見える。
(王と歩くからか・・・)
ジン、仄かにジェラシー。
加えて、ツイてない事態が続く。
「トパーズ!?どこ行くんだ?まだ順番じゃ・・・」
この組み合わせも縁あってのこと。
肝試しがてら、久しぶりに男同士の話でも・・・と、思っていたのだが、
トパーズは断りもなく境内を取り囲む森の中へと入っていってしまった。
「つれないな〜・・・相変わらず」
1番手の悪友コンビ。
「んじゃ、俺達からな」
「ヒスイ、またね」
ちゅ〜っ・・・。
ヒスイの両肩を掴んで、しばしお別れのキス。
コハクとメノウが出発した。
「それじゃ、やりますか。メノウ様」
「徹底的に驚かせてやろうぜ」
悪巧みの好きな二人が揃えば・・・驚く側より、驚かせる側。
そして、最初の被害者となるヒスイ&ジスト親子コンビ。
(こういうの苦手なのに・・・)
悪魔は平気でも心霊分野は苦手なヒスイ。
コハクと一緒なら何も怖くはないが、よりによってパートナーは息子のジストだ。
「ヒスイはオレが守るよっ!」
ヒスイとの組み合わせで大喜びだったジストも、いざ肝試しとなるとビビる。
自分に言い聞かせる意味で、そんな宣言をしてみた・・・が。
「別にいい」
スタスタと早足でヒスイが歩き出す。
“怖くない”素振りで、実は手にびっしょり汗を掻いていた。
(こ・・・怖いよぉ〜・・・お兄ちゃぁん)
心臓も嫌な感じに高鳴っている。
「待ってよ!ヒスイっ!」
「ヒッ・・・」
いきなりお墓の前に出て、ギックリ、ドッキリの二人。
「やっぱり、こういう時は歌だよねっ!」
場を少しでも明るく保とうと、ジストが調子外れに歌い出した。
ゴトッ。ガタガタ。
「・・・ね、ヒスイ、今墓石動かなかった?」
ジストが歌を中断し、青い顔で言った。
「な、何言ってるのよっ!!」
ヒスイは怒りで恐怖を紛らわせようとしていた。
「そんな事あるわけないでしょっ!!」
ジストの目撃証言を完全否定。
更に歩調を早めた。
(ええと・・・本堂の賽銭箱の上にあるノートに名前を書けばいいのよね)
係の人間から始めに説明を受けていた。
ノートを発見し、開いてみると、これまで肝試しに挑戦した人々の名前がたくさん記されていた。
早く終わらせたい一心で、ヒスイはサインペンのキャップを開けた。
「ヒ」
名前はそこで途切れた。
(!!仏像が笑っ・・・)
賽銭箱の奥にある仏像に異常事態発生。
ぽろっと・・・ヒスイの手からペンが落ちる。
ポク、ポク、ポク、ポク・・・
誰もいない筈なのに、木魚のリズム。
しかも流暢なお経のオマケ付きだ。
(ここ!何かいる!!)
「ジストっ!!逃げるよっ!!」
「わっ・・・ヒスイ!?」
よく聞けばコハクの声なのだが、恐怖で完全に前後不覚となり、ヒスイもジストも気付かない。
ヒスイは力任せにジストの手首を握り、全速力で走り出した。
数十秒息もせず、猛ダッシュ。
すると見慣れた背中が視界に入った。
月明かりで輝く銀髪、煙草の匂い・・・トパーズだ。
「トパーズ!!」
「兄ちゃん!!助け・・・」
ヒスイとジストは半泣き状態でトパーズの背中に縋り付いた。
「・・・なんだ?」
トパーズが振り向き、衝撃の戦慄。
目も、鼻も、口もないのだ。
「「ぎやぁぁぁ!!!」」
ジストともヒスイとも言えぬ悲鳴が、森に響いた。
お題:K様
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