『アクアへの道』 yuri様による執筆作品です。



アクア6歳、パパにお料理教えて貰ってるの。
お料理と言っても主にお菓子作り。
包丁を使う料理はもうちょっと大きくなってからね、ってパパが言うの。

今日はもち米を炊いたご飯に小豆を煮てあんこをつけておはぎを作ったの。
パパのあんこが均一に塗られた綺麗なおはぎと、アクアのちょっとちっちゃくてぼこぼこしたおはぎ。
お皿いっぱいに並んだおはぎに、アクア楽しい気持ちになったの。
「パパがアクアの味見するね。アクアはパパの食べてみて。」
「うん。」
ぱくっと一口。甘―いあんこと柔らかいもち米の味と食感のハーモニーはやっぱり最高。
パパの作るおやつ(だけは)大好き♪

「ん!」
アクアのおはぎを食べたコハクの脳内。
・・・一緒に作ったせいもあるかも知れないけど、ヒスイの血をついでいるとは思えない美味。
形も小さい子供の手で作ったにしては整っているし、料理の腕は僕の遺伝?

コハクはアクアの頭を撫でて言いました。
「アクア、すごく美味しいよ。ヒスイにも食べてもらおうね。」
「うん!ママにも食べてもらう!ねぇパパ、おじいちゃんも食べてくれるかな?」
「メノウ様?もちろん、和菓子好きだから食べてくれると思うよ。」
「おじいちゃん和菓子好きなの?」
アクアの瞳が輝いた。
おじいちゃん、喜んでくれたら嬉しいなぁ。
「おーい、ヒスイー。」
コハクの呼び出しに、パタパタと駆け寄ってくる足音。
「あー、おはぎー。」
駆け足で駆けつけたヒスイは、目の前のおはぎに目が爛々。
「僕とアクアで作ったんだよ。美味しいから食べてごらん。」
「わーい」
目を輝かせてパクパクと食べるヒスイ、始めは「ママ美味しい?」と笑顔で聞いていたアクアも、
ヒスイが最後の一つに手をつけた時には叫んだ。
「だめーーーーーー。」
娘の突然の叫びに目を見開きながらも、目と一緒に開いていた口の中に最後のおはぎは吸い込まれ。
「おじいちゃんのーーー。おじいちゃんのがーーー。」
急に泣き始めたアクア。
「おじいちゃんの、おじいちゃんの。」
泣きながらの呟きに、コハクが「しまった」という顔をし、ヒスイに耳打ちをした。
「アクアはメノウ様にも食べてもらいたかったらしいんだ。」
「え、おとうさんに?」
ヒスイもアクアの気持ちを知り、罪悪感に表情が曇る。
「アクア、ママ知らなくてごめんね。」
そう言いながらアクアの頭を撫でるけれど。
「ママのバカ!ママなんか嫌い!」
アクアは小さな拳でヒスイをぽかぽか叩き、走って部屋へ篭ってしまった。

娘に「嫌い」と言われうろたえるヒスイに、バツが悪そうに頭をかくコハク。
「ヒスイ、ごめんね。僕が気をつけてメノウ様の分を別にしておけば良かった。」
動揺で青ざめているヒスイを優しく抱きしめる。
「お兄ちゃん、どうしよう?」
「うーーーん、ちょっと僕が様子を見て話をしてくるね、ヒスイはここにいて。」
「私もついてく!」
「そう?じゃあ、ドアの影にでも隠れてて。」
「なんで?」
「・・・ヒスイの顔見たら、アクアがまた泣いちゃうかも知れないから。」
言いにくそうにそう言ったコハク、ヒスイは目が潤んできた。
(アクアを泣かせた元凶は私だもんね。)

アクア、部屋のベットで毛布に包まって泣いていた。
「アクア、入るよ。」
コハクがノックをして部屋に入る。
「パパ嫌い。あっち行って。」
泣き声でそう言われ、改めて胸を痛めるコハク。
(メノウ様のこと大好きだから、食べて欲しかったんだなぁ)
小さな体を震わせて泣く娘を放っておくことも出来ず、おはぎの埋め合わせ案を提案。
「アクア、今度メノウ様が家に居る時に、メノウ様の好物のお饅頭を作ろう。」
「おじいちゃんの好物?」
「そう、和菓子の中でもお饅頭が特に好きなんだ、きっとすごく喜んでくれるよ。」
「おじいちゃん、よろこんでくれる?」
「うん、すごく喜んでくれるよ、パパが抹茶を立てるから、みんなでお茶会しよう。
ね、すごく楽しそうだと思わない?」
アクア・お茶会とメノウの喜ぶ顔を想像して、涙が止まり始める。
コハク・アクアの様子が落ち着き始めたのを感じ、ヒスイの弁護に入る。
「あとね、今日のおはぎなんだけど、今日はメノウ様がいないし、いつ家に帰ってくるか分からないから、
ヒスイが食べなくても腐っちゃってたかも知れないよ?だからね、食べちゃったヒスイを許してくれる?」
弁護であり、事実。
アクアも納得して顔を上げて「うん」と言おうとしたが、顔を上げた瞬間にドアの影に隠れたヒスイが
目に入った。
不安そうな顔で瞳に涙を溜めているヒスイ。
(ママ、超可愛い〜。)
アクア、生まれて初めての感覚。生まれて初めての萌だった。
許しちゃったら、あの超可愛い顔がいつもの顔に戻っちゃうのかしら?
そう察し、「うん」というのを止めた。
「アクア、おじいちゃんの喜ぶ顔を見るまでママのこと許せない。」
そう言って、またドアのヒスイをチラ見する。
大きく見開かれた瞳から、大粒の涙が零れた。
(ママ、もうめっちゃ可愛い〜。)
ノリノリに萌えるアクア、そんな胸中を両親は知らず、「早くお茶会を開かねば」と焦った。

3日後、運よくメノウがすぐに捕まり、庭で野点をすることに。
メインのお饅頭はこしあんを生地に包んで蒸せば出来上がり。
アクア、メノウの喜ぶ顔を思い浮かべ、ウキウキしながらコハクと饅頭を作った。

庭にテーブルと椅子を置いて、野点というより一見お茶会のような支度が整った。
「メノウ様、このお饅頭はアクアが作ったんですよ。」
コハクは「アクアが」というのを強調した。
「へー、アクアが。」
メノウの顔がほんの少し固まる。
「アクアの料理の腕は僕の遺伝みたいです。」
メノウの表情を見逃さずにコハクがそう言い、メノウの不安も無くなった。
「どうぞ」
コハクはそう言うと、茶碗に抹茶とお湯を入れて茶筅(ちゃせん)で練った。
メノウ、饅頭を一口食べる。
「アクア、美味しいよ。」
「ほんと?」
「ほんと、本当に美味しいよ。」
心からの笑顔でそう言ったが、一つ気になるのは家の中から不安そうな顔でこちらを見ている愛娘。
日が当たるのが得意では無いにしても、お茶会に参加しないのはおかしい。
抹茶を持ってきたコハクに「ヒスイは?」と小声で聞く。
「実は・・・。アクアがメノウ様にも食べて欲しいと思っていたおはぎをヒスイが全部食べてしまって・・・。」
アクアを怒り悲しませてしまった罪悪感から混ざれないとのこと。
「そっか、まあ呼んで来いよ。アクアは俺が説得するから、二人はゆっくり来い。」
そうですか?と言いながらいそいそ家にヒスイを迎えにいくコハク。
「アークア。」
メノウがアクアに声をかける。
「なあに?おじいちゃん?」
「ママのことまだ怒ってる?」
「ううん。」
即答にきょとんとするメノウ。さっきのコハクの口ぶりでは、アクアがまだ怒っているからヒスイが
出てこれないとのことだったはず。
「じゃあ、ママのこと許してるんだね?」
「うん、でもね。」
その後、天使のような笑顔から悪魔のような言葉が出てくる。
「ママは泣いている顔がとっても可愛いから、ママを見たらプイってしてママを泣かせてるんだ。」
無邪気な笑顔に悪意は1mmも感じられない。純粋な鬼畜らしい。
メノウ、苦笑。
「うーん、そうかー。」
苦笑以外何も出ない。
「でもな、アクア、ママを泣かせてばかりだと、ママはアクアのことイヤになっちゃうかも知れないよ?」
「えええー。そんなのヤダー。」
「ヤダよね、じゃあ、ママのこと泣かすのはいつもじゃなくてたまににしてあげて。」
孫の楽しみと娘の嘆き、何とか妥協案を提案してみた。
「うん!分かった。そうする!」
「じゃあ、パパがママを連れてくるから、“ママ大好き、もう怒ってないよ”って言ってあげるんだよ。」
「うん!ママ大好きだからいくらでも言うよ。」
コハクがヒスイを連れてきた。アクアは走ってヒスイに駆け寄り、足にしがみついて「ママ大好き。
もう怒ってないよ。」と言った。
その言葉にヒスイは喜び、陽だまりの中で野点の再開。

一見幸せそうな昼下がりの野点、天使の顔した鬼が混ざっているのを知っているのはメノウだけだった。




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