『たまには…』 ぷっつん様による執筆作品です。



ぎりぎり隠れているだけの下着、大胆にさらしている太腿。
そして、肌蹴たシャツから見えそうな胸元。
ようやく膨大な仕事を片付けて屋敷に戻ってきたトパーズは、
リビングで寝こけているヒスイを見下ろして溜息をついた。
悩みのひとつもなさそうな能天気顔に。
(用心という言葉とは無縁だな)
ご自由にどうぞとばかりに鍵もかけず、ぐーすか爆睡できるのは
大物なのか何も考えていないのか。後者だろうな、と即結論。
だが、こんなチャンスは滅多にない。
エクソシスト協会に出向いたメノウとコハクは戻っておらず、屈み込んだ
トパーズは意地悪な笑みを浮かべた。
そして噛みつこうとした唇に触れる寸前で動きを止める。

コハクのシャツに包まれたヒスイは幸せそうで……
守られているかのように安心しきっていて……

何故か、躊躇。

起こしたくないような、このまま眺めていたいような。
理解しがたい感情に戸惑うトパーズをよそに―――先に動いたのはヒスイの方だった。
「おにぃちゃ……だぁいす…きぃ」
手を伸ばして服をきゅっと掴み、さらに幸せいっぱいの笑顔。
よりにもよってコハクと間違われたトパーズは渋い顔。
「馬鹿。オレはトパーズだ」
「トパ……ズの……いじわるぅ……むにゃ」
(こいつ、本当に寝てるのか?)
ちゃんと名前を呼んだまではいいが、後に続いた言葉が気に入らず。
デコピンを一発入れようとして、また直前で躊躇う。
(どうかしているな)
結局、デコピン不発で彷徨わせていた手は腕枕としてヒスイに提供。
サラサラと落としては再び手に取り、窓から入ってくる夕陽を反射して輝く銀の髪を弄ぶ。
どれくらいの時間、そうしていたのか。
「たまには……悪くない」
聞こえてくる静かな寝息に誘われ、自嘲気味に笑ったトパーズも目を閉じる。


むにゅ。「起きないですね」むにゅっ。
予定していたより打ち合わせが長引いてしまい、メノウを急かしてヒスイの
待つ屋敷に戻ってきたコハクが、トパーズの頬を摘んだまま小さく息をつく。
「疲れてんだろ。寝顔は可愛いよなぁ」
「そう言えなくもないような……」
「たまには貸してやれば?」
「まぁ……何もしてないみたいだし」
曖昧なコハクの返事に、メノウはくすくす笑い出した。
彼らが見つめているのは熟睡中のヒスイと、ちゃっかり添い寝中のトパーズで。
だからこそコハクの心中が複雑なことも理解できたのだが……。
「夕食の支度手伝うよ。俺もう腹ペコ」
「そうですね」
メノウに続いてキッチンに歩き出したものの―――ぴたりと立ち止まったコハクは
二人の傍に戻り、しゃがみ込んでトパーズの髪をくしゃくしゃにした。
「たまには……いいよね」
少しくらい余裕があってもいい。
この世界にたったひとり。
かけがえのないヒスイという存在を、大切に、幸せにしようと誓ったけれど。
泣かせる奴は容赦するつもりもないけれど。
今、幸せそうにヒスイは眠っている。
そのヒスイを守るように、腕の中に包み込んだトパーズの顔も安らいでいる。
だから……この時間は君のものだ。


目を覚ますまで……ヒスイの温もりは君に……。




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