モルダバイト城下。中央通り。
「ジン?ジンじゃない!久しぶりね」
きっちり化粧をした大人の女性が近付いてきた。
年上の元カノ。昔、付き合っていた相手だった。
「また可愛がってあげるわよ?」
「冗談はよしてくれ」
昔話と共にそんなやりとりが続く中、不機嫌な猫が一匹。
それは、朝の散歩に出掛けた時の事だった。
「昔、付き合ってたんだ」
ジンにとっては過去の・・・完全に終わった話。
だからこそ気兼ねなく言えた。
「ほぅ・・・そうか」
「シトリン、それであの今夜・・・」
そろそろエッチに挑戦してみないか?と、意を決し、口を開いたジンだったが・・・
「シトリン?」
愛しき猫はスタスタ先を行く。
抱き上げようとしても、スッとかわされ。
「悪いが、ひとりにしておいてくれ」
そうしてシトリンは、猫走りで去ってしまった。
「どうしたんだ??急に」
オニキスの住処。モルダバイト城、離れの宮殿。
「オニキス殿〜・・・いないのか・・・」
いつ遊びに来てもいいと言われていた。が、生憎オニキスは不在だった。
「シャワーを借りるぞ」
シトリンはヒト型に化け、熱い湯を浴びる事にした。
気分転換の為だ。
(何だこのモヤモヤ・・・)
知っている感情。それは、嫉妬。
オニキスに恋をしていた時、嫌という程味わった・・・けれども、ここ最近はすっかり忘れていたものだった。
「・・・・・・」
(ジンにだって、過去の恋のひとつやふたつ・・・)
今更、ジンの恋愛遍歴が気になる。
「・・・私はなんて嫉妬深いんだ」
自己嫌悪の溜息をひとつ。
「う〜む」
シャワーを止め、じっと処女の体を見る。
まだジンに体を許していない。
何だかんだと理由をつけては逃げていた。
「べ、別に怖くなどないぞ。私は国でも三指に入る戦士で・・・ブツブツ」
強がりを言いながら、三角地帯に指を伸ばす。
「どこだ?ここか?」
自分の体であっても、未知の場所。
探って見つけた中央の窪み、その先へ。
「おぅっ・・・んっ!」
興味深い快感を追及したくなり、その場に座り込むシトリン。
「ここにアレが入るのか?」
そこはまだ指先を少し挟んだきり、左右の肉はピッタリ閉じていた。
「しかし母上だって・・・あんなに小さいのに全然平気そうだし」
シトリンは真顔で自問自答を繰り返した。
「それに比べればどうだ!?入るだろう、コレくらい!!」
奮起し、ググッ・・・指を深く入れてみる。
「あっ・・・」
「わ、私は何という声を・・・」
快感を思わず口走り、赤くなる。
「お・・・意外と入るぞ」
女性器を自ら弄ること10分。
思ったより痛くない。段々自信がついてきた。
「んっ・・・うむっ・・・まあ、こんなものか」
右手の中指を第二関節まで埋め、シトリンはご満悦。
すっかり上気した顔で、鏡を覗き込む・・・と。
「のぁっ!!」
「・・・・・・」
オニキスの姿が一緒に映っていた。
唖然とした表情で、そこに立っている。
常に冷静沈着な男であるが、さすがに動揺の色が見えた。
「・・・・・・」
(こういう時、男親はどうすれば・・・)
とにかくまずは、裸のシトリンに背を向ける。
その背中にシトリンは大慌てで弁解した。
「こ、これはだな・・・!!」
「・・・何か、悩みがあるのなら相談にのるが・・・コハクの方が良ければ・・・」
(うぉぉ!!オニキス殿に妙な気を遣わせているぞ!!)
「待ってくれ!違うんだ!!」
何が違うのか自分でもわからないが、オニキスは初恋の相手だ。
何とかフォローをしておきたい。
見なかった事にして濡れ場を離れようとするオニキス。
シトリンはもう必死で、裸のままオニキスに抱き付いた。
「待ってくれ!!これはその・・・ん?」
「シ・・・トリン?」
先程のオニキス並に驚いているジン。
その構図はまるでシトリンがオニキスに迫っているようでもあり、当然思う。
エッチの許可がいつまでも出ないのは・・・
「まだ、王の事好きなんじゃ・・・」
湧き上がった疑惑がポロッと口から洩れてしまった。
「あ!!ごめ・・・」
すぐ気付いて謝るが、シトリンにしてみれば心外で。
複雑な女心に拍車がかかる。
「実家に帰らせて貰う!!」
ポンッ!猫に戻り、高速ダッシュ。
「シトリン!!まっ・・・」
後を追ったが、あっさり見失ってしまい、戻ってきたジン。
「王・・・あの、今のって・・・」
オニキスは口元を隠して笑うばかりで、答えはなく。
「まあ、頑張るんだな」
祝福の試練。ほんの少しの意地悪。
「王〜・・・」
ほとほと困った様子のジンを見てオニキスは言った。
「愛していると伝えれば、愛していると返ってくる。こんなに幸せな事があるか?」
「ちなみにオレは、返ってきた試しがない」
・・・と、笑えない冗談。それから。
「迎えに行ってこい」
ジンを送り出す。
「ジン」
「はい」
「シトリンを宜しく頼む」
「はい!!」
「“こんなに幸せな事があるか”か。王が言うと重みが違うなぁ・・・」
(うまくはぐらかされた気もするけど)
オニキスは笑っていた。
「疑う程の事でもなかったのかも・・・」
シトリンは朝からどうも機嫌が悪い。
エッチの話をしたのがまずかったのかもしれないと後悔しつつ、ジンはシトリンの実家に向かった。
赤い屋根の屋敷。
消えたシトリンを追って、ジンは屋敷の扉を叩いた。
すると・・・ヒスイがちょこんと現れた。
やっぱり今日も小さい。
産まれたばかりの赤ん坊の世話で男性陣は忙しいらしく。
オニキスも先程までここにいたのだ。
「お忙しいところすいません、あの・・・」
「シトリン?来てないよ」
「でも実家に帰るって言って・・・」
「実家?マーキーズじゃないの?」
「え?」
(実家って・・・オレの実家かよ!!)
「ケンカでもしたの?」
じっ・・・ヒスイが見上げる。
「はぁ・・・その・・・」
ジンは言葉を濁した。
「じゃあ、こっち。マーキーズまで送るわ」
裏庭にヒスイが開通させた魔法陣があった。
「ジンくんの家の近くに繋がってるから・・・早く仲直りしてね」
「ありがとうございます!!」
ヒスイに見送られ、ジンはいそいそと魔法陣の上へ。
「あ、ジンくん」
「はい?」
「シトリンの事、よろしくね」
「はいっ!!」
マーキーズにて、シトリン。
熾天使の翼で大邸宅に忍び込む。
婚約者なので玄関から入っても良かったのだが、大勢の使用人に迎えられるのも煩わしく。
こそこそと、泥棒のような動きでジンの部屋に侵入した。
今朝の一件以来どうも気が晴れない。
その上、ジンに誤解をさせたままだ。
愛故の憂鬱に身を委ね、シトリンはジンのベッドでゴロゴロ・・・
それから間もなくして。
「ジン様!?」
使用人の声が聞こえたかと思うと、ジンが部屋へ走り込んできた。
「シトリン!!」
「ジン!?」
「ごめん、オレ・・・」
「いや。私の方こそ謝らねば」
シトリンは、ベッドの上で正座をし、頭を下げた。
「すまん。その・・・これは嫉妬というやつで」
今朝の一件について話し、菫色の瞳を伏せるシトリン。
「昔の事だとわかっているが・・・なんとなく悔しいんだ」
「シトリン・・・」
思わぬ不機嫌の理由に驚くジン。
(オレばっかり・・・って思ってたけど、まさか嫉妬してくれるなんて・・・)
嫉妬は、愛の証明。
何とも嬉しい気分になって。
ジンはベッドに腰掛け、シトリンの手を握った。
「彼女は、オレの友達と結婚して今は子供もいる」
「そ・・・そうなのか?」
「うん。それにオレだって、シトリンのファーストキスが王だった事根に持ってるし」
あらゆる事に年中嫉妬しているのだと告白し、バツが悪そうに笑う。
「ジン・・・」
「・・・キス、してもいいかな?」
ジンの言葉に、シトリンが頷いて。
正直者同士のキス。そして。
「煮るなり焼くなり好きにしろ!!」
覚悟を決めたシトリンは、ベッドで大の字に。
「そんなに自棄にならないでくれ」
シトリンの言動にジンは噴き出した。
「たぶん・・・オレはそんなに怖くないよ」
上からもう一度キス。
ジンの右手がシトリンの胸に触れた。
「・・・お手柔らかに頼む」
「任せて」
シトリンの肌を吸う・・・眩暈がするほど甘い。
(好きな女の子とセックスするのは当たり前の事なんだけど・・・)
それがこんなに嬉しいなんて。
君に会うまで、知らなかった。
「シトリン・・・」
恥ずかしくて、普通は言えない。
けれども今日は、オニキスの言葉を思い出して。
幸せを、確かめてみたくなる。
「・・・愛してる」
「ああ、私も・・・」
愛してる。
お題:黄水晶様
‖目次へ‖