※『WorldJoker』39話まで読破された方向けです。


「怖がんなくていいよ、オレん家肉食べないから」


銀の吸血鬼一族は揃って菜食主義、肉は食べない。(一部除く)
特にヒスイが肉も魚も苦手なので、その類のものは食卓に並ばないのだ。
“食べない”を強調し、ナンパに勤しむジスト。

相手は・・・ブタだ。

白銀の薄い体毛、瞳が翡翠色という珍しい子ブタに一目惚れ。
家に連れ帰ろうと懸命に口説いていた。
「今日からお前は“ヒスイ”だよ!」
子ブタの返事(?)は待たずに抱き上げる。
気に入った動物に“ヒスイ”と名付けるのはマザコンジストの癖だった。



赤い屋根の屋敷、リビング。

「兄ちゃん!見て見てっ!!」
「・・・なんだそのブタ」と、トパーズ。
ジストは抱えた子ブタを「オレの“ヒスイ”っ!!」と紹介し・・・
「あれっ?ヒスイは?」
いつもリビングで本を読んでいるヒスイの姿がない。
「兄ちゃん、ヒスイ知らない?」
「・・・・・・」
(・・・バカめ、そこにいるだろうが)

ブヒッ・・・

子ブタの“ヒスイ”と目が合う。
何かを訴えるように、トパーズを見上げる子ブタ。
(そうよっ!!私なのっ!!)


→→→ヒスイ完全ブタ化までの経緯。


萌飴。それは体の一部を動物化させる不思議なキャンディである。
コハクが管理しているものだ。
ネコ耳、ウサ耳、クマ耳、キツネ耳・・・
これまで色々な飴を舐めては、萌え動物化し、エッチをしてきたが。
その余りモノ・・・コハクが別にしておいたブタ飴をそうとは知らず大量摂取。
結果・・・
(嘘でしょ・・・全身ブタになっちゃった・・・)
人知れず、ブタ化。欲張って何個も飴を口に入れたのが間違いだった。
この日、コハクは総帥セレナイト直々の依頼で、料理教室の臨時講師として出掛けていた。


(お兄ちゃぁんっ!!)
ブヒブヒーー!!


コハクを頼りに家を飛び出し、4本足でトコトコ歩いていたところ、ジストに遭遇したという訳だ。


「ねぇねぇ、兄ちゃん、ブタって何食うの?」
「豚は雑食だ。何でも食う」
ニヤニヤと、傍観するトパーズ。
「ホラ食え、メス豚」と、リンゴをヒスイの鼻先に突き付けた。

ブヒッ!!

(絶対気付いてる!!)
けれども、知らないフリ。
明らかにこの状況を楽しんでいる。
(トパーズの意地悪っ!!)
ブーブー言っても相手にされず。

そのままジストの部屋へ連れ込まれる、子ブタのヒスイ。

メノウの部屋に比べれば随分とマシだが、あまり片付いているとは言えない部屋だ。
・・・と言っても悪い意味ではなく。
学校の女の子から貰ったであろうプレゼント・・・包装紙やらリボンやらで散らかっているのだ。
(ジストってモテるんだ)感心するヒスイ。
(うん、可愛いもんね)そして、親バカ。
一方ジストは、その中から一本、ピンクのリボンを拾い上げ。
「今度ちゃんとしたの買ってやるからな!」と。
ヒスイの首にリボンを結んだ。
「可愛いっ!ヒスイみたいだ!!」
「・・・・・・」
(だから、私だってば!!)
「ヒスイってさ、オレの母ちゃんなんだけど」
本人相手に語りが入るジスト・・・
「あれ見て」と、向かいの壁を指す。

愛するヒトは一生にひとり。
はじめてえっちしたコと結婚すること。

ヒスイ直筆の教訓がポスターのように貼ってあった。



『一生にひとりなら・・・オレ、ヒスイがいいな〜・・・』



「大好きなんだもん・・・あっ!これ誰にも内緒な!」
「・・・・・・」
(そんなコト言われても)
本人である。
(・・・っていうか、いい加減気付きなさいよ!!!)
ブゥブゥ!!怒るヒスイ・・・対するジストはニコニコ顔で、一向に気付く気配がない。
(も・・・いいわ)
萌飴の効果はそんなに長く続かない。
一定時間経過すれば元の姿に戻れるのだ。
困った時は、ひと眠り。ヒスイは昼寝をすることに決めた。
一人と一匹はちょうど今ベッドの上だ。
(じゃ、おやすみ・・・)
こうしてヒスイは夢の世界へ逃走・・・
「“ヒスイ”?寝ちゃったの?」
「・・・・・・」
もはやジストの声も耳に届かない。
「んじゃ、オレも寝よっ!後で一緒にフロ入ろ〜・・・」
横になり、すぐ寝入る。親子共通の特技だ。



それから数時間・・・さすがに寝飽きたジストが目を覚ますと。


「・・・え?ヒスイ!?なんでヒスイがオレのベッドで寝てんの???」
しばらく状況を飲みこめずにいたが・・・ジストの顔が真っ赤になる。
ヒスイは服を着ていなかったのだ。
そして首には子ブタに巻いたはずのリボン。



「もしかして・・・」
(“ヒスイみたい”じゃなくて、ヒスイだったんじゃ・・・)
今になって気付いても遅い。
(うわ・・・オレ告白しちゃった・・・)
猛烈に恥ずかしく、両手で頭を抱える。
チラッ・・・ヒスイを見ると、まだぐっすり眠っていた。
「・・・・・・」
(可愛いな・・・)
子ブタの“ヒスイ”に結んだはずのリボンを解く。



とくん。とくん。



ヒスイに触れると、鼓動が少し早くなるのが・・・怖い。
“銀の男は身内の女を愛す性”
どこかで聞いた言葉をふと思い出して。呟く。



「オレもいつか兄ちゃんみたいに・・・ヒスイのこと“母ちゃん”って思えなくなる日が来るのかな」



(そんなの嫌だっ!!)ぶんぶん、頭を振るジスト。
「ヒスイはオレの母ちゃんなんだ!!」大声で叫ぶ、と。
「うん、そうだよ」
むくり、ヒスイが起き上った。目を擦りながら、ふぁぁぁ〜・・・大欠伸。
「わあっ!!」
驚いたジストはベッドから転がり落ちた。
「ジスト!?」
落ちたついでに、ヒスイに着せる服を探す。
(あったっ!!)
ベッドの下、買ったばかりでまだ一度も着ていないTシャツを発見し。
「とにかくこれ着て!!」
顔を背けたまま、ヒスイに手渡した。
「うん、ありがと」
ヒスイは受け取ったTシャツを頭から被り。
「お父さん、よく言ってるよ」


親にとって、子供はいつまでも子供なんだって。


「だから、ジストはず〜っと私の子供」
一度そう言ってから。
「お兄ちゃんと私と・・・トパーズの子供だよ」
と、言い直し、ジストを見上げる。
ジストは大きく息を吸ってから、笑顔で頷いた。

「・・・うんっ!!」





“私の子供”
ヒスイの言葉が、とても嬉しく心に響くから。


まだ・・・大丈夫。


きっと、大丈夫。




お題:管理人

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