「アマデウスともあろう者が不貞を働くなんて!!許せませんわ!!」
「私っ!あの人と結婚してるのっ!!だからこれでいいのよっ!!」
突如勃発した女の戦い。
「ちょっと!ついてこないで!」
「逃げようとしてもそうはいきませんわよっ!」
媚薬を使われたせいで、ヒスイの下半身はいつも以上にヌレヌレだった。
このままでは話にならないと慌ててバスルームへ向かうが、なんとタンジェが後を追ってきたのだ。
タンジェは案外マセていてコハクとヒスイが何をしていたかちゃんと理解していた。
その上での不貞判決なのだ。
ヒスイが何度説明しても納得せず、とことん詰め寄ってくる。
「神があなたを“アマデウス”と」
「・・・・・・」
アマデウスの意味はヒスイも当然知っている。
完全否定できない事情が確かにあるのだ。
「それは・・・その・・・」
言葉を濁すヒスイ。
(どうしよう・・・このままじゃ・・・)
ヒスイなりの苦肉の策。
「――ジストっ!!」
「何っ!?ヒスイ!!」
名前を呼べばジストはすぐに飛んでくる。
「この子にその辺案内してあげて!!」
「うんっ!わかったっ!」
ヒスイの頼みなら、と快く引き受けて。
「君、名前は?」
「タ、タンジェと申しま・・・」
「よしっ!タンジェ!いこう!」
「あ・・・」
“神の子”ジストに軽く手首を掴まれて、真っ赤になるタンジェ。
は〜・・・っ。
「何とか追い払えたわ」
(ジストは物事を深く考えるタイプじゃないし、あの子・・・タンジェが多少おかしな事を口走ったところでバレる心配はないわね)
ジストなら後からいくらでもフォローが効く。と。
自分を棚に上げてタカを括り。
「とにかくコレをなんとかしなきゃ・・・んっ・・・」
今もなお太股を流れ伝う愛液。
「も・・・おにいちゃんのバカぁ〜・・・」
ジストとタンジェ。公園にて。
ジストはお気に入りのブランコがある敷地内の公園にタンジェを連れてきた。
「へぇ〜っ!じゃあ、タンジェは“神様”を探してるんだ?」
尊敬の眼差しでタンジェを見つめるジスト。
「神様ってホントにいるのかぁ〜・・・」
「え、ええ、その、神は・・・」
見つけたのだ。
だが、ジストを前にすると先程までの暴走魂はすっかりナリを潜め、タンジェはそれこそ借りてきた猫のようにしおらしくなってしまった。
「オレと同じ年なのにすごいよなぁ!タンジェは!軍服もカッコイイっ!!」
そう言って笑うジストの無邪気な笑顔に見とれてしまう。
場は完全にジストのペースになっていた。
「サルファーに似てる!夢に向かって頑張ってるとこがっ!」
「サルファー?」
「そ!オレの兄弟なんだけどさっ!あいつもすげぇんだぜ〜!オレ達きっといい友達になれる!」と、興奮気味に話す。
「神様、見つかるとイイなっ!!」
「たっだいま〜!!」
タンジェを率いてジストが帰宅。
「ただいま」
エクソシストの寮へ引っ越しの下見に行っていたサルファーも帰宅した。
時間は午後3時。子供達の大好きなおやつタイムだ。
「父ちゃんっ!おやつ〜!!」
揃った面子は・・・
ジスト・サルファー・タンジェの子供軍。
コハク・ヒスイ・トパーズの大人軍。
計6名。
「ちゃんと手は洗った?」「「うんっ!!」」
子供やら孫やらが入り乱れる食卓にコハクがデコレーションプリンを並べていく。
「わっ!!今日もうまそ〜!!」
ジストもサルファーも大喜び。
自分の分まで用意されていた事に驚きながらも、嬉しそうなタンジェ・・・だが。
アヤシイ雲行き。
「まぁ!とても美味しいですわ!」
品良くプリンを口に運びながら。
「ところでアマデ・・・」
バンッ!
“アマデウス”というタンジェの言葉を遮ったのはトパーズだ。
ティーカップごと右手をテーブルに叩きつけ。
内側の紅茶が波打ち、溢れる。
「・・・茶がうまい」
「に・・・兄ちゃん?どうしたの?急に・・・」
ジストが目をぱちくりさせてトパーズを見た。
そこでまたタンジェ。
「“兄ちゃん?”神はあなたのおと・・・」
「あっ!タンジェっ!!これあげるっ!!」
今度はヒスイが無理矢理言葉を被せ、プリンに添えられていたフルーツをひとつ取ってタンジェの皿に移した。
(まずいなぁ・・・なんとか話を逸らさないと)
コハクも気を揉んでいた。
(今はまだその時じゃない・・・)
ジストを“神の子”と奉るタンジェに、大人3名はヒヤヒヤさせられっ放しだった。
(((このまま放っておいたらジストにバレる)))
トパーズ・ヒスイ・コハクは同時に同じ事を考えた。
鈍感なジスト当人はともかく、勘のいいサルファーが一緒なのだ。
ジストの生い立ちをいつ気付かれてもおかしくない。
(・・・さっさと追い帰す)
トパーズがタンジェの首根っこを捉まえた。
「・・・城へ帰れ」
「嫌ですっ!わたくし“神の子”に身も心も捧げるつもりですのよ!!」
フーッ!と猫っぽく毛を逆立てて抵抗するタンジェにほとほと手を焼く。
すでにサルファーはこの騒々しい事態に不信感を抱いているように見えた。
(だめだわ・・・このままじゃ・・・)
「お兄ちゃん!私っ!シトリン呼んでくるっ!」
(さて・・・どうするか。まぁ相手は子供だし・・・この手でいくか)
「そうだ。紹介しなくちゃね」
お得意の愛想笑いでコハクが仕切る。
「左から、トパーズ、ジスト、サルファー。あと紅一点のヒスイ」
「今はいないけど」と付け加え、それからタンジェの耳元で・・・
「これからは名前で呼んでね。“神”も“アマデウス”も“神の子”もみんな」
「なぜですの?」
不思議そうな顔でタンジェが聞き返した。
し〜っ!と、人差し指を唇に当て、勿体ぶるコハク。
「世を忍ぶ仮の姿なんだ。“神”も“アマデウス”も“神の子”も正体を隠してる。だから協力してあげて?」
「まぁっ!そうだったんですの!?わたくしったら、思慮が足りませんでしたわ!!わかりました!このことは内密に!」
コハクの作り話をタンジェは頭から信じ込んだ。
(よし。よし。いいぞ)
早速とばかりに指さし確認。
「トパーズ様」(神)
「ジスト様」(神の子)
「サルファー」(その他一般)
「・・・ですわね?」
「・・・・・・」
(サルファーだけ呼び捨てなのはおかしいでしょ・・・)
明らかに、差別化。
「・・・・・・」
(何だよ、この女)
サルファーはかなり気分を害していた。
厳しい視点で品定め。
胸フェチサルファーの目線はまず胸へ。
10歳にしては発育の良いタンジェの胸は、確実にヒスイより大きく。
顔はシンプルに可愛い。しかも猫耳。
性格さえ除けば、好みのタイプだった。
(けど、うるさい女は嫌いだ。論外だな。ジストはなんでこんな女を・・・)
サルファーもまた、タンジェはジストのガールフレンドだと思っていた。
はぁ。はぁ。
嫌がる猫シトリンを両手でしっかり抱え、ヒスイが走る。
「大事になる前に連れ帰って貰いたいの」
「そう言われてもだなぁ〜・・・」
シトリンは全く乗り気でない。
「だってあいつ、私を苛めるんだ」
大鎌を手に今でも最前線でモルダバイトを守護する名将が、なんと嘆かわしいことか。
「いっそ屋敷で預かってくれ・・・」
赤い屋根の屋敷。
「やあ、シトリン。いらっしゃい」
変わらぬ笑顔でコハクが迎える。
「お母様!?」
「ちょうどいい機会だから、僕等のこと紹介してくれる?」
「あ〜・・・」
シトリンはまず「私の母だ」とヒスイを紹介。
「で、こいつが一応父親というか・・・」
猫ではない姿で並べば一目瞭然なのだが、猫の生活が気に入っているシトリンはヒトに化ける機会が少なかった。
タンジェが顔を覚えていないほどに。
「あそこにいるのが双子の兄、ジストとサルファーは弟だ」
「なんということ・・・」
思わぬところから不貞判決が覆されて。
不可解な系図に愕然としてフラリ・・・足にくる。
「なぜそんな重要な事を先におっしゃってくださらないの・・・」
「す、すまん」
シトリンは何故かタンジェに頭が上がらない。
情けなくも、微笑ましい光景。
後に懐かしく思い出す。
血で血を洗う戦いの刻が、近付いていた――
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