「ふぁぁ〜・・・おはよぉ・・・」
やわらかな銀髪に今朝も見事な寝癖がついている。
AM8:00。いつもより少し寝坊する休日。

ジスト、15歳の冬。

朝の食卓で待つのは、コハク、ヒスイ、メノウとアクア。
トパーズは休日出勤で、早々に朝食を済ませ、家を出たという。
あれでいて、実はかなりの働き者だった。
「・・・暇だなぁ・・・」
食後のミルクティーを飲みながらジストが呟く。
今日は学校も仕事もない。
サルファーと違い、これといった趣味もなく。
自分の為に時間を使うのが下手で、むしろ誰かの為に何かをしている方に喜びを感じるタイプである。
「よしっ!サルファーんとこ行こう!」



エクソシスト寮。サルファー宅。

「こ・・・これ・・・お前・・・の?」
あるモノを震える手で翳すジスト。
暇つぶしに訪れたサルファーの部屋で発見してしまった。
それは・・・コンドーム。
「そうだけど。返せよ」
サルファーは平然とした態度でジストからそれを取り上げた。
「さらっと言うなよっ!!まだ15・・・」
(でもじいちゃんは14歳で・・・)
祖父メノウの事が一瞬脳内を掠めるが、今はそれどころではない。
恋愛にもセックスにも興味がなさそうだったオタクサルファーが・・・やる事はやっていた。
恋愛にもセックスにも興味津々の自分はまだ・・・童貞だ。
(婚約者のタンジェとしちゃってるって事だよな!?)
一気に妄想が広がり、部屋にひとつしかないベッドへ目がいく。
シングルだったベッドがいつの間にかセミダブルになっていた。
そんな事に今更気付く。
学校でも、仕事でも、サルファーとは殆ど毎日顔を合わせているが、色恋の話題が出た事などなかったのだ。
二人がそこまで進んでいたとは、今知った。
「あら!ジスト様!」
「わぁっ!!」
歓迎の意が込められたタンジェの声に、必要以上に驚くジスト。
「お邪魔しましたっ!!」
(この二人・・・もうオトナだっ・・・!!)
逃げるようにサルファーの部屋を後にした。




「まさか・・・スピネルも!?」
続けて、そんな考えが浮かぶ。
思春期真っ只中・・・気になりだすと止まらない。
ジストは国境の町ペンデロークへ向かった。
なんと・・・走って。
若さ溢れる15歳。体力と性欲は有り余っていた。



ペンデローク郊外。スピネル宅。

「え?走ってきたの?」
馬でも半日かかる距離をジストは2時間弱で走ってきたという。
(普通なら有り得ないよね・・・)
つい苦笑いのスピネル。
狙われ体質のジストは、驚異的な持久力を身に付けていたのだ。
(神なんだから、神獣でも喚べばいいのに)
わざわざ走らなくても鳥形の神獣ガルーダの背に乗れば10分とかからない。
ヒスイが開通した魔法陣を使えば、秒単位だ。
が、頭より体を使う。
(・・・まぁ、そういう所がジストらしいんだけど)
「こっちで暖まりなよ」
スピネルはジストを暖炉の前へと案内し、冬の定番ジンジャーティで持て成した。
それから笑顔でジストに尋ねる。
「ところで、どうしたの?」


「ボク?まだ全然。彼女もいないし」


オレも!オレも!と、内心胸を撫で下ろすジスト。
「だけど、好きなひとはできたんだ」
「えっ!?誰っ!?」
「秘密♪」



スピネルの勧めで、帰りは直通魔法陣を使用した。
・・・あっという間に屋敷だ。
魔法陣は裏庭花壇の脇、“オニキス&スピネルの家”という札が立てられていた。
(そういやここにあったっけ)
それにしても。
「なんだよ〜・・・スピネルもサルファーも・・・」
兄弟の中で完全に出遅れている。
改めてそれを痛感したジストだった。
(でもオレ・・・)




赤い屋根の屋敷。裏口。

「ただいまっ!」
「おかえり、ジスト」
まずはコハクが出迎える。
「ヒスイはっ!?」
「くすっ。いつものところだよ」


ヒスイは・・・昼寝中。

メノウも・・・昼寝中。

アクアも・・・昼寝中。


・・・昼寝好きは遺伝だ。
計3名がリビングの床に転がっていた。
「オレも参加っ!!」
早速ジストもヒスイの隣に寝転がる。
(あ〜・・・いい匂い・・・)
あちこちから聞こえてくる寝息が心地良く、ジストもすぐにウトウトし始めた。


家に帰ると、ヒスイがいて。父ちゃんがいて。
じいちゃんもアクアもいて。
今日は仕事だけど、兄ちゃんもいる。


「オレ・・・ずっとこの家にいたい・・・な・・・みんなで」


こうしてる時間が一番幸せだから。



「彼女はまだ・・・いいや・・・」




屋敷の夜は。夫婦のエッチ。

ふ〜・・・っ。
ジストの数少ない趣味とも言える“覗き”。
「今夜も父ちゃんはエロかった!ヒスイは可愛かった!」
はぁ〜・・・っ。
うっとりと。見応えたっぷり大満足。
興奮してしばらく眠れそうもない。
「牛乳飲んでこよっ!」
軽やかな足取りで階段を下り、キッチンへ。

すると。

「あれっ?兄ちゃん?」
トパーズがテーブルで居眠りをしていた。
キッチンで、テストの採点中。
どうやら、コーヒーを入れようとお湯を沸かしている時に睡魔に襲われた様だった。
この冬、インフルエンザが大流行し、ただでさえ少ない教員の数が1/2に。
その穴埋めで忙殺され、疲労もピークに達していたのだ。
灰皿から、煙。
吸いかけの煙草もそのまま。
「台所で吸ったら父ちゃんに怒られるのに・・・」
と、煙草の火を消し、煙を払う。
(兄ちゃん・・・ここんとこずっと帰り遅かったもんな)
ジストは、死んだように眠っているトパーズを心配顔で覗き込んだ。
「何か手伝える事ないかな〜・・・あ!」
精神年齢の低いジストならではの発想。
テーブルの上に転がっていた赤いマーカーを手に、答案用紙に花丸を描き始めた。
トパーズによる採点は殆ど済んでいた。

80点以上は“よくできました”。
それ以下は“がんばりましょう”。

特殊クラスの担任ルチル方式で。
一枚一枚ジストが手描き。
散らかっていた書類もきちんとまとめ、トパーズが目を覚ましたらすぐ出勤できるようにと気を利かせる。
お手伝いの仕上げは防寒対策。
自分の部屋から持ってきた毛布をトパーズの背中に掛け。
「兄ちゃん、おやすみ〜・・・」





翌日。国立大学女子付属高等学校。

ざわめく教室。
(あいつ・・・やりやがった)
答案用紙に花丸。
文字ですぐジストの仕業とわかった。
生徒にテストを返す際に気付いても当然手遅れで。
・・・笑いが巻き起こる。


「先生の花丸!うれしっ!」
「やる気出るよね〜!!」
「“がんばりましょう”?はぁい!頑張りまぁす!」


「・・・・・・」
生徒の反応は上々・・・皮肉な事に皆大喜びだった。




そして昼休み。

トパーズが動く。
校舎は違えど、同じ敷地内なのでジストを見つけるのは容易い。
昨夜の花丸作業でジストも寝不足だ。
本日の昼休みは、寝るためにあるようなもので。
教室外の木陰で休息中だった。
「・・・馬鹿め」



仕返しか。悪戯か。それとも・・・



眠っているジストの両頬に同じ赤のマーカーで特大花丸。
油性なので簡単には消えない。
爆睡しているジストは全く気付かず、口から涎を垂らし・・・
「むにゃ〜・・・よく・・・でき・・・ま」




昼休み終了後・・・

「ジスト!?何だよ!ソレっ!!」
サルファーが目を丸くして叫び、それから教室は大爆笑。
「ん?なに?なに?」
クラスメイトから借りた鏡を覗き込んで。
「わっ・・・花丸っ!?」
「顔洗ってこいよ、すごい馬鹿面だぞ」と、サルファーも笑いながら。
ところが、ジストは滅多に貰えない花丸に喜んで。
周囲に笑われても気にしない。
「いいや!このままでっ!」




兄ちゃん、ありがとっ!






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