セックスと呼べることをしているのかもわからない。


1年に1回の再会。


産まれた日に、産まれた場所へ、還る。


「誕生日、おめでと〜!」


今、オレが住んでいる場所はヒスイしか知らない。
明けない夜の国。銀の吸血鬼の城。
「今年はね、プレゼントもちゃんと・・・」
「さっさと脱げ」
ヒスイの言葉に耳も貸さず、求めるのはカラダ。
「あ、うん・・・」
「・・・飲め」
避妊用の薬を飲み込ませ、いきなり一発。
壁に両手をつかせ、擦る。


「んっ、ん、あ・・・っ!あんっ!」


それからベッドに放り込み、じっくりと吟味。
幼い見た目に惑わされることはない。
セックスに慣れているのだ。
精液と愛液が混ざり合う場所は、指の3本ぐらい余裕で迎える。

ぴちゃっ。くちゅ。くちゅ。

「う・・・ん・・・ね・・・キス」
「・・・・・・」
トパーズはヒスイがキスを求めても応じない。
「もっと中、触らせろ」
指先に感じるヌメった感触も1年ぶりだ。
ズボズボと指を浸け、グリグリと中を探る。
「あ・・・っ!ソコ・・・っ!だめ・・・っ」
どっと湧き出す透明な液体・・・トパーズは一旦指を抜いて。
「・・・ここか。思い出した」
と、笑って、舐めた。



「・・・うぅ・・・っ」
匂いを嗅ぎながら、割れ目に吸い付く。
「ん、んっ!!」
ムードのないセックスに、トパーズの頭を押し返す仕草で抵抗するヒスイ。
だが、トパーズは更に深く顔を埋めてきた。
「あぅんっ!」
そして、マングリ返し。
下半身を上に、ヒスイの体を折りたたむ。
丸見えの女性器。


・・・ここから産まれたのだ。


ピチャピチャと舌での愛撫に夢中になって。
強い興奮と快感をヒスイにもたらす。
「あ・・・っ、うっ」
ヒスイの両脚が本能でトパーズの頭を挟み込む。
更に引き寄せて。締め付けて。
トパーズは膨れあがったヒスイの肉粒を強く吸った。
「うっ、うぅ・・・ん、トパ・・・ズ」
舐め回される快感に酔いしれて、早くもヒスイが挿入をねだる。
「・・・その前に、奉仕しろ」
「うん〜・・・」
起きあがり、突き付けられた勃起に見入る。
「手でする?口でする?」
「口でしろ」
「うん」
ヒスイはベッドの背もたれに背中を預けて体勢を整えた。

ごくり。

トパーズの熱い塊が口元に近付いてきて、唾を飲む。
咥える為の、絶妙なポジション取り。

やっぱり慣れている。

「・・・・・・」
度々それを不愉快に思う。
「は・・・むっ」
大きく開けたヒスイの口にトパーズがペニスを差し込んだ。
腰を揺らして出し入れ開始。
「んっ!くっ!けほっ!」
わざと喉の奥まで突っ込んで咳き込ませる。
「けふっ・・・あ、ふ・・・」
口内をペニスに支配され、ヒスイの涎が溢れた。
懸命に口を窄めて奉仕活動。
お互いの快感が一層高まる。


「あ・・・ん、んんっ・・・」


開脚で仰向けになったヒスイの腰を引き寄せ、90℃の生挿入。
悦楽を受け入れたヒスイは甘く切ない喘ぎ声をあげた。


還りたい。


還っておいで。


そんなことを言ったって、還れるのは、カラダのほんの一部分だけで。


「あ、あうっ、ん、っ!」


肉粒がトパーズの恥骨にあたり、入口も中も擦れ、何度も奥を突き上げられる。
「あ、はぁ・・・ん、くふ・・・つ」
ヒスイ自ら両脚を持って開き、進んでトパーズの連打を浴びた。
ヌルヌルとしたペニスの擦れる快感を貪って、愛液の洪水。
「はぁ、はぁ、ああんっ!!」
お互いの股間はビショビショになり、部屋中に滑った音を響かせた。
「はっ、くっ、あんっ、あっ、あ」
突かれる度に小さなヒスイの体がガクガク揺れる。
「く・・・ぅ」
トパーズの興奮が増し、抜き差しのスピードがあがっていく。
両者イク寸前。
いよいよトパーズが堪えきれず、ヒスイの上へ覆い被さってきた。
体全体を密着させて、貫かれるのも快感。
ヒスイはトパーズの腰に両脚を絡めた。

トパーズ・・・態度は冷たくても、温もりはちゃんとある。

その温もりを両手で抱き締めて。
「あふっ!あぁんっ!トパーズぅっ!!」

はっ。はぁ。はぁっ。

ヒスイの愛液が粘りついたままの口から、荒い息を洩らすトパーズ。
カラダの奥深くから湧き上がってくるものを抑えるのも限界。
「くっ、ぅ・・・」
トパーズはついに、ヒスイの膣内へ大量の精液を吐き出した。
ドクドクと音が聞こえてきそうな、激しい射精。
「ん、あ・・・」
たっぷりと注ぎ込まれる欲情の液体・・・たとえようもない快感。
準備不十分だった1回目とは明らかに違う。
「あ、あ、あ・・・」
きつく締め付けながら、髪を振り乱し、ヒスイはトパーズの背中に爪をたてた。
「わたし・・・も、イッ、ちゃ・・・」



トパーズの噛み癖は相変わらずで、愛撫の合間や絶頂の瞬間に、至るトコロを噛んできた。
(平気、全然痛くない)
全身に残る見事な歯形・・・けれどもそのひとつひとつに『好き』がこもっていると思うと、痛みなど感じない。
噛まれることに慣れた今となっては嬉しい愛情表現だった。



ベッドの上。

3度目の性交を終え、心地よく、ぐったりとしているヒスイに放り投げられる服。
「?」
(もう用済みだから、帰れってことかな・・・)
トパーズは一足先に服を着て、煙草を口に咥えていた。
「・・・ついてこい。そろそろ月下美人が咲く時間だ」

魔界のフルムーン。

かつて銀の一族が棲んでいた土地は、特に人間界に似て、時節も月の明るさも慣れ親しんだものと何ら変わらなかった。
夜桜の咲き乱れる道をトパーズと並んで歩く。
花びらと、煙草の煙。
(こうしているとさっきまでの時間が嘘みたい)
トパーズの澄ました横顔。
(えっちかと思ったら、素っ気なかったり。この年頃はムズカシイわね・・・)
「・・・べつに・・・やることしか考えてないわけじゃない」
ヒスイの心の声を聞いてか、トパーズが自分からそう言った。
「・・・ほら」
「うんっ!」
なんとなくその言葉が嬉しくて、ヒスイは大きく頷いた。
差し出された手をしっかりと握って歩く。
「あれ?でも、月下美人が咲くのってこの時期じゃないよね?」
以前本で読んだ。
開花時期は初夏から秋口にかけて、と記されていた。
「・・・改良させた。ジンに」
「くすっ。そうなんだ」


「わ・・・っ・・・綺麗だねぇ・・・」


月光が降り注ぐ丘に咲く、月下美人。
その名の通り、誇らしく、美しく。
一晩だけ咲く、花。


「ヒスイ」
「ん?あ・・・」


名前を呼ばれて見上げると、すぐ傍にトパーズの顔。
唇が触れ合う・・・本日最初のキス。
「・・・順番、おかしいよ?」
ヒスイが笑う。
「・・・これでいいんだ」
「・・・ん・・・」
再び唇を塞がれて、トパーズの言っていることは正しいのかもしれないと思った。
セックスとは結びつかない、純粋で、優しいキス。
なぜか、このキスが下半身の繋がりよりもココロを揺らす。



・・・そして、目覚める想い。



春先のまだ少し冷たい夜風に、やっと正気が呼び醒まされて。



それでもなお・・・



繰り返されるキスと、濃厚な月下美人の香りで眩暈がした。



たぶん、月下美人を見る度にこの夜のことを思い出す。
「・・・っ・・・」
涙が出るほど、罪悪感でいっぱいなのに。
どうして求めてしまうのか。



この髪も、この瞳も、この牙も。
トパーズと私は同じものでできている。
だから、えっちしても数に入らないって、思ってた。


トパーズの子供を妊娠するまでは。


繋がってしまえば、親も子も関係ない。
それはもう、ただの男と女で。
現に私の内側は、新しい命の素を一滴残らず搾り取ろうと、きつく締まるの。
たとえそれが息子のものであっても。

快感を与えられた本能は、それが息子かどうかなんてわからない。
ただひたすら、役目を果たすだけ。

だから、これは、イケナイこと。

避妊したって、罪は罪。

わかっているのに。

(・・・なんで、毎年ここに来ちゃうのかな)



「・・・私、帰るね」
月下美人はまだ、咲いている。
だけど・・・
この花の最期を共に看取ったら、帰れなくなってしまうから。
「・・・ああ、帰れ」
トパーズは引き留めなかった。
唇が離れたと同時に走り去るヒスイの姿を黙って見送る。
現地解散。
1年に1回の逢瀬もこれで終わり。
花の命より短い時間かもしれなかった。



魔界の城で、ひとり。
「・・・・・・」
ヒスイがいないと喫煙量が劇的に伸びる。
別れてからずっと吸いっ放しだった。
吸い殻で山盛りになった灰皿。
2個目を探して、立ち上がった時だった。

ガサッ。

何かが足に引っかかり、視線を落とす。
(・・・プレゼント・・・)
「・・・そういえば、来た時にそんなことを言っていたな」
紙袋から、丁寧にラッピングされた箱を取り出す。
かなり大きい。
「・・・なんだコレは・・・」
(おどるハニワか?)
箱の中身は紙粘土で作られた置物だった。
それも二つ。大と小。
ちゃんと色も塗ってある・・・が、とにかく不可解な造形。
宇宙人のようにも見える。
添付のメッセージカードには――


誕生日、おめでとう。
トパーズをイメージして、ジストと一緒に作りました。
似てるでしょ?


「・・・・・・」
(・・・これが、オレ・・・)
よく見ると、マジックで眼鏡が描いてある。
口からは煙草らしきものがニュッと突き出して。

ぷっ・・・くくく・・・

「あいつらの美的感覚はおかしい」
さしずめ大きい方はヒスイ作、小さい方はジスト作。
トパーズは声をあげて笑いながら、机の上に並べて置いた。
「しかも、親子揃って不器用だ」
しみじみと眺めては、苦笑い。
それから・・・

ひとすじの涙が頬を伝う。

かつて求めていた“母親”とは違う生き物。
けれども確かにヒスイは愛をくれたのだ。


「好きだ」とオレが気持ちを伝えたら。


ヒスイはたぶんこれ以上ないってくらいに、困った顔をするだろう。

許されない想い。

ヒスイは父上が愛して大切にしてきた女だと、産まれた時から知っていた筈なのに。

わかっているのに。

どうして求めてしまうのか。

オレ達の関係を祝福する奴なんて、世界中にひとりもいない。



はぁっ。はぁっ。

地面に積もる桜の花びらを踏みしめて。
辿り着いたのは、魔界の出口。人間界の入口。
この先で、本来愛すべき人達が待っている。
歪んだ自分の想いから、逃げるように走ってきた。


もう“親子”じゃない。

だけど“男と女”にもなれなくて。

私達は、一体何を求め合っているんだろう。

トパーズは、大好きなお兄ちゃんとの間に産まれた実の息子なのに。

普通の幸せから遠ざかるようなことばかりさせて。



「・・・ごめんね」




オレ達は。私達は。
周りを傷つけることしかできないから。



『一緒にいちゃ、いけない』



別々の場所から、同じ月を見上げて。



「・・・ばいばい」




また・・・来年。




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