モルダバイト王オニキスは、この夜も王妃ヒスイを溺愛していた。
天蓋の下で重なる裸体。
オニキスが覆い被さるようにして、幼く華奢なヒスイの全身を包み込んでいる。
「ヒスイ・・・」
唇の輪郭を指でなぞり、そこに自分の唇をのせるオニキス。
「・・・ん・・・」
互いに唇を啄み合いながら、少しずつ舌を絡めてゆく・・・
口内の粘膜に触れていると、次第に下の粘膜も恋しくなる、男の性。
オニキスの唇がヒスイの唇から離れた。
「んっ・・・!!」
大きく温かな手のひらが、ヒスイの胸の微かな膨らみを探る。
「んん・・・っ!!」
ピンと尖った先端に何度もキスが与えられ。
「あ・・・んっ・・・」
愛される悦びに頬を染めるヒスイ。
オニキスはヒスイのへその窪みにもキスを贈り、それから・・・
「あっ・・・んんっ!!」
ヒスイの陰唇に唇を重ねる。
そのまま根を下ろすように、深く舌先をヒスイの体内に入れた。
「あ・・・んふ・・・っ」
ヒスイの声とともに、ぷちゅっ・・・音が鳴る。
そこは、口の中以上に熱く濡れていて。
入口を拡げた途端、とぷっ・・・こぼれて、オニキスの舌を伝った。
とろとろと口の中に流れ込んでくる、ヒスイの蜜。
「・・・・・・」
この味を知ってから、ワインの味が落ちた。
ヒスイに出会う前から好んで飲んでいたワイン。
それよりも、体が欲する、ヒスイの蜜。
「ふっ・・・うぅん・・・」
膣内でオニキスの舌が動くたび、ヒスイが身を竦ませ・・・
甘い・・・蜜漬けの生活。
「あぁうぅっ・・・あぁ・・・」
女性器の隅から隅まで。
行為を終えた後もまだヒスイの体に感触を残すほど、舌で愛し尽くしてから。
オニキスは、すっかり先が湿ってしまったペニスを、ヒスイの濡れ肉の間にゆっくりと潜り込ませた。
「あ、く・・・っ・・・!!」
進行を妨げるものは何もない、が。
「うっ・・・く・・・ぅ!!」
小さな穴が拡張され、ヒスイが苦しげに呻いた。
股間にペニスが食い込むにつれ、真っ白な素肌にじっとり汗が浮かぶ。
「あ・・・あぁ・・・っ」
軋む快感・・・ヒスイは涙目で。
「・・・大丈夫か?」
ベッドに片腕をつき、上からヒスイを見下ろすオニキス。
「うっ・・・うぅん・・・」
下腹部にオニキスの尖りを感じながら、悩ましげに頭を振るヒスイ・・・
細い腰を浮かせ、より奥へと迎え入れようとしていた。
その健気な姿に男心が昂り。
「ヒスイ・・・」
「あ・・・・・・あっ・・・んっ!!」
根元まで挿入してすぐ抱きしめる。
「オニ・・・ん・・・」
擦るのは後回しで、ヒスイにキスを浴びせ。
・・・離宮の静寂の中。
「あっ・・・はぁ・・・」
くちゅくちゅ、濃厚な蜜音。
オニキスのペニスがヒスイの愛液を練り込んでいた。
湿った音を響かせながら、ヒスイの入口から中まで丁寧に摩擦し。
「あっ、あっ、あっ・・・はぁっ!!」
悦び悶えるヒスイを見て、更に昂っていく。
「っ・・・あ・・・あっ・・・!!」
「・・・・・・」
ヒスイを愛しく思えば思うほど、腰の動きは速まり。
「あぁぁんっ!あっ!あ!」
先端が膣奥を突く。
「あ・・・ふ・・・ふか・・・」
深い挿入、圧倒的なペニスの力で中心を押し上げられ、堪らずヒスイが口走った。
「あっ・・・あ!あっ、あっ、ああ・・・」
芯から痺れ・・・全身から力が抜ける。
「あっ・・・んんっ・・・オニ・・・キスぅ・・・」
ヒスイはオニキスの名を呼んで、達した。
「く・・・・・・」
ヒスイの呼び声と、心地良い締め付け。
どちらも射精を促すもので。
「っ・・・」
ペニスが脈打つ・・・
オニキスはヒスイの中にたっぷりの愛と精液を溶かし込んだ。
「ヒスイ・・・」
「ん・・・」
乱れた息のまま、最後は必ずキスをして。
幸せな・・・新婚の夜。
だが、オニキスにはひとつ気にかかることがあった。
傍らですやすや眠るヒスイを見つめ・・・
「・・・・・・」
(気のせい・・・なのか?)
ヒスイのお腹が若干ふっくらして見える。
そろそろ気のせいでは済まなくなってきた。
しかしヒスイは何も言わず、いつもと全く変わらない態度で・・・オニキスは判断に迷っていた。
ヒスイ、妊娠疑惑。
(やっぱり気のせいじゃないわ!!)
湯上り後のヒスイを凝視するローズ。
(これって絶対妊娠よね!!)
ここ最近、気になってはいたのだが。
ヒスイは何も言わず、いつもと全く変わらない態度で・・・ローズも判断に迷っていた。
しかしやはり・・・お腹が目に付く。
「・・・なによ」
ジロジロ見られるのが不快らしく、ヒスイは口を尖らせた。
「ヒスイ様、お腹が少し・・・」
ローズが言いかけたところで。
「別にっ!!ちょっと太っただけだもん!!」
ヒスイはムキになって否定した。
(太った!?)ヒスイの言い分にローズは唖然。
「とにかく主治医に・・・」
「いやっ!!」
ローズの手を振り払い、逃げるヒスイ。
「あ!ヒスイ様!?もう!!逃げ足だけは早いんだから!!」
オニキスやローズが気付くのであれば、城で働く人間の中にも当然気付く者が出てくる。
「王妃様、もしやご懐妊では?」
「いつ正式発表されるんだ?」
あちこちで妊娠説が囁かれたが、当の本人は「太った」の一点張り。
・・・城中が困惑し始めた。
「ヒスイ様の言動があまりに不審なので、父親が違うのではないかという噂まで流れてます」と、ローズ。
「・・・・・・」
腕を組み、オニキスは軽く溜息をついた。
「オレから言っても構わんのだが・・・」
真偽を確かめようとすると、脱兎の如く逃げるのだ。
そして、この夜も・・・
「これだけ?」と、ヒスイ。
「・・・これだけだ」と、オニキス。
二人でベッドの上にいても、口づけを繰り返すだけで、先に進まないオニキス・・・
不思議そうな顔でヒスイが見上げた。
「なんで?」
「・・・・・・」
(聞きたいのはこっちだ・・・)
お腹が・・・気になる。
身籠っているのなら、無理はさせられない。
「お前、妊・・・」
ぴくっ!ヒスイはいち早く反応し、わざとらしいくらいの大声でオニキスの言葉を遮った。
「私っ!ローズと寝るからっ!!」
・・・住み込みメイド長、ローズの部屋。
「ヒスイ様ぁ!!?」
真夜中に王妃が尋ねてくれば驚くに決まっている。
ヒスイは一晩泊めて欲しいと願い出た。
「・・・では、こちらへ」
王妃相手では断ることもできず、ローズはヒスイを自室に招き入れた。
「いいわよ。その辺に転がって寝るから。ベッドはローズが使って」
「そういうわけには・・・」(あ・・・)
王妃の自覚ゼロのヒスイに振り回される最中、ふと名案が浮かぶ。
したたかな微笑みで、ローズはベッドから枕を掴み取った。
「ヒスイ様」
「ん〜?」
「失礼します」
一礼の後、なんとローズは枕でヒスイに攻撃を仕掛けた。
「ひぁ・・・っ!!」
するとヒスイは咄嗟にお腹を庇い、蹲った。
「あ・・・」
つまりそこに“守るべきもの”があるということで。
枕をベッドに戻し、ローズは笑った。
「ヒスイ様」
「・・・なによ」
ヒスイはお腹を抱えたまま、耳まで赤くして俯いていた。
「おめでとうございます」
「・・・っ!!」
ローズに一本取られた。完敗だ。
“ぐうの音も出ない”とはまさにこのことで。
「どうしてオニキス様に言わないんですか」
「・・・・・・」
観念したヒスイは、ローズの質問に正直に答えた。
「・・・恥ずかしいから」
「恥ず・・・かしい?」驚きの表情で聞き返すローズに。
「うん」と、ヒスイは小さな声で頷いた。
(ハァァァーッ!!?そんな理由で!!?ヒスイ様って、どんだけ照れ屋なの!!?)
翌朝、食事の席にて。
「・・・・・・」
どうにも落ち着かないヒスイ。
妊娠説が濃厚になり、メイド達があれやこれやと気を遣い始めたのだ。
本人は認めていないというのに、食事から衣服までマタニティ仕様。
かえってそれに追い詰められ、この朝、ついにヒスイは・・・
「たくさん召し上がってくださいね」と、続々並べられてゆくご馳走に対し、言ってしまった。
「ダイエットするからいいわ」
「ヒスイ様!?」
以下、ローズの心の叫び。
(まだ認めない気!?ここまできて何でダイエット!!?)
そんなことをすれば、妊娠中の体に障る。
ヒスイの暴走、ここで止めなければ大変なことになる、と。
真実を告げるべく、ローズが口を開いた時だった。
「・・・ヒスイ」
オニキスがフォークを置いた。
いつもと少し声のトーンが違う。
「こっちへ」
「・・・・・・」
ヒスイをバルコニーに連れ出すオニキス。
メイド達の目もあるが、構わずそこでヒスイを抱きしめた。
「!?オニ・・・キス?」
ヒスイ的に嫌な予感がする。
(言われそう・・・逃げなきゃ・・・)
「は・・・離してっ!」
一度はオニキスの腕を抜け、逃走に成功したかのように思えたが。
「・・・ちゃんと人の話を聞け」
「や・・・っ・・・」
手首を掴まれ、背後から捕獲されてしまった。
「・・・そんなに頼りない男か、オレは」
オニキスは再び強くヒスイを抱きしめ・・・そして。
ヒスイのお腹に手をのせ、語りかけるように言った。
「挨拶が遅れたな」
「オレが・・・父だ」
「なっ・・・なに言って・・・」
ヒスイは湯気が出るほど真っ赤になり、しどろもどろ。
「違うもんっ!!」と、また否定した。が。
オニキスはヒスイに顔を寄せ、話を繋いだ。
「・・・そろそろ認めてくれ。オレのこともそうだが・・・」
『否定されてばかりでは、お腹の子供が可哀想だろう』
「!!」
オニキスの言葉にハッとした顔をするヒスイ。
“恥ずかしい”という身勝手な理由で、尊い命を否定したのだ。
真に恥ずべきは、妊娠したことではなく、それを隠そうとしたことであると気付く。
「・・・ごめんなさい」ヒスイはオニキスに詫び。
「ごめんね」お腹の子供に謝った。
続けて、「ちゃんと言えなくて、ごめんなさい」と、ペコリ。
ローズ率いるメイド達に向け、頭を下げた。
「ヒスイ様・・・」
(王妃がメイドに頭を下げるなんて前代未聞です・・・)
ここでも唖然とするローズ。
しかし、王オニキスはそれを止める様子もなく、温かな眼差しで見守り。
「もっと早くに気付いてやるべきだった・・・すまん」と。
ヒスイの頬を撫で、自らも謝罪した。
そのまま、人目も憚らずキスをして。
「・・・よろしく頼む」
オニキスが言うと。
ヒスイは迷いのない笑顔で大きく頷いた。
「うんっ!!」
「ヒスイ様が認めた!!」
他のメイド達と手を叩き合って喜ぶローズ。
(オニキス様・・・凄く嬉しそう)
厨房のコックや大臣達も集まり、城は一気にお祭りムードだ。
同日、王妃の懐妊が正式発表され。
国中が歓喜したのは言うまでもない。
その後・・・モルダバイトに新しい命が誕生した。
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