別に珍しいことじゃない。
「忘れたの?トパーズだってこうやって作ったんだよ?」
「あんっ・・・おにぃちゃ・・・」
「ヒスイのココは僕だけのもの」
ペニスを抜いて、指を入れる。
「あぁ・・・ぅっ!!」
荒々しい動きで掻き回し、喘がせて。
『せいぜい君はそこで見ているといい』
現実と大差ない、悪夢。
「あれっ?トパーズ寝てるの?」
部屋に入ってきたのは、ヒスイ。
その声でさえ、トパーズを目覚めさせる事はなく。
完全無防備。しかし、その寝顔は苦悶に満ちていた。
「悪い夢でも見てるのかな?」
上から愛しい息子を覗き込む。
見なくても良いものを見る羽目になるとは思いもせずに。
「え・・・な・・・んでコレがここに・・・?」
開かれた左の掌。
以前悪魔と無謀な取引を試みた際の代償として、己の身体に刻んだ筈の紋様だった。
一見間抜けなハート型。
反して事態は深刻だった。
契約を破棄され、いつの間にか消えてなくなってしまった紋様。
代償と共に今はトパーズが請け負っていた。
「まさかあの時・・・」
鮮明に甦る記憶。
「どうしてこんなこと・・・」
あれからもう大分経つが、トパーズは何も語らず、そんな素振りも一切見せなかった。
罪悪感でヒスイの鼓動が早くなる。
トパーズが悪夢から目覚めた時には、ヒスイの小さな両手が例の左手をしっかりと握っていた。
「!!」
(ち・・・見られたか・・・)
ヒスイの手を振り払い、慌てて左手を握り締めても、遅かった。
「・・・返して」
「・・・返さない」
返せないのだ。一度契約を破棄した体には。
「返してよっ!そんなのあったら困るでしょっ!?」
「別にいい。お前が相手なら死なない」
つまり、他の相手なら死ぬ・・・と。
そう言われてしまっては抵抗もできず、そのままベッドへと引きずり込まれ。
伸びてきた指先にヒスイは大人しく足を開いた。
「・・・したいの?」
「・・・したい」
「したら・・・返してくれる?」
「1回じゃ返さない」
「じゃあ、何回すればいいの?」
段々と困った顔になってゆくヒスイ。
どう対応すべきなのか、答えが見つからないのだ。
「アイツと別れろ」
服を脱がせ、割れ目に指を突き刺すトパーズ。
「っ・・・!やだっ!!」
ヒスイは頭を左右に振って否定した。
「紋様返してよっ!!」
「やだ」
今度はトパーズが跳ねつける。
「んっ!ぅ・・・」
指で広げられたソコからは、グチグチと少し渇いた愛液の音がして。
追い出す理由も見つからないまま、腰を引いても、その分深く入ってくるだけだ。
たっぷりと根元まで浸けられ、ペニスに負けない刺激を受ける。
「あっ・・・うぅん・・・」
快感に見合わず、愛液の量が少ないのは、心の警戒から。
ヒスイが・・・迷っているのだ。
トパーズはヒスイの左足を肩に乗せ、性器へと、意外なほど根気良く愛撫を続けた。
「うっ・・・はぁ。はぁ」
いつもならお構いなしで突っ込むが、今日は・・・愛液が欲しかった。
(・・・夢のせいだ)
コハクに抱かれる姿と比べ、反応の遅さに悔しさが増す。
「・・・もっと濡らせ」
「あっ・・・や・・・」
次第に愛液で濡れてゆくトパーズの指先と、掌の紋様。
「・・・ほら見ろ」
愛液がネバネバと糸を引く様をヒスイに見せ、「やればできる」と、意地悪な笑みで褒めてやる。
「う・・・やぁ・・・」
濡れたヒスイの穴さえあれば。
体位は別に何でもいい。
とりあえず両脚を大きく開かせ、ヒスイの中央部に熱く猛る股間を押し当てた。
「元々・・・お前にしか勃たない」
「っ・・・」
切実な言葉と共に耳を噛まれたヒスイは、正面からトパーズを受け入れた。
覚えのあるペニスを、本能が引き込んでゆく。
「んっ!あ!」
トパーズはヒスイの膣壁に何度も何度もペニスを擦りつけ、相手がいつもと違うことを認識させた。
それはマーキング行為の一環で、今だけは自分のものであることを他ならぬヒスイに誇示してやりたかった。
「あっ・・・だめ・・・っ!!トパ・・・うっ・・・」
精液の飛沫を感じ、腰を揺らして抵抗したところで深く挿入されたペニスが抜ける訳もなく。
「・・・もう遅い」
「ああんっ!!」
避妊などするものか、いっそ孕んでしまえ、と、思う。
(責任?喜んで取ってやる)
次から次へと湧き上がる感情は、射精を繰り返しても発散できず。
胸が、苦しくなる。
いつしか快感に取って代わった狂気が、トパーズの表情を歪めた。
「トパーズ?」
淫らにペニスを締め上げる下半身とは全く別の観点から、ヒスイはトパーズの様子を見つめていた。
トパーズにこんな顔をさせているのは、私。
小さい頃から苦しめてばかりで。
恨まれて、嫌われるのは当たり前なのに。
どうしていつも助けてくれるのかな・・・。
太股に添えられた左手の内側には、呪いの紋様が息づいている。
「私は・・・何をすればいい?」
せめてもう少し笑顔が増えるように。
「簡単なことだ。それなら・・・」
トパーズはペニスを抜き、嘲笑った。
「オレのものになれ」
ここも。と、発情して尖ったヒスイの乳首を抓り。
ここも。と、ドロドロの分泌液にまみれた淫唇を舐め上げ。
「二度とアイツに触らせるな」
(どうせ泣きながら嫌だと言うに決まってる)
わかっているから、余計に苛めたくなる。
・・・のだが。
ヒスイは承諾した。
「・・・いいよ」
そのかわり・・・と、続けてひとつの条件を出す。
“お兄ちゃんのこと、魔法で全部忘れさせて”
「そうじゃないとたぶん、泣いちゃうと思うから」
「・・・わかった。後で忘れさせる」
「うん・・・」
「だったら、もうこれはいらないな?」
トパーズはヒスイの薬指から結婚指輪を抜き取り、外した眼鏡と並べて置いた。
新しいのを買ってやる・・・と言いかけて、親子で指輪もクソもあるかと、自嘲するぐらいの理性は残っていた。
ヒスイは涙目で小さく頷き、トパーズに従った。
「さっさと入れさせろ」
「うん」
先程大量の精液を迸らせたにも関わらず、トパーズのペニスは再びヒスイを求め、硬く反り返っていた。
後背位の変化形。
ヒスイの上半身を伏せ、お尻だけ高く上げさせ、その上から覆い被さる。
多少無理のある姿勢での挿入。
結合、即、腰を前後運動させる。
「ふっ・・・ぅっ・・・ううんっ!」
乱暴に腰をぶつけ、体重を徐々に乗せてゆく・・・ヒスイの腰は角度を保てなくなり、力なく伸びた。
上から斜めに入れたペニスで一方的に膣口を擦り続けるトパーズ。
「あ、あぁ、ぅ・・・っ!!」
ヒスイはシーツに顔を埋め、両手で皺を作った。
泣いているのか。喘いでいるのか。それさえよくわからない。
トパーズはそのままヒスイを押し潰し、うつ伏せにした。
汗ばむヒスイの背中に絡みついた銀髪が青臭い色気を漂わせている。
「よし。“じゃじゃ馬ならし”だ」
「!!?」
繋がったままヒスイの両腕を掴み、大きく背中を反らせる。
するとお尻に力が入り、サオも亀頭も締められて、気持ちが良かった。
「・・・悪くない」
手綱を握り、馬を慣らすように腰を前後に揺らす・・・と。
「あんっ!あっ!あうっ!」
乗られて、突かれたヒスイが嗚咽を漏らし、面白い。
「あっ!!ちょっ・・・」
片足を引き上げ、深く腰を反らせ、SEX体位“燕返し”を強要。
下半身ごと性器が捻れ、これまでとは違う擦れ感が加わった。が。
「もうっ!無理っ!!足つるっ!!」
快感よりも、肉体の危機を訴えるヒスイ。
「運動不足だ。体動かせ」
笑いが混じった優しい響き。
(あ・・・トパーズ、笑った)
そう。こんな風に笑って欲しいから。
失うものがたくさんあっても。
(・・・泣いちゃだめ)
再三のセックスの後、訪れた約束の時間。
「目、つぶってろ」
「うん・・・」
「じゃあ・・・後の事、よろしくね」
「・・・何かアイツに伝える事は?」
「・・・わかんない」
泣かないように奥歯を噛んで堪えても、失うものの大きさに心が震える。
ヒスイの頬を一筋の涙が伝った。
「・・・あとは・・・うまくやる」
「ん・・・」
掌でヒスイの瞼を覆う。
それから・・・唇に愛あるキスをして。
トパーズは忘却の呪文を唱えた。
「ん・・・あれっ?」
「・・・ヒトの部屋で勝手に寝るな」
ペシッ!
いつものように額を叩かれ、翡翠色の瞳をぱちくりさせて、起き上がるヒスイ。
「え!?ごめん・・・寝てた?」
トパーズのベッド。
しばらくして目を覚ましたヒスイは何事もなかったかのように服を着ていて。
指輪も左手の薬指に戻っていた。
「あ!そうだ!お兄ちゃんがね、今日のおやつはご馳走だから、家にいるんなら顔出すように・・・って」
思い出した用件を告げ、ベッドから飛び降りる。
「ヒスイ」
「ん?」
「・・・また来い」
「?うん」
ヒスイはトパーズの見送りを受け、部屋を後にした。
「あ・・・」
てくてくと廊下を歩く最中、下着に滲んだ粘液。
コハクとのセックスは数時間前で、まだ記憶に新しいが、中出しされた精液を取りこぼす事は滅多にない。
(う〜ん・・・おかしいなぁ・・・)
「ま、いっか」
ヒスイは何度か首を傾げたが、すぐに考えるのを止め、階段を下りた。
目指すはコハクのいるキッチンだ。
「今日のおやつは腕によりをかけて作るから」と、何時間も前から準備していた。
ジストもサルファーも1階でソワソワしている。
時間は午後2時40分。
出来上がりにはまだ早いが・・・
「お兄ちゃんっ!!おやつ〜!!」
2階。トパーズの部屋。
ベッドに腰を掛け、まず一服。
消してしまった時間の余韻に浸る。
『オレのものになれ』
『・・・いいよ』
甘く耳に残るヒスイの声。
左手を開けば、ハートの紋様がそのままに。
(すべて、これが言わせた言葉だったとしても)
「しばらくは、悪い夢をみなくて済みそうだ」
オレだけが知っているヒスイの“答え”を糧に。
生きてゆく。これからも。この、家で――
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