「ついにさ、アレが手に入ったんだよ」


得意顔でメノウが話す。
相手は婿天使コハクだ。
「お前に一番最初に見せてやるよ」
・・・と、“アレ”の下見に。
メノウはコハクを連れ、クリソプレーズの港へ向かった。
「ホントに買ったんですか、船」


6年程前の話だ。


メノウとコハクで悪竜を退治し、鱗から血肉内臓に至るまで売り払い、大儲けした。
「勿論。出産祝いだって言ったろ?」
娘のヒスイには前々から約束していた。
間に受けていない様子だったが。
アクアが産まれて5年・・・
「随分遅れちゃったけどね」
どれ程の大富豪でも、船はなかなか入手できる代物ではなかった。
暇を見つけては船探し、で、やっと今日という日に至ったのだ。




クリソプレーズ港。

「・・・メノウ様、まさかコレじゃ」
船着き場の一番端に停泊している豪華客船。
長きに渡る航海も可能であろう一隻の立派な船を一目見るなりコハクは浮かない顔で。
「そうだよ、コレ。ヒスイ名義で買ったんだ」
愛娘の喜ぶ顔が目に浮かび、顔も綻ぶメノウだったが、反してコハクの意見は・・・
「ヒスイ・・・怒ると思いますよ」
「なんで?」


「だってコレ・・・幽霊船じゃないですか」


「賑やかでいいじゃん」
頭の後ろで両手を組み、メノウは全く気にしていない様子で。
「賑やかって・・・魑魅魍魎ですけどね・・・。大量に取り憑いてますよ?」
霊感のあるなしに関わらず、誰の目にも見える霊他、船内にはまだ何か潜んでいる予感がする。
(なんでわざわざ幽霊船を買ったんだろう・・・)
メノウの物好きには呆れる。

・・・渦巻く影。

昼でも船上の空は薄暗く、たまに火の玉が横切る。
明らかにいわくつき。その上、霊憑き。
ヒスイの苦手分野だ。
それを知ってか知らずか、メノウは悪戯に笑って。
「ま、旅は道連れって言うだろ?結構いい味出してんだよ、アイツら」
メノウが指差した甲板には・・・船長らしき亡霊の姿が見えた。
「・・・・・・」
(うわ〜・・・普通に歩いてるし。これはキツいぞ)
幽霊船のオーナーとなってしまったヒスイの身を案ずるコハク。
そんな事にはお構いなしで、一族の長メノウが宣言した。


「もうすぐ夏休みだしさ!航海決定だろ!」




そして夏休み。初航海の日を迎える。
集まったメンバーは・・・
提案者のメノウとオーナーのヒスイ。
コハク、ジスト、アクア、トパーズ、オニキス、スピネル。
サルファーは同人活動で忙しく、今回は不参加だ。
男6名。女2名。計8名。いざ、乗船。


「ぎゃぁぁ!!」
「うわぁぁ!!」


早速悲鳴を上げたのはヒスイとジストだ。
日々悪魔を相手に戦いを繰り広げているエクソシストとは思えない狼狽えぶりだった。
霊気で船室は異様な程冷えていた。
「涼しくていいじゃん!」
メノウは機嫌良く、逆にヒスイはすこぶる不機嫌で猛抗議。
「もぅっ!!お父さんはぁっ!!」
「そんなに怖がるなって。こいつらも元は人間なんだからさ」
「やだっ!!降りるっ!!」
ヒスイは半ベソで身を翻した。
「あ、ヒスイ・・・」
コハクが軽く呼び止めるが、ヒスイはそのまま走り抜け、甲板に出た。
しかし・・・船はもう陸から離れていた。
信じられないスピードで。
ヒスイを追って甲板に出たコハクも驚く。
「誰が舵を・・・?」
「幽霊」と、メノウが答えた。
「メノウ様」
「ん?」
「こうなる事、わかってたでしょ」
「まあね」
コハクは苦笑い。
メノウは爽快に笑った。
「も〜・・・お父さんはぁ・・・」
ヒスイも観念したらしく、大きな溜息をひとつ。



行き先不明。果たして一行はどこへ向かうのか。



船内には部屋が幾つもあり、使いたい放題なのだが、子供達は自然と集まって。
スピネル、ジスト、アクアが同室。101号室。
コハクとヒスイは当然一緒で、102号室。
後は一人ずつ、メノウが103号室、トパーズが104号室、オニキスが105号室。
アクアはまだ5歳になったばかりだが、肝が据わっている。
わかっているのかいないのか、霊を見ても怖がらず、むしろ面白がっていた。
トパーズは・・・霊、完全無視。
特有のオーラで霊魂の類を全く寄せつけない。
乗船メンバーの反応も様々だが、とりあえず自由時間という事で解散した。



105号室。

オニキスは、ヒスイを食す至福の刻を過ごしていた。
(・・・おかしい)
銀のヴァンパイア一族は愛する者の血を吸う事で欲情する。
それは眷族のオニキスも同じだった。
(いつもこれほど酷くは・・・)
ヒスイの血を吸う度、煽られる男の欲望。
一方的な想いは抑えて然り。
抑えられる時しかヒスイには触れない。
いつもそうやって守ってきたのに。
愛しさからくる眩暈が激しく・・・肉体に異変を感じる。
船に乗り込んでからずっと寒気がしていたのだが、その割に一カ所だけ熱を帯びている場所があった。
「オニキス?顔色悪いけど、大丈夫?」
ひょっとして船酔い?と、ヒスイが下から見上げる。
「・・・大丈夫だ」
「そう?じゃ、私行くね」
「ああ」
吸血行為を終え、無造作に口元を拭うオニキス。
コハクの元へ帰るヒスイを見送ろうとした・・・その時。


「!?」


オニキスが全く意図していないところで勝手に体が動いた。
一歩踏み込み、ヒスイとの距離を縮め、右手でタッチ。


・・・ヒスイのお尻に。


「え?」
「・・・・・・すまん」
妙な空気が流れた。
触られたヒスイより触ったオニキスの方が驚いている。
「あ、うん」
(何だったんだろ。今の)
あまりにもオニキスらしからぬ行動だったので、ヒスイも認識できず。
元々、物事を深く考えるタイプではない。
(変なの)で、終わりだ。
ヒスイが去った後、オニキスは難しい顔で両腕を組んだ。
「・・・・・・」


「ヤッちゃえよぉ・・・今の女が好きなんだろぉぉ?」


静寂の中、はっきりと聞き取れる悪霊の声。
「・・・・・・」
(憑かれた・・・か)
実体はぼんやりとしか見えないが、どうやら肩の辺りに取り憑いているようだ。
さすがに幽霊船だけある。
他でも被害が出ているかもしれない。
それにしても、タチの悪そうな霊だ。
先程の問題行動はこの霊の仕業だった。
「・・・一度は油断したが、二度目はないぞ」



102号室。新たなる夫婦の部屋にて。

「ただいま!お兄ちゃんっ!」
「おかえり。ヒスイ」
ヒスイが戻ってくる前に、コハクは船室の家具と設備を一通りチェックした。
レトロでアンティーク。
全体的に歴史を感じさせる造りだが、どれも一級品でさほど老朽化もしていない。
勿論、バス・トイレ付き。
霊の件を覗けば、セレブな生活ができそうだ。
「ね、ヒスイ、そろそろ・・・」
いつもと違うベッドでするセックスもまた楽しみで。
(波の音を聴きながら、じっくりヒスイと繋がるのもいいな)
海の上では初体験だ。
(僕も航海って初めてだし、皆そうだろう)
海に乗り出す機会など、普通に生活している分にはまずない。
(メノウ様に感謝だなぁ・・・幽霊船じゃなければ)
感謝の気持ちにもケチが付く。
姿こそ見せないが、102号室にも確実に何かがいる気配がするのだ。

ピシッ!パシッ!

心霊現象のラップ音に怯えるヒスイ。
「お、お兄ちゃん、何かいるよ」
ベッドの上で服を脱がせたはいいが、鳥肌が立っている。
「大丈夫・・・怖くないよ」
コハクはゆっくりとヒスイを倒し、上から体を被せた。
それから、熾天使の羽根を広げる・・・
その金色の輝きには霊を遠ざける効果があり、耳障りな音が聞こえなくなった。
心なしか室内の温度も上がった気がする。
「・・・ね?」
上から指を絡め、手の平を重ね、体温を伝えるコハク。
コハクの腕の中で育ったヒスイはやはりそこが一番安心するらしく、鳥肌から柔肌へ。
こうしていれば、怖いものなど何もない。
「ヒスイ、あ〜ん」
「あ〜ん」
どこから取り出したのか、コハクは砂糖菓子をひとつ、ヒスイの口の中へ落とした。
「ふぁ・・・甘い〜・・・」
ヒスイの表情が和む。
「もう怖くないよね?」
「・・・うん、怖くない」
コハクと、コハクの光しか見えない。
「さて、じゃあ・・・」
ヒスイは頷き、足を開いた。


はっ・・・はっ・・・あっ・・・はぁ・・・


子宮へと続く小径。
ヒスイは両腕を投げ出し、淫らな開脚姿でコハクを受け入れていた。
「んっ!うぅんっ!あっ!あ!」
ペニスを真っ直ぐ突き込む度、規則正しくヒスイの体が縦揺れする。
引くと微かに表情が緩んで。
突くと激しく表情が歪んで。
(ああ・・・可愛いよ・・・ヒスイ)
快感の限界を迎えるまで、こうして何度でも応えてくれる。
「あんっ!うっ!あ、あぁんっ!」
肌が火照り。汗が滲み。
摩擦を加えれば加える程、結合部が熱を持つ。
「ヒスイ・・・もっと・・・」


もっと熱く。
もっと濡らして。喘いで。


ぶしゅっ!ぷしゅっ!
波の音より、ヒスイの入口で鳴る音に意識が集中するコハク。
とにかく“自分”を擦りつけたくて。
「ん・・・ヒスイ」
「おにぃ・・・んぁっ!!」
ヒスイの中にめいいっぱいペニスを詰め込んでから、ぐりぐり、ぐいぐい、熱心に腰を動かした。
「うっ!んんっ!!」
ヒスイも懸命に腰を使い、限界が近い事を訴えた。
「ん〜・・・っ」
唇を吸い合ってから、今夜も二人で絶頂を目指す・・・が。
もうひと突きというところで。


「ひぁ・・・っ!?」


突然、ベッドが宙に浮いた。
霊達の暴走。
それはポルターガイストと呼ばれる現象で。
家具や小物が空間にプカプカ浮いている。
ガタンッ!!
二人を乗せたベッドが一気に傾き・・・
「な・・・」
「あんっ!」
ヒスイの穴から抜けるペニス。
二人を繋ぐのは精根込めて練り上げた愛液の糸だけ。
それすらも切れてしまい・・・
「ヒスイ、こっち」
慌てて再結合を試みるが、暴れ馬のようにベッドが跳ねる。
「あっ・・・ヒスイ・・・ソコ隠しちゃ・・・」
「こんなに揺れてちゃ、無理だよぅ・・・」
ヒスイは濡れた穴を両手で覆ってしまった。
画竜点睛を欠くセックス。
快感の名残でヒスイは息を洩らした。
「はふ・・・っ」
「ヒスイ・・・」
(ああっ!!物足りないって顔してる!!)
男としてショックだ。
霊に怒り沸騰で、どうしてやろうかと思った矢先。

ヒュッ!パシッ!

「・・・・・・」
ヒスイを目掛け飛んできたナイフを、コハクは右手で掴んだ。
冷静な対応だったが、刃を素手で止めた為、手からは出血。
ポタッ・・・ヒスイの肌に血の雫が落ちた。
「お兄ちゃんっ!?」
「・・・ヒスイに怪我でもさせてみろ。まとめて地獄に送ってやる」

バキッ!

セックスを邪魔された怒りも相まって、コハクは片手でナイフをへし折った。
低い声でそう宣告し、血まみれのナイフを床に投げ捨てると、騒動はピタリと収まった。
「お・・・お兄ちゃん?」
「ん?」
ヒスイに視線を戻した時にはいつものコハクだった。
にっこりと、優しく微笑んで。
「さて続きを・・・」
「だめっ!手当が先だよ」
ヒスイはコハクの右の手の平を舐めた。
けれども・・・
消毒のつもりが、口に含んだコハクの血は先程の砂糖菓子より甘く・・・欲情。
「は・・・はぁ・・・」
ベッドの上で立て膝をしているヒスイの太股を新鮮な愛液が伝った。


「くすっ。我慢しなくていいよ」


コハクがそれを見逃す筈はなく、すぐに左手が差し込まれた。
「だめ・・・だよ・・・まだ・・・血が・・・う゛っ!!」
「大丈夫。こっちの傷はすぐに治るから」
熾天使の回復力は目覚ましい。
特に今は性行為で細胞が活性化しているところだ。
放っておいても傷は塞がる。
「ヒスイの手当が必要なのはこっち」
ポルターガイスト中もコハクのペニスは揺るがず、垂直に勃っていた。
このまま引き下がれない。
「でも・・・あ・・・」
ブルッ・・・快感の身震い。
膣口を擽るコハクの愛撫に感じながら、せめて出血が止まるまではこうしていたいとヒスイが言ったので、嬉しい反面、少し意地悪な気分になって。
「じゃあ、それまで・・・」

クチャッ・・・

「・・・っあ!!」
ヒスイの股間が濡れているのをいい事に、コハクは長い指を二本、根元まで突き刺した。
「あ、あぁ・・・」
「いいの?指で」
ヌルヌルとした膣内を撫でる指先。
「う・・・くっ」
前屈みになってもコハクの右手を離さなかったヒスイだが、これまでの流れで内側が敏感になっていた。
そこに刺激を受けてはひとたまりもなく。
本能がより強い刺激を求めてしまう。
「ふぇっ・・・おにいちゃぁ・・・」
「くすっ・・・降参する?」
「ん・・・も・・・降・・・参」


ああんっ!あっ!あっ!はぁんっ!


海上で、快感に、溺れる。
幽霊船の旅はまだ・・・始まったばかり。




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