『わたくし心配で・・・どうしたらよいものか・・・』
思い詰めた様子のタンジェが、床に両膝を付く。
天を仰ぎ、手を組んで。祈りの言葉を口にした。
「おお!神よ!!」
「・・・神?」
ジンが呟く。神と聞いて思い浮かぶのは・・・トパーズの顔だ。
「そうだ、トパーズなら・・・」
「!!そうですわ!!お父様!!神の下へ参りましょう!!」
「そうだな!」
――と、割り込む、シトリンの声。
傷口あたりを押さえてはいるものの、その瞳には英気が漲っている。
「私も行くぞ!今こそ、我らが一族が一丸となる時だ!!」
コスモクロア、三階建ての家――
シトリンとジン。タンジェは一旦寮へと戻り、サルファーを連れてくるという。
リビングフロアには双子兄弟とスピネルの姿もあった。
「おお!あー!まー!久しいな!」と、弟達をまとめてハグするシトリン。
「姉貴は元気そう・・・でもないのかな」
シトリンの怪我に気付いたスピネルが言った。
“クラスター”の存在を知った今、コハクに瓜二つのシトリンが被害を被ったことは直感で推測できた。
「その傷・・・」
「ああ、これか?なに、少々ヘマをしただけだ!大したことはない!」
ちょうどその時。
「ただいまっ!」
住人のジストが、早朝ジョギングから帰宅。
「わ!?みんな集まってどうしたのっ!?」
嬉しいけど――と、一度は笑顔を見せたが。
「・・・なんか、あったの?」
キョロキョロと室内を見回す。
いつもなら、中心にいるはずの、コハクとヒスイの姿がない。
「父ちゃんとヒスイは?」というジストの質問に、答える者はいなかった。
それから間もなくして。
アクアが顔を出した。シトリンに呼び出されたのだ。
「シト姉~、なんなのぉ~・・・緊急事態って~・・・」
欠伸をし、睡眠不足は美容に悪いなどと言いながら、ソファにどっかり腰掛ける。
続けて、タンジェが飛び込んできた。
「お待たせしましたわ!!あら?皆様お揃いで・・・何事ですの???」と、タンジェ。
「聞きたいのはこっちだ」
フロアに響く、トパーズの声。
「雁首揃えて、何の用だ」
「トパーズ!!聞いてくれよ!!コハクが――」
真っ先に話し出したアイボリーをタンジェが突き飛ばし。
「神!!サルファーの傷を診て下さいませ!!どうかご慈悲を・・・!!」
「お前、騒ぎ過ぎ。僕が、これしきの傷でどうにかなるわけないだろ」
タンジェの背後に控えていたサルファーが、強気な口調で前に出るも。
出血による貧血からか、大きくふらついた。
「サルファー!!」
そんなサルファーを支えたのは、長年の相棒、ジストだった。
「・・・治療してやれ」と、トパーズ。
ジストは頷き。サルファーを空いているソファへと誘導した。タンジェも甲斐甲斐しく付き添う。
「・・・何が起きているんですか?トパーズ兄さん」
ここへきて初めて、マーキュリーが口を開いた。
続けてアイボリーが。
「コハクがどっか行っちゃったんだって!ヒスイを置いてくとか、ありえねーだろ!?」
「それで、ヒスイはどうした」
トパーズが即座に切り返す。アイボリーの頭を鷲掴みにして。
「いてて・・・オニキスがみてるっての!ヒスイをひとりにする訳ないじゃんか!!」
「オニキスなら安心だね」と、スピネルが言い足し。
トパーズは、アイボリーから手を離した。
「・・・・・・」
改めてフロアを見渡すと、兄弟全員が揃っている。
「そろそろ出番じゃない?兄貴」
スピネルがこっそり耳打ちした。
「・・・・・・」
ヒスイの記憶をそのままにしたのは、この状況を作るため。
手っ取り早く、情報の共有をするためだった。
「・・・・・・」
シトリンとサルファーが、エンジェルキラーにより負傷。
相手は、予想を上回るスピードで動いている。
「・・・一度しか言わない。よく聞け」
一方、単独行動中のメノウ。話は、数時間以上前へと遡る―――
例のマンションへと引き返したメノウは、クラスター宅への潜入に成功していた。猫の姿で。※変身魔法使用※
バルコニー側の大窓が、ちょうど猫が通れるほどの幅で開いていたからだ。
万が一見つかったとしても、猫なら誤魔化しがきく。
(クラスターの気配はなし、か)
どうやら不在のようだ。
メノウ達が撤退してから30分と経っていないというのに。
(何を急いでるんだか。ま、その方がこっちも都合いいけどさ)
「――んじゃ、暴かせてもらうよ」
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