緑の迷路を進む三人。
「・・・・・・」
アクアのガードが固く、トパーズは今だヒスイと接触できずにいた。
(・・・間違いない)
アクアは、コハクに買収されている。
つまり、現時点では敵ということだ。
「2倍でどうだ」
逆に買収してやるつもりで、アクアを呼び付け、直接交渉を始めるトパーズ。
懲りずに、ヒスイと二人きりになりたいと思っていた。
何としてもアクアを追い返したいのが本音だ。
「だ〜め。だって、パパがぁ〜“トパーズが提示してきた額の倍”くれるって言ったも〜ん」
「・・・・・・」(先手を打たれたか)
「アクアぁ〜、欲しいものいっぱいあるしぃ」
物欲に忠実なアクア。それならば、と、トパーズの口元が歪む。
「・・・アイツを裏切れという訳じゃない」
ほんの少し目をつぶる・・・そう、“昼寝”をするだけでいい。
「妥協案だが、報酬は弾む」と、妹アクアを唆す兄トパーズ・・・
「アイツには黙っていればいい。無論、口裏は合わせる」
「トパ兄〜、マジ〜?」
「悪くない話だろう」
「かもね〜」
双方から報酬を得る・・・確かに儲け話だ。
ニヤリ。ニヤリ。互いの顔に邪悪な笑みが浮かぶ。
腹黒兄妹の交渉成立。
・・・かと、思いきや。
「ひぁ・・・っ!?」ヒスイの声だ。
生垣から突如飛び出した、小型の魔獣。
野兎のようで見た目は可愛いが、鋭い爪と牙を隠し持っていた。
それがヒスイに襲いかかったのだ。
「こっち来い、馬鹿」
寸前のところでトパーズがヒスイを抱き寄せ、魔獣を蹴り飛ばした。すると。
パアンッ!!蹴られた魔獣は破裂し。
「・・・・・・」
(何だコイツ、気配が全くない)
しかも一匹では済まず、わらわらと出現・・・更に空からは小鳥が弾丸のごときスピードで一行を狙ってくる。
もはやこれはレジャーとは言えず。
「予定変更だ」
トパーズがアクアの頭上に手を翳した。
途端にムクムク・・・アクアが成長する。
身長はあっという間にヒスイを超え、シトリンに勝らずとも劣らずの立派なボディと化した。
「わぁ〜、アクアおっきくなったぁ〜・・・」
そして額には神の隷属を示す紋。
一時的にではあるが、アクアに“力”を貸し与え、神の戦士として仕立て上げたのだ。
「守れ」と、アクアにヒスイを託し。
「できるな?」トパーズが念を押す。
「もち」
アクアは片手をくびれた腰に当て、自信満々に笑った。
それから、一流の格闘家をも凌ぐ動きでヒスイに近付く敵を撃破していった・・・のだが。
「ねぇ、これ・・・おいしいよ」
「ママ・・・何してんのぉ〜・・・」
なんとヒスイが、破裂し散った魔獣の破片を食べている。
「砂糖菓子だよ、これ」と、口をもぐもぐさせながら言った。
拾い食いの新発見。気配のない魔獣は、砂糖で出来ていたのだ。
「・・・・・・」
ほどなくして・・・ぐわしっ!トパーズがヒスイの頭を掴んだ。
「ちょっ・・・なにす・・・」
じたばた、ヒスイが暴れる。
「この馬鹿、何でも口に入れるな。赤ん坊じゃあるまいし」と、トパーズ。
叱りながらも楽しそうにしているのは、愛があるから、だ。
「・・・ホラ、行くぞ」
「あ、うん」
トパーズの後に続くヒスイ。
(もしかしたらこれも・・・)
道すがら。こっそり、生垣の葉を食べてみる。
もしゃ、もしゃ・・・
「・・・・・・」
残念ながら、それは砂糖菓子ではなく本物の葉だった。
(うへっ・・・にがぁ〜・・・)
同じ頃。
ジストにより“工場への地図”が、オニキスにより“招待状”がもたらされ。
モルダバイトに集まったメンバーは、それぞれ行動を開始していた。
コハク、ジストは四神狩りへ。
スピネル、フェンネル、ジル、カーネリアンは工場へ。
オニキス、シトリン、サルファー、タンジェはシュガーランドへ向かっていた。
「サルファー?どうかされましたの?」
巨大迷路を進みながら、婚約者に声をかけるタンジェ。
「・・・・・・」
サルファーは、見るからに機嫌が悪そうだった。
「ジストが・・・」
「ジスト様が?」
「あそこまでバカだと思わなかった」
以下、回想。
モルダバイト城。離宮バルコニー・・・そこにはジストとサルファーがいた。
「あ!お前、エロ本いる?」唐突にそんなことを言い出すジスト。
「何だよ、急に」と、サルファー。正直エロ本に興味はない。
「オレさ、去勢することにしたんだっ!だからもう必要ないし!」
ジストは、宝物だったエロ関連グッズをサルファーに託そうと考えたのだった。
「ハァ?去勢?何言ってんだよ、お前」
サルファーに訝しげな視線を向けられる中、ジストは言った。
「オレ・・・ヒスイのこと好きなんだ」
「って、驚かないの?」
ジストの方が驚いた顔でサルファーを見た。
「いつかそうなると思ってた」
サルファーは両腕を組み、吐き捨てるように言った。
「あんな女のどこがいいんだよ」
実の母親に恋愛感情を抱くこと自体が理解不能だ。
「全部」
ジストは明るい口調でそう答えてから・・・
「ヒスイと一緒にいるとさ、えっちしたくなっちゃうんだ」
だから去勢、と。
「去勢なんかしなくたっていいだろ!?男として終わりだぞ!?あの女のためになんでお前がそんな・・・」
「ヒスイは悪くないっ!オレが勝手に好きになっただけだっ!!」
ジストはムキになって否定した。
対するサルファーはジストの胸ぐらを掴んで。
「お前は昔からそうだ!!」
ヒスイを庇ってばかり。その割に、報われない。
「いい加減、目、覚ませ!!」
「!!!」
ガッ!!久々にサルファーのパンチを食らうジスト。
「・・・ってぇ!!何すんだよっ!!」
「去勢なんかしなくても、お前があの女に手出しそうになったら、僕がブン殴って止めてやるよ!!」
「・・・っ!!止められるもんなら止めてみろよっ!!」
売り言葉に買い言葉で、ジストが言い返す。
「止めてやるさ!」
兄弟だからな!!
・・・そして現在。四神狩りチーム、コハク&ジスト。
「どうしたの?その傷」
口の端が少し切れていることをコハクに指摘され、ジストは慌てた。
「えっ!?えっと・・・これはそのっ・・・」
去勢の件で兄弟喧嘩したとは言いにくく、言葉に詰まる。すると。
「サルファーと喧嘩した?」
「なんでわかんのっ!?」
「これでも君達の親だからね」
と、コハクは言ったが、自分を含め、ジストを殴るのはトパーズかサルファーぐらいだ。モルダバイトに集まったメンバーを考えれば、簡単に見抜ける。
「・・・去勢するって言ったら殴られた」
観念したジストは正直に話した。
「ははは!サルファーらしいね」
そう言って、コハクは笑い。
「それでも、決心は揺るがない?」と、ジストに尋ねた。
ジストが深く頷くと、コハクはジストの頭を撫で。
「心配しなくていいよ。悪いようにはしない」
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