モルダバイト城下。レストランにて。


食後の一幕・・・


「人間らしい食事をしたのは久しぶりだよ」と、セレ。
向かいの席にはメノウが座っている。
「君のおかげだ」
ワイングラスを置き、セレは真摯に礼を述べた。
高級感漂う店内。
テーブルの中心に飾られた、キャンドルライトのゆらめく炎を見つめ、メノウが言った。
「お前の自棄に付き合わされるのは御免だと思って隠れてたワケだけど――」
いつもと変わらぬ口調でそう語りながら、セレに視線を移し。更にこう続けた。
「あいつ等とは離れがたいし、でも人間はやめたくないしでさ」



「俺もまぁ、“選択”できなかったから」



助け合い、且つ、お互い様だと笑う。
「ったく、どんだけサンゴ待たせるんだか」
肩を竦めるメノウを、微笑のセレが見守る。
それからしばし、ピアノの生演奏に耳を傾けていたが・・・
「今回の件だがね」セレが話を切り出した。
「確かに諸悪の根源は私だが、黒幕はコハクのような気がするのだよ」
「あ、それ俺も思った。最後の最後で上手くのせられた感じするんだよなー」


両者、顔を見合わせ苦笑い。
グラスに残ったワインを飲み干して、人間同士の食事会はお開きとなる。
「んじゃ、そろそろ出るか」「そうしよう」



噂をすれば何とやらで。

レストランを後にした二人は奇遇にもコハクと出会った。勿論、ヒスイも一緒だ。
「どうも、こんばんは」にこやかに挨拶をするコハク。
「!!」一方で、ヒスイは顔を赤くして。いきなり逃走を図った。
・・・が、手を繋いでいたため、あっという間に引き戻され、コハクの腕の中。
そうなるともう出られるはずもなかった。
なぜヒスイがこんな行動をしたのかといえば。
今夜のヒスイの服装にある。
ロングヘアの左右を少しずつ取って結び上げた、ツーサイドアップ。
そこまでは良いのだが・・・
クーマンのキャラクターTシャツをコハクとお揃いで着ていたのだ。
コハクお手製のクーマンTシャツは嬉しい。
しかし、ペアルックで外を歩くとなると別である。
子供っぽいデザインにされていることもあり、とにかく恥ずかしいのだ。
知り合いに会うことはまずないから、と、コハクに言い包められ。
やたらと目立つペアルックでデートに出かけたら、これだ。
「お兄ちゃんの嘘つきっ!!」
コハクの腕の中で、ヒスイはしばらく暴れていたが。
「んっ・・・ん〜!!!!」
文句はすべてコハクの唇に吸収され。
はぁ。はぁ。肩で息をするようになる頃には、諦めて大人しくなった。
「よしよし、いい子だね〜」
頬にキスをしながら、ヒスイの呼吸が整うのを待って。
「ね、ヒスイ。メノウ様に聞きたいことがあるって言ってたよね」
「あ!そうだっ!」
ヒスイはコハクの腕を抜け、メノウの元へ。


そして・・・


「ねぇ、お父さん、クーマン知らない?くまの幻獣みたいなんだけど・・・」
ヒスイは、クーマンが抜け殻になってしまったことを、随分気にかけているようだった。
当然ながら、幻獣クーマンはどの図鑑にも載っていない。
「脱皮しちゃったのかぁ・・・」と呟くヒスイを尻目に。
コハクもセレも笑いを堪えている。
「何?気に入ったの?」
Tシャツを見れば、ブームになっているのは一目瞭然だが。
「うん!」と、ヒスイが頷いて。
「そのうち紹介してやるよ」
メノウも笑いを堪える。
どうにもこうにも、可愛い娘。願いは何でも叶えてやりたい。
「幻獣会から持ってきてありますよ、アレ」
こっそり、コハクが耳打ちすると。
「んじゃ、いっちょやるか!」
「ヒスイ、喜びますよ。きっと」
笑い合うメノウとコハク。



何気なく、その隙を突いて。
「ヒスイ、この間の話だがね」
セレがヒスイに身を寄せる。
「この間の話?」きょとんとした顔で、ヒスイが聞き返す。
それは、ヒスイがオニキスと共に、セレの説得を試みた時のことなのだが・・・※side-B74〜75話参照。
あえてその説明はせず。
「今度は私のために、女の子を産んではくれないかね」
「え?」(あ、そっか。男同士じゃ子供できないもんね)

・・・ヒスイの誤解は未だに解けていなかった。

「そういうことなら・・・う〜ん・・・そうね・・・」
(私が頑張るしかない・・・よね???)
首を傾げながらも、YESに近い返事をする。
「・・・・・・」
コハクは横目でセレを見ながら。
(また厄介なのがヒスイに絡んできた・・・)
早々に追い払おうと、身を翻し、一歩踏み出したところで。
続くメノウの発言に足を止めた。


「ま、男でも女でもさ」



「俺が長生きする楽しみは変わんないから」



「次も期待してる」


すると、コハクは振り向き。笑顔で一言。


「お任せください」





目標、1ダース!





「ですからね」






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