愛と血に飢えた男の、とある土曜の朝。
「・・・く・・・」
ベッドで渇きにうなされる。
「オニキス」
そこに差し伸べられた手はスピネルのものだった・・・が。
「ヒ・・・スイ・・・?」
うっすらと瞳を開けて呟くオニキス。
「うん。そうだよ」と、スピネルは返事をした。
(オニキスがボクとママを間違えるのは、すごく喉が渇いてる時だけ)
それだけ強くヒスイを求めているのだ。
「・・・スピネルか」
そんな中でも、オニキスはすぐに気付き、見誤ったことを謝罪した。
「ボクの血、飲む?」と、スピネル。
ベッドのオニキスを覗き込むようにして。
「あなたがボクに与えてくれたもののひとつを返すだけ。どうってことないよ」
以前からそう言ってオニキスを口説くも。
オニキスは一切応じようとしなかった。そして今日も。
「子供に牙を剥けるか」
「・・・・・・」
(“子供”そう言ってくれるのは嬉しいけど・・・思ったほどママの代わりにはなれないみたいだ)
こんな朝を迎える度、もどかしく思う。
「・・・心配するな」
オニキスの手が、スピネルの髪に触れた。
「じき・・・ヒスイがくる」
・・・渇いた夜。
女性器の合わせ目をめくり、ヒスイの中へ、深く舌を入れる。
求めるは、愛の露。
夢は・・・そこから始まった。
「あ・・・んんッ!」
「・・・・・・」
喉に流れ込んでくる甘い液体。
ヒスイの中で舌を動かしながら、(これがヒスイの味なのか)と、ぼんやり思う。
「んッ・・・オニっ・・・」
両脚をV字に押し開くと、色鮮やかに濡れた入口がとても愛らしく。
ぐっ、ぐちゅっ・・・。
ペニスの先端を少し押し込む、と。
とろり、温かな愛液がペニスを伝ってきた。
「あ・・・まっ・・・」
そこでヒスイが不安気な声をあげた。
今にも泣き出しそうな顔で、抗うような仕草を見せる。
正面で開いた両脚には明らかに力が入っていた。
「・・・もっと力を抜け」
性交に慣れているはずのヒスイの反応とは思えない。
(相手があいつではなくオレだからか・・・)
「・・・・・・」
「う・・・ッ、ん、んんッ・・・!!」
半ば強引に挿入しながら、ヒスイの唇にキスをする。
「ッ・・・あぁんッ!!」
日夜コハクにほぐされているであろう場所は、意外にもきつく。
たっぷり濡れている割には、緊張した状態だった。
「い・・・っ・・・いた・・・」
オニキスのペニスをヒスイが痛がり、先に進むのは困難で・・・
突き抜くのは簡単だが、それをしないのは、愛しているから。
「・・・・・・」
男のペニスなど今更恐れるものでもないだろうに。
処女のような顔をするから、自分だけのものと錯覚してしまう。
オニキスは、指と舌とペニスの先端で愛撫を繰り返し、ゆっくりと・・・ヒスイの細い径を拡げていった。
「ヒスイ・・・」
「あ・・・ぜんぶ・・・入っ・・・」
みちっ、みちっ、結合部がいっぱいいっぱいの音を鳴らす。
「うッ・・・ううぅん!!」
ヒスイは涙目でオニキスにしがみついた。
「・・・痛いか?」
そんなヒスイを抱きしめ、銀の髪を撫でながらオニキスが尋ねると。
ヒスイは「ちょっとだけ」と強がり、そして。
「はじめてだから」と答えた。
(初めて・・・だと?)
「・・・・・・」
(ああ・・・そうか)
これは・・・夢なのだ。
嫉妬と快楽の悪夢にオニキス自身が気付く。
それならばもう終わらせてしまえ、と。
「あ・・・・・・ッ!!」
ヒスイの股間で振り抜く腰。
「あッ・・・やッ・・・ああんッ・・・!!」
ギシギシ、軋んでいるのはヒスイかベッドか・・・もうそれさえわからない。
「・・・・・・」
腕の中で、もがき喘ぐ小さなヒスイ。
夢だとわかっているのに、愛しくて愛しくて離したくない。
背中に爪を立てられることさえ嬉しくて。
「あんッ・・・!!」
ヒスイの首筋に噛み付き、血を啜る。
いつものように我慢をする必要はないのだ。
オニキスは更なる欲情をのせたペニスでヒスイを突き乱し。
「あッ・・・あはんッ!!あッ、あ・・・おにい・・・ちゃ・・・」
・・・達したヒスイの口から出た言葉で、最悪の目覚めを迎えた。
愛と血に飢えた男の、とある日曜の朝。
「・・・・・・」
夢でヒスイを抱いた朝は、気分が良くない。
しかも、こんな時に限って朝早くからヒスイが顔を出すのだ。
「オニキス?大丈夫?うなされてたけど」
夢の中のヒスイに、だ。
現実のヒスイはちょこんとベッド脇に立っていて。
「おはよう」の笑顔。
嬉しい半面、罪悪感から溜息が出る。
「血、飲むでしょ?」
ヒスイはそのつもりで来ていた。しかし。
「いや・・・今は・・・」と、オニキス。
確かに喉は渇いているが、あんな夢をみた直後では、ヒスイに触れるのも憚られる。
「?喉、渇いてないの??」
男の事情を知らないヒスイは不思議顔だ。
ちょうどそこで。
「ママ」
気を利かせたスピネルがヒスイを呼んだ。
「先にこっちで紅茶飲もうよ」
「ん!」
紅茶大好きのヒスイはスピネルの元へ。
(すまんな)(任せて)
言葉なく視線を交わす、オニキスとスピネル。
こうしてオニキスにはしばしの猶予が与えられ。
その後。
オニキスは自身をコントロールし、何とか食事=ヒスイにありついた。
「お腹、いっぱいになった?」
「ああ・・・屋敷まで送る」
・・・と、その前に。
モルダバイト城下で三年に一度行われるバザールの日であることを思い出す。
各国から行商人が集まり、珍しい品物が売りに出される一大イベントなのだ。
「・・・一緒にどうだ?」
日曜日の午前、ひとときのデートにヒスイを誘ってみる。
ヒスイのことだから、どうせまた「お兄ちゃんと〜」で、応じはしないだろうと諦め半分だったが、その返事は意外にも・・・
「うん、いいよ」
「では、行くか」ふっと、オニキスが笑う。
それから、オニキスとヒスイはほとんど同時にスピネルを見て言った。
「「スピネルも一緒に」」
「ボクは・・・」断るつもりで口を開くスピネル、だが。
遠慮する間もなくヒスイに手を引かれ。
「いこっ!」
「・・・お邪魔じゃない?」
スピネルが申し訳なさそうにオニキスを見上げる、と。
「そんな訳があるか」
微笑みと共に、オニキスの大きな手がスピネルの頭にのせられた。
「・・・うん」
心なしか嬉しそうにスピネルが頷き。
三人はバザール会場へ向かった。
モルダバイト城下。噴水広場、バザール会場。
「わ・・・すごい人だね」と、ヒスイ。
「手を」「うん」
人混みの中、オニキスとヒスイは手を繋いで歩き出した。
傍らで、そんな二人を見守るスピネル。
(手を繋いでいいってことは、えっちしてもいいってことだと思うな)
男と女の気持ちとして、そういうものではないか、と。
スピネルなりに考える。
(オニキスとママは自然に手が繋げる関係で、心も体もすごく近いところにあるのに・・・)
なかなかそうはならない二人だ。
その二人が・・・というか、ヒスイが足を止めた。
必然的にオニキスの足も止まる。
「ね!見て!あれっ!」
ヒスイが見つけたのは・・・特大の棺桶。
そこは見るからに怪しい出店で、ドス黒いオーラを放っていた。
黒魔術関連の道具がずらりと並んでいる。
他に客もいなければ、店員もいなかった。
それをいいことに、ヒスイは棺桶の傍に寄り・・・
棺桶と言えば、吸血鬼の寝床である。
ヒスイが興味津々なのもわからなくはないが。
「おい、何を・・・」
いつものごとく、オニキスが止めるのも聞かず。
試し寝。棺桶に入り、横になるヒスイ。
「あ、コレいいよ!」何やらえらく感動している様子だ。
「ね、オニキスも入ってみて!」
力が漲るなどと言って、眷属であるオニキスを空きスペースへ誘い込む。
「・・・・・・」
向かい合わせで身を寄せ合う二人・・・
「どう?」
「・・・・・・」
棺桶の効能より、ヒスイの体温が気になるオニキス。
そしてスピネルは、二人の様子を笑顔で見守っていた。
・・・そこに潜む罠を知らずに。
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