「ごめん・・・っ!今洗ってやるからなっ!!」

ジストは慌ててヒスイを抱き上げ、バスルームへ向かった。
シャワーの蛇口を捻り、お湯をぬるめの温度に設定。手際良く、汚れたヒスイの体を洗い始めた。


(母上・・・無事か!?)
猫の面が割れているだけに、出るに出られないシトリン。
バスルームの前をうろうろしている。



引き続き、こちらジスト&ヒスイ。

シャンプーが済んだヒスイにドライヤーの風をあてるジスト。
べっとりしていた銀毛が、見事ふわふわになった。
ヒスイの機嫌も直ったようで、尻尾を揺らしながら大人しくしている。
「ホントにごめんな〜・・・」
バタバタが治まって。改めて子猫を見ると。
「・・・・・・」(わ・・・可愛い・・・)
なぜか胸がキュンとする。
「・・・なんかヒスイみたい」
ジストの場合、“可愛い生き物”はすべてヒスイに見える。
「あの・・・さ」と、ジスト。


「オレの猫にならない?」


「絶対幸せにするから・・・オレと一緒に暮らそ?」
まるでプロポーズだ。鼻先と鼻先をくっつけ、熱心に口説く。


にゃにゃにゃ!!! 訳:ムリムリムリ!!!


ヒスイが身振り手振りで拒否するも。
“空気が読めない”体質は遺伝しているようで、ジストには伝わらない。
そんなに喜んでくれるなんてっ!と、罪なき笑顔で。
「ちょっと待ってて!今ミルク用意するからっ!」
ヒスイをリビングの床に離し、ジストはキッチンに向かった。


この隙に、と。逃げ道を探すヒスイだったが・・・
「!?」(トパーズ!?)
トパーズが午前の仕事を終え、戻ってきたのだ。ばったり、廊下で出会う。
「・・・・・・」(何しに来た・・・)
教育実習生の指導のため、学校に顔を出し。午後からは、移住者説明会で壇上に上る予定になっているトパーズ。途中、家に寄ったのが幸いだった。
その猫がヒスイであることは一目でわかった。
(何にせよ好都合だ)
腕時計を見るトパーズ・・・次の仕事まで少し時間があるのを確認すると、ニヤリ、口元を歪ませ。
「にゃっ?」
子猫ヒスイの首の後ろを摘んで、自室に連れ込んだ。
キングサイズのベッドの上にヒスイを落とし。自分も横になる。ぎしっ・・・軽く軋む音がした。
(トパーズ・・・疲れてるみたい)
ヒスイがじっと見ていると。
トパーズはネクタイを緩めながら、くいくい指を曲げヒスイを呼んだ。
そして、一言。


「慰めろ」


「にぁ〜っ・・・」
言われたヒスイが指を舐める。するとその指が喉元を撫で。
それはとても優しい愛撫だった。
(トパーズって猫好きだったっけ???)と、思いながら。
ひとときの猫的快感に浸るヒスイ。ところが。
突然上から押さえつけられたかと思うと、ちゅっ。
「にゃっ???」
(?今なんかお尻の穴にあたったような・・・)
事実を確認する前に、べろっ。行為はエスカレート。
触れたのはトパーズの唇であり、続けて舌で菊門を舐め上げられ、ヒスイは総毛立った。
(なんで!?なんでこうなるの!?)
第2次パニックだ。
(だって猫だよっ!?普通猫にこんなことする!?トパーズってまさかそういう趣味・・・あっ・・・ん・・・ん〜!!!)
今にも門が破られてしまいそうだ。子猫の体では逃げるに逃げられず。
にやぁぁぁ〜・・・ヒスイは弱々しく鳴いた。


(おぁぁぁ!!母上ぇぇぇ!!!)
バスルームから尾行を続けていたシトリン。
(い・・・いかん・・・兄上にはバレてる。しかし・・・)
お楽しみの邪魔をしたら・・・あとが怖い。
(いや、そんなことを言っている場合では・・・)
ヒスイの身を案じながらも、激しい葛藤で動けず。




再びこちら、ベッドの上のトパーズとヒスイ。
「にぁ〜・・・ぁぁ〜・・・」
子猫の鳴き声が部屋に響く。
「にゃ・・・ぅ・・・」(も・・・やめ・・・)
ヒスイが必死に訴える。すると。
「あいつ以外の男にケツの穴を舐められる気分はどうだ?ヒスイ」
トパーズが言った。
「!!!」(もしかして最初からバレて・・・)
名前を呼ばれて、気付くヒスイ。
慌てて逃げ出そうとしたが、尻尾を掴まれ、引き戻され。菊門を今度は指で触られた。
ぐりぐり、指の腹で刺激を受ける。
「にゃっ!!にゃぁぁ〜・・・」
(な・・・なんかお尻が・・・へん・・・)


「やめろ!!兄上!!」


そこでやっとシトリンが止めに入った。
「母上は今子猫なんだぞ!!そんなに尻の穴を弄ったら催してしまうではないか!!」と、猫の姿のまま叫ぶ。
「えっ?そうなの?」と、ヒスイ。
トパーズはヒスイから手を離し、ククク・・・笑いながら煙草に火をつけた。
「あいつに嫌気が差したら来い。いつでも飼ってやる」



「・・・すまん。私が猫に〜などと言い出したばかりに」
ジストに精液を浴びせられ。トパーズにアナルを蹂躙され。
「別に・・・シトリンが謝ることじゃ・・・」
「あの家は飢えた雄の巣窟だ。猫でも危険だということがよくわかった」
シトリンは後ろ足2本で立ち、前足を腕のように組んで言った。
「お詫びと言っては何だが、どうだ?気分転換に。猫の世界を案内するぞ」




モルダバイト城下。

ヒスイはシトリンのあとをついて歩いていた。
猫ならではの、しなやかな体。なめらかな動き。
前を歩くシトリンのしっぽを見ていると、無性にじゃれつきたくなる。が。
塀の上を歩くとなると、そんなことを考えている余裕もない。
ヒスイはぎこちない足取りで塀の上を進んだ。
途中で出会った猫達は皆シトリンを「ボス」と呼び。
独眼の黒猫や、丸々太ったペルシャ猫・・・野良から飼い猫まで顔見知り。
猫達の溜まり場となっている裏路地を通ると・・・
「ボス、可愛い子連れてるね」
ニューフェイスのヒスイに目を付けた雄猫がわらわらと寄ってきた。
そこからはもうナンパの嵐で。
子猫にも関わらず、しきりにワンナイトラブ=交尾のお誘いを受けるヒスイ。
そこでシトリンが。
「ナリは小さいが、私の母だぞ!おい、そこ!色目を使うな!!」と、厳重注意。
「母?」雄猫達は半信半疑・・・というより理解不能に近い様子だったが。
「へいへい」「わ〜った、わ〜った」ボスには逆らわない。
「だったら今度ボスが相手してくれよ」一匹の勇気ある雄猫がこう食い下がると。
シトリンは「私に勝ってから言え」とスルー。雌猫歴が長いだけに、雄猫を捌き慣れている。
こうして無事に裏路地を抜け、母娘の城下町散策は続いた。


目に映るすべてのものがヒスイにとって非日常であり、興味を惹かれるまま、あっちに行ったり、こっちに行ったり、道草しながら。
「母上、そろそろ腹が減っただろう。ちょっと寄っていかんか?」
シトリンが鼻で指したのは、高台に建つアパートの2階。
「ここはな、キャットフードをくれるんだ」と、おやつ処としている家のひとつにヒスイを連れて行った。
植木鉢の並ぶ狭いベランダに下りると、にぁー・・・ひと声鳴き、カリカリ・・・窓を掻く。
すぐに人の良さそうな老婆が出てきた。
「うまいぞ。さすがに城では食えんからな」
与えられたキャットフードをガツガツ食べるシトリン。
子猫のヒスイはミルクをご馳走になった。普段口にしているものに比べれば、薄い味のするミルクだったが、お腹は充分満たされた。
「裕福な家ではないのだが・・・立ち寄るとああしてご馳走してくれる。それが嬉しくてな」
一日の大半を猫の姿で過ごすシトリン。
煙突のある隣の家の屋根に移り、町を見下ろしながら言った。


「こうしているとな、人間の善意や悪意がよく見える」


「人は人の前で、本音を偽り、建前を口にすることも多い。だが、人間の言葉を持たぬ我々猫に建前を言う者などいないだろう」
だからこそ、人間の本質を知ることができるのだと。
「猫嫌いの者、無関心の者、中には虐げる者もいるが、大抵の人間は良くしてくれる。人間の善意・・・私はそれを日々感じていたい」
そのための放浪と、物乞い。
「行く先々であんなに食べてたら、太るよ」と、ヒスイは笑いながら。
「でもね、シトリンの言う人間の善意や悪意って、国の情勢にも関わるものだから、それを身近で確かめるのはいいことだと思うよ・・・て、どうしたの?」
「あ・・・いや」
めずらしくヒスイがまともなことを言ったので、シトリンは少々驚いていた。
(男に組み敷かれて、あんあん言ってるイメージしかないからな、母上は・・・)
そんなシトリンをよそに、ヒスイは話を続けた。
「私は、全然いい王妃じゃなかったけど※失踪してばかり。シトリンなら安心だね」
「母上・・・」
「あ、猫なのに難しい話しちゃった」と、ヒスイ。
「ふ・・・そうだな。猫は猫らしくいこう」



時刻は午後3時。

「あ、私そろそろ・・・」
おやつとコハクが恋しくなる時間、だが。
「まあそう言うな!」と、聞く耳持たずのシトリン。
国立公園の公衆トイレで元の姿に戻ってから、人型に変身したシトリンに連れられ、中央広場噴水前のベンチに座る。
「ここで待ち合わせをしている」
「待ち合わせ?誰と?」ヒスイがそう尋ねたところで。
「やっほ〜!お股せ〜!」現れたのはアクアだ。
「・・・お待たせ、だよ」
ヒスイはまず漢字の間違いを訂正。それから不思議そうな顔で。
「どうしたの?アクアまで」
実は・・・
トパーズとジストが同時に家を出たことで、ヒスイが寂しがっているのではないかと娘達も心配し、ヒスイを元気づけようと今日という日を計画したのだ。
が、周りが思うほどヒスイは落ち込んでいない。故に温度差が生じる。


「ベジタブルスイーツのお店見つけたからぁ〜、そこでお茶しよ〜よ」
「おお!それはいいな!行くぞ!母上!」
両脇を固められ、引き摺られていくヒスイ・・・
「え・・・ちょっ・・・私、おやつは家で・・・」
「パパにはぁ〜、了解とってきたよぉ〜」アクアがピースを決め。
「こんな時ぐらい親孝行させてくれ!」シトリンが畳み掛ける。
「はぁ???」(親孝行???なんで???)
ヒスイは益々腑に落ちないという顔で。
「親孝行って・・・私、そんなに感謝されるようなことした覚えないんだけど」
「何を言う!我らに命を与えてくれた!それだけで尊ぶべき存在であろう!」と、シトリンは声高らかに。
「だよね〜」アクアが頷く。
ヒスイは真っ赤になり。
「わ・・・私は別に・・・お兄ちゃんとえっちしただけだもん」
「育ててくれたではないか、腹の中で」シトリンが言うと。
「だよね〜」と、またアクアが相槌を打った。
「・・・・・・・・・」
恥ずかしくて、何も言えない。
ヒスイは赤い顔のまま、しばらく俯いていた・・・が。



「・・・親孝行ならお兄ちゃんにしてあげて」



と、口にした。すると。姉妹は顔を見合わせ、内緒話・・・
妹アクアの提案に、姉シトリンが賛成し、可決。
「じゃあ〜、先にお買いものしよ〜!」




モルダバイト繁華街。

「・・・で、なんでここなの???」
3人が入ったのは、ランジェリーショップだった。
「夜になったらわかるよぉ〜」と、アクア。
ヒスイにピンク+黒フリルのベビードールを試着させ、そのままお買い上げ。
ところが。ヒスイが試着室から出ると。
「バイト代出たからぁ〜、アクアが払うよぉ〜」
「いや!ここは姉の私がだな・・・」
レジで姉妹が揉めていた。
「・・・・・・」(何やってるんだろ・・・あのふたり・・・)
外見がコハク似のシトリンと内面がコハク似のアクア。
(ふたり足したら、お兄ちゃん・・・)
想像して、ぷぷぷ・・・笑うヒスイ。
財布を出して睨み合う二人を見て、また笑う。
(こういうのって、ちょっと楽しいかも)
「・・・・・・」
今日一日を振り返りながら、お腹に両手をあてる。
想うのは、奥に植えられた種のこと。
(男の子でも女の子でも、どっちでもいいけど)
子供の性別は正直あまり気にしていない。
(だけど・・・ほんのちょっとだけ・・・女の子だったらいいな、って思っちゃった)




その夜・・・赤い屋根の屋敷。

「ヒスイ、それ・・・」
「うん、シトリンとアクアが買ってくれたの」
※最終的に合同出資となりました。
ロマンティックなピンクのベビードール。嬉しいことにTバックとセットになっている。
(か・・・可愛いぃぃぃぃ〜!!!!)
心の中で萌え叫ぶコハク。
(どうしてくれよう!!この可愛さ!!)
下心、爆発寸前。平静を装うのもひと苦労だ。
「ヒスイ、ちょっと後ろ向いてみてくれる?」
「うん?こう?お兄ちゃん」
「そうそう・・・」
ヒスイに後ろを向かせ、お尻の“T”を確認。
黒のフリルがバックスタイルを華やかに彩っている。
ラッピングされた白桃は、それはそれは甘そうで。
「・・・・・・」
極上のエロスに息を飲むコハク。
どこから責めるか考えているうちに、完全勃起だ。
(シトリン、アクア、ありがとう・・・っ!)



娘達の贈り物。
コハクにとって、素晴らしい親孝行となったのは、言うまでも・・・ない。







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