「・・・・・・」
貴重な陶器を撫でるように慎重なオニキスの愛撫。
艶やかなヒスイの肌にオニキスの指が這う。
(やっぱり・・・ちょっと変じゃない??)
ずっと無言、なのだ。
「ね、ねぇ、オニキス?」
強引に押し倒されて、仰向け。
「ひや・・・っ!?なにっ!?」
体の入口を指で撫でられた。
「・・・濡れてない、な」
そこでオニキスの声。
「!?」
(オニキスが変!!絶対変っ!!なんで?いつから??)
「オニキスっ・・・やめ・・・」
どれ程いじられようと、コハクにしか反応しない。
そういう体になっている。が・・・
「濡れないなら、濡らしてやる」
指に代わって、オニキスの舌が触れた。
これまでの油断から、両脚をしっかりと掴まれ、閉じることもできない。
(えぇぇぇ!!?)
「ちょっとぉっ!!どうなってるのよっ!!コレぇ!!」
ジストもサルファーもギャアギャア泣いている。
それなのに。
「お兄ちゃんっ!!固まってる場合じゃないでしょっ!!」
コハクを怒鳴り散らす間にも、オニキスの舌が、辺りを湿らせてゆく。
「オニキスがっ!!壊れちゃったのよっ!!」
・・・そうだ。壊れた。
ヒスイの声が遠くに聞こえる。
体が・・・いうことをきかない。
口が・・・勝手なことを喋っている。
違う。こんなことをしたいんじゃない。
「く・・・」
気付くのが・・・遅かった。
地下迷宮の光苔。
あれは・・・満月の光に似て、狂気を呼び起こす作用があるらしい。
理性を殺し、欲望に忠実に。
『ヒスイのトコに戻るなら気をつけたほうがいいよ』
別れ際の忠告。
メノウはいつも説明が足りない。
子供達は、ヒスイの相手がいつもと違うことに抗議しているのだ。
泣き声はどんどん大きくなる。
(もっと・・・泣いて・・・父親を・・・呼べ・・・早く・・・)
オニキスの理性と呼べる部分は、体の奥に追いやられ、微かな叫びをあげるのみ。
「・・・っ・・・オニキスっ!!」
溜まりに溜まった、行き場のない想いが、凶悪なカタチで勃ち上がっていた。
愛おしいヒスイの溝に埋まろうと、意志を持って動く。
両脚の自由を奪われ、あらわになった股の間。
開脚の中心部。
そこに愛液があろうが、なかろうが、突き破るのは簡単で。
オニキスの先端が割れ目を擽った。
「!?スピネルっ!!今よっ!!」
いつもの調子で吹き飛ばして!と、ヒスイは我が子に命じた。
シーン・・・
「え?あれ?」
(なんで?結構ピンチなのに・・・)
どうもスピネルの様子がおかしい。
「!!あっ・・・やっ・・・!!」
凹と凸。窪みに感じる尖った肉感。
(嘘でしょ・・・こんなの・・・)
2度目の強姦に直面し、ついにヒスイが泣き出した。
「う゛〜っ!!!」
じたばたと暴れて抵抗する。
「・・・・・・」
・・・だめだ。絶対にだめだ。
泣かせるものか。
愛しているんだ。
オレは・・・ヒスイの笑っている顔が好きだ。
傍にいるのは、守るため。
傷つけるためじゃない。
このままヒスイを犯すぐらいなら、舌を噛み切って死んでやる。
「オニキス・・・?」
ポタッ・・・
「え・・・?」
オニキスの動きが止まった。
そして・・・口から大量の血が溢れる。
「きやぁぁぁっ!!!オニキスっ!!!」
「・・・落ち着いて、ママ」
ポウッ・・・温かな光がオニキスを包む。
吸血鬼のヒスイでも驚く大量出血だったが、光の中でちゃんと止血されていた。
「彼は死なないよ。ママの眷族だから」
「あ、そっか」
「パパ達の石化も・・・明日には解けるから」
「ホント!?」
「うん・・・じゃあね」
(よくわからないけど・・・スピネルが何とかしてくれたみたい)
「・・・できるんなら・・・もっと早く助けてよ・・・」
スピネル・・・マイペース過ぎるのが玉にキズだ。
「・・・・・・」
理性と共にオニキスが目覚めた。
「大丈夫?」
「・・・すまない」
血に染まったヒスイの体。
丸裸のままオニキスを覗き込んでいる。
ジストとサルファーは泣き疲れて、ぐっすりと眠っていた。
「まさか舌を噛むなんて・・・そこまで思い詰めなくても・・・ぷぷっ」
オニキスの極端な行動に笑い崩れるヒスイ。
「・・・・・・」
笑われてしまったらそれまで。
真剣そのものだったのが、今になって恥ずかしくなる。
「・・・ありがと。いつも」
「・・・いや・・・」
変わらないヒスイの笑顔。
ギリギリのところではあったが、壊さずに済んで良かったと、心底思う。
「・・・何度だって死んでやる」
お前のためなら。
そう告白して、また笑われる。
「オニキスは私の眷族なんだから、死ぬ訳ないじゃない」
「・・・気持ちの問題だ」
オニキスは自棄になって言い切った。
どれほど愛の言葉を連ねても、ヒスイにはかわされてしまう。
重度の“コハク依存症”ではあるが、一対一で向き合えば、頭のいい女なのだ。
「私、もう4人産んでるし。よっぽどの物好きでなきゃ、そんなこと言えないわね」
「そうだな。オレは相当な物好きらしい」
誰が見たってそう思うだろう。
自分でも身に染みている。
「あれ?それ・・・」
「・・・・・・」
理性を取り戻したはずなのに、勃っている。
愛する女の笑顔と肉体を見れば当然の反応。
しかしそれは良心的なもので、ヒスイを突く気は毛頭ない。
が、直視されてしまうのは耐え難いものがあった。
「・・・あっちを向いていろ」
「・・・・・・」
「ヒスイ?」
突然伸びるヒスイの手。
「!?何を・・・」
「・・・どうすればオニキスが幸せになれるのか、17年も前から考えてるんだけど」
普通に話をしながら熱い肉棒を両手で握る。
きゅっ。
「・・・っ!!」
一握りだった。
手コキとは全く異なる、単純な刺激。にも関わらず。
出して・・・しまった。
吹き上がること、噴水の如く。
濃度は超一級。
歳月を経て、積もりに積もった想いが、白い液体となって発散されていく。
「・・・く・・・」
「結局わからないままで・・・ごめんね」
ヒスイの手に降り注ぐ精液。
慣れている風なのが、切ない。
「シャワー、先浴びて。服、用意しとくから」
「すっきりした?」
「・・・ああ」
スッキリした。色々な意味で。
ここまできたらもう開き直るしかない。
順番にシャワーを済ませ、やっと一息ついたところだった。
テーブルに向かい合わせで座り、お茶を啜る。
「・・・前にね、ローズと話をしたことがあって・・・」
インカ・ローズ。
かつてオニキスの右腕としてモルダバイトで働いていた、スゴ腕のメイドだ。
「オニキスの命を奪って・・・再び与えたのなら、普通は結ばれるはずなんだって。ホラ、あの子ハッキリ言うでしょ?」
思い出話にくすくすと笑う。
「なんでオニキス様を選ばないんですか!?って、耳にタコができるぐらい言われたわ」
「・・・そうか」
オニキスも笑いを洩らす。
「でも私・・・お兄ちゃんじゃないとだめなの」
「・・・わかっている」
(甘えているのはオレのほうだということも)
「・・・旅に・・・出ようと思う」
行き先は告げない。
想いをすべて吐き出したから。
今なら、前を向いて進めるかもしれない。
“幸せ”は、もうすでに貰っているのだ。
あとは新しい生き方を見つけるだけ。
「うん。いいんじゃない?」
モルダバイトはシトリンが継ぎ、その夫であるジンカイトが行政を引き受けるということで話がまとまっている。
「ジンはすでに帝王学が身に付いている。教えることもない」
「へぇ・・・そうなんだ」
正式な王位継承はまだ先だが、大部分の引き継ぎは済ませていた。
「王様じゃないオニキスかぁ・・・どうなるんだろうね」
「・・・オレにもわからん」
視線を交わし、笑い合う。
「で、いつ出発なの?」
「王位継承が済んだら、すぐにでも」
「わかった」
一ヶ月後。
「・・・なぜお前達がいる・・・」
「?だってオニキスが旅に出るって言うから」
ヒスイ、コハク、トパーズ、ジストにサルファー。
見送り、という格好ではない。
ばっちり旅支度を整えていた。
「いやぁ〜・・・家族旅行も久しぶりなんで、丁度いいかな〜と」
コハクの口調は浮かれている。
「家族旅行・・・だと?」
強いて言うなら、傷心旅行。
ヒスイを忘れるための旅だったのに。
(一体どういう語弊が・・・)
明らかにヒスイの解釈がおかしいのだ。
(それを承知の上で便乗してきたな・・・こいつ・・・)
何食わぬ顔をしているコハク。
すべてお見通し、という態度が相変わらず気にくわない。
「はい、よろしく」
そして気が付けば、腕にサルファーを抱いている。
ジストはトパーズが抱いていた。
「で、僕がスピネルを」と、コハクがヒスイを抱き上げた。
「もうっ!お兄ちゃんってばっ!」と、怒るヒスイは嬉しそう。
見慣れたいつもの光景だ。
「ね?丁度いいでしょ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
さすがに考えることが狡い。
オニキスもトパーズも、コハクと言い合う気力すらない。
何を言っても負かされる。
言葉では絶対コハクに勝てないのだ。
「さぁて、どこに行きましょうか?」
はぁ〜っ・・・
やっとスッキリできたのに。
「・・・また、溜まる・・・」
「大いに結構」
ぼやくオニキスにコハクが微笑む。
「無駄な足掻きはやめたほうがいい。ここがあなたの居場所だ」
「・・・嫌な奴だな」
「よく言われます」
あなたにね。
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