「子供の前でベタベタするの、やめてください。教育上、良くありませんから」
貧乏王国。ラブラドライト。
シンジュの毒舌は今日も快調だ。
腕を組んで歩きたい、と手を伸ばしたローズに容赦なく言い放つ。
結婚して3年。
二人の間に産まれた子供は女の子で、名前はプレナイト。
ローズ譲りの桃色の髪。瞳はシンジュと同じ蒼。
「ととさま」
シンジュの腕に抱かれ、ご機嫌のプレナ。
すでにファザコンの片鱗をのぞかせていた。
「ととさまは忙しいのよ?こっちへいらっしゃい、プレナ」
一方不機嫌なローズ。
ガブッ!!
「・・・・・・」
差し延べた手を、他でもないプレナに齧られ、怒りのあまり声が出ない。
(かっ・・・可愛くないぃぃ!!!)
プレナは「ととさま」以外一言も口にしない、少し変わった子供だった。
泣くことも、笑うこともなく、ただシンジュにべったりとくっついている。
そんなプレナを心配する反面、シンジュはデレデレ状態で。
王政が忙しいにも関わらず傍に置きたがる。
・・・ローズは散々な目に合っていた。
「プレナを城下の保育園に入れる!?本気で言っているんですか!?」
「本気よ」
夫婦の対決。
二人揃っての久々の休暇だというのに、喧嘩が絶えない。
「プレナの面倒は私がみると・・・」
「そんな暇がどこにあるの?」
「それならせめて城の者に頼んで、目の届くところに・・・」
「城の者?どこにいるっていうの?」
「・・・・・・」
経費節減の為、大幅に人員を削減し、現在手の空いている使用人は一人もいない。
ラブラドライト城は皆、いっぱいいっぱいだった。
「もう一人雇えば・・・」
人員削減をしたのは自分だというのに、愛娘が絡むとあっさり矛盾するシンジュ。
この親馬鹿ぶりに、ローズの溜息は止まらない。
「そんなお金がどこにあるの?」
「それは・・・」
「私だってホントはもっと家族で過ごしたいと思うわよ。だけど、生きていくってことは、楽しいことばかりじゃないの。嫌なコトや辛いコトだってたくさんあるわ」
つまり、プレナのことは我慢しろ!と言いたいのである。
全く自分に懐かないプレナ。
可愛くないのは確かだが、シンジュとの間に産まれた子供だ。
それだけで、愛せる。
国に帰ってきてからというもの、働き通しで殆どかまってやれなかったことを正直悔いていた。
(だけどそれでも働かなきゃいけないの!だって・・・)
「・・・シンジュ、お祖父様が重大な話があるって」
ラブラドライトの“お祖父様”とは“王”のことだ。
実権を握っているのはシンジュとローズだったが、表向きの王はまだこの“お祖父様”だった。ローズに両親はいない。
ラブラドライトの貧乏生活に耐えられず、幼い頃揃って蒸発してしまったのだ。
「シ・ン・ジ・ュ・ちゃ〜ん。実はネ・・・」
「・・・・・・」
“お祖父様”はかなりの曲者で、ヒトコトで言えばバカ殿。気が触れているのかと思うくらい、妙なテンションなのだ。
「・・・は?国が担保に?」
シンジュは信じられないという顔で聞き返した。
「そ、期日までに返さないと、グロッシュラーの配下になっちゃうの、ココ」
「な・・・・」
“お祖父様”は暢気に鼻をほじっている。
「一国を買い戻すほどのお金を、あと一ヶ月でどう用意しろっていうんですか!?」
「知らな〜い。だってワシ、ボケてるし。ギックリ腰だし。早く引退したいんだよね〜。シンジュちゃん、後は任せたから。今日から王様ってことで〜」
「え!?王!?待ってください!!」
「ワシ忙しいのよ〜・・・王位継承は今ので終わりね、じゃっ!」
老人とは思えぬ逃げ足の早さ。
この“お祖父様”が相手では、ローズの両親でなくても失踪したくなる。
「・・・なんということだ・・・私が、王とは・・・」
貧乏王国ラブラドライトの新たな王が今、ここに誕生した。
「・・・で、どうするのよ?」
20歳にもならないローズと二人、国を背負わされ、頭を抱える。
「・・・何とかするしかないでしょう」
生活に追われ、ロマンスどころではなかった。
もう1ヶ月以上セックスしていない上に、キスさえいつしたのかわからない。
(あぁ・・・もう・・・こんな生活、嫌・・・)
さすがのローズも泣きたい気分になる。
あのままモルダバイトで生活していれば・・・そんなことまで考えてしまう。
「だからって!このままセックスレスになってたまるもんですか!!」
ローズにとっては国の存続と並ぶ程、重要な問題だった。
机を叩いて立ち上がる。
「・・・ローズ・・・聞こえてますよ・・・」
シンジュの咳払い。顔が真っ赤だ。
会議の席。夫婦の事情が、皆に筒抜け。
笑い声と、同情の眼差しが寄せられる。
「あ・・・」
「・・・まったく・・・あなたという人は・・・」
精霊の森。
「あらぁ、いらっしゃい。久しぶりねぇ」
「こんにちは〜。仕事で近くまで来たんで、寄らせていただいたんですけど」
エクソシストの制服に身を包んだコハクが笑顔で挨拶。
精霊の森の番人、オパールに、だ。
「これ、お土産」
コハクの後ろから控えめに顔を出し、ヒスイが土産を手渡す。
「まぁ、悪いわねぇ〜。じゃあ、早速お茶にしましょうか」
「折角来たのだから、今夜は泊まっていきなさいな」
「お言葉に甘えて、そうさせてもらう?」
「うん〜」
懐かしいオパールのロッジ。
ここで結婚の約束をして、お互いのピアスを交換したのだ。
「あの時と同じ部屋を使うといいわ」
「ありがとうございます」
オパールの嬉しい心遣いにコハクの顔が綻ぶ。
「お兄ちゃん!あとで露天風呂いこっ!」
「くすっ。そうだね」
「あ、そうそう。今日はもう一組お客さんがくるのよぉ」
まるで旅館の女将。オパールは楽しそうに切り盛りしている。
「お客さん?」
ヒスイが訊ねると、オパールは苦笑いで答えた。
「そう、シンジュ達がね。ちょっと訳ありみたいなのだけれど」
「ヒスイ様っ!?」
「シンジュ!ローズ!」
思いがけない再会を皆で喜ぶ。
昔から変わらない長テーブルに腰掛けて、会食が始まった。
給仕に徹するオパールは残念ながら不参加である。
「え?スレイプニルを捕まえるの?」
そう言ったコハクの隣で、ヒスイも目を丸くしている。
「スレイプニル?」
ローズだけが話についていけなかった。
「スレイプニルはね、魔法の馬なの。脚が8本あって、空や海を駆けることができるのよ」
ローズの向かいに座っていたヒスイが前菜のサラダを食べながら説明した。
「どんな馬よりも早い、最高の乗り物・・・もぐもぐ・・・」
それ以上先を語れないヒスイに変わり、コハクが続く。
「それをグロッシュラーに献上する、と?」
「そうです。グロッシュラー王は神が生んだと言われる伝説の馬を、喉から手が出るほど欲しがっていると聞いたことがある」
「なるほど・・・交渉が有利になりそうだね」
シンジュとコハクの会話が続く。
「スレイプニルの住処は、森の洞窟を抜けた先に・・・」
「うん、あるね。僕も手伝うよ。挟み撃ちにしたほうが早いでしょ」
「え、いいんですか?」
「もちろん。君にはずいぶんお世話になったし。いいよね?ヒスイ」
「うん〜・・・もぐもぐ・・・」
野菜が大好きなヒスイは小動物さながらに葉っぱを頬張っている。
お酒が大好きなローズは食前酒をすっかり飲み干して・・・女二人は食事に夢中だ。
微笑ましいその姿にコハク達の表情も和らぐ。
「それで?いつ出発するの?」
「今夜捕獲作業をするつもりで来たのですが・・・」
「よし、じゃあ、このご馳走をいただいたら出発するとしよう」
「そうですね」
その道中にて。
「・・・今頃シンジュ達もしてるよ」
「ん・・・そうだね。こんなに星が綺麗なんだもん」
「邪魔しちゃ悪いから、ここで僕等も・・・」
洞窟を目前にして、ほんの数十分挟んだ休憩時間。
近くを散歩してくると言って、コハクとヒスイがそそくさと姿を消した。
「どうせアレですから。気が済んだら戻ってくるでしょう」と、シンジュ。
手伝ってもらう立場なので、強くは言わないが、呆れているのが表情にも出ている。
(アレってアレよね!?あの二人って外でもするの!?)
ローズの覗き魂に火が灯る。
後で後悔することになるとも知らずに、軽い気持ちで二人を追った。
(・・・そりゃ、どんな美男美女だって同じよね)
ヒスイがコハクの膝に跨がって。
二人とも一応服は着ているが、傍らに脱ぎ捨てたパンツが一枚。
ヒスイはスカートを捲り上げ、コハクは半端にズボンを下ろして繋がっていた。
「んっ・・・」
キスをして、抱き締め合って、揺れる、腰。
「んっ!んっ!あ・・・おにぃ・・・ちゃ・・・」
あぐらを組んだコハクの上で密着する股間。
コハクの首に両手を回して、ヒスイが小さく喘いだ。
「はっ・・・あ・・・」
それから徐々に後ろへ反り返り、今度は両手を地面について、擦り感が強い体位へと自ら移行する。
「もっと・・・擦って欲しいの?」
「う・・・ん」
ヒスイの腰を掴んでいた手を離し、コハクも同じように反り返る。
結合部分を月光の下に晒し、お互いに腰を前後させて、迎合運動。
「んっ・・・うっ・・・ん!!」
更にヒスイの両脚を肩に担いで、激しくぶつけ合う。
パシパシ、ペタペタ、ピチャッ、クチャッ。
淫らに混ざり合った音が響き、聞いているだけでも濡れてくる。
(私・・・絶対欲求不満だわ・・・)
「ヒスイ・・・気持ちいい?」
「ん・・・アソコ・・・しびれてきちゃっ・・・た」
はぁ。はぁ。
「おにい・・・ちゃんは・・・きもち・・・いい?」
「うん・・・ココが・・・ヌルヌルしてて・・・すごく気持ちいいよ」
「あっ!あ!あっ!あぁっ!あっあぁんっ!!」
ひたすら性器の擦り合いに夢中になって。延々と続く喘ぎ声。
「あっ!あ!イイ・・・っ!あぁんっ!あっ!あんっ!あぁぁん!!あっ!あぁ・・・っ!あっ!は・・・はぁ・・・ん・・・あ・・・はっ・・・は」
(あ・・・ヒスイ様イッた)
声でわかる。
(それにしても人様のセックスを見て、こんなに興奮しちゃうなんて)
「くす・・・よく頑張ったね」
労いの言葉をかけて、ご褒美のキス。
「今、キレイにしてあげる」
ベトベトに汚れた部分をコハクが隅々まで舐め尽くす。
最後の仕上げはハンカチで、ヒスイの割れ目を優しく丁寧に拭き取った。
「おにいちゃ・・・ん・・・」
目を開けたヒスイが、嬉しそうに、恥ずかしそうに、笑う。
(いい顔してるなぁ・・・)
「いいな・・・あんなセックスしたことない」
じわっと、上も下も何だか湿っぽい。
そもそも口でしてもらったことがないのだ。
(シンジュは潔癖性だから、私のアソコを舐めたり、愛液を口に含んだりすることに抵抗があるみたいだし・・・)
どうも愛されている気がしない。
(こんなに濡れちゃったのに・・・どうしよ・・・)
「あ・・・そうだ!!」
唐突な閃きだった。
ローズの得意な幻術。中でも催眠術が一番。
もうこれしかないと、シンジュの待つ場所へ一路向かう。
「シンジュっ!!」
「何ですか?」
「見て」
「?」
中心に穴の空いた硬貨。そこに紐を通して吊したもの。
初歩的な道具ではあるが、使う人間によって効果に差が出る。
ローズはその催眠ツールをシンジュの目前で左右に揺らした。
「あなたはだんだんしたくなる〜・・・舐めたくなる〜・・・」
実直なシンジュは催眠術にかかりやすいタイプに思えた。
「・・・・・・」
蒼い瞳から光が消え、虚ろに。
(やった!かかった!)
「・・・舐めたい、でしょ?」
勝ち誇った笑みで、唆す。
ロングのスカートを捲ると、下着の上から見てわかるくらい濡れていた。
「・・・・・・」
どんっ!
「え・・・?」
(すごい効き目!?)
シンジュがいきなり押し倒し、乱暴に下着をずり下ろす。
ぴちゃ・・・
「あ・・・んっ!」
迷いのないシンジュの舌が触れ、溝に沿って舐め上げる。
「んっ・・・ふっ・・・」
ローズは腰を揺すり、長い二本の脚を大胆に広げて応じた。
「あ・・・」
(このままイカされちゃうかも・・・)
初めての快感にうっとりと酔いしれて・・・
「・・・っくしゅん!!」
夢の終わりを告げる音が鳴った。
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