ブルルル・・・ヒヒーン!!
嘶かれて、ビクッ!
もの凄い早さで空を駆けてきた馬は先客のヒスイ達に敵意剥き出しで、今にも襲ってきそうな勢いだった。
「ローズ!下がって!!」
咄嗟にヒスイが前へ出る。
「ヒスイ様!?」
そして、頭から突っ込んできたスレイプニルと組み合った。
「無理ですっ!そんな小さな体で!!」
「大丈夫、私、人間じゃないから」
ローズより自分のほうが強い。
そう言いたいのだ。
「ローズに怪我なんかさせたら、シンジュにお説教くらっちゃうわ」
「何言ってるんですか!?ヒスイ様が怪我なんてしたら・・・!」
それこそ大騒ぎだ。
前に出てくれた気持ちは嬉しいが、余計なお世話である。
そもそも自分が仕えていた相手に守られるのは癪だ。
人間だろうがそうじゃなかろうがプライドが許さない。
「私が囮になっている間に逃げてください!!」
「大丈夫だっていってるでしょ!こんな馬ぐらい!」
ドカッ!!
スレイプニルといい、ユニコーンといい、昔から馬とは相性が悪い。
ヒスイは思いっきりスレイプニルの足を蹴った。
ヒヒーン!!
「あっ!ヒスイ様っ!!」
「何よ」
「取引材料を傷物にしないでください!」
「あ・・・そういえば・・・」
ローズの注文を受けて、ヒスイは動けなくなってしまった。
スレイプニルの足。
8本あるうちの1本でも折ろうものなら、価値がぐんと下がってしまう。
無傷で捕獲する方法は何も考えていなかった。
(どうしよう・・・)
そこに訪れる、蹄の音。
後続のスレイプニル達だ。皆、鼻息が荒い。
「ローズ」
「はい」
「少しの間、引きつけられる?」
「はい、できます」
ローズは迷いなく答えた。
運動神経には自信がある。
(速さが自慢のスレイプニルにどれだけ抵抗できるかわからないけど)
ヒスイが組み手を解くとスレイプニルはローズに向けて突進した。
ローズはそれをかわし、他のスレイプニルを挑発、それからあえて足場が悪い所へ走り込んだ。
「・・・封印解除っ!」
ヒスイは首からぶら下げていたペンダントを掴んだ。
ポンッ!ポン!ポポン!
ローズを追っていたスレイプニル達が次々と消え、後にはなぜか卵。
「え?ヒスイ様!?」
ヒスイの右手には短いステッキが握られており、そこから発射される光の弾に当たったスレイプニルが卵へ還る。
「・・・魔法少女?」
ステッキは子供のおもちゃのようなデザインだった。
先に星が付いていて、ヒスイが魔法を発動させる度にクルクルと回るのだ。
(かっ・・・かわいい〜・・・何アレ!!)
誰に指導を受けたのか、ポーズもちゃんと決まっている。
真剣なのか、ウケを狙っているのか、判断に迷うが笑いが止まらない。
「コレがないと魔法が暴走しちゃうのっ!」
頬を染めて、ヒスイが口を尖らせる。
「お父さんがくれたの!私の趣味じゃないもん!」
メノウの発明品。そして振り付けはコハクだ。
「古代魔法で・・・結界の一種なの」
あちこちに転がる卵。鶏卵と見分けがつかない。
「割ればスレイプニルが出てくるよ」
「そう・・・なんですか?」
(なんてメルヘン・・・)
これ以上笑っては、と思ってもツボを突かれて表情が緩む。
(絶対コスチュームとかありそう)
コハクが作らない筈がないと思うのだ。
「あれ?僕等の出番・・・ナシ?」
上空からコハクが急降下。
一方シンジュは木々の間を抜けて現れた。
「お兄ちゃん!」
ヒスイは丸裸のままコハクに飛びつき、コハクはすぐ自分の上着を脱いでヒスイに着せた。
「大丈夫?」
「うんっ!」
ちゅっ。
とにかくまずは再会のキス。
両手でヒスイの頬を包み込み、コハクが優しく囁く。
「ヒスイ、何があったか教えてくれる?」
「うん、あのね・・・」
「・・・どうぞ」
ローズとは目を合わせず、シンジュが上着を差し出す。
「シンジュ・・・さっきは・・・」
渡された上着に袖を通すより、シンジュの機嫌が気になる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
少しの沈黙の後。
「シンジュ、あの、ご・・・!!?」
ローズの言葉をシンジュのキスが止めた。
「・・・どうすれば、あなたを笑顔にすることができますか」
ドキッ。
真剣な眼差しでそう訊ねてきたシンジュが可愛くて。
一気にムラムラ。
男女逆な気もするが、これでいい。
「じゃあ、えっちしよ?」
「・・・はい」
あらためて、自分を見つめなおしてみれば。
一時でもヒスイを羨んだことが、気の迷いとしか思えない。
コッチの方が好きなのよ。
揉まれるより、揉みたい。
舐められるより、舐めたい。
絶対変だとは思うけど。
他所と比べることないじゃない。
パシャッ・・・
石鹸を泡立てて、シンジュのペニスを包み込む。
オパールのロッジ。
露天風呂へは行かず、屋内風呂を拝借。
檜造りの広い浴室で愛し合うことにした。
「・・・さ、楽しませて?」
「あ・・・っ・・・」
軽く擦るようにして洗い出す・・・すぐにモコッと勃起した。
「う・・・うぅ・・・」
同時にシンジュの頬が上気する。
「ふふ・・・可愛い・・・」
先端部分は特に念入りに。
「うっ・・・あ・・・」
勃ちあがったペニスを左手で強く握り、右手を股間の奥へ。
「動いちゃ駄目よ」
指先でアナルまで撫で洗い。
「あっ!やめ・・・」
(そう!コレなのよ!!悶えなさい!!)
ヌルヌル。シコシコ。
「くっ・・・うっ・・・」
泣き出しそうなシンジュに背伸びをしてキス。
「あ・・・あぁ・・・」
浴室に響くのは、シンジュの喘ぎ声。
片方の乳首を指で摘んで。
もう片方を吸って転がす。
両手で掴んで愛撫をすると、ない胸でも感じるらしく、可愛らしい声をあげるのだ。
マグロ状態でも敏感なシンジュ。
「あら?もうこんなに固くなってるわよ?」
「うっ・・・」
言葉攻めにも素直に反応するので、楽しくてたまらない。
勃起を掴んで裏側を舐めると、それ自体がビクンと手の中で蠢めいた。
「シンジュ・・・足開いて」
シンジュの太股に手を添えて、両脚を持ち上げる。
思い描いた通りの淫らな姿勢に興奮が増す。
「・・・愛してるわ、シンジュ」
ローズは大きな口を開けてしゃぶりついた。
(私、フェラだったらヒスイ様にも負けない)
自分のテクニックに酔いながら。
ぐちゅ。ぐちゅぅ。
音をたてて、頬が膨らむ。
「あっ、あ、ローズ・・・」
シンジュの腰が反って、浮いた。
裏向きにしたペニスを片手で押さえて、べろり。
舌先で割れた先端を舐め擦る。
「あっ・・・イ・・・やっ・・・」
いつしかソレはシンジュの所有物とは思えない程、赤っぽく、太く、膨張して。
「・・・我慢しないで、出ちゃいなさい」
(全部、飲むわ)
「んっ・・・!くっ・・・ぅ・・・!!」
「んく・・・っ・・・」
ぽってりとしたローズの唇から溢れだし、顎を伝い落ちていく精液。
口の中で萎んでゆく様が愛しくて、咥えたまま、離したくない。
「さ、もう1回よ」
それでも一度きりで終わらせる気はなかった。
女の肝心な部分は欲情しっぱなしで、まだ何の刺激も受けていないのだ。
しかし。
「無理です」
きっぱりとシンジュが答える。
「・・・と、言いたいところですが、今夜はもう少しだけ付き合います」
「ほんと!?」
そう聞き返したローズは、とびきりの笑顔だった。
「ええ」
「あっ・・・シンジュ!?」
「えっ・・・あ・・・」
万年ヤル気不足のペニスが勃起。
ローズが手放しで喜ぶ。
「でもなんで急に・・・」
「・・・久しぶりにあなたの笑顔が見られて嬉しかったんですよ」
シンジュは照れた顔で、観念したように本音を告げた。
「ねぇ、シンジュ・・・私のこと、好き?」
「・・・・・・」
露骨な誘導尋問にはひっかかりたくない男ゴコロ。
一体どんな顔をして「好き」「愛してる」と言うのだろう。
そんな時。
コハクの言葉がぐるぐると脳内を巡る。
(流石に・・・いい事を言う)
“愛を伝えること”をコハクがいかに完璧に遂行しているか、隣にいるヒスイを見れば一目瞭然だ。
(少しぐらいは、見習っても・・・)
ふうっ、と呼吸を整えて。
折角の笑顔を曇らせてしまうのは惜しいから。
「・・・この身体には、あなた以外触れることを許さない」
「え・・・?」
シンジュの口から出た信じられない言葉に、心臓、バックン。
ローズは何度も瞬きをしてシンジュを見つめた。
「・・・で、どうですか」
わざとらしい咳払いで照れ隠しするシンジュ。
「最高の殺し文句だわ!」
舞い上がる、心。
抱きついて。頬寄せて。
愛の言葉のストックが足りないことをほんの少し悔いながら。
やっぱりいつもの。
「好きよ、シンジュ。大好きっ!」
精霊の森。
『スレイプニルは僕等が必ず連れ帰るから、君達は先にオパールさんのロッジへ戻って』
そう申し出たコハク。
「いいムードだったもんね」
ヒスイも二人を後押しした。
「そうそう。今頃、檜のお風呂でイイコトしてるよ」
くすくすくす・・・
夫婦揃って悪戯に笑う。
「ね、ヒスイ、魔法使う時、ちゃんとポーズ決めた?」
「決めたよ?だってアレやらないと絶対失敗するって、お兄ちゃんが・・・」
「そう!アレは絶対やらないとダメなんだ」
(くぅぅ〜・・・生で見たかった〜・・・)
“魔法少女ヒスイ”が最近の萌えなのだ。
コスチューム付の妄想が止まらない。
クルクルと回る星。フリフリからパンツ、チラ見え。
(う〜ん・・・イイ感じだ・・・ヒスイ・・・)
「お兄ちゃん?」
「あ、何でもないよ、何でも・・・」
コハクがそう答える時は大抵やましいことを考えている。
「僕等も今度はちゃんとベッドでしようね」
「うんっ!早く終わらせて帰ろう!お兄ちゃん!」
と、言ってもスレイプニルをすべて卵にしてしまった張本人。
必要な1個の他は、割って戻さなければならない。
割って、宥めて、森へ帰す。
骨が折れる作業だ。
「・・・ごめんね。やりすぎちゃった・・・」
「くすっ。いいよ。怪我がなくて良かった」
ちゅっ。と、軽く額にキスをして。
「さあ、頑張ろう」
「うんっ!!」
後日。ラブラドライト。
「グロッシュラー王は武力行使を好むタイプではありますが、頭まで筋肉という訳ではない」
ラブラドライトの王として、単身グロッシュラーに乗り込んたシンジュ。
スレイプニルと引き替えに、交渉は無事成立したと王妃ローズに報告した。
「配下にする価値もない国なのですよ、ここは」
「そうね。私も逆の立場だったらそう思う」
「今は・・・ですけどね」
莫大な借金がチャラになったという都合の良い話ではない。
返済期限が10年延びただけだ。
「グロッシュラー王は、ラブラドライトが国として機能するまで数十年かかると考えているようですが・・・10年あれば充分です」
「10年・・・」
「ええ。その頃にはグロッシュラーも手出しできない国になっている」
強気なシンジュの発言。ここぞと言う時は頼もしい。
(けどそれって、借金踏み倒すってこと?)
「変えますよ、ラブラドライトを」
「そうね、一緒に」
この国は、きっと変わる。
日々よい方向へと。
それでも。
私達の関係はいつまでも変わらないものであって欲しい。
そう願いながら、ローズは沈んでゆく夕日を見送った。
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