「こくよ〜ただいま〜」
エクソシスト正員寮。
「・・・・・・」
(ちっ・・・鬱陶しい女が帰ってきた)
進学校の制服。胸の辺りがキツそうで。
アクアマリン。15歳。巨乳美少女。
(この女・・・勝手に居候しやがって)
いい加減うんざりだ。
12歳でコクヨウの部屋へ押しかけたアクア。
一緒に住み始めて、もう3年になる。
=アクアの誘惑を無視し続けること3年だ。
「こくよ〜お散歩の時間だよ〜?」
「オレは犬じゃねぇ!!」
従って散歩も必要ない!!と主張するが、アクアに軽く聞き流される。
ヒトの話を聞かないところと、頭の悪そうな話し方が、何年経っても腹立だしい。
「さ〜いくよ」
「おいっ!ヒトの話を聞け・・・!!」
言っても無駄だ。その上・・・
パチンッ。
「・・・・・・」
容赦なく首輪を嵌められる。
「こくよ〜が言うこときかないときは、これを使えって」
「・・・誰が言った」
「おじいちゃん♪」
毎回このやりとり。
“おじいちゃん”っ子のアクアは、何かとメノウに仕込まれてくるのだった。
夕焼けの土手縁。
嫌がるコクヨウをズルズルと引きずってアクアが歩く。
メノウがアクアに与えた“首輪”は、コクヨウの魔力を大部分封じるもので。
これを嵌められると、体から力が抜けてしまう。外見も能力も犬並みまで落ちる。
「ほら〜取っておいで〜」
と、投げられたフリスビー。
「馬鹿にすんな!!誰がんなモン・・・」
シュタッ!パクッ!
言葉では拒絶しても、体が反応してしまう。
コクヨウは高くジャンプして、フリスビーを口でキャッチした。
「こくよ〜えらい」
「うるせぇ!お前に褒められたって嬉しくねぇんだよ!」
牙を剥いて吠えても、「かわいい〜」と、撫でられる始末だ。
(くそ・・・馬鹿は相手にしきれねぇ・・・)
ヒスイの命を狙うこと数十年。
その度に、手酷い返り討ちを受けてきた。
(極悪天使が強すぎんだよ!!アイツの強さはハンパじゃねぇ〜・・・)
サンゴの“核”を取り戻すのに失敗し続けているうちに、6人目が産まれた。
それがアクアだ。
「あれぇ?人間が溺れてるよ?」
土手に沿って流れる川。
さほど深くはないが、流れは早い。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人の目前を人間の子供が通り過ぎていった。
「・・・助けないのか、お前」
「なんでアクアが?知らないコだもん〜」と、見送るだけのアクア。
「・・・ちっ!!」
コクヨウは舌打ちをして、川へ飛び込んだ。
ザブンッ・・・!!
(“なんでアクアが?”じゃねぇ!アホ!!)
それこそ、何でオレが!?と思う。
こんなキャラではないはずなのに。
アクアがあまりにも残虐非道で。
二人でいるとどうしても“イイヒト”役が回ってくるのだ。
「なんで、人間なんか助けるの?」
人間の子供を川から引き上げたコクヨウ。
解せない表情でアクアが迎えた。
「人間が豚や牛を育てるのと同じだ。“食料”がなくなったら困んだろ、オレ達吸血鬼も」
「だからこくよ〜は人間を守ってるの?」
コクヨウは現在、エクソシストという仕事に就いて悪魔から人間を守っている。
最初はもちろんメノウに巻き込まれてだが、かれこれ30年以上になる。
「アクアもエクソシストになろうかなぁ〜・・・」
「馬鹿なこと考えんな!お前には無・理だ!!」
断続的なイライラ。怒鳴ってばかりで声が枯れそうだ。
「帰る!!」
「あ〜あ。びしょ濡れになっちゃったね〜」
浴室。獣の姿をしていても入浴はちゃんとする。
体を洗うことはできなくても、熱い湯に浸かるのが好きなのだ。
「なんでお前がここにいんだよ!!」
「だってフィアンセだもん」
「お前と婚約した覚えはねぇ!出てけ!!」
(ホントにもう消えてくれ・・・)
アクアは当然とばかりに裸で。
コクヨウは脱力し、怒る気力のほうが先に消え失せた。
(なんでこんなんばっかなんだよ・・・アイツの家系は・・・)
アイツというのはメノウのことで、後に続くヒスイ、アクア、揃いも揃って図々しい。
ペースを乱されてばかりいた。
「ね〜?こくよ〜?おっぱい、吸う?」
重そうな左右の乳房を両手で持ち上げて、コクヨウにグイグイと押し付けてくるアクア。
12歳の時点で信じがたい巨乳を誇っていたが、さらに弾力を増し、もはや爆乳といってもいい成長を遂げていた。
「吸うわけねぇだろ!」
「・・・まだおばあちゃんのこと、忘れられないの?」
急に大人びた口調で、アクアが言った。
「何でお前が知ってんだよ!!」
(アイツ等ベラベラしゃべりやがって!!デリカシーってもんがねぇのかよ!!)
恐らく犯人はメノウかヒスイだ。あのソックリ親子を心底呪う。
「そんなに・・・好きだったの?」
「うるせぇ!噛み殺すぞ!?」
「殺せば?別にいいよ?」
凜とした紅い瞳。
「アクア、こくよ〜になら殺されてもいい」
「・・・勝手に言ってろ」
おっとりとした顔立ちの割に、芯の強そうなところがサンゴと重なる。
「・・・ちっ」
瞳が紅いから。
サンゴに似てるから。
本気で突き放すこともできずに。
結局は一緒にいる。
「・・・お前、乳輪でかいな。ホントに処女か」
「そ〜だよ?だってアクアはこくよ〜一筋だもん」
「・・・・・・」
「こくよ〜にアクアのバージンあげる〜」
「・・・いらねぇよ、バカ」
夜が更けて。
ベッドを占領して眠るアクアの傍らで。
丸くなった銀の獣。
(・・・コイツ大丈夫なのか・・・)
この夜に限ってのことではない。
毎晩、繰り返し思うことだった。
サンゴと同じ紅い瞳。
サンゴと同じ運命。
としたら。
(あと5年・・・)
アクアは瞳の色が後天的に変化した。
翡翠色から紅色へと。
ある日突然紅くなったアクアの瞳。
それがカラーコンタクトによるものだということをコクヨウは知らない。
・・・コクヨウの気を引くためにアクアが考えた作戦なのだ。
「サンゴの欠片・・・」
メノウが自分の子供や孫達をそう呼ぶので、すっかり耳に残ってしまった言葉。
“サンゴのいない世界で、メノウが笑っていられる理由”
なんとなくそれがわかりかけてきたところだった。
「サンゴ・・・ごめんな」
アクアに身を寄せ、伝えられなかった想いを呟いて。
「・・・って、コイツに謝ってもしょうがねぇか」
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