「アクア、学校辞める」


アクアの唐突な発言。
とある金曜日。学校から帰ってすぐのことだった。
「ハァ?何言ってんだ?」
冗談じゃないと思う。
アクアが学校へ行っている時間こそが唯一の安息なのだ。
「だって勉強全然わかんないもん〜」
「授業ちゃんと聞いてねぇからだろ!」
しかもアクアが家で勉強をしているところを見たことがない。
「学校辞めてどうすんだよ!?」
「こくよ〜と結婚する」
「バカ言え!!なんでそうなんだよっ!!」
学校のことでとやかく言える立場でないことはわかっている。
自分も学校や勉強とは縁のない生き方をしてきたのだ。
純血の子供を作ることを強要され、サンゴと城に閉じこめられたのが16歳。
それ以前も喧嘩で停学の繰り返し・・・ロクに学校へは行っていなかった。
勉強もした覚えがない、と、いうのに。
「とにかく学校は辞めるな!!いいな!」
矛盾を自覚しながらも反対する。
(アイツ等に知れたらメンドくせぇ)
アクアのことで、メノウやコハクがしゃしゃり出てくると厄介だ。
簡単に承諾する訳にはいかない。
「むぅ〜・・・」
アクアはすこぶる機嫌が悪かった。
「も〜・・・こくよ〜とえっちする!絶対する!」
どういう流れか、そんなことを言い始め、制服から下着まですべて脱ぎ捨てる。
「で、責任とってもらうから〜」
「知るかよ!そんなこと!!」
無茶苦茶もいいところだ。
ヒトの気持ちを無視するにも程がある。


「!?」


獣のコクヨウを抱き込んで、アクアが呪文を唱えた。
それはコクヨウを本来の姿に戻すもので、効果は100%・・・
ほどなくして長身の美顔が現れた。
「お前・・・っ・・・!!何を・・・っ!!」

ジャラッ・・・

先日嵌められた首輪はそのまま、人型に戻ったコクヨウの首にあった。
やはりそのせいで本来の力が出ない。
コクヨウは衣服すら与えられない奴隷のような格好で床に座り込んでいた。
「こくよ〜はアクアのものなの。アクアのド・レ・イ♪」
「!?誰が奴隷だ・・・おいっ!!」
首輪の鎖を手繰り寄せたアクアが唇で唇を挟み込んだ。
「ふ・・・ざけん・・・なっ!!」
大人しく犯られてたまるか!とコクヨウが激しく抵抗する。
しかし、アクアの力が強いのか、コクヨウの力が弱いのか、全く意味を成さなかった。

ちぅ〜・・・・・・っ。

唇を散々吸われ、絶句。
獣の時と同じようにズルズルと引きずられ・・・ベッドの上。
(ちくしょ〜・・・力が入んねぇ〜・・・)
「ふふふっ♪」
「嘘だろ・・・やめろ・・・おい・・・」
アクアが手に持っているのは手錠。
実家から持ってきたのだと、楽しそうに笑っている。

昔、サンゴにした仕打ちを今度は自分が受けるのか・・・

情けなく、やるせない気持ちになって、両手をベッドの縁に繋がれる。
「ママがね、パパにこ〜してるとこ見たの」
コクヨウに乗り掛かったアクアが狙うのは、当然、男の性器。
「手錠はアクアの趣味だけど〜」と、鍵を窓から外へ放り投げて、男根をまさぐる。
「っ・・・触んなっ!!」
もはや絶望的。いくら怒鳴ったところで、逃れる術は・・・ない。
「アクア、色んな事知ってるよ?」
「わ・・・ぁ」
アクアの手の中で息づく熱い塊。
遠目から父親のモノを見たことはあるが、実際触れるのは初めてで。
まずは頬ずり。
「コレがアクアを気持ちよくしてくれるんだね〜・・・」
はじめまして、と、挨拶のキス。

ジュルッ。キュッ。チュッ。

見様見真似のテクニックではあるが、アクアは舌と唇を駆使してコクヨウの肉棒を吸い、締め付けた。
「・・・っ・・・!ちくしょぉ〜・・・」
払いのける力も出ない。
舐められ放題。吸われ放題。
コクヨウの肉棒はたちまちアクアの唾液にまみれた。
アクアは自らの唾液で濡れた愛しい肉棒を両手で握り、上下に擦り上げた。
「こぉ〜んなにパンパンになってるよぉ〜?」
男性器のことをよく知っているアクア。
兄に勧められ、両親のセックスを覗き続けた賜物である。
「こくよ〜のえっち〜」
その微笑みは愛らしく、邪悪で。
「バカッ!!やめ・・・っ!!」
吸血鬼としてはまだ若いコクヨウ。
溜まったものに制御が効かない。
脈動する肉棒。
アクアが射精を促すように舐め回す。
「アクア、こくよ〜の飲みた〜い・・・」
れろり。と、強く舌で刺激されたのがトドメになった。


「うっ・・・サンゴ・・・っ!!」


「!!!」
サンゴの名と共に噴きだし、激しく飛び散った精液は、アクアの顔面に直撃した。
「こくよ〜のバカっ!!!」
コクヨウが叫んだ名は当然アクアを激怒させた。
愛の作業を打ち切って、アクアが部屋を飛び出していく。
「おいっ!!待て!手錠を・・・!!」


「馬鹿野郎・・・これじゃ追いかけることもできねぇだろ・・・」


(あ〜・・・くそ〜・・・)
繋がれたまま、自己嫌悪と反省。
射精の瞬間に他の女の名前を呼ぶなんて最低だ。
アクアが怒るのも無理はないと思う。
「・・・ちくしょう・・・」
サンゴに向けて、それこそ枯れる程出し続けてきたから、どうしても最後の瞬間に頭を掠める。
サンゴの顔と名前が。
「だからヤだったんだよっ!!」



それから・・・どれほど時間が経ったのか。

眠っているのか、そうじゃないのか、自分でもわからない時間が流れた。
「サ・・・ンゴ?」
それは間違いなく夢か幻。
ユラユラと曖昧な輪郭がコクヨウを覗き込んでいた。
波打つ長い銀髪と真っ赤な瞳だけが妙に鮮やかで。
「・・・コクヨウ・・・」
「・・・サンゴ?サンゴなのか?」
答えはない。


「・・・私の・・・愛する人達と・・・共に生きて・・・命を・・・繋いで」


「サンゴ・・・それがお前の望みなのか・・・?」
切ない表情でコクヨウが見上げる。
戸口に潜むソックリ親子の存在に気付かぬまま。
サンゴと同じ声を持つヒスイの手には脚本。
メノウの手には小さな壷が乗っていて、そこから妖しい香気を漂わせている。
幻覚を見せる魔法の粉を焚いているのだ。


「この世界で、メノウ様と生きて、幸せだったの、私、とても」


「サンゴ・・・」
「だから・・・貴方も幸せになって」
懐かしいサンゴの声。
優しく宥める口調も昔と違わず。
「・・・好きな子を泣かせちゃ・・・だめよ?」

その瞬間。人型から獣の姿へ。

もちろんそれも脚本の内。メノウの仕業だ。
形状の変化した腕はスルリと手錠を抜けて。
「サンゴ・・・酷いことばっかして・・・ごめんな」
そう言い残すと、コクヨウはサンゴの幻を背に駆け出した。


愛されないことが悔しくて。


乱暴に気持ちをぶつけることしかできなかったあの頃。


「・・・傷付けて泣かせるのは・・・もうたくさんなんだよ」




そしてメノウとヒスイ。

「やったね!お父さん!」
「作戦大成功っ!」
ソックリ親子が手を叩き合って喜ぶ。
「それにしても、嬉しいアドリブ入れてくれたよな〜」
首謀者であり、脚本家でもあるメノウが苦笑いする。
メノウ作の脚本を広げていた筈なのに、ヒスイの口から出たのは全く違う台詞だったのだ。
「それがね、なんか、口が勝手に・・・」
「口が勝手に?」
反芻したメノウが嬉しそうに目を細める。
「じゃあきっと、サンゴだ」
得意顔で言い切って、そっとヒスイの銀髪を撫でた。
(おかあ・・・さん・・・)


お父さんの言うように、私達はお母さんの欠片を持って生まれたから。
お母さんは私達ひとりひとりの中で、ちゃんと見守ってくれているのかもしれない。


みんなが、幸せになるように。



「あの二人、うまくいくかな?」
一度も振り返らずに走ってゆくコクヨウを見送って、ヒスイが呟く。
「絶対うまくいくよ」
自信たっぷりにメノウが答えた。


「誰だって、愛されたいに決まってる」



銀色の獣が走る。
首輪をしているために傍目からは犬にしか見えない。
(アイツ、素っ裸でどこ行ったんだよ!?)
まだ空も明るく、目立つというのに。
(そうだ!アイツの匂いを・・・)
今こそ犬の本領を発揮する時だ。
「・・・オレは犬じゃねぇ・・・犬じゃ・・・」
そう言いながらも、鼻をクンクン。
アクアの匂いはすぐにわかった。
コクヨウはアクアの匂いを辿って再び走り出した。




帰るのは結局両親のところ。

アクアが向かったのは、エクソシストをしているコハクとヒスイの部屋だった。
同じ寮内。しかし現在は殆ど使われていない。
何かあった時にとコハクから鍵を渡されていたが、コクヨウの部屋に置いてきてしまったので力任せに扉を破壊し、入室。
「・・・ママ小さすぎ〜・・・」
クローゼットで服を探すも、ヒスイのものは小さすぎてどうにもならない。
サンゴ同様アクアも背が高く大柄だった。


「アクア・・・っ!!」


そこに銀色の犬が走り込む。
「こくよ〜が・・・名前・・・呼んでくれた・・・」
初めての響きに、感動。
先程までの怒りはどこへやら、だ。
「ヒトに戻せ」
「え〜??」
「いいから早くしろ!」
「うん〜」
コクヨウに強く示唆され、アクアが呪文を唱える・・・
獣からヒト型へ。
戻った瞬間、コクヨウはアクアを抱きしめた。
「こ・・・くよ?これって・・・」
「・・・・・・」
「・・・アクアのこと、“好き”ってこと?」
「・・・・・・」
照れ臭く、素直に好きとは言えなくて。
コクヨウはアクアを抱く腕に精一杯の力を込めた。
「・・・もう、名前間違えない?」
「・・・間違えねぇよ」
(これでいいんだよな・・・サンゴ)



ベッドの上でアクアと唇を重ねる。

(サンゴに優しくしてやれなかった分まで・・・コイツを大切に・・・)
大きく開かれた両脚の間に腰を入れて、アクアの喉元や胸元に音をたててキス。
キス。キス。キス。
優しくキスの雨を降らせる。
巨乳の扱いには慣れていた。
キスをしながら右手をアクアの乳房にあてがい、若々しい膨らみを揉み込んでいく。
「う・・・ん・・・こくよぉ〜・・・」
ツンと上を向いた乳頭を口に含んで吸い上げ、舌で撫でると、アクアは大袈裟なくらいに体を仰け反らせて悦んだ。
15歳。しかしその姿は、罪なほど淫らで艶めかしい。
乳首の愛撫から徐々に下へとくだり、アクアの太股を舐めるコクヨウ。
体の入口が愛液で濡れていることを確認して・・・
「・・・いいのか、オレで」
「いいよ?だってアクアにはこくよ〜しかいないもん」
「アクア・・・」
アクアがこれまでで一番可愛く見えた瞬間だった。


「あ・・・っ・・・イタ・・・っ!」


「ん?痛いか?なら・・・」
初挿入の痛みを訴えるアクア。
少しでも痛みを和らげようとコクヨウが口で愛撫を加える。が。
「イタタ・・・っ!コンタクトがズレた〜・・・」
「おい・・・今、何て言った・・・?」
「コンタクトが・・・あ・・・」
「さてはお前・・・騙したな?」
「えへへへっ」
「えへへじゃねぇよっ!!ふざけんなっ!!!」
(ヒトがどんだけ心配したと思ってんだよっ!!)
「あっ・・・こくよぉ〜・・・待って〜・・・」
怒り、頂点。コクヨウはベッドから去った。
アクアが慌てて後を追う。
「ね〜・・・こくよ〜・・・最後までえっちしよ〜よ・・・」
「やんねぇよ!!んなモンは中止だ!!」


アクアの瞳は、メノウやヒスイと同じエメラルドグリーンだったのだ。


「・・・教科書出せ」
素早く服を着たコクヨウが、両腕を組んでアクアに詰め寄る。
アクアの肉体は、あと5年で滅びてしまうと、密かに思い詰めていたコクヨウ。
ホッとしたと同時に仕返ししてやりたくなった。
勉強が苦手なアクアにささやかな嫌がらせ。
「え〜?なんで教科書なんか・・・」
「勉強すんだよ!オレも付き合ってやるから、学校へはちゃんと行け!いいなっ!?」



数時間後。

「ほらっ!ここがこうなって、こうなるだろ?」
「わかんな〜い」
「何でわかんねぇんだよ!何回も説明してんだろっ!!」
「こくよ〜こそ何でわかるの〜?学校行ってないのに〜・・・」
「こんなの教科書読みゃわかんだろっ!!」
「・・・こくよ〜って・・・頭、良かったんだ〜・・・」
てっきり馬鹿だと思った、と断言して、露骨に感心。
「ますますお似合いだね〜」
「誰と誰がだ?」
コクヨウの額にはすでに青筋。
「こくよ〜と、アクアっ」
「んなコト言ってる暇があったら勉・強・し・ろ!!」
赤点の山。留年スレスレ。
嫌がらせのつもりが、内情を知れば知るほど心配になってくる。
「でもアクア、お料理も、お掃除も得意だから〜。いいお嫁さんになるよ〜?」
確かにそうなのだ。
アクアが部屋に来てから、食生活を中心に潤っていた。
家事に関しては気が利くのだ。本当に良く尽くしてくれる。
「・・・とにかく、あと一年粘れ」
「!?」
察しのいいアクアは中学卒業後の進路を勝手に見出した。
「ちゃんと卒業したら、アクアと結婚してくれるの?」
「・・・考えとく」
「わぁ〜い!!!」



怒鳴り散らしながらも。

“愛されること”が、嬉しくて。

きっともうこの愛を手放すことなんてできないから。



「ただいま〜!」
繰り返される幸せな日常。
学校から帰ったアクアはすかさず服を脱いで獣のコクヨウに跨る。
頭の中にはもうソレしかない。
「ね〜こくよ〜キスしよ〜」
「なら元に戻せ」
「このままでい〜・・・ん〜っ・・・」
ズラリと並ぶ牙の間を縫って、器用に舌を絡めてくるアクア。
「ね〜・・・このままえっちしちゃおうか〜」
「しねぇよ!!それじゃ獣姦だろ!」
「愛があるから、いいんだも〜ん」
コクヨウの体毛を指で梳いてアクアが耳元で囁く・・・


「こくよ〜はねぇ、アクアの奴隷なの。愛ある、イマドキのド・レ・イ♪」




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