「・・・・・・」「・・・・・・」
サルファーとアザゼル。
302号室に戻れば、待っているのは原稿だ。
タンジェはトーンの買い出しに出掛けていた。
明日には入稿しないと、印刷が間に合わない。喧嘩などしている暇はないのだ。
お互い、殴り合った傷がまだ残っているが、席に着いて、ペンを握る。そこで。
「サルファー氏、酷いですぞ・・・」
アザゼルのビン底眼鏡は粉々に割れていた。伊達なので、支障はないが。
「父さんの分も殴っといたからな」と、サルファーが言い返す。
ヒスイ監禁罪。コハクが知れば、ただでは済まない。
先に罰を与えておけば、死亡は免れるだろうと思ってのことだった。
「・・・お前が言ってたサークルって、熾天使被害者の会のことだよな?」
ヒスイにペラペラ喋っていたのを、勿論サルファーも聞いていた。
「話せよ、昔、何があったか」
「・・・ふ〜ん、そういうことか」
「神に最も愛されていた熾天使を、皆、妬んでいたであります」
他の天使の追随を許さない、完璧な容姿と頭脳、圧倒的戦闘力・・・
贔屓だ!!と、アザゼルが机を叩く。
「・・・・・・」
堕天するくらいだ。熾天使被害者の会メンバーの性格は、難アリなのである。
しばらくして、サルファーが口を開いた。
「あの女は、いつも馬鹿みたいなことしか言わないけど。今日のあれは、正解だと思うぜ」
『結局、みんな、お兄ちゃんのこと好きなんでしょ!?』
「“妬み”は“憧れ”に近い」
そして、“憧れ”は“好き”に含まれる。
「僕も少し、わかる。父さんみたいになれたら・・って思うけど、程遠いからな」
「サルファー氏・・・」
喋っていても手は休めない、作家魂。
原稿は描き上がっていた。残すは、あとがきのページのみだ。
「アシスタントとして、名前、入れてやるよ」と、サルファー。
「それは光栄であります!!」アザゼルが手放しで喜ぶ。
「お前、ペンネームあったっけ?」
「ないであります。サルファー氏が決めてくだされ」
「だったら、プラズマにしろよ」
ロボ好きのサルファーらしいネーミングだ。
「・・・・・・」(プラズマですと!?)
内心、微妙。むしろ、嫌だ。しかし、サルファーには、なんとなく逆らえない。
アザゼルは、いじめられっこ気質なのだ。従って・・・
「よ、良いでありますな!!」
「拙者の名は――プラズマ!!」
などと、ポーズをつけて叫ぶが。
なんちゃって、では、終わらなかった。
「・・・サルファー氏、事件であります」
「なんだよ」
「今ので、契約が成立してしまったでありますよ」
サルファーに与えられた名を、声高らかに名乗ってしまった。
これでアザゼルはサルファー専属の悪魔となったのだ。
一方、サルファーは、特に驚いた様子もなく。
「どうせ似たようなもんだろ。用があれば呼ぶし」
共にアキハバラを追いかけて。同人誌を作って、イベント参加。
アニメや漫画について語り合い。オタクライフを満喫するのだ。
「・・・そうでありますな」と、アザゼル改めプラズマが頷く。
「しかぁし!!やめませんぞ!!ヒスイたんLOVEは!!」
「・・・・・・」(もう勝手にしろよ)
この、ちょっぴり迷惑なストーカー悪魔との付き合いは、まだまだ続きそうだ――
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