オニキスに降って湧いた、幸運。


“会いたいんだけど”


めずらしく、ヒスイの方からデートの誘い。
急ではあったが、都合をつけて、約束の場所へと急ぐ。
そこにはもう、ヒスイが来ていた。
「あ、オニキス!」
「すまん、待ったか?」
「ううん、今きたとこ」
「そうか・・・」
後の会話が続かない・・・逆転シチュエーションに、オニキスは戸惑いを覚えていた。
「・・・何か、あったのか?」
只事ではないような気がして。ついそう尋ねてしまう。すると。
「うん、あのね」
ヒスイは数日前の出来事を話し出した。



暗闇の中で、得体の知れないものと戦ったこと――

「でね、食べちゃったの」
最後にあっさりそう言って、右の手首を指した。
「何を・・・食べただと?」
「だから、ブレスレット」
「・・・・・・」
呼び出された理由はこれか、と、オニキスは悟り。
「わかった。買ってやる」
「ん!!」



二人でグロッシュラーの高級店街へ出向き、ブレスレットを購入。
「右手を出せ」と、オニキス。
「うん」ヒスイが応じる。
銀はグロッシュラーでも決して安くはないが、オニキスは一番良いものを選び、ヒスイの手首に巻いた。
「ありがと!」
「いや・・・」
ブレスレットはもとより、お守りのつもりで渡した。
こうなる可能性も、考えていない訳ではなかったが、思った以上に早かった。
「オニキス?」
「・・・・・・」(買うのは構わんが・・・)
危険な目に遭ってもらっては、困る。
「・・・もう、食うな」
「うん、ごめんね」
「そういう意味ではない」
オニキスはヒスイの手の甲に口づけ。
「・・・食う前に、オレを呼べ。何のための眷属だ」
「あ・・・うん」
「だがもし、オレが間に合わないようだったら、その時は迷わず食え。また買ってやる」
「うんっ!」



PM2:45 モルダバイトにて。

「じゃあ私、帰るね」
「ああ」
「あ、これ、今日のお礼」と、ヒスイ。
バッグから何かを取り出し、オニキスに握らせ。走って離れた。
「おい、ヒスイ。礼など・・・」
握った手を開いて、驚く。そこには・・・銀のブレスレット。
(なぜオレに?)
どういうことか、理解に苦しむ。
「それね――」
ヒスイが立ち止まり、振り返った。


「自分で買ってみたんだけど、なんか違うっていうか。やっぱり――」


「オニキスがくれたものがいいな、って!」
天真爛漫。右手のブレスレットを掲げて笑う。
「ヒスイ・・・」
男心を擽られ、自然と走り出すオニキス。
「わ!?なに?オニキス???」
追いかけて、抱きしめる、と。
今度はヒスイが驚いたようだった。だがそれも一瞬で。
オニキスの腕の中、ヒスイは得意気な顔をして言った。
「ご利益、ありそうだもん!これ」
「ふ・・・ご利益、か。あるだろう。愛がこもっているからな」
ヒスイらしい解釈に、オニキスは笑い。そして、一言。


「好きだ」


抱擁を深くして、積もり積もった想いを告げる。
同じ言葉が返ってこないのは百も承知だが。
「うん」と、ヒスイが頷く――それだけで、嬉しい。



「私、そろそろ帰らないと、おやつが・・・」
「ああ、わかっている」
わかっているが、ギリギリまで離さないつもりでいる。
(何をやっているんだ、オレは)
いくつになっても、ヒスイの前では冷静でいられない。
気持ちは出逢ったあの頃のまま。
(まったく・・・甘酸っぱい)


けれど。


こんな初恋の日々が続くのも、悪くない。




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