エクソシスト本部、最上階 ―― 司令室。

総帥セレナイトの前に並ぶのは、一級エクソシストのヒスイと・・・
同じく一級エクソシストのジスト。珍しい組み合わせだ。
「今日君達を呼んだのは、他でもない」と、総帥お決まりの文句。
直々の依頼には、厄介なものが多いのだ。
今回も例外なく・・・
「“プレナ”を、知っているだろう?」
正式名称、プレナイト。
小国ラブラドライトの姫君であり、かつてモルダバイトの王妃の座に就いていたヒスイとは、それなりに面識がある。
現在はエクソシストとして教会に籍を置いているが・・・
「実は彼女から、こんなものが送られてきてね」
そう言って、セレが公開した一通の手紙には。


エクソシストの昇格試験を受けさせろ。
尚、パートナーにはヒスイを指名する。
こちらの要求をのまない場合、教会本部を爆破する。

以上。


・・・文面からも漂う凶暴性。

それが災いし、プレナには特定のパートナーがいなかった。
何かと暴力沙汰の多い問題児なのだ。誰と組んでも長続きしない。
エクソシストの任務には、パートナー制で臨むことが原則となっている。
従って今は依頼を受けることもできず、教会の調理場で働いているのだ。
亡命同然でモルダバイトに来たため、祖国に帰る気はこれっぽっちもないらしい。
とにかく色々とこじらせている人物なのだ。
「戦闘能力はなかなかのものだがね、扱いが少々難しいのだよ。我が教会のマスコットキャラである、ヒスイ、君なら ――」
「無理」と、即答するヒスイ。そもそも、マスコットキャラになった覚えもない。
「私が人見知りなの、セレだって知ってるでしょ?」
ヒスイの人見知りをカバーすべく、ジストが呼ばれているのだが、それは後の話で。
「そう言わず、頼むよ。階級が上がれば、パートナーの志願者も出てくるかもしれない。いつまでも、ひとりで食堂勤務では気の毒だと思わないかね?」
「う〜ん・・・」
そう言われてしまうと、断りづらいのだが。
(あの子ちょっと苦手なのよね・・・)
教会内で顔を合わせる度、髪を引っ張ってきたり、スカートを捲ってきたり。
それも、ヒスイがひとりでいる時に限って、だ。
(嫌われてるとしか思えないんだけど・・・)

「オレは何すればいいの?セレのおっちゃん」と、そこでジスト。
困っている人は助ける。ジストにとっては当たり前のことなのだ。
セレ曰く、昇格試験の内容は、研究員の身辺警護で。
隣国の支部まで無事送り届けるというもの。
その研究員役にジストが選ばれたのだ。
「彼女にとっては試験だが、君達にとっては任務だ」
「わかったわ」ヒスイが承諾する。
「プレナを合格させればいいんでしょ!その代わり・・・」
お兄ちゃんを呼び出す回数を減らして!と、条件を突き付ける。
セレは苦笑いでこう返事をした。
「善処するよ」



「セレって・・・お父さんと同じ匂いがする」
司令室を出たヒスイが呟くように言った。
「じいちゃんと同じ匂い???」
大人の男のコロンの匂いしかしなかったような気がするが。
「そういうことじゃないの」と、ヒスイ。
「実際セレは大人だし、落ち着いて見えるけど・・・」
(あのひとも、面白いことが好きなんだわ、きっと)





昇格試験、当日 ――

ジストは髪を黒く染め、ノーフレームの眼鏡をかけて、研究員に変装。
白衣がなかなか似合っている。
ヒスイはツインテールで。網タイツに赤い靴。若干幼く見えるが・・・
(ヒスイ・・・可愛い・・・)
ジストは今日もデレデレだ。

そしてついに、プレナとの対面の時がきた。

「う・・・」(大きい・・・)←ヒスイ、心の声。
エクソシストの女子の中でも、一二を争う長身のため、迫力がある。
ローズピンクの髪はおかっぱだが、なぜかスタイリッシュに見えた。
年代的には、トパーズ、シトリンと一緒なので、プレナにとってヒスイは年上の先輩だが、遠慮はない。
顔を見て早々、プレナはヒスイの髪を両手で引っ張った。
「痛っ!ちょっ・・・離して・・・」
「わっ・・・ヒスイっ!?」
慌ててジストが間に入ろうとするも。
“待って!”ヒスイが口パクで止める。
ジストの正体がバレてはマズイのだ。
あくまで研究員でいてもらわなくてはならない。

プレナの手荒な挨拶に耐え。
「さあ、行くわよ」と、先を急ぐヒスイ。
一方、プレナはその場に立ち止まったまま、動こうとしなかった。
1m、2m・・・5m、と、距離が開いていく。そしてなんと。
専用武器のひとつであるクナイを構え、背後からヒスイに投げつけた。
「!!ヒスイっ!!あぶな・・・」
ジストが盾となるべく飛び出した、その時。
黒い影が過ぎり。クナイをすべて弾き飛ばした。
ヒスイの視界に入らないところまで、徹底的に。
「んっ?何か言った?」と、少し遅れてヒスイが振り返る。
・・・が、当然何の形跡も残っていない。
「・・・へっ!?あっ・・・なんでもないっ!!」
(今の・・・誰???)
あまりに素早く、姿を捕らえることができなかった。
(この任務・・・どうなってんの???)
プレナがこんな凶行に及ぶとは思っていなかったし、黒子が同行していることも聞いていない。
(もしかしたら・・・)←ジスト、深刻な心の声。


身辺警護が必要なのは、ヒスイの方かもしれない。



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