トパーズとコハクがやってきたのは、大陸地図の外。
人間界でも、文化の異なる島国だった。
モルダバイトとは、かなりの気温差がある。
雲ひとつない空から直射日光が降り注ぎ、とにかく暑いのだ。
紫外線が突き刺さるように、肌を刺激する。
「君は日焼け止めを塗った方がいいと思うよ」と、コハク。
途中、立ち寄った店で購入した、SPF100・PA+++の日焼け止めをトパーズに投げ渡す、が。
「余計なお世話だ」と、すぐさま投げ返された。
天使は基本、太陽の光に強い。コハクもそうだ。汗すらかいていない。
一方トパーズは“神”とはいえ、その肉体には吸血鬼の名残りがある。
いくら涼しい顔をしていても。
(この猛暑じゃキツイだろうに)
肩を竦め、コハクは苦笑した。



アイボリーの髪色を変える魔法薬・・・現在不足している材料は、岩塩。
この島でしか入手できない、特殊なもので。
真冬の氷点下でないと採取できない。それも、数年に一度あるかないか、とか。
「確かに今は、その時期じゃないよね」
当然、対応策があってのことと、コハクは気楽にしていたが。
トパーズと連れ立って歩くうちに、予想だにしない場所へと到着した。
「これは・・・ストリートバスケ?」
「そうだ」
トパーズが言うには。
強豪バスケットチームが、もう何年も王者として君臨しているらしい。
力を持て余した彼等は、賭けバスケを始め。日々、挑戦者を待っている―その現場に立ち入ったという訳だ。
「こいつらが岩塩を持ってる。勝てば手に入るぞ」と、トパーズ。
「了解」コハクは笑顔で相槌を打った。



ストリート、と言っても炎天下の屋外でプレイするという点を除けば、正式なバスケットの試合と変わらない。足場こそコンクリートだが、コートの造りはきちんとしていた。
ルールに則って、試合は5人対5人で行われる。
「10分で覚えろ」と、トパーズからコハクへ。
手渡されたのは、バスケットのルールブック。
コハクはページを開き、紙面に視線を落とした。
「・・・で、メンバーはどうするつもり?」
「問題ない。集めてきた」
その言葉に、コハクが顔を上げる。
軽く顎で後方を指すトパーズ。そこには確かに3名控えていた。


が、しかし。


「・・・・・・」
(何なの、この顔ぶれ)コハク、心の声。
まず目に付いたのは、ヒスイのストーカー、アザゼル。
気に食わない相手である。“ヒスイたんLOVE”のロゴがプリントされたTシャツを着ているのを見ると、殴り飛ばしたくなる。
屋敷近くでウロウロしていたところを捕獲してきた、と、トパーズは言う。
そして、続くはこの2人。テルルとスモーキーのアンデッド商会組だ。
取り上げた力を餌に、テルルを呼び出したトパーズ。
誰でもいいから、もう1人連れて来い―と、頭数合わせの追加指示をして。結果、こうなった。
コハクは、チームメイトとなる3人の顔を改めて眺め。
「・・・・・・」最悪の人選に、思わず溜息。
(なんてやりにくい・・・)
テルルとアザゼルは、何度か半殺しにした経歴があり。
スモーキーに至っては、一回殺している。
気まずい関係もいいところだ。
一体どうやってコミュニケーションを取れというのか。
「性格悪いね、君」
横目でトパーズを見て、コハクが呟くと。
「クク、自業自得だ」
トパーズは、ざまあみろ、とばかりに鼻で笑った。


【PG】ポイントガード=トパーズ
【SG】シューティングガード=アザゼル
【SF】スモールフォワード=スモーキー
【PF】パワーフォワード=テルル
【C】センター=コハク


トパーズがポジションを言い渡し。
「いいか、“人間らしく”だ」と、念を押す。
あくまでここは人間界。島の民も、選手も、すべて人間なのだ。
魔法禁止は勿論、正体がバレるようなことは、あってはならない。
天使と悪魔、そして神が・・・ストリートバスケ。
ちなみに、経験者はゼロだ。
「・・・・・・」
あまりに不利な条件に、コハクも言葉を失う。
(勝てるのかな・・・このメンバーで)


「・・・まあ、勝つしかないんだけどね」




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