「・・・・・・」
(やっぱりというか何というか)
引き続き、コハク、心の声。
初戦はボロ負けした・・・が。
幸いにも、賭けバスケであるため、賭けるものさえあれば何度でも挑戦できる。
これまた幸いにも、アンデット商会幹部、仮面の男スモーキーが良い身なりをしており。
高級腕時計、財布、ライター諸々・・・賭けるものはいくらでもあった。
(でもね、時間がないんだ)
こうして負けを重ねれば重ねるほど、ヒスイとの距離が開いてしまう。
(さっさと一勝しないと)
コハクの脳内は、今日もやっぱり“ヒスイ”でいっぱいなのだ。


そして。現在、作戦会議中・・・


「ルールを守れ、三馬鹿め」と、トパーズ。
テルル、アザゼル、スモーキー、悪魔トリオを足蹴にする。
ボールを回せば、トラベリング率100%のテルルと。
ボールを回せば、怖がって避けるアザゼル。
スモーキーは足も速く、ドリブルも上手いが、あさっての方向にパスをする。
仮面のせいで、周囲があまり見えていないと思われる。
「その鬱陶しい仮面を外せ」
スモーキーの正面に立ち、トパーズが命じた。
「フフ・・・肉体があの世へイッちゃいますねぇ、僕・・・うぉふッ!!!」
薄ら笑いを浮かべるスモーキーの腹に一発。拳を打ち込むトパーズ・・・
仮面は、スモーキーの生命維持装置のようなものであり、外すことは死を意味するに近い―のだが。
「・・・秘孔を突いた。これで貴様はしばらくイケない。仮面を外して試合に専念しろ」
「ぐふッ・・・それは有難いことで」
マゾヒズム全開で、痛みに感じているスモーキーを放置。
トパーズはコハクに向き直り。
「揃えた駒が弱い訳じゃない。後はお前の使い方次第だ。こういうのは、得意分野だろうが」
そう、吐き捨てた。
「・・・・・・」(言われてみれば・・・)
コハクはしばらく考えたのち・・・
「うん、わかった。10分くらい席外すね」と、会場を離れた。



今のうちに、と。トパーズの視線が日焼け止めを探る。しかし。
ベンチの片隅、確かにコハクが置いた筈のそこにはなく。
なぜか、テルルが手にしていた。
「・・・・・・」
奪われた日焼け止め。トパーズが無言で睨むも、テルルは全く意に介さず。
「悪魔は常に美しくなくてはの。日焼けしている場合ではないのじゃ」
青白いのが理想〜と、顔から腕まで塗りたくり。トパーズの目の前で一本使い切った。
「・・・・・・」
軽く殺意を覚えるが、今、欠員を出す訳にはいかない。
気を紛らわせようと、煙草を咥えるトパーズ。
こうしている間にも、じりじりと肌が灼かれている・・・
今回の働き次第では、力を返してやってもいいと考えていたが。
もはやそれどころではない。
(白紙決定だ。貴様は永久に会社勤めしてろ。青白い顔でな)



10分後。

「お待たせ」と、コハク。
戻って早々、トパーズの肩に腕をかけ、顔を寄せる。
「協力してくれるよね?」
内緒話としばしの共同作業の末、メンバーにお披露目されたのは。
“アンデット商会”の企業名が入ったユニホームだった。
「ほう、良いではないか」
「ああ、素敵ですねぇ」
アンデット商会勤務のテルルとスモーキーは喜びを露わに。
そこですかさずコハクが、爽やかな笑顔で言い放った。


「企業名を背負う訳だし、カッコ悪い試合はできないよね?」


「宣伝効果も抜群だ。勝てば、の話だが」と、トパーズが付け加える。
すると・・・アンデット商会組の目つきが変わった。
「どれ、ルールブックとやらを見せてみよ」
これまで好き勝手やっていたテルルが、ルールブックを熱心に読み出し、横からスモーキーも覗き込んでいる。
(さて、次は・・・)
コハクはアザゼルの傍に寄り、こう話しかけた。
「プラズマくん、だよね」
「!!拙者の名を知っているでありますか」
「うん、サルファーから聞いた」
名前を呼ばれるというのは、不思議と嬉しいもので。
“ヒスイたんLOVE”Tシャツを褒められれば尚更。親しくなった気がしてくる。
コハクを恐れ避けていたプラズマだが、コハクの言葉に耳を貸す気になったようだ。
「3Pシュートを狙って」
軽く背中を叩き、コハクが激励する。
「拙者スポーツは苦手で・・・できるかどうか・・・」
「外してもいい。リバウンドを取る。手元にボールがきたら、とにかく打って」
弱気な発言をするプラズマを、優しく穏やかな口調で説得し。
コハクはこんな質問をした。
「プラズマくんは、バスケット漫画を読んだことがある?」
「あ・・・あるであります」
「だったらわかるよね?3Pシューターの重要さが。君にぴったりのポジションだと思うんだ」
「や、やってみるであります!!」
オタク心を刺激されたプラズマは、急にやる気になって。
居ても立っても居られなくなったのか、自らシュート練習に入った。
ちなみにコハクは、バスケット漫画を読んだことがない。
3Pシューター云々は、鎌かけである。

「そうそう、君にはこれね」と、コハク。
今度は、トパーズにあるものを手渡した。
「・・・馬鹿にしてるのか」
トパーズが声を低くする。
受け取ったレシートの裏が、コハクお手製の“おはなし券”になっているのだ。
「馬鹿にしてる?とんでもない」と、コハクは笑い。
「君の知らない、ヒスイの昔話をしてあげよう――これはその誓約書だ」
“おはなし券”には、“勝ったら有効”と書かれている。さすがにぬかりはない。
「・・・いちいち手の込んだことしやがって」
言いながら、レシートをひったくるトパーズ。
「どう?やる気が出てきたでしょ?どんな形であれ、モチベーションを上げるのは大切なことだよ」
「負けっ放しが性に合わないだけだ。オレも暇じゃない。さっさと終わらせるぞ」
「くすっ、了解」



「次は勝つ!!」×5
それぞれに、負けられない理由ができた。
試合開始直後は、取ったり取られたりのシーソーゲームだったが。
スモーキーが華奢な体でファウルを誘い、相手のペースを乱すと。
テルルがリバウンドに競り勝つようになり。
プラズマの3Pシュートが成功し始めた。
トパーズが器用にパスを通し。コハクが確実にゴールを決める。
ポストを揺らすダンクシュートから、アリウープ、レッグスルーに至るまで・・・ルールブックに載っていた様々な技を使い、得点を挙げ―30点以上の差をつけて勝利。岩塩を手に入れた。
王者の敗北はビックニュースである。しかも相手は謎の素人軍団。
そのユニホームに刻まれたアンデット商会の名が、島じゅうに知れ渡るのも時間の問題だ。
人が集まる中、チームは解散。


「それじゃあ、僕はこれで。お疲れ様」


岩塩をトパーズに託し、コハクは先を急いだ。
(なんだか妙な気分だなぁ)
手のひらに、微かな痺れが残っている。
相容れない者達が、ひとつのボールで繋がっていた時間。
「僕達の関係が変わるわけじゃないけど」
(この感覚が残っている間は、チームメイトってことで)
「うん、なかなか楽しかった」



“ヒスイたんLOVE”のTシャツも頂いたことだしね。※無断で。



岩塩を巡るスポーツの祭典は――これで、おしまい。




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