「サルファー!!」
加勢のつもりで、タンジェは戦いに身を投じた。
サルファーの隣に立ち、アデューの視線を遮る・・・それだけで、体温低下の呪術は無効化できる。
そうと知っての行為ではないが、愛する男の危機に、反射的に体が動いたのだ。
「・・・お前、どういうつもりだよ。いきなりいなくなったかと思えば」
サルファーは、タンジェもまた『サルファーにお仕置きし隊』のメンバーと解釈したようだった。
「わざわざ迎えに来てやったのに」
「女って、何考えてんのか、わかんねー」
うんざりと、そう吐き捨てるサルファー・・・
するとタンジェは。
「わからなくて当然ですわ!!」
ヒステリックな声で言い返し。場が静まりかえる。
シトリンもアクアもアデューも、攻撃の手を止め。
コハク、ヒスイ、ジストも黙って見守っている。
そして続く言葉・・・
「わかろうとしないんですもの!!」
「何だよ、それ」
「わたくしはっ!!サルファーのこと、何でも知っておりますわ!!」
喜ぶこと、好きな食べ物、お気に入りの漫画、服の好みも、全部。
「けれどサルファーは、わたくしのこと、何も知らないのではなくて!?」
タンジェにそこまで言われ、沈黙・・・するかと思いきや。
「知ってるぜ。お前の好きなものぐらい」
「僕だろ」
サルファーは真顔で。堂々、俺様発言。
「な・・・」
シトリンをはじめ、ヒスイ、ジストは唖然。
コハクとアクアは笑っている。
アデューは興味深そうに、様子を窺っていた。
「・・・・・・」
言い返せなくなったのはタンジェの方で。
「その通りですわ」
極限に赤く染まった顔で俯く。
恋愛に於いてドMのタンジェは、胸がキュンキュンしてしまっていた。
「・・・顔、あげろよ」と、サルファー。
「ああ・・・サルファー!!」
涙ながらに、熱い抱擁を交わす。
「わたくしが悪かったんですの!ごめんなさい・・・」
「・・・あれでいいのか?鳥肌が立つんだが」
誰に、という訳でもなく、シトリンが呟やいた。
ヒスイも渋い表情をしていたが、「まあまあ」と、コハクがキスで機嫌を取っている。
そうこうしているうちに。
「シトリン!!」
ジンがアイスパレスに駆け込んだ。
「アクア・・・っ!!」
負けじとコクヨウも走り寄る。それから・・・
「・・・・・・」
トパーズと、もうひとり。牽引者である、セレナイト。計4名が合流した。
「シトリン!無事だったか!?」
「おお!ジンか!この通り無事だ!心配をかけたな!」
「アクア・・・お前・・・元気そうじゃねぇか」
「ん〜、まね〜、楽しかったよぉ〜」
「ヒスイ、怪我はないかね」
「さりげなく混ざるな。タヌキオヤジ」
・・・ヒスイ周辺が定員オーバーだ。
「フッ・・・迷惑をかけてしまったお詫びに、それぞれ部屋を用意しよう。休んでいくといい」
と、アデュー。反省と友愛の証として、そう申し出た。
アイスパレスは確かに美しいところだった。
素晴らしい景観だ。一流のホテルとして利用できる。
すべてが氷でできているのに、寒さや冷たさを感じないのは、アデューの緻密な魔力コントロールによる。
「そうさせていただきませんこと?」
ご奉仕いたしますわ――サルファーの耳元で囁くタンジェ。
発情の香りを漂わせながら、サルファーに身を擦り寄せ、若々しい巨乳を押し付ける。
「もちろん、これで」
「いいぜ。好きなだけいたぶってやるよ」
「嬉しいですわ」
仲直りしたらしい二人を、雪像のベルボーイが部屋まで案内する。
それを見ていたシトリンが。
「よし!私も久しぶりにやってやろう!娘に負けてはいられんからな!」
「え!?シトリン!?ちょっと待ってくれ〜・・・心の準備が・・・」※嬉し過ぎて※
「遠慮するな!さあ、いくぞ!!」
ジンを引き摺って、ベルボーイに続く。
「ね〜、コクヨ〜、アクア達もぉ〜、パイズリの続きしよ〜」
「・・・・・・」
逆らうだけ無駄と悟っているのか、コクヨウは黙って引き摺られていった・・・
残されたヒスイは・・・
「・・・・・・」(足りない・・・)
己のなだらかな貧乳を見下ろし。それからコハクを見上げた。
「お兄ちゃん、あの・・・私も・・・大人のカラダにしてくれたら・・・おっぱい、何とかなるかもしれないけど・・・」
「ヒスイはそのままで充分だよ」
「そう・・・かな???」
「そうそう」
ちゅっ。ヒスイの目元にコハクがキスをすると。ヒスイはくすぐったそうに笑った。
「ね、ヒスイ、僕等も休んでいこうか」
「ん・・・」
ところがそこで。
「ヒスイ君のパートナーは4人かね?フッ・・・見かけによらず、体力があるようだ」
大きなベッドを準備しなくては、と、余計な気を利かせるアデュー。
「!?違うってば!!」
ヒスイが慌てて否定するも。悪ノリしたセレが・・・
「では行こうか、ヒスイ」
コハクの腕の中にいるヒスイに手を伸ばす。
その手は当然、コハクが叩き落とした、が。
その隙にトパーズがヒスイの腕を掴み、コハクの懐から引っ張り出した。
「!!兄ちゃん、だめだよっ!!」
しかしそこでジストが止め。
「父ちゃんに返さないとっ!!」
兄弟親子でヒスイの引っ張り合いになる。
「ちょっ・・・やめ・・・」
「ヒスイ、こっちだよ」と、コハク。
「こっちへおいで、ヒスイ」と、セレ。
「こっち来い、ヒスイ」と、トパーズ。
「ヒスイはこっちだっ!」と、ジスト。
方々から手を出され。
「っ〜!!!もう帰るっ!!!」
アイスパレスでの休憩を放棄し、逃げ出すヒスイだったが・・・
「!?ひぁ・・・」
足が縺れ、積もった雪の中へ全身ダイビング・・・
ヒスイの型が取れるほど、すっぽり埋まった。
「・・・・・・」(なんでこうなるの?)
「ヒスイっ!!」
コハクが抱き起こし、雪を払う。
「大丈夫?痛いところない?」
「うん。平気」
ぎゅっ・・・コハクに抱き付くヒスイ。
もはや誰も寄せ付けない雰囲気だ。
「くすっ、帰ろうか」
「うんっ!」
コハクとヒスイ。以下、トパーズ、ジスト、セレ。
5人は一足先に帰路に就くことにした。
アデューに許可を得て、アイスパレス入口に魔法陣を描くヒスイ。
いつものようにしゃがみ込み、ステッキの柄でガリガリ・・・
「そんで、結局、何だったの???」
今になって、ジストが言った。
「う〜ん、そうね・・・」
ヒスイは手を止め、タンジェの姿を振り返った。
おかげで散々な目に遭ったが。
恋に一生懸命で。欲求不満な、モルダバイトの姫。
(今頃サルファーとえっちしてるかな?)
ヒスイは、ぷぷぷ、と、笑い。それからこう答えた。
「ちょっとえっちな、お姫様の話――なんじゃない?」
PINK PRINCESS――HAPPY END!
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