アイスパレスに到着した男子一行。
コハクを先頭に、サルファー、ジストと続く。
「・・・・・・」(ヒスイを氷の像にしてたら殺ス!!)←密かに殺気立つコハクの心の声。
スノープリンスに兄がいることは村人から聞いていた。その性癖も。
“彼”に攫われるということは、“美しい者”の証明であり、名誉である。
この地方では、そう言い伝えられていた。
教会に被害届が出なかったのも、そういった理由からと推測される。
「もしもし?あ、兄ちゃん?うん、もうすぐヒスイと合流できそうなんだけど・・・場所はええと・・・」
ジストは言い付けを守り、トパーズに連絡。
サルファーは不機嫌そうに黙って歩いた。
そして・・・
「よく来たな!男どもよ!」
シトリンの声がアイスパレスに響く。
愛鎌を振り翳し、まるで此処の主がごとき風格だ。
・・・若干、そんな自分に酔っている。
『サルファーにお仕置きし隊』は、すでに戦闘陣形を組んでいた。
前衛はシトリンとアクア。
後衛はヒスイとスノークイーン・・・真の名はアデュラリア、愛称はアデューだ。
隊の結成に伴い、互いに名を明かし。不思議な絆が生まれていた。
「サルファー!!前に出ろ!!貴様に天誅を下す!!」と、シトリン。
どうもこういったノリが好きらしい。
「はぁ?何だよ、それ」
全く意味がわからないが。
「売られた喧嘩は買うぜ?姉さん」
サルファーもハルベルトを構えた。
「姉弟喧嘩はダメだよっ!!」
慌ててジストが止めるが、両者、耳を貸さない。
「・・・・・・」(どうなってるの?これ?)と、コハク。
攫われた筈の女子達が、敵と一致団結・・・謎の展開だ。
しかし今はそれよりも。
「お兄ちゃん・・・っ!!」
「ヒスイ・・・っ!!」
陣形を抜け=戦いを放棄し、ヒスイが駆けてくる。
コハクも同じようにして駆け寄り、二人、抱き合う。
「のぁっ!?母上!?」
後方支援を期待していたシトリンは、ヒスイの離脱に動揺をみせたが・・・
「やるのか、やらないのか、はっきりしろよ」
逆にサルファーに焚き付けられ。
「やるに決まっている!!いざ尋常に勝負!!」
「なんかね、サルファーが色々酷いから、お仕置きするんだって」
コハクの腕の中で安心しきったヒスイが、『サルファーにお仕置きし隊』結成までの経緯を説明した。
「父ちゃん!」と、そこでジスト。
「戦い始まっちゃうよっ!?」
「うん、まあ、いいんじゃないかな。所詮は姉弟喧嘩だし」
一発殴る!くらいの感覚だろうから、しばらく様子を見よう、と、コハクが言った。
「じゃれ合ってるだけだよ」
そう続けるヒスイも暢気なものだ。
「・・・・・・」(そうかもしんないけど・・・)←ジスト、心の声。
獰猛な獣達のじゃれ合いに思えてならない。
怪我人が出ないことを祈るジストの傍ら。
勇んだシトリンは、作戦B!と称し。
アクアとアデューに視線を送った。
線で結ぶと三角形・・・その中心にサルファーを囲うようにして、それぞれ配置につく。
サルファーが圧倒的に不利な状況にも見えるが、エクソシスト1級の実力は侮れないのだ。
シトリンとアクアが同時に攻撃を仕掛けた。
一方、サルファーは、ハルベルトの柄でトン・・・ッ、と、地面を突き。
自身の周辺に烈風を起こす。
その風圧で二人の攻撃を同時に弾いた。
「やるぅ〜♪」
軽く口笛を吹くアクア。
「ふ・・・やるな」
不敵に笑うシトリン。
一打目こそ防がれたが、怯むことなく、間合いを詰める。
待っていたとばかりに、今度はサルファーが、ハルベルトを斜め下へと振りおろし、姉妹の足元を狙った。
体勢を崩させるための攻撃だったが・・・
「よっ、と」
「はっ!!」
二人は華麗に躱して。
こんな具合に、どちらの攻撃もヒットしない中。
「アデューちゃん」
「アデュー!!!」
美人姉妹が声を揃え、呼び掛ける。
「OK、OK、任せたまえ。戦いは好まないが、美しい女性を守るのも、美しい男の役目というもの、フッ・・・」
まずは兵力を提供しよう、と。魔法で兵を造り出す。
弟スノープリンスは“雪だるま”だったが、美を愛するスノークイーンが使役するのは、リアルな8等身の雪像だ。
対するサルファーは。
「どっちにしろ、雪の塊だろ?なら、容赦しないぜ」
片っ端から撃破していくが・・・
驚くべきことに、その雪像は“学習し、受け継ぐ”性質を持ち。
新しく造り出されるたび、能力が上昇してきた。
ただの雪の塊ではない。ついには、サルファーの攻撃を避け始めた。
それに加え、シトリンとアクアの猛攻。
更にアデューがサルファーの体温を奪う呪術を放つ。
「死なない程度」と、アデューは言うが、この手の術は厄介で。
徐々にサルファーの動きが鈍くなる。
唇の色もやや紫がかり。さすがに分が悪そうだった。
見兼ねたタンジェが飛び出す。
(このままでは危険ですわ!!)
「サルファー!!」
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