「本日ハ、お忙しい中お集まりいただき、アリガトウゴザイマス」
「それでハ、百物語ならヌ、恋物語ヲ始めマス♪」
外国語教師らしく、ハキハキとした口調で、サファイアが言った。
ここは、理事長室。
普段はトパーズが使用しているが、女子会のため、本日は貸し切りだ。
集まった女子メンバーは、ヒスイ、ルチル、ジョールの花嫁組と、シトリン※人型※、タンジェ母娘。
そして司会のサファイア、計6名だ。
女子会向けの大人可愛いテーブルセットが用意され、アロマキャンドルが6つ。
それぞれに火が灯っている。
百物語の雰囲気に似せつつ、怪談の代わりに恋バナをする場なのだ。
皆、さほど深く考えずに集合したが・・・
これからひとりずつ、赤裸々トークをする羽目になるのだった。
「さて、では、どなたカラ発表して貰いましょうカネー」
「・・・・・・」×5
立候補者は誰もいなかった。
「仕方ナイですネー」
こういう時は、くじ引きだ。すると必然的に・・・
「・・・・・・」←ヒスイ。
くじ運が悪いヒスイが一番手となった。
「話すことなんて・・・」と、ヒスイは困った顔をしていたが。
「初めてノ、エッチのお話でイイデスヨ」
サファイアに仕切られる。
「お話しないト、終わりませんヨ?」
「・・・・・・」
ヒスイは渋々、状況を受け入れ、サファイアにナビゲートされながら、語り出した。
「痛かッタですカ?」
「ううん」
「血ハ出ましたカ?」
「よく覚えてない」と、ヒスイ。
それほど夢中だったのだと話す。
「頭ではわかってたつもりだったんだけど、お兄ちゃんが急に男のヒトになって、びっくりしちゃって・・・ちょっとパニックだったかも」
懐かしそうに、肩を竦めて笑う。
「ヒスイさんでも、そういうことあるんですね」
ジョール、感動の眼差し。
「誰だって、初めてはあるわけだし・・・」と、ヒスイは照れながらキャンドルを吹き消し。
二番手のルチルに、恋バナのバトンを渡した。
「え・・・あの・・・」
職業柄、人前で話すことには慣れているが、内容が内容のため、すらすらとは出てこない。
俯き、ハンカチで汗を拭っているルチルに、サファイアが言った。
「お悩みなどデモ、イイデスヨー」
「悩み・・・ですか」
実は――あるのだ。
ルチルは覚悟を決め、自身の記憶の蓋を開けた。
「ルチル――ルチル」
「は・・・はい」
ベッドの上、ラリマーと二人。
控え目に拡げたルチルの両脚の間から、ラリマーが顔を上げている。
その唇は愛液で濡れていた。
「どうしたのです?」
「いえ・・・あの・・・」
“智”の天使に、口で尽くされることの畏れ多さといったらない。
感じてしまうのも申し訳なく、声を抑えるルチル・・・
「快感はないのですか?」と、ラリマー。
真剣な顔で、続けて言った。
「女性はこうすると悦ぶのではないのですか?」
「――嫌ではないんです。嫌ではないんですが・・・」
天使は、彼は、美しすぎる。不安になるほどに。
皆の前で、複雑な女心を明かすルチル。
「わかります」
ジョールが賛同するなか、ヒスイが言った。
「ラリマーって、真面目すぎて、時々変な方向にいっちゃうのよね。何でも理詰めにしたがるから、大変でしょ」
「そうなんです」
ラリマーは学びに熱心で。
ルチル曰く、保健体育の教科書からセックスのハウツー本まで、徹底的に読み込んでいるのだという。
「でもそれって全部ルチルのためだよね」と、何気なくヒスイが口にする。
一方で、タンジェが。
「尽くされるのに気が引けるのでしたら、ご自分から、尽くすべきですわ」
「尽くす?あの・・・どうやって・・・」と、ルチル。
性の知識はそれなりに持ってはいるが、咄嗟に思い浮かばない。
純情乙女ジョールに至っては、全くわかっていない様子・・・
対するタンジェは不思議そうに。
「どうやって、って・・・お口でですわよ?」
「!!」
思い当たったルチルは一気に赤面。
「ルチルさん?」
完全に遅れを取ってしまったジョールはオロオロ・・・そして先輩花嫁のヒスイを見る。
若干上擦り気味の声で・・・
「ヒスイさんは、されているんですか!?」
「えっ!?あ、うん。覚えたての頃はよくしてたよ」
とはいえ、何もしなくてもコハクが気持ち良くしてくれるため、近年ではその機会もめっきり減ったが。
「男性によろこんでいただけるものなのですか?」
ルチルを差し置き、ジョールが迫る。
フェラチオの何たるかがわからぬまま、ぐるぐる、目を回す勢いだ。
見兼ねたシトリンが、ジョールの肩に手を置き。
「あのな、ジョール。ゴニョゴニョ・・・」
包み隠さず、フェラチオの説明をした。
「ちなみに私は得意だ!なにせ猫だからな!」
耳打ちのつもりが、地声が大きいため、周囲にダダ漏れである。
再び俯き、ハンカチで汗を拭うルチルに、今度はヒスイが声をかけた。
「恥かしいこともあるけど、どれもみんな愛情表現でしょ?嫌じゃないなら、素直に受け入れた方が、お互い幸せだと思うよ」
・・・ヒスイは、自分以外の恋愛事にはマトモなのだ。
「流石、年の功デスネー」と、サファイアが拍手。
ルチルに代わり、2本目のキャンドルを吹き消し、言った。
「クフフ・・・まずハ、正直なお気持ちヲ、彼に伝えてみてハ?」
「は、はい。そうします」
「さて、お次ハ――」
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