※カップル絵巻『No.14』を前提としております。



あれから――20年近くの時が過ぎ。

赤い屋根の屋敷に、珍しい客人がやってきた。
大天使、ダイヤだ。
「ヒスイ、いますか?」
憧れの熾天使コハクを前に、緊張しつつも、そう切り出す。
「ヒスイ、お客さんだよ」コハクが言うと。
背後に張り付いていたヒスイが、ひょっこり顔を出した。
「うん?ダイヤ???」



客間にて。ヒスイとダイヤ。

本日のおもてなしスイーツは、和菓子、ということで。
先に運ばれてきた玉露を優雅に飲みながら。
「何かあったの?」と、ヒスイ。
するとダイヤは一言。


「コウノトリのことなんだけどさ」


「――!?んぐっ!!げほげほ・・・」
動揺したヒスイは、咽せに咽せ。
「けほっけほっ・・・それで・・・エリスとはどうなってるの?」
「どうなってるって・・・」
問われたダイヤは少々顔を赤くして。

一緒にいる時間が増えたこと。

それともうひとつ。
「エリスが・・・その・・・たまに・・・頬に・・・キ・・・キスっていうか・・・」
「してくれるの?」
こくり、頷くダイヤだったが・・・
「でもそれは・・・挨拶っていうか・・・たぶん特別な意味は・・・」
「・・・・・・」(あるに決まってるでしょっ!)と。
ツッコむ間もなく、話はふたたびコウノトリへ――
「それで、いつ来るのかな?」
ヒスイに聞けば、わかると思って、とダイヤ。真剣そのものだ。
対するヒスイは・・・
「あ・・・えっと・・・今、センターが混んでるみたいだから・・・」
目を泳がせながら、そう答え。
「どうなってるか、配送状況、確認してくるっ!!」と、席を立った。
客間を飛び出し、丁度おもてなしスイーツを運んできたコハクに。
「お兄ちゃんっ!しばらく時間稼いでて!!」





書斎にて。ヒスイ。

手当たり次第に集めた本を机に積み上げ。
「赤ちゃんはコウノトリが運んでくるって・・・自分で言っておいて何だけど、ちゃんと由来があるはずよね」
・・・何とかコウノトリ路線で、話を丸く収めたい、らしい。
「う〜ん・・・」(難しいわね・・・)
本のページを捲っては、使えそうなくだりや、自身の空想論を、文章にまとめていたが・・・ふと、手を止め。
「20年かぁ・・・」
清い関係にも程がある。さすがのヒスイも責任を感じ。
「本当にこのままでいいのかな・・・」





一方、こちら。コハクとダイヤ。

「コウノトリ、待ってるの?」
手作り和菓子をテーブルに並べながら、コハクが話しかけた。
ダイヤは本来人見知りするタイプではないが、コハク相手だと少々ぎこちなくなってしまう。
「は、はい!」
「・・・君達が地上に降りて、そろそろ20年だね。人間界の生活には慣れた?」
「はい!慣れました!」
ダイヤの元気な回答に、コハクは瞳を伏せて笑い。


「じゃあ、もう――コウノトリの正体は知ってるかな」


「!!セラフィム・・・あのっ・・・オレっ・・・」
「教会には年頃の男子が多いからね、何かと耳に入ってくる、でしょ?たとえば――セックスのこととか」
そうでなくとも、教会では、異種族の婚姻に於ける講習会が定期的に行われているのだ。
「でもオレ・・・ああいうの、信じられなくて・・・ヒスイのほうが絶対正しいって・・・」
確かめたくて、ここへ来たのだという。
「うん、ヒスイは間違ってないよ」と、コハクはにっこり。
「セックスをして、子供を作る――品良く表現すると、そうなるんだ」
そうなる〜とはつまり、コウノトリの登場である。
「セラフィム・・・も?」
切実な表情でコハクを見上げるダイヤ。
「うん、してるよ。ヒスイと」
「・・・・・・」
ダイヤは相当ショックだったようで、言葉を失ってしまった。
コハクは苦笑いで――
「まあ、いきなりそこまで考えなくてもいいんじゃないかな。彼女のことが好きなら、自然と触れたくなるよ」


「僕等天使にも、それくらいの本能は備わってる」





コハクの話が終わる頃。
ヒスイが客間へと戻ってきた。その手に、保健体育の本を抱えて。
コハクは「ごゆっくり」と、席を外し。
ダイヤの向かいに座るヒスイ。
「・・・・・・」「・・・・・・」
二人の間に、しばし、沈黙の時間が流れ。


「ごめんね、ダイヤ」
「ヒスイ!ごめん!」


同時に、同じ言葉を口にする。
「え?」
驚いたのは、ヒスイの方だった。
「コウノトリのこと・・・なんとなくわかってたんだ。なのに、ヒスイに無理言って・・・オレ・・・」
「そ・・・うなの???」
ダイヤの告白にヒスイは目をぱちくり。
「セッ・・・ごにょごにょ・・・って、別世界のことっていうか・・・エリスと・・・とか想像できな・・・」
そこまで言って、真っ赤になるダイヤを見ながら。
「別世界?」ヒスイが首を傾げる。
「エリスと一緒にいたら、自然に“触れたい”って気持ちになるでしょ?」
すると今度はダイヤが驚いた顔をして。
「ヒスイ・・・セラフィムと同じこと言ってる・・・」
「お兄ちゃんと?当り前じゃない」と、ヒスイ。


同じことを思ってるから、両思いなんでしょ?


「だからもし、ダイヤがエリスに触れたいと思ってるなら、エリスもダイヤに触れたいと思ってるはずだから――」


触れても、大丈夫なんだよ。


「それが、両思いなの」
そう、ふたたび念を押す。
「両思い・・・なのかな?」
「両思いに決まってるでしょっ!」
ヒスイの力説に――ついにダイヤが立ち上がる。
「わかった!」
コウノトリを待つのではなく。探すことにする!と、ダイヤ。
「ん!頑張れ!」
ヒスイのエールを背に、まずは第一歩。




そしてこの日から、ダイヤとエリスの正式交際が始まったのであった――





――Congratulations!







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