※WorldJoker(side-B)8話『危険思想』以前のお話です。
「あーくん?何見てるの?」
リビングの窓辺に立っているアイボリーに、双子の兄マーキュリーが声を掛ける。
隣に並んで立つ、と。
洗濯物を干しているコハクの傍らで、楽しそうに笑うヒスイの姿があった。
「・・・・・・」(あれか・・・)
「・・・なぁ、まー」
「何?あーくん」
「“絶対領域”って、知ってっか?」
「“絶対領域”?」
マーキュリーは、知っていた。
知っていたが、知らないふりをした。そういう性格なのだ。
双子の弟アイボリーは、そんなマーキュリーを横目で見つつ、こう説明した。
絶対領域とは――
ミニスカートとニーハイソックスの間に見える、僅かな素肌のことを指す。
「・・・それ、誰に聞いたの?」
「家の周りうろついてる奴、いるじゃんか」
兄サルファーの親友にして、ヒスイのストーカー。美少女オタクの、プラズマ。
盗撮に来ていたところを、たまたま捕まえ、話をしたという。
「・・・それで、お母さんの“絶対領域”を狙ってるの?」
本日のヒスイのファッションは・・・
セーラー服をモチーフにしたワンピース。※コハク作※
丈は当然とばかりにミニで、ニーハイソックスを穿いている。
つまり――“絶対領域”が存在するのだ。しかしそこで。
「いや、違う」と、アイボリー。
親譲りの美しく整った顔を苦悩に歪め、言った。
「俺は、その先が見てぇ」
「・・・・・・」(真剣に話す事?それ)
アイボリーの言う、その先、とは、ヒスイのショーツだ。
今や、皆の着せ替え人形化しているヒスイの服装ジャンルは多岐に渡るが、コハクが選ぶものは圧倒的にミニが多いのだ。
「チャンスはこれまで何度もあった・・・けど、ギリギリ見えねぇんだよ!!」
そう――コハクにより計算し尽くされた、見えそうで見えないミニなのだ。
「まーも協力してくれよ!一緒にヒスイのパンツ、見ようぜ!」
「嫌だよ、僕は」と。マーキュリーが言い返した時だった。
「さっきから、楽しそうな話してるね、あーくん」
「げ・・・コハク・・・」
いつの間にか、向かいに立っている。そして。
にこやかでいて、凶悪な笑みを浮かべ、こう口にした。
「ヒスイのパンツが見たいなら、見てもいいよ。まあ、できたら、の話だけど」
・・・完全に挑発だ。
「ぜってーヒスイのパンツ見てやるかんな!」
闘志を燃やすアイボリー。
コハクから出された条件はひとつ。
スカートに直接触れない――これだけだ。
「あーくん???さっきから何?」
アイボリーに付け回されるヒスイ。
「俺のことは気にすんな!」
「そう言われても・・・私これから図書館に行く予定なの」
あーくん、うるさいから邪魔なんだけど――ヒスイがそう続ける前に。
「俺も行くっ!!」
モルダバイト城下――王立図書館にて。
「わ・・・」(久しぶりに来たけど・・・)
あれも、これも、興味深い本がずらりと並んでいる。
夢中になるあまり、ヒスイはアイボリーのことをすっかり忘れていた。
そしてこちら、アイボリー。
(思ったより早く見られそうじゃんか)←浮かれる心の声。
高く聳え立つ本棚の、最上段から本を取るために、ヒスイが用いたのは、梯子だった。
下に回り込めば、下着など簡単に見える筈だ。
(絶対領域なんて目じゃねぇぜ!俺はその先へ行く!!)
いざ!!覗き込むアイボリー。ところが・・・・
「・・・・・・」(なんだよ、これ、反則じゃね?)
見えたのは、毛糸のパンツ。
しかもそこに ざ ん ね ん で し た の文字が編み込まれている。
(コハクぅぅぅっ!!)
「許せねぇぇぇ!!」
思わず声を出すアイボリーに。
ヒスイは、図書館のマナーを怒り気味に説いた。
「あーくん!図書館では静かにして!」
赤い屋根の屋敷――帰宅してすぐ。
アイボリーはコハクの下へ走った。
「ざんねんでした、じゃねーよ!!アレは反則だろ!!」
ここぞとばかりに大声で叫ぶ。
「外に出る時は穿かせるようにしてるんだよ。最近少し冷えてきたからね」
コハクはくすくすと笑いながら、ヒスイに耳打ちした。
「洗濯するから、毛糸のパンツ脱いで、ヒスイ」
「ん!」
ヒスイはその場で毛糸のパンツを脱ぎ、コハクに手渡した。
問題のロゴには気付いていないようだ。
「これでいいかな?」と、コハク。
「今に見てろよ!コハク!!」
アイボリーは、考えあってか、捨て台詞を吐き、一時退却。
それから90分後。
バケツいっぱいのローションを抱え、戻ってきた。※姉アクアに相談した結果※
廊下に潜み、ヒスイが現れるのを待つ・・・
滑らせ⇒転ばせ⇒勝手にスカートが捲れ⇒パンツお目見え
・・・という、古典的な作戦だ。
(よっしゃ!来たな!)
目頭を押さえながら、ヒスイが歩いてくる。
「ちょっと目、疲れたかも・・・」
瞬きをする間も惜しんで、趣味の読書に耽っていたのだ。
「お兄ちゃん〜・・・今日のおやつは、ブルーベリーの・・・」
と、そこで。
「ヒスイ!覚悟っ!!」
「え――?」
アイボリーが、ヒスイの足元にローションを撒き散らした。
「!?ひぁ・・・っ!!」
目論見通り、ヒスイは派手に転んだ、が・・・
「!!」(捲れてねぇ!!)
よりにもよって、前のめり。倒れるようにして、ヌルヌルの床に伏していた。
「・・・・・・」←あまりに突然の出来事に、茫然とするヒスイ。
(何が起きてるの???)
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