珍しく、一族の休日が同じ。そんなある日のお話――
赤い屋根の屋敷。リビング。
一番乗りは・・・アクアだった。
「はい、これ、おみや〜」
ショッパーバッグを二つ、コハクに手渡す。
そのうちの一つには、美容系・ファッション系の雑誌が何冊も入っていた。
早速二人はそれを広げ、お喋り。
「これとかぁ〜、ママに似合うと思うんだよね〜」
「うん、確かに」
コハクはペラペラとページを捲り、目ぼしいアイテムに片っ端から印をつけた。
「じゃあ、これ、買っておいてくれる?サイズ直しは僕がやるから」と、アクアにブラックカードを渡す。
「りょ〜かい♪」と、アクア。続けて次の話題へと移った。
「でね〜、このネイルなんだけどぉ〜」
「うんうん・・・」
――こちら、屋敷門前。
「おお!兄上ではないか!」
「・・・・・・」
双子の兄妹、トパーズとシトリン。
トパーズは一見手ぶらだが、シトリン※人型※は、顔が見えないほど大きな花束を抱えていた。
「ジンの育てた花が、山のように咲いたのでな!母上にお裾分けに来た!兄上は・・・っと」
聞かなくとも、わかる。貴重な休日・・・ヒスイに会いに来たのだ。
「いらっしゃ〜い」
出迎えたのは、アクアだった。
「二人一緒なんて、めずらし〜じゃん」
「たまたまそこで会っただけだ」
淡々と述べるトパーズ。その視線は、ヒスイを探している。
「む・・・母上はどこだ?」と、そこでシトリン。
いつもなら、リビングで転がっている時間なのだ。
ところが、案内人のアクアは、リビングの前を通過し。
「今日はねぇ〜、ママのメンテナンスする日なの〜」
メンテナンス・・・つまりはスペシャルケア。
アクア曰く、マッサージからネイル、集中パック、ヘアケアまで、いつも以上に力を入れるのだという。
「これから行くのはぁ〜、ママの専用ヘアエステサロンだよぉ〜」
屋敷内には、数えきれないほどの部屋がある。そのうちのひとつをコハクが改装したのだ。
「ちょ〜どいいから、その花、サロンに飾ろ〜」
「おお!いいな!」「・・・・・・」
女子二人が盛り上がる中、サロンに到着。
すると、そこには――
「やあ、いらっしゃい」
コハクは勿論のこと、オニキス、ジスト、スピネルの姿もあった。
オニキスは、以前からヒスイが読みたがっていた書物を見つけたため、届けに。
時間を作っては、古本屋を巡り、何ヶ月もかけて発見した貴重なものだ。
ジストは、以前ヒスイが食べてみたいと言っていた、巷で大人気のお菓子を届けに来ていた。
早朝から何時間も並んで購入したものだ。
スピネルは・・・
「美味しい茶葉を同僚から分けて貰ったんだ。ママに、と思って」
――といった具合だ。
更には・・・
「アマデウス?いらっしゃいませんこと?」
タンジェが、サルファーを連れ、やってきた。
「素敵な香水が手に入りましたの。アマデウスにぴったりの香りですのよ?」
ヒスイ専用のサロンルームに身内が殺到・・・
ちなみに、広さは問題ない。モルダバイト城の王妃専用パウダールームに張り合っているが如くの造りだ。
今、この場にはいないが、アイボリーとメノウは菜園へ。
マーキュリーはヒスイを呼びに行っていた。
間もなく・・・
マーキュリーに連れられ、ヒスイがサロン直通の螺旋階段を下りてきた。
「足元、気を付けて下さいね、お母さん」
「ふぁぁ・・・ねむ・・・」
ヒスイは、キャミソール&ショートパンツ姿で、コハク手編みのカーディガンを羽織っている。
「え・・・なに???なんでみんないるの???」
錚々たる顔ぶれに、少々驚くも。
「今日、なんかの日だっけ?お兄ちゃん」
コハクは笑いながら。
「たまたま、だよ」と答えた。
「おいで、ヒスイ」「ん!」
改めてコハクに呼ばれたヒスイは、カーディガンを脱ぎ、シャンプーチェアへ。
もはや慣れている。
コハクによる施術が始まり。
「じゃあ、アクアはこっちね〜」と、ヒスイの手を取り、ネイル前のマッサージ。
こちらも慣れているのか、ヒスイは大人しくしている。
タオルやオイル、その他諸々、手際よく用意しているのは、マーキュリーだ。
アシスタントという立場らしい。
「・・・・・・」(何だよ、この光景・・・)←サルファー心の声。
呆れて立ち尽くす・・・その隣では、タンジェが興奮気味に瞳を輝かせていた。
「まさに姫・・・!!優雅の極みですわ!!ああ!!」
「父ちゃんっ!何か手伝えることないっ!?」と、ジスト。
「そうだ!私も親孝行がしたい!!」と、シトリン。
対してコハクは、柔らかな微笑みを浮かべ、言った。
「君達は、もう充分だよ。お土産も貰っているしね」
それより――と、トパーズを見る。
「手ぶらの君に、ぴったりの仕事があるよ」
「・・・・・・」
視線で視線を誘導した先には・・・グランドピアノがあった。
「弾けるよね?」
「えっ!?兄ちゃん弾けるのっ!?」
トパーズの息子にして弟のジストが驚嘆する。
「・・・・・・」
ピアノは、育ての親である、オニキスから習った。
この場にオニキスがいては、NOとは言えない。
「兄上のピアノか!久しぶりだな!」
シトリンは浮かれた口調で猫の姿へ戻ると、グランドピアノの前に座るトパーズの隣に座った。
・・・サロンに流れるピアノの旋律。
一音一音が恐ろしいほど正確な反面、どこか情緒的で。
聞き惚れる者も多々・・・サルファーもその一人だった。
「・・・トパーズ兄さん、ピアノでも食っていけるな」
するとスピネルが。
「兄貴、人手が足りない時は音楽も教えるんだよ」と、笑った。
(あ・・・この曲・・・懐かしい・・・)
コハクが昔よく弾いていた曲で。
オニキスが時々弾いてくれた曲。
それを今、トパーズが弾いている。
(ちょっと嬉しいかも・・・)
生演奏という贅沢を味わいながら。
ヒスイは極上のメンテナンスタイムを過ごした――
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