夜が明け――赤い屋根の屋敷。ダイニングキッチン。
双子兄弟は学校へ。
ヒスイは遅めの朝食タイムだ。
「お兄ちゃん、おはよ」
「おはよう、ヒスイ」
愛の溢れる笑顔でヒスイを迎えるコハク。
頬を寄せ、何度か擦り合わせたあと、唇に甘いキスをした。
「朝ごはん、もうすぐ出来るから、座って待ってて」
「ん!」
テーブルには、ぬか漬け。
胡瓜、大根、人参、茄子、定番のものに加え、プチトマト、アボカド、オクラ、山芋、チーズという変わり種まである。
飾り切りを駆使し、盛り付けや器にもこだわり。
品良く、華やか。一流の料亭レベルとなっている。
土鍋でご飯を炊いているコハクは、すこぶるご機嫌で。
「・・・・・・」
夕べのプレイを思い出しながら、じっと見つめるヒスイ。
昼は優しく。夜は意地悪。
そんな所は昔から変わっていないと思う。
「――あ、そうだ」と、そこでコハク。
「バナナを漬けてみたんだ。先に食べてみる?」
「バナナ!?食べるっ!!」
まさかの、果物のぬか漬け。
ヒスイは興奮気味に席を立ち、コハクの元へ。共にぬか床を覗き込む・・・
そして、ふと。
「ね、お兄ちゃん」
「うん?」
「ぬか床混ぜるの、私もやってみていい?」
「いいよ」
快く返事をしたコハクだったが・・・
(あれ?それって・・・僕とヒスイの常在菌が交わるってことだよね!?)
ヒスイが楽しそうに混ぜる様子を眺めつつ、ひとつの結論に達する。
(これってもう、二人の子供だよね!?)
このぬか床は――
「・・・娘同然」
「え?お兄ちゃん?何か言った?」
見上げるヒスイに「何でもないよ」と、キスをして。
(名前、考えよう。うん)
朝食を終え、間もなく。次女アクアが帰省した。
手土産をコハクに渡すべく、キッチンに顔を出す・・・と。
「パパぁ〜?何やってるのぉ〜?」
この世界でチート級に美しい男が、ぬか床の前でニヤけている。
覗き込むアクアに向け、コハクは、眩い笑顔でこう言い放った。
「紹介するよ。この子は、君の妹だ」
「・・・パパぁ〜?頭、大丈夫〜?」
一方、その頃――コスモクロア。三階建ての家。
そこには、トパーズとヒスイの姿があった。
「――でね!お兄ちゃんが、バナナのぬか漬けを食べさせてくれたのっ!」
果物ぬか漬けの自慢をしにきたのだ。
コハクに無断で〜のため、今夜も意地悪エッチ確定なのだが、そんな事は今頭にない。
とにかく誰かに話したかったのだ。
「そうそう、お兄ちゃんのぬか床、私も掻き混ぜたんだよ!」
「・・・何だと?」
トパーズが聞き返す。
「?だから、私もぬか床・・・え?ちょ・・・トパ?何して・・・」
神の手で、空間に穴を開けるトパーズ。
そこから引き出したのは・・・自分のぬか床だ。
「オレのも混ぜろ」
この時点で、すでにコハクと同じ考えに至っている。
そんな事は露知らず。ヒスイは「いいよ」と返答し、トパーズのぬか床に手を入れた――
「・・・・・・」
子供の泥遊びのような、ヒスイのたどたどしい手つき。
それが、愛しくて。
「真面目にやれ」と言いながら、トパーズも手を入れた。
「あ・・・」
ぬか床の中、触れ合う手と手。
トパーズの指先がヒスイの甲を滑り、指の付け根にするすると入ってくる。
続けて、強く握り込まれ。動かす事ができない。
「ちょっ・・・トパ・・・っ・・・これじゃ、ちゃんと混ぜられな・・・ひぁっ!?」
ヒスイの耳を食み、トパーズが笑う。
「っ・・・だから・・・何して・・・」
抗うヒスイ。抑え込むトパーズ。
その度に、ぬか床が、ぬちゃくちゃと、どことなくいやらしい音をたてて。
「!!」(うわっ!!兄ちゃんとヒスイが、ぬか床の前でイチャイチャしてるっ!?)
たまたま目撃してしまったジストは、気恥ずかしさから咄嗟に身を隠した。
「・・・・・・」(兄ちゃん・・・いいな・・・)
正直かなり羨ましい。
「・・・オレも、ぬか床やってみようかな」
(そしたらヒスイ、一緒に掻き混ぜてくれるかな・・・)
同日夕方――モルダバイト城下。米屋の店先にて。
「へっ!?アクアっ!?」
偶然の出会いに、ジストが驚きの声をあげる。
「ジス兄〜?こんなとこで何してんのぉ?」
「アクアこそっ・・・」
「ん〜?アクアはねぇ〜、ぬか床つくろ〜と思ってぇ〜」
結局、あのあと、コハクとぬか漬けの話で盛り上がってしまったのだ。
「実はオレもっ!!糠買いに来たとこなんだっ!」
――こうして、ぬか床作りは、一族の間で瞬く間に広まり。※タンジェ、ジン他多数参入※
方々から、ぬか漬けを献上されたヒスイは、ついに飽きてしまうのだった・・・
おしまい。
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