※両想いのジンクスをテーマにしたショートストーリーです。
高校3年生――
無事受験が終わり、自由登校の日々。
ヒスイは、オニキスと同じ大学に進学することが決まっていた。
アンバーも勿論一緒だ。
受験間際、急に成績を上げ、あっさり合格をもぎ取ったアンバー・・・
どうにも胡散臭いが、ヒスイは疑いもせず。
大親友の合格を心から喜んでいた。
そんなある日の放課後。
ヒスイは小走りで生徒玄関に向かっていた。
“両想いのジンクス”のために。
学級委員のインカ・ローズがクラスメイト達と話しているのを聞いたのだ。
『誰にも見られず好きな人の上履きを履いて3回ジャンプすると両想いになれる』
(だったら、やるしかないわよね!)
父親の手伝いで、今日は学校へ来ないと言っていた。
到着早々、オニキスの下駄箱を開けるヒスイ。
「あ、あった」
周囲を見渡し、人がいないのを確認すると、早速上履きを履き、ジャンプ。しかし・・・
「あ」
オニキスの上履きが大きく、空中で脱げてしまう。
何度チャレンジしても結果は同じだった。
「・・・・・・」
成功するためには、どうすればいいか考える。
(接着剤でくっつけるとか・・・?)
ブツブツ言っているヒスイを、近くの物陰から見守るオニキス。
ヒスイの帰りが遅かったため、迎えに来たのだ。
ぴょんぴょん飛んでは、首を傾げているヒスイの姿が、愛おしく。
思いっきり抱きしめてしまいたくなるが。
踏み出さない理由があった。
オニキスは知っていたのだ。この両想いのジンクスを。
校内で、ここ最近流行っているようで、オニキスの耳にも入っていた。
“見られてはいけない”ということは、“ヒスイに見つかってはいけない”
ということだが・・・もう30分以上もこうしている。
はぁ。はぁ。
ヒスイの息もすっかり上がって。
「ちょっと反則かもしれないけど、やっぱりアレを使うしかないわね・・・」
アレとは、接着剤だ。後のことは何も考えていない。
教室へと戻るべく、ヒスイが体の向きを変える・・・と。
「!!」
オニキスとバッタリ遭遇。
「・・・見たわね」
「・・・別に何も」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しばしの沈黙のあと、口を尖らせたヒスイが一言。
「オニキスの上履き、大きすぎるよ」
「そうか、すまなかったな」
オニキスは笑いながら、ヒスイの頭を撫で。
それから、低く屈み、脱ぎ捨ててあったヒスイの上履きを拾った。
「オニキス?どうしたの???」
「オレがやろう」
「え?なんで?」
「・・・・・・」
なんで、も何も。
「オレが――」
お前と両想いになりたいから
「では、だめか?」
「だめじゃない・・・かも」
ハッとしたように、ヒスイが口にする。
「どっちかが成功すればいいんだもんね!!」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、オニキスはこっちでやって!私はあっちで頑張るから!」
ヒスイはオニキスの上履きを持って。
オニキスはヒスイの上履きを持って。
それぞれ、見えない位置まで移動する。
「・・・・・・」
こちら、オニキス。
ヒスイの上履きが・・・小さい。
引っ掛けるのがせいぜいで、思いのほか上手くいかない。一方で。
「あ」「う〜ん」「ていっ!」
下駄箱ごしに苦戦するヒスイの声が聞こえ。
思わず笑みがこぼれた。
成功しても、しなくても。
互いに両想いを願えば。
それはもう――本物の両想い。
お題:ゆらら様
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