期末テストの結果が貼り出された。
一位オニキス。二位ヒスイ。
これまで万年一位をキープしていたコハクが転校した事で順位が繰り上げになったのだ。
「・・・・・・」
オニキスは明らかに不満足。
不服たっぷりな眼差しをある女生徒(※正しくは女装生徒)に向けた。
今はアンバーと名乗る、コハク。
アンバーはオニキスの視線を無視し、何食わぬ顔で傍らのヒスイを褒め称えていた。
「ヒスイって頭いいんだね」
「そんなこと・・・アンバーは何位だったの?」
成績は下の上くらい。
勉強が苦手なのだと、白々しく捏造するアンバー。
「ね、ヒスイ。夏休み勉強教えてくれない?」
「うんっ!いいよ!」
いつも自分と仲良くしてくれる“親友”の役に立てるのが嬉しくて。
ヒスイは大きく頷いた。
「じゃあ約束ね」
「うん!」
「・・・・・・」
目の前で指切りを交わすヒスイとアンバー。
黙って見ているしかないオニキスは、すっかりしかめっ顔だ。
下校時。
「オニキス、最近機嫌悪いね。何かあったの?」
「別に・・・」
「アンバーってね、一人暮らしなんだって。夏休み泊まりにいく約束しちゃった」
次から次へとオニキスを見舞う不幸。
「!?泊まり・・・だと?」
「うん」
男の家に泊まりにいくなど、彼氏的には許せない。
許していい筈がない。
「あいつは・・・」
「友達の家に泊まりにいくの初めてだから楽しみっ!」
アンバーは男なのだと、真実を告げる前に遮られ。
「・・・・・・」
浮かれているヒスイ相手に何も言えなくなってしまう。
更に。不幸はそれだけに留まらなかった。
オニキスの部屋。
「え?海外に?」
「ああ、3週間だ」
大学教授である父親の研究を手伝うアルバイト。
高校一年の時からずっと続けていた。
今年の夏休みはかなり本格的になると話は聞いていたが、まさか海外まで連れて行かれる事になるとはオニキス
自身も思っていなかった。
「3週間・・・長いね」
「・・・すぐだ」
ヒスイを不安にさせないよう、強くそう言い切って。
肩を抱き寄せ、キスをする。
「・・・帰ったら好きな所に連れて行ってやる」
「うん。あ・・・」
オニキスは制服の上からヒスイの胸に触れ、セックスの意向を伝えた。
手の平で乳首の先端を撫でるように。
小さな膨らみをゆっくりと・・・揉む。
「んっ・・・」
発育不良なカラダでも女は女。
愛撫には素直に応える。
ぷくっと尖ったヒスイの乳首を、オニキスはすぐさま口へ含んだ。
「あんっ・・・も・・・」
薄いピンクの乳輪に沿って、円を描く舌先の動き。
クルクル。ペチャペチャ。丹念に舐め上げる。
「はぁ・・・っ・・・」
乳首は先端よりも側面を刺激した方が悦ぶ・・・すべてヒスイのため、忠実に実行するオニキス。
ちゅっ。ちゅくっ。
「んっ・・・ぁ」
強めに吸い付き、そのまま吸引し続けて。
口の中、乳首をぺロペロと舐め転がす。
「・・・はぁん」
ヒスイは胸を突き出しながら、甘い声を洩らした。
蝉の声に混じって、オニキスの耳へと届く。
感じてくれているのだと、益々夢中になって。
女性器に留まらず、あらゆる場所へと舌戯を施す。
そこに突然、ヒスイの手が伸びて。
「!?何を・・・」
オニキスの黒髪をくしゃくしゃに掻き乱した。
「だってオニキス、犬みたいなんだもん。もしかしたら頭撫で
られるの好きかなって思って」
(犬・・・)
あまり褒められている気はしないが、言われてみれば思い当たる事ばかり。
ヒスイのカラダに触れていると、どこもかしこも無性に舐めたくなって。
匂いを嗅ぐのも大好きだ。
しかもそれは今に始まった事ではなく、子供の頃から現在に至るまで
変わらない性癖だった。
「・・・・・・」
ヒスイの手の動きに、なんとなく抵抗できないまま。
撫でられっ放しになって。
髪はボサボサ。寝起き時よりも乱れている。
「嬉しい?」
「・・・ああ」
そう認めてしまうのも男として癪だが。
(この手を・・・失いたくない)
ライバルの姿が脳裏を過ぎって。
嫉妬心が性欲を煽る。
「・・・犬でも、雄だ」
「わかってるよ・・・あっ・・・う・・・」
深い愛情を込め、ペニスを根元まで挿入。
ヒスイの膣内はもうたっぷりと濡れていた。
失いたくないから・・・突いて、繋ぐ。
「あっ!あっ!ああっ!あぁ!オニ・・・キス・・・っ!」
「く・・・ヒスイ・・・」
そして・・・夏休み。
初日から3週間の旅が始まる。
「いってらっしゃい!」
「・・・ああ。いってくる」
オニキス最大の不安要素は、ヒスイの隣に立つアンバー。
私服でも女性用のワンピースを着用している徹底ぶりだ。
見送りの帰りに二人でショッピングをするのだと言って、今はヒスイと一緒に手を振っている。
「いってらっしゃ〜い」
アンバーは素晴らしく上機嫌で、最高に愛想がいい。
“もう帰って来なくていいから”
声にこそ出さないが、口はそんな動きを見せていた。
ヒスイが父親と話をしている隙に。
「ヒスイに手を出したら・・・」
オニキスが総番長の威厳でアンバーを睨む。
だが、力による牽制は全く意味を成さなかった。
「喧嘩を売るには相手が悪いと思うよ?番長サン」
憎々しい微笑みでアンバーが切り返す。
「ヒスイを賭けるならいつでも受けて立つけどね」
「・・・・・・」
すぐだ、などと言ってはみたものの、この状況で3週間はさすがにまずいと思う。
しかし、出発直前で何ができるかといえば・・・
(ヒスイを信じるしかない)
この先、いつも一緒にいられるとは限らないのだ。
(これしきで駄目になったりするものか)
と、最後には強い気持ちで。
オニキスは飛行機へ乗り込んだ。
「あ〜・・・行っちゃった・・・」
努めて明るく振る舞っていたヒスイも、オニキスが視界から消えると同時に笑顔を失い。溜息。
出番とばかりに、アンバーがヒスイを覗き込む。
「・・・寂しい?」
「うん」
「・・・3週間なんてすぐだよ」
「ん・・・」
「私もいるし・・・ね?」
「んっ!そうだね!」
「さあ、気分転換に買い物していこう」
「うんっ!」
それから10日後のお泊まり会。
狼になる予定でヒスイを自宅マンションへ連れ込んだアンバーだが、突破口が見つからないまま夜が更けていた。
じゃれて。はしゃいで。ヒスイは眠ってしまって。
アンバーはベランダでひとり喫煙中だった。
学校では吸わないだけで、喫煙歴は長く、本来は不良をシめる立場ではない。
「ちょっと頑張り過ぎたかな・・・」
外泊許可を得るため、何度もヒスイの家へ足を運び、ヒスイの両親からも“親友”として認められ、信頼を得た。
ヒスイの母親は、娘の“初親友”を祝い、赤飯まで炊いて喜んだ。
親友の地位が確固たるものになりすぎて、逆に壊しにくくなってきたのだ。
(まずいぞ・・・これは・・・)
男だとバレたら。
「ヒスイを・・・失う?」
(何、弱気になってるんだ。僕らしくない・・・・)
「アンバーって煙草吸うの?」
「!?」
てっきり熟睡していると思っていたヒスイが、パジャマ姿で隣に並ぶ。
慌てて煙草の火を消すが、残った煙を吸い込んだヒスイがケホケホと咽せたので。
「ごめん・・・やめるよ」
反射的に禁煙宣言しまった。
「寂しいの?」
「え?あ、うん」
“寂しさを紛らわせるために喫煙している”とヒスイは解釈し、アンバーもつい肯定してしまったが、言われるまで考えた事もなかった。
「じゃあ、もう煙草はいらないよね。私がいるから」
「あ・・・うん」
「今度は家に泊まりにおいでよ」
「・・・そうさせてもらおうかな」
「うんっ!!」
(参ったなぁ・・・)
無邪気すぎて、手が出せない。
(一人暮らしが寂しいなんて思ったことなかったけど)
ヒスイのいない明日の夜は、寂しいと思うかもしれないな。
「アンバー。一緒に寝よ」
人見知りが激しい分、懐くと猛烈に可愛いヒスイ。
(“急いては事をし損じる”と言うし、しばらくはこのままでいいかな・・・)
「明日も勉強頑張ろうね!アンバー」
「うん」
出発の日から3週間後。空港。
父親より一足先に帰国したオニキスとヒスイは念願の再会を果たした。
「オニキスっ!!おかえりっ!!!」
「ヒスイ・・・っ」
国際電話で1週間に1回は話をしていたが。
3週間も離ればなれになったのは産まれて初めてだったので、お互いそれ以上は言葉にならず。
ただじっと抱き合って。
「ヒスイ・・・」
「オニキスっ!」
コハクを盾に、その裏でキス。
「・・・・・・」
引きつり気味の笑顔で見守るコハク。
二人の絆を見せつけられ・・・虚しい。
(いいヒトのフリって疲れる・・・)
「土産だ」
キスを終え、オニキスが取り出したのは翡翠の指輪だった。
それをヒスイの左手の薬指に通す。
付き合いが長いだけあって、サイズはぴったりだ。
「現地でいい石を見つけた」
さも偶然を装うが、夏休みに入る前から決めていた事だった。
旅先で父親にも話した。
自分達はまだ高校生で、これから進学、就職と、結婚までは先が長い。
それでも。今、誓っておきたい。
また離れる事があっても。
ヒスイの薬指に気持ちを残してゆきたいから。
この指輪を。
「え・・・あの・・・ありがと」
照れて、戸惑うヒスイ。
指輪の意味に少し迷っている様子で。
「・・・できれば・・・・婚約指輪と思って欲しい」
オニキスがそう告げると、ヒスイは幸せそうに頬を染めて。
「うんっ!」
空港で将来を誓い合った二人は手を繋ぎ、歩き出した。
そこで初めて気付く。
(む?何だこれは・・・)
握ったヒスイの右手。
手の平に何かが当たった。
「・・・・・・」
「あ、私トイレ」
女子トイレの標識を発見したヒスイが一時離脱。
「やっと気付いた?」
ヒスイの右手の小指に可愛らしいデザインの細い指輪。
アンバーはそれを“ピンキーリング”と言った。
「ホントは左手の薬指にプレゼントする予定だったんだけど」
女同士でそれはおかしいと一蹴された。
それはまぁ、仕方がないと思う。
しかし、それ以上に。
『左手の薬指は空けておきたいの』
「って、断られたんだ」
これは正直かなりのダメージだった。
「ヒスイ・・・」
オニキスが名を呟く。
アクセサリーの類をヒスイが欲しがる事は今まで一度も無かった。
(何も言わずに・・・待っていてくれたのか・・・)
「と、言う訳でまだ何もしてないから。今日のところは退散するよ」
この流れでは、もはや自分の出番はないと踏んで。
「ま、こんな日もあるか」
ヒスイが他の男のものだという事を承知の上で好きになった。
辛いのは当たり前。切なくなっていても仕方がないと思う。
(帰って対策を練ろう。うん)
「ヒスイに宜しく。じゃあ」
(略奪愛って結構シンドイな・・・)
足が無意識に喫煙所へと向かうアンバー。
おもむろに煙草を口に咥えたが、着火直前にヒスイとの約束を思い出し、潔く箱ごと全部捨てた。
「・・・やれやれ。まずは禁煙からか」
「お待たせっ!」
戻ってきたヒスイの薬指には捧げた指輪がしっかりと。
右手でキラキラしているものが、少々気に食わないが・・・幸せだ。
「あれ?アンバーは?」
「用事があると言って先に帰った」
「帰った?後で電話してみよっと」
「ああ、そうするといい」
再び手を繋いで歩き出す。
夏休みはまだ、半分近く残っている。
「後はずっと一緒だよ」と、ヒスイが言って。
「ああ、そうだな。どこへ行きたい?」
「ん〜とね。オニキスの部屋っ!」
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