俺はストーン警察の捜査官メノウ。
どんなアリバイ工作もちょちょいと見破り、科捜研に配属されても通用する天才。そして実は……ここの署長でもあるんだ。
おっと、これは内緒ってことで。
「メ、メノウ先輩。泥棒を逮捕しました」
「やるじゃんか!って……ネコ!?」
「はい。魚屋でサンマ奪ったとこを現行犯で」
意気揚々と走ってきたこいつは、俺のことを先輩と慕ってくれるラピス。可愛い奴なんだけど少し頼りなくて。でも本人は初手柄に大満足の様子だからさ。
「初犯ってことで説教して釈放」
「はい!」真剣に諭し始めたラピスと眠そうなネコを残し、うんうんと頷いた俺は署内の見回りを続行する。
署長たる者、そう簡単に新人を怒鳴ったりしない。
褒めて伸ばすのが俺の信条なんだよね。
だけど俺の頭を悩ませる奴は多い。
ほら、噂をすれば。
通路を曲がったところで、さっそく捜査一課の問題児と遭遇だ。
「アクア刑事、他の連中は?」
「知らなぁ〜い。アクア、こくよ〜のとこ行ってくる〜」
「ちょっ……行っちゃった」
今のは小悪魔的な性格が魅力のアクア刑事。コクヨウってのは優秀な警察犬で、彼女のお気に入りってわけ。まぁ、コクヨウの態度は素っ気ないんだけど、この名物コンビは犯罪防止ポスターのモデルにも抜擢されてるんだ。
で、すっかり諦めて取り調べ室の前を通ったんだけどさ。
「白状しないなら永遠にベタ塗りだ」
「ここは普通の刑事がいないのかぁぁぁ」
「あ、ちょっと動かないで」
わざわざ覗かなくても怒り狂った容疑者の声でわかる。サルファー刑事が尋問そっちのけで漫画を手伝わせ、スピネル刑事が可愛くしちゃってるんだろう。
よしよし、頑張ってるな。
この調子なら数日以内に自供する、と踏んで素通りしたんだけどさ。
今度は別の取り調べ室から声が聞こえたんだ。
「お、やっと言う気になったか」
「ごめんなさい。針金で鍵を開けましたぁぁ」
「すげ〜。ピッキングできんの!?」
わざわざ覗かなくても泣きそうな容疑者の声でわかる。麗しくも凛々しいシトリン刑事にピシピシされ、友好的なジスト刑事に懐かれちゃってるんだろう。
ま、いいや。ちゃんと仕事してるし。
俺って寛大だよなぁ。うん、一課は今日も平和だ。
と思うのは……甘かったらしい。他の課にも顔を出して一課に戻ったら、署内イケメンコンテストで常に上位キープの連中が集まってて……。
「古株のジジイならトップに顔も利く」
「僕が署長室に特攻をっ」
「待て。オレが出向いて冷静に話す」
俺のことジジイって呼ぶトパーズ刑事と、妙に鼻息の荒いコハク刑事は犬猿の仲でさ。
いつもオニキス刑事が仲裁に入ってるんだけど、今日は三人仲良く机を囲んでたもんだから驚いちゃって。それに自分が話題に出てると気になるだろ?
「お前ら、何やってんの?」
「「「ヒスイを×××××××!」」」
声かけるんじゃなかった。
取り囲まれてもみくちゃにされるし、一斉に喋るから聞き取れないし。ぶっちゃけ嬉しくない歓迎を受けて、こいつらの言いたいことも理解できたけどね。
「交通安全週間くらい我慢しろよ」
「絡まれて泣いてるかもっ!僕のヒスイがぁぁ」
いや、泣いてるのは運転手だろ。
多忙な交通課からの要請で応援に駆り出され、乗車してても駐車違反キップを切るヒスイ刑事は、乙女座りで凹んでるコハク刑事の恋人で俺の娘でもあるんだ。
これがもう、俺に似て可愛くてさ。
同じく娘に惚れてる二人―――いつもコハク刑事と独占合戦を繰り広げるトパーズ刑事と、遠くから見守ってるオニキス刑事も覇気がない。
どうやらヒスイを一課に戻せって直訴する相談してたらしくて。ホント……こういう時だけは一致団結するんだよなぁ。
「もう戻ってるよ。シトリン刑事と撮影中」
「交通安全ポスターの撮影って今日だったんですか!?」
「そっ。特別仕様の超ミニでね」
俺は見てしまった。コハク刑事の輝く瞳を。
署長室に特攻は困るから話を逸らせようとしたんだけど、つい口が滑っちゃったぜ。
「見る!見よう!見たい!見るべきっっ!」
「オレは……お前を逮捕したい」
がしっとコハク刑事に肩を掴まれたオニキス刑事がぽつり。うん、俺も同感。
だけど、やっぱり本能には抗えなかったみたい。
「一服してくるか」
「僕も休憩してこよっと」
「……………」トパーズ刑事が先陣を切って、コハク刑事が猛然と走り出したら、しばし熟考してたオニキス刑事もそそくさと一課を出て行って。
あいつら、減給だ。
個性的な連中を抱えるストーン警察署は、毎日がこんな感じで騒がしい。
まぁ、退屈しないからいっか。
※このお話はフィクションです。
実在する人物、団体等とは一切関係ありません(笑)
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