僕はストーン警察捜査一課のコハク。
今は愛するヒスイを交通課に奪われて仕事も手につかないけど、柔道は黒帯!キレ者!イケメンコンテストで不動の一位を確立している超美形!誰かさん以外には優しい!と四拍子揃った優秀な刑事だ。
で、何を急いでるのかって?
ポスター撮影に臨んでいるヒスイが、緊張してるんじゃないかと心配で。
今、嘘っぽいとか思わなかった?そうさ。僕は……ミニから覗く生足が見たいんだっ!
「トパーズ刑事、喫煙所は向こうだけど?」
「お前の休憩とやらもハードだな」
息切れは全力疾走の名残。
途中で注意されて早歩きにしたけれど、やっと追いついた宿敵の皮肉返しが少し悔しい。
しかもオニキス刑事がヒタヒタと距離を縮めてきて……。
「僕を逮捕したいとか言ってなかった?」
「……気のせいだろう」
涼しい顔で2分前の話をすっとぼけるとは。
「「「…………」」」無言のまま横並び。いつしか早歩きは競歩になり、階段に差し掛かったとこころで全力ダッシュに。
明日、筋肉痛になるかも。
しかしシップ臭くなろうと構わない。
僕はヒスイの生足を励みに力の限り走り、大会議室前に張られた心のゴールテープを一着で切った。
愛の勝利だぁぁぁ。
「ヒスイ〜!調子はど………」
うぉぉぉぉぉぉ。
指示を出してはシャッターを切るカメラマンと、レフ板や機材に囲まれてポーズを決めるヒスイ達を発見っ。
か、可愛いぃぃ。スタイル抜群のシトリン刑事も様になってるけど、やっぱり僕の目に一番可愛く映るのはヒスイなわけで……。
銃を持って屈ませたいっ!
沸々と欲望が押し寄せてきたけど交通安全ポスターだし、ヒスイのパンツを見られるのは僕だけの特権だから我慢。
今度二人っきりの時にやってもらうことにした。
何故なら、僕には他の使命があったから。

まずは見物署員が構える持参カメラや携帯の前に、ビョコビョコ顔を出して僕の姿を思い出に焼きつける。
次に華麗なフットワークを宿敵二名に見せつけ、ヒスイに集中できないよう気を散らして差し上げた。
ふっ……欠点は僕も見られなかったことかな。
しかぁし!僕には嬉しいご褒美が待っているのだ。
「お兄ちゃ〜ん。恥ずかしかった」
「よく頑張ったね。すごく似合ってるよ」
撮影を終えて駆け寄ってきたヒスイと熱〜い抱擁。
あ、お兄ちゃんって呼んでるけど実の兄じゃないからね。
歳の差こそあれ家が隣同士で、よく一緒に遊んであげたんだ。
僕が遊んでほしかったという説もあるけど。
念願の恋人になれて、同じ刑事という道を志し……。
「僕とラブワールドに旅立とう!」
「ラブっ!?……きゃっ」
特別仕様の制服ヒスイを堪能することこそ最大の使命!
メノウ刑事ごめんなさい。未来の息子は我慢の限界を突破しましたっ。
僕は宿敵達の隙をついてヒスイを抱き上げ、古い書類ばかりで滅多に人が来ない第一資料庫へ逃走を図った。
ふっふっふ。署内の穴場も調査済みなのさ。
「ヒスイ、僕を寂しがらせた分を今ここでっ」
「制服汚したら怒られ、あ……ん」
机の上に座らせてシャツのボタンを外し、ネクタイを緩めて首筋にキスしただけでヒスイが声を出して。
くぅぅ。すっごくイケナイことをしている気分〜。
まさか署内でこんなことをできる日が来るとは。実は……狙ってたんだけど。

―――それから○○とか×××とかして。

ついにヒスイが降参。
その時、乱れた制服姿に萌えていた僕は気付かなかったんだ。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ」
「ラピスっ!?ちょっと待っ…だぁぁぁ」
「いやぁぁぁぁぁ」
免疫なし新米刑事が絶叫。鼻血の滝に僕も絶叫。濡れ場を見られたヒスイも絶叫。
今日も元気でやんちゃな相棒を出した瞬間、僕らのラブワールドは………壮絶な光景と化した。
おのれ。今一歩のところでお約束な登場を。
しかも絶叫を聞きつけた刺客、オニキス刑事とトパーズ刑事まで現れて。
「先輩ぃ。わいせつ物陳列罪ですぅ」
「適用外だな。公然わいせつ罪で逮捕する」
ぷぷっ、お笑いコンビ誕生。ラピスがかました渾身のベタなボケを、トパーズ刑事があっさりねじ伏せた……って笑ってる場合じゃない。
早く鼻血を止めないと罪が重くなりそうで、つぶらな懇願モードの瞳でオニキス刑事を見つめた僕だったけど。
ガチャガチャガッチャン。
「……はい?」何故に手錠が!?
「猛省を。行くぞヒスイ」
「お、お兄ちゃ〜ん」ヒスイぃぃぃ。
紳士の異名を持つオニキス刑事は鬼だった。
机の脚金具に繋がれた僕は、連れ去られるヒスイをなすすべもなく見送り―――鼻血ラピスと二人っきりに。
「先輩……チャック閉めて下さい〜」
「君も……鼻栓した方がいいんじゃないかな」
負けるな僕っ!頑張れ僕っ!
次は鍵をかけられる穴場を見つけるぞっ!




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