『あなたの遺伝子が欲しいんだ』



オニキスと向き合って弾む銀髪。
月光が反射し、より一層輝きを増している。


かつて住んでいた王族の宮殿。
婿入りしたジンに王政を任せたと同時に去った場所だった。
懐かしいバルコニー。
紺碧の空に冷たい満月が浮かぶ晩。


ヒスイに呼び出された筈だった。


しかし。


「まったくウチの男達ときたら」と、溜息をついたのはヒスイではない。
「パパも兄貴もあんなに頭がいいくせに、下半身は感情的で困るよ」


「・・・・・・」


オニキスは黙っている。
ヒスイであってヒスイでない生き物の真意を計りかねているのだ。


「そんなに難しい顔しないで」


歌うように軽やかな少年の声。
「そろそろカラダが欲しいだけ」
ヒスイの胎内に引き籠もること10年。
スピネル・・・当然ながらその姿を見たものはいない。
「肉体を・・・持っていないのか?」
オニキスの表情が益々深刻化する。


「うん。あげたんだ。ジストに。だって瞳が紅かったから」


本来ならば、コハクから受け継いだ熾天使の肉体を持っていたのだという。
シトリンがトパーズを救うため、“神の肉”を捧げたように。
(ここでも同じことが行われていたということか・・・)
「“神の血”が強すぎて、今にも死にそうだったんだ。放っておけないでしょ」
ヒスイの胎内での出来事だ。その語り口は淡々としている。
「だからもう、ジストの瞳が紅くなることはないよ。ジストはね、産まれながらにして“神”なんだ」


「・・・・・・」


ジストの将来を安堵する反面、気にかかるのはスピネルの将来だった。
「お前は・・・」
「うん。それで色々考えたんだけど・・・」
現在はヒスイの遺伝子だけ保っている状態なのだという。
そしてヒスイの胎内から自分に合った遺伝子を選別・・・
「特別な力なんていらないから、普通に生きたいんだ。金も銀もパス。その点あなたはママの眷族といえども、元人間だし」


「・・・・・・」


スピネルが何を言いたいのかはわかる。


何を提供するのかも。


「・・・協力、してくれる?」
「・・・ああ、協力しよう」
「いいの?ボクはあなたがママを想う気持ちを利用しようとしてるんだよ?」
「・・・それもいいだろう」


この想いに利用されるだけの価値があるなら。


「たぶん周りからもいろいろ言われるだろうし、今よりもっと心を縛られちゃうと思うけど、覚悟は?」
「できている」
迷いなど、全くない。


「じゃあ、いこうか」


「先に言っておくが、今夜のことは・・・」
「わかってるよ。誰にも言わない」




寝室へ消えた男女。

そこで何が行われたか。
それは、月のみぞ知る。





初冬。赤い屋根の屋敷にて。

「ん?オニキスが行方不明?」
リビングの床に片肘を付いているコハク。
そこにぴったりとくっついてまどろむヒスイ。
同じ床の上でジストとサルファーが遊んでいた。
「ん〜・・・なんとなく。最近顔見てないし」
欠伸をしながら暢気に語る。
「いくら呼んでも返事がなくて」
ひとつの心臓を共有するオニキスには、思念を伝えることができるのだ。
ヒスイから語りかけることなど滅多にないが、便利な繋がりではある。
「ひょっとして何かトラブルに巻き込まれてたりして・・・」
「トラブル・・・ねぇ」
ヒスイが見ていないことを前提にコハクの口元が歪む。
「もしそうだとしても、彼なら大丈夫だよ」
「ん〜・・・そうだね〜・・・」
そこであっさりオニキスの話は打ち切りになり、二人の視線が子供達に注がれる。


銀髪紫眼のジスト。金髪翠眼のサルファー。10歳。


向かい合わせに座っていても、一緒に遊んでいる訳ではなかった。
夢中になって絵を描いているサルファーは完全に自分の世界で。
話しかけても空返事しかしないので、ジストは退屈そうにパズルをしながら欠伸を連発していた。
「のどかだねぇ〜・・・」
「!?ちょっ・・・おにいちゃん!?」
ヒスイに掛けられたブランケットの内側でコハクの指が動き出す。
「し〜っ・・・二人にバレちゃうよ?」
共に横たわったまま、背後からヒスイを抱きしめる体勢で滑り込ませた指先。
「今日はこっちからね」
「・・・っ!!」
お馴染みの割れ目の上、クリトリスという名の小さな蕾を摘まれる。
円を描くようにコハクの中指が動いて、執拗に撫で回され、熱く火照る蕾。
皮の上から挟んで擦ったり、圧迫したり、こりこりと。
いつもと変わらぬ笑顔を子供達に向けながら、見えない場所でせっせと指を動かす。
「も・・・おにいちゃ・・・あ」
人差し指と薬指で剥き出し、中指で直接刺激を送り込む。
その度に、ぴくん、ぴくんとヒスイが震えて。


(可愛いぃぃ〜!!!)


自然と溢れ出たヒスイの愛液を敏感な蕾にたっぷり塗り込んで、コハクの指は、擽るようなソフトタッチを繰り返した。
「・・・・・・」
子供達の手前、必死に声を殺しているヒスイ。その分愛液の量が増える。
こういうシチュエーションのほうが実は燃えることを当然コハクは知っていた。


愛液でどろどろになっている肉の重なりを押し開く・・・
そこに勢いをつけて指を抜き差しさせると、すぐに淫猥な音が鳴り始めた。

ぴちゃ。くちゅっ。

「?」
不意に響いた音にサルファーがピクリと反応。
「水の・・・音?」
に、しては粘着質なものが混ざるその音に軽く首を傾げる。
「!?」
(ヒスイっ!?)
一方、夫婦の営みを日夜覗いているジストには何の音かすぐにわかった。
音源はヒスイ。見ると、コハクの腕に抱かれて赤面苦悶している。
「くすっ。キッチンの水道が漏れてるのかな?」と、コハク。

くちゅ。くちゅ。

「あっ!オレっ!見てくるっ!!ほらっ!サルファーもっ!!」
「えっ?なんで僕まで・・・」
ジストが飛び上がって、強引にサルファーを引っ張っていく。


子供二人の姿が消えると、指の動きが一段と激しくなった。
「あっ・・・!んっ・・・!!」
「くす。ジストが気を利かせてくれたよ?」
ヒスイの耳元に熱い息を吹きかけて、片足を持ち上げる。
いつの間にかジーンズのチャックは開いていて、そこから硬く反り返ったペニスが覗いていた。
「いい息子を持ったものだ」
「あ、おに・・・んっ!!」
ぐっと斜め後ろから、一気に奥まで突き入れる。
「や・・・ふたりが・・・もどってきちゃう・・・よぅ・・・」
「大丈夫。ジストがちゃんと時間を稼いでくれるよ」



「なんだよ、水道の蛇口ぐらい一人で・・・」
「いいから!いいから!」
文句を言うサルファーを説き伏せて、キッチンへと連れ込む。
(さすが父ちゃん・・・)
本当に蛇口からは水滴が垂れていて、ヒスイの股の間から聞こえる音と似た音を規則正しく奏でていた。

ピンポーン。

そこで玄関のチャイム。
「あ、客だ」
サルファーが玄関へと向かう。


「あ・・・ルチル先生」


玄関扉を開けると、そこにはサルファーの担任を務める女性が立っていた。
ふんわりと柔らかそうな金髪、大きな蒼い瞳。見るからに若いが、服装は品良く、落ち着いている。
「こんにちは。サルファーくん。ご両親は・・・」
(やばい・・・忘れてた・・・)

家庭訪問の日だった。

「こっちです」
急とはいえ、人当たりのいいコハクのことだ。
きちんと対応してくれる筈。
自慢の父親。
できれば隠したい母親のオマケ付ではあるが、サルファーは胸を張って担任のルチルをリビングに案内した。



そこでは。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・ん」
愛液の飛沫が上がるほどに、激しく押し込んでは引き抜いて。
熱心に腰を振っている父。
「あ、あぁんっ!うっ・・・!」
腹部に突き立つ感覚に快感の嗚咽を漏らす母。
「んん・・・っ!あんっ!・・・あ」


「・・・え?どちら様?」


コハクとヒスイ。繋がったまま、お出迎え。





全員、硬直。

「サルファー?誰か来たの?・・・うわぁっ!!」
濡れ場、大公開。ジストもビックリ。
「ルチル先生っ!こっち!こっち!」
しかしジストは耐性があるので、すぐに気を取り直し、ルチルを隣の部屋へ避難させた。
ルチルはサルファーの担任だが、同時にジストの担任でもあるのだ。
「あの・・・先生?」
「・・・・・・・・・・・・」
ルチルの目前に手の平を翳すが、全く反応ナシ。
「父ちゃんとヒスイ、仲良くて、いつもああなんだけど・・・」
「・・・・・・」
「別に人前でするのが趣味とかじゃなくて・・・」
「・・・・・・」
「今日はたまたま・・・先生来るの知らなくて・・・」
「・・・・・・」
「オレもサルファーも言うの忘れてて・・・だからその・・・」
ジストが涙ぐましいフォローを入れる。


「あ・・・そうなんですか?」


やっとルチルが戻ってきた。
けれども、何が“そうなんですか?”なのか自分でもわかっていない。
「先生?大丈夫?」
「だ、大丈夫です。先生これでも大人ですよ?」
と、言っている割には赤面していて、縁にレースの付いた白いハンカチでしきりに額の汗を拭っていた。
清楚な印象が学校でも人気のルチル。
こういったことにあまり免疫があるようにも思えない。


リビングでは今頃、サルファーとヒスイが喧嘩をしていることだろう。


ジストは小さな溜息を洩らした。
イキナリ波乱の家庭訪問。
(あ〜ぁ・・・どうなっちゃうんだろ・・・)






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