「お前のせいだぞ!恥かいちゃったじゃないかっ!!どうしてくれんだよ!」
「なによっ!サルファーが言い忘れてたのがイケナイんでしょ!!」
ジストの予想通り、リビングではサルファーとヒスイが言い争いをしていた。
仲裁役のコハクはルチル接待の為、もうここにはいない。
二人の口喧嘩は激化する一方だった。
「どうせお前が足開いて父さんを誘惑したんだろ」
「そんな訳ないでしょっ!!」
サルファーはとことんコハクを美化するのだ。
悪いのは全部ヒスイ。いつもそう思っている。
「童顔年増っ!!トシ考えろ!」
「自分がフケ顔だからってひがまないでよ!天パー男!」
産みの母とは思えぬ酷い言い草である。
サルファーは王子様的巻き毛・・・祖母からの隔世遺伝と思われる。
チリチリとまではいかないが、ウネウネであり、本人もそれを気にしていた。
悪口を言われれば、当然怒る。
「なんだとぉ〜!!」
「なによっ!やる気?」
「やってやるっ!!」




「先生は・・・ここかな?」
ジストとルチルが待機している部屋を覗き込むコハク。
「あっ!父ちゃんっ!」
嬉しそうに駆け寄るジストの頭をでかしたとばかりに撫でて。
「先生、こちらへどうぞ」
ルチルを隣の客間へ案内し、淹れたてのお茶を用意したテーブルへと。
「お待たせしてしまってすみません」
見られてしまったことを気にする風でもなく、愛想良く微笑む。
「あっ!いえっ!!」
(ダメだわっ!教育者たるものこれしきで狼狽えては・・・)
担任になって初めての家庭訪問。後が控えているのだ。
ここで躓いてはいられない。
しかしルチルの脳内では、直視した夫婦の結合部がチラついていた。
ルチル19歳。年頃の乙女だ。
必死にモザイク処理をしながら、教師の面目を保とうとしていた。
(それにしても・・・こんなに綺麗な人なのにあんなモノが・・・)
サルファーとジストの両親は物凄い美形だと、子供達の噂で聞いていた。
それはサルファーとジストの一際整った顔立ちを見れば、誰しも納得する事柄で、実際見た子供がいるかは謎だったが、今、目の前にいるのは本当に息を飲む程の美形だ。
「先生?大丈夫ですか?」
「あっ!はいっ!それであのっ、サルファーくんとお母様は・・・」
「あ、そうですね、今・・・」
リビングに残してきたヒスイとサルファー。
喧嘩をしているに違いない。
コハクもそう思っていた。


「ヒスイ〜!サルファー!おいで〜!」




「いっそ丸刈りにでもすればっ!!」
「まな板胸が偉そうな事言うな!!」
「吸ってたくせに!!」
「すっ・・・!?何て汚らわしいことを!!」
「ちょっと!失礼なこと言わないで!お兄ちゃんは美味しいって言ったもん!!」
「父さんが“美味しい”?どういう意味だよっ!!ソレっ!!」
ど突き合い。
家庭訪問中であることなど二人とも忘れ去っている。
「こらこら。二人とも一時休戦して、こっちへおいで。先生が待ってるよ」


“ヒスイちゃん” “サルファーくん”


そう呼ばれて、両者ビクッ。
二人を迎えにきたコハクが、身内にしかわからない裏のある笑顔で手招き。
従わなければ“おしおき”が待っている。
二人の喧嘩を止める為にコハクが新たに考え出した“おしおき”。
一度体験し、懲りていた。
「・・・後で覚えてなさいよ」
「・・・それはこっちのセリフだ」
威勢のいい事を言っている割には、身を竦めコソコソとコハクの傍へ寄る二人。
「ヒスイは挨拶するだけでいいから、ね?」
「何て言えばいいの?」
極度の人見知りであるヒスイ。初対面の相手は苦手だ。正直気が重い。
「軽く会釈して、“子供達がいつもお世話になっています”でいいよ」
「ん、わかった」
「上手くできたら後でご褒美あげる」
「うんっ!」

ちゅっ!

子供達の前でも、ヒスイは特別扱いなのだ。
サルファーは、それが非常に気にくわない。
しかもコハクではなく、愛情を注がれているヒスイに憎しみを覚える。
「僕はお前が嫌いだ」
「別にいいよ。お互い様だし」
ツンと横を向いたままヒスイが答える。
「兄さんみたいに、愛情の裏返しとかじゃないから。ホント嫌いだから」
「あっ、そ。勝手に言ってれば?」
「・・・“愛されて当然”みたいな女見てると虫酸が走る」
「男の嫉妬は見苦しいわよ?」
家庭内でも恒例のコハクとトパーズの親子喧嘩。
ヒスイとサルファーもそれに並ぶほど険悪だった。
「でも・・・“おしおき”はちょっと・・・」
「・・・右に同じだ」
揃って咳払い。
「お兄ちゃんのいうことはきかないと」
「父さんのいうことはきかないと」





“教育者たるもの、これしきで・・・”

それは、ルチル流、自分を励ます呪文だった。
評判の美形が4人ズラリ。
中央にコハク。その右隣にヒスイ。
テーブルの上に置かれた小さなヒスイの手に、さりげなくコハクが手を重ねて。
夫婦を挟むように子供達が座っている。
サルファーがコハクの左側。ジストがヒスイの右側。
夫婦が子供達を挟んで座るのが普通だろうと思っていたルチルは、まずこのフォーメーションに驚き、更に4人が異様なほど詰めて座っていることに気後れ。
横に長いテーブルだというのに、なぜそこまでくっつく必要があるのか。
(この人達・・・わからない・・・)
コハクとジストはニコニコ顔で。
ヒスイとサルファーは仏頂面で。
2×4の瞳がじっとルチルを見つめているのだ。


サルファーは、クラスで一番勉強ができるが、協調性が足りない。
ジストは、クラスで一番の人気者だが、集中力が足りない。


そう報告するつもりで来たのに言い出せない。
逆に自分のほうが面接を受けている気分になってしまった。
(教育者たるもの・・・教育者たるもの・・・)
「・・・いくつ?」
先に動いたのはヒスイの口だった。
「え?」
「歳」
「じゅ・・・19です」
「19・・・」
女同士で年齢の話は気まずい。
ヒスイのほうが幼く見えても、間違いなく年上なのだ。
ルチルは完全に言葉に詰まってしまった。
「モルダバイトは年齢関係なく優秀な人材を採るからね」
「そうそう!先生すごいんだぜっ!」
話題を変えようと、コハクとジストが慌てて割り込む。
「大変なお仕事ですね。どうですか“特殊クラス”は」


“特殊クラス”


人ならざる者、及びその混血児のみで構成された学級で、異種族同士の学園生活は可能か、試験的に立ち上げられた教育プランだった。
人外の存在は日に日に認識を深めているが、他国ではまだ圧倒的に人間の割合が多く、何かと反発の声もあがる。
モルダバイトだけの問題ではなく、他国への証明として取り組まれていることだった。
ジストとサルファーが所属しているのは、公にされていない“秘密クラス”なのだ。
無論内容は一般クラスと変わらない。
ルチルは自ら志願して、この“秘密クラス”の担任となったのだった。



十数分後。玄関にて。

「すみません。何のお構いもできなくて」
事前に知っていればお土産を用意できたのに、と残念そうなコハク。
「いえっ!そういうんじゃないですからっ!!」
「先生、頑張ってくださいね。うちのコ、よろしく」
「はい。ありがとうございます」
深々と頭を下げてルチルが去った。その物腰は柔らかく。
(あれ?天使の匂い・・・?)
「彼女は人間の筈だけど・・・ま、いっか」
濃厚な同族の残り香。


それよりも今は。


「さ〜て。ヒスイと続きをしよっと」
コハクは軽く伸びをして向きを変えた。


「ヒスイ〜。おいで〜」




「ん・・・おにいちゃん・・・」
騎上位。ヒスイが体を起こして結合の度合いを深める。
コハクのペニスの中程を基点に、腰を小刻みに上下。
「あっ!あぅんっ!あ、あぁっ!」
サオの部分で入口を擦り、快感を得て、喘ぐ。
「いい音がするね」

くちっ。くちゅ。ぺちゃっ。

湿った音を聞けば聞くほどお互いの興奮が増してくる。
「んっ・・・はぁ」
「もっと奥まで突いてごらん」
腰を大きく動かすようにコハクが指示して、ヒスイが頷く。
言われた通りに腰を深く落とすと、同時に前も圧迫されて、甘美な刺激に溺れてしまう。
「んあっ・・・んぅ・・・ふぅ、はぁっ」
肉欲に従い、ひたすら擦り続けて、噴き出す愛液。
「あ、おにいちゃ・・・」
「・・・そろそろイきたい?」
「ん・・・」
ヒスイがコハクの胸にぺたりと伏すと、小さなお尻に両手を添えて、コハクが下から突き上げた。
「うく・・・っ!!」
それが絶頂に向けての合図で。
「は・・・おに・・・ちゃ・・・」
ヒスイが腰を沈める。
同時にコハクが突き上げる。
ヒスイが腰を引くと、コハクも腰を引いて。
恥骨をぶつけ合う要領で、繰り返し、繰り返し、交わる。
「あっ!あっ!あぁ!ふぁっ・・・あ・・・あぁ・・・っ!!!」
乱れて、割れる、声。すぐに弾けて。
「は・・・ふ・・・」
コハクに精液をたっぷり注入された後、官能の息と共に洩らす。


「ね・・・おに・・・ちゃん・・・最近スピネル大人しいね」


「スピネル?あ、うん。そうだね」
気分屋のスピネル。
話しかけても無視されることが多く、それこそ一、二週間話さないことはざらにあったが・・・
「えっちの邪魔だけはしっかりしてたのに」
いつからかぱったりと止んだ。
騎上位でなくても、吹き飛ばされないコハク。
(あれ?いつからだろ・・・)
「スピネルは、もう僕等の邪魔をしないと思うよ」
「え?なん・・・」


コハクお得意の口封じ。


キスで唇を塞ぎながら、ヒスイの両脚を拡げ、ペニス挿入――
「ひっ・・・あ!!おにいちゃ・・・!!ああ・・・」
続けて右の乳首を吸って、左の乳首を摘んで弄れば、快感に思考能力が奪われたヒスイは、されるがままだ。



「けふっ・・・はぁ・・・ぁ・・・ふぅ・・・ねむ・・・」
くたくたになるまで強いられ、ヒスイの体から力が抜ける。
頭に浮かんだ疑問を何一つ言葉にできずに、眠りへ落ちた。

すぅ〜・・・っ。

「おやすみ。ヒスイ」

キスをして、ヒスイの臍を指先でなぞる。
「これからは思う存分愛し合えるよ」



「スピネルはもう、ここにはいないんだ」





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