(・・・って事で!!こっちは片付いた!!)
ラブエロモードにシフトチェンジするコハク。
(帰って、シャワーして、えっちだ!朝までやるぞ!!待っててね!ヒスイ!!)
塞がらない傷の事は忘れている。
「・・・まって」
飛行の最中、後ろからイズにズボンのベルトを掴まれた。
「・・・今度は何?」
気遣いは嬉しいが、早くヒスイのところへ帰らせてくれ!と言いたい。
「・・・これ、ジョールから」
イズから受け取った一枚の・・・お買い物メモ。
「無事に用事が済んだらでいいので、帰りに買ってきて欲しい」と、出掛けにこっそり渡されたのだという。
(ヒスイ・・・彼女に何て説明したんだろう・・・)
事情を詳しく知らないとはいえ、イズに食料買い出しを言い付けるとは・・・
(しっかりしてるなぁ〜・・・ジョールさん)
「わかった。街へ寄ろう」
コハクが進路を変えた。
「・・・でしたら、その傷を治してからでないと、街で気味悪がられます」
ラリマーの言葉が耳に痛い。
「傷・・・残ったら、ヒスイ、悲しむ」
イズにまで強く勧められ、コハクは渋々応じた。
実際問題、血だらけで買い物などできる筈もなく、まだ冬だというのに上着を着ていない時点で充分アヤシイ。
コハクは空中で静止し、ラリマーの魔法治療を受けた。


「セラフィム・・・もう少し体を労った方がいい」


「え?そう?」
「・・・血液を半分以上も失っています」
一体どうしたらこれほど失血するのかと、ラリマーは呆れて溜息。
「うん。何かと要り用だったんだ」
コハクは頭を掻き、笑って誤魔化した。
「よくこれで立っていられるものですね」
それどころか、オールナイトでえっちの予定だ。
「一応貧血も治しておきますが・・・そちらの方は程々に」
ラリマーに見抜かれ、咳払いと共に釘を刺される。
「・・・どうも」





その夜、赤い屋根の屋敷。

スファレライト組抜きの宴となってしまったが、皆、それぞれの無事を喜んだ。
「ヒスイ〜。おいで〜」
「は〜い」
食事もそこそこに夫婦の部屋へと引き上げる二人。
「ではお先に」
ご機嫌な笑顔で挨拶し、ヒスイを連れ去るコハク。
当初の予定通り、これから朝までSEX。そのつもりで。



夫婦の部屋。

ヒスイが先にベッドへ飛び乗った。
立て膝でベッドサイドの窓を開けると、痛いくらいに冷えた夜風が入ってきた。
冬場は特に空気が澄んで、星座の輝きも増すのだ。
「おにいちゃぁん〜。今夜は満月だよぉ」
打ち上げの席で、ブランデー入りのケーキを食べたヒスイは少し酔っていて、妙に甘ったれた話し方になっている。
「うん。そうだね」
コハクは適当に相槌を打った。
(外は綺麗な眺めなんだろうけど)
ヒスイを見ている方がいい。いつもの脳内理論だ。


「おにいちゃん?」


ジョールとルチルにイジられたようで、ヒスイの身なりはきちんと整っていた。
小さな花飾りがついた、純白のワンピース。
丈が長めで、ヒスイが着るものにしては少し大人っぽいデザインだが、ウエディグドレスを彷彿とさせ、懐かしい気持ちになる。
ジョールとルチルの二人に感謝し・・・
(それでは、いただきます!!)


ギシッ・・・ヒスイを追ってベッドへ乗り込み、窓の外は無視。
ワンピースのスカートに頭を突っ込んで。
迷いなく、自分にとって価値のある眺めを選ぶ。
「ひぁ・・・んっ!おにぃちゃんっ!」

“よろしくね”

下着ごしに、ふっくらと柔らかい女性器へご挨拶のキス。
カラダに刻まれた記憶から、それだけでヒスイの蜜が滲み出す。
「さ〜・・・お兄ちゃんとイイコトしようね」
「うんっ!イイコトするっ!」
ふざけて両脚をじたばたさせるヒスイから、器用に下着を剥ぎ取り、顕になった陰部を代わりに顔で覆う。
「あぁ・・・んっ!」
舌先で割れ目を擽って。
下から上へと舐め上げる度に、コハクの筋の通った鼻先がヒスイの肉粒を刺激した。
「あっ・・・はぁ・・・おにぃちゃぁ〜・・・」
性感の塊ともいえるその場所に愛撫を欲するヒスイ。
「はぁ・・・ぅ・・・ん」
コハクは、ヒスイの膣内に深く舌を入れ、たっぷり愛液を掬い。
愛撫を待つ肉粒に塗り込んでいった。
滑らかで・・・速さもあるコハクの舌戯。
加える摩擦も圧力も絶妙で。
「は・・・あぁっんっ・・・」
うっとりと。ヒスイが息を洩らした。
熟れて膨れた肉粒を唇で啄むコハク。
それから・・・ゆっくり口に含み、唾液を絡めて吸った。

ちゅっ・・・きゅむっ・・・

「んぁっ・・・あぁ」
ヒスイが腰を揺らして喜んで。
コハクの愛撫にも熱が入る。
「はい、はい、もっとね〜・・・」
快感を逃がさないように。
指の間に包皮を挟み、粒を固定させ、舌で強く押し上げる。
・・・と。
「あは・・・っ!おにいちゃんってばぁ・・・」
ほろ酔いのヒスイは、感じて、笑って。
両脚でコハクの頭を挟み込んで。
「ん〜・・・ヒスイ・・・」
(朝までじっくり時間をかけて、愛し尽くすぞ!!)
ヒスイの愛液で顔面を濡らし、コハクもすっかりその気になっていた。


ところが。


「おにぃ〜ちゃぁ・・・だっこ!」
快感の末にヒスイが求めたのは・・・ペニスではなく。
(あれ?今夜はなんか様子がいつもと違う・・・)
「だっこ!」
「うん」
膝の上へと抱き上げる。
するとヒスイは、両手を首に両脚を腰に絡めてきた。
「お〜・・・よしよし」

くぅ〜っ・・・。

髪と背中を撫でながらコハクが体を揺らすと、ヒスイはすぐに眠ってしまった。
股の間を濡らしたまま。
「・・・・・・」
(どうしようかな・・・このまま続行って手もあるけど・・・)


今夜はなぜか昔の事を思い出して。


オムツ姿のヒスイも可愛かった。うん。
今でこそサラサラのストレートヘアだけど、幼い頃は少し癖っ毛で。
肩までの髪がクルクルしてて。
サルファーの天然パーマはヒスイの血統なんだよね。
それから・・・
くまのバックプリントのパンツがお気に入りで。
子供を産んでから履かなくなっちゃったけど。
あれ、どこいったかな〜・・・。


アンティークな三段チェストへと菫色の目を向ける。
奥の壁には一枚の絵が掛けられていた。
幼児ヒスイが描いたコハクの似顔絵。素晴らしい崩れ具合の。

くすっ。

見る度幸せな気分になるので、ヒスイは嫌がっているが、何十年もそのまま飾ってあるのだ。


初めて結婚の約束をしたのは・・・ヒスイがまだ3歳の時。
あの時の約束を覚えていたかどうかはわからないけど。
ヒスイは当たり前のように僕と結婚してくれた。
ああ・・・


「愛しいなぁ・・・」


純白のワンピースが目に眩しい。
しっかりとヒスイを腕に抱いて、祈る。



どうかキミだけは。
いつまでも・・・真っ白なままでいて。




その頃。

座天使カップルに降りかかる、恋の難題。
座天使のイズとメイドのジョール。
友達以上恋人未満。
ほのぼのと・・・むしろ友達寄りの。
そんな関係が半年近く続いていた。
「ジョール・・・」
「はい?」
「・・・ねむい」
ついにこの時がきてしまった。
一件の騒動以来イズが屋敷に戻ってくる事はなく、今夜が二人の初めての夜だ。


“がんばってくださいね”


ガチガチになったジョールをルチルがウインクで激励。
「部屋・・・どこ?」
「は、はい。ご案内します・・・」
ヒスイに割り当てられた部屋へと、イズを連れて移動するジョール。
「わ、私は片付けがありますので、これで」
部屋に数歩足を踏み入れた所で、気まずい空気に耐えられず、イズから逃げるようにドアノブへ手を掛けた。
「まって・・・」
呼び止められて、振り向き様に・・・ムギュッ!
「え・・・?」
服の上からではあるが、大きな手で胸を掴まれ。
「イ・・・イズさ・・・何を・・・」

モミモミモミ・・・

「あっ・・・あのっ!」
妙な具合にジョールの声が裏返る。

モミモミモミ・・・

「・・・・・・」
イズは力の加減がわからないらしく、難しい顔をして。
愛撫が、少し・・・痛い。
「っ・・・!!」
これからどうなっていくのか見当もつかず。
もっと素直に、ヒスイかルチルに相談しておきべきだったと後悔。
(私の方が年上なのだから・・・リードしないと・・・)
実際はイズの方が果てしなく年上だが、長身の割に童顔で物事に疎いので、いつしか自分の方が年上なのだと思い込んでしまっていたのだ。
そのプレッシャーからも益々固くなり。
なんとか切り抜けようとするが。
言葉を発する前にキスで口を塞がれ。


目を見開く。


「!!」
(これは何・・・)
下半身の・・・初めて“濡れた”場所に嫌悪感を覚えた。
「いやっ!!」

ドンッ!!

イズを突き飛ばして。
ジョールは部屋を、そして、屋敷を出ていってしまった。
「ジョール・・・」




翌朝。

「おはよう、ヒスイ」
「おはよ!お兄ちゃん!」

お待ちかね。ヒスイお目覚めの時間。
ベッドの上で見つめ合う二人。
コハクは片肘を付いてヒスイの寝顔を一晩中眺めていた。
一睡もしていないが、ギンギンに元気だ。
「お兄ちゃん、ごめんね。先に寝ちゃって・・・」
「いいよ。僕もいい夢見たから」
眠って見た夢ではないが。
(うん。悪い夜じゃなかった)


顔を寄せ、フレンチキス。
頬を包んで、ディープキス。
舌を絡ませ、前戯のキスへ。


夜の不足分は朝補うのが夫婦のルールだ。
「んむっ・・・ん」
ヒスイの肩に手を掛け、ワンピースの肩紐を外し、はだけた胸をまさぐって、乳首を吸うコハク。

ちゅっ・・・こりっ。

尖り勃った瞬間に優しく齧って。
「あ・・・おにぃ・・・」
「ヒスイ・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・お兄ちゃん」
「・・・うん」


注がれる、第三者の視線。イズだ。
少し開いた扉の隙間から何か言いたそうな目でじっと見ているので、無視する事もできずセックスを中断。
イズを室内へ招き入れた。
「え!?ジョールさん帰っちゃったの!?」

こくり。

((失敗しちゃったんだ・・・))
声には出さず、コハクとヒスイが顔を見合わせる。
ジョールが処女かどうかはともかく、イズが童貞なのは知っている。
密かに応援していたのだが、結果は見ての通りで。
言葉少なく、感情表現に乏しいイズ。
見た目では判断しにくいが、かなり落ち込んでいる模様だ。


「私、ジョールの所に行ってみる!」




モルダバイト城下。ジョール宅。

「こんなにたくさん貰えないよ」
鏡に映るのは困惑したヒスイの顔。
昨夜の事情を訊きにきたのだが、気が付けば三面鏡の前に立たされていた。
「ヒスイさんに着ていただきたいんです」

ニコニコニコ・・・

不自然なジョールの笑顔。
(絶対何かあった)と思うのに。
怒濤の勢いで出迎えられ、ジョールに主導権を握られてしまった。
当のジョールはあれから眠れなかったらしく、邪念を振り払うように洋服作りに没頭していたのだ。
「手直ししてみたんです。マタニティドレスって初めてなのでこれでいいかどうか・・・」
「・・・・・・」
(だから、まだ妊娠してないってば!!)
今朝もえっちしそびれてしまった。
どこからそういう話になったのか、ジョールから気の早いプレゼント。
お腹まわりがゆったりした洋服の数々。
これまで趣味で作ってきたものをジョールが徹夜で一斉リメイクしたのだ。
「ねぇ、ジョール・・・」
「ヒスイさん!一枚試着してみていただけませんか!」
「・・・・・・」
さあ!さあ!と。
ジョールはメイドならではの手際の良さで、ヒスイを着替えさせようとした。

が・・・。

「え・・・?」と、ジョール。
「な・・・!」と、ヒスイ。

ワンピースの下から現れたのは、くまのバックプリントのパンツ。
いかにも履き古した感じの。
前には小さいリボンがひとつ。
やたら布の面積が広い。


「何で子供用のパンツ履いてるのよ!!」


ヒスイ本人が一番驚いていた。
クスクスクス・・・
「ヒスイさん、可愛い」
「もうっ!!お兄ちゃんはぁぁぁ!!」
昨晩は違うものを履いていた筈なのに、いつの間にか。
(寝てる間に替えたわねぇ!!)
クスクスクス・・・・
「とてもお似合いですよ」
「・・・・・・」
(ジョールに笑われちゃったじゃないの!!お兄ちゃんのバカぁ!!)
恥ずかしくて泣たくなってきた。
何を話そうとしていたのか全部忘れてしまいそうだ。
「お気に入り、なんですね。ヒスイさんの」
「え・・・あ・・・うん」
ジョールに言われるまで忘れていたが、確かにこのパンツが大好きだった。
(お兄ちゃん・・・とっておいてくれたんだ・・・)
ヒスイの使用済みパンツをコハクが捨てる筈がない。
それはコハクにとって“宝物”の領域だ。
一晩思い出に浸ったコハクの勝手なサービス・・・というのが事の真相。


クスクスクス・・・
くまのパンツがツボに入ったらしく、ジョールはまだ笑っていた。
「・・・ねぇ、ジョール」
「はい?」
笑ってガードが緩んだのか、ジョールは素直に返事をした。
「昨日、イズと何かあったの?」
「こ、こんなパンツ履いてるけど、私の方がジョールよりずっと年上だし」
ない胸を両手で隠し、ジョールを見上げて。
「イズはその・・・お兄ちゃんの弟みたいなものだから・・・私にとってもそうだし。今朝、すごく落ち込んでて・・・」
「イズさんが?」
「うん」
それを聞いてしまうと、とても悪い事をしてしまった気がして。
これ以上誤魔化しても何の解決にもならないと悟った。
ジョールは深呼吸をひとつ。
「私・・・初めてなんです。おかしいですよね、この歳で」
「なんで?別におかしくないよ」
逆にヒスイが不思議そうな顔で聞き返した。
「ヒスイさん・・・」
「うん!きっと、イズが喜ぶ!」
笑ったヒスイの口元から牙が覗く。
胸のつかえが取れたみたいに、スッと気が楽になって。
25歳、処女の苦悩を語り出すジョール。


「うん。それで?」
「自分の体が急にそんな風になってしまって・・・びっくりして」
いよいよ何もかも打ち明ける。
「ん〜とね、それはいい事だと思うよ。“したい”って気持ちの表れだから」
ココロよりカラダの方が正直にできているのだと。
ヒスイの性の知識にはかなり偏りがあるのだが。
「ちょっと恥ずかしい時もあるけど。お兄ちゃん、いつも褒めてくれるし・・・くしゅんっ!!」
「あっ!ごめなさい!!」
パンツ一丁の美少女。
事件発覚時そのままの格好で話に付き合わせていたのだ。
「ヒスイさん、これを着てみて・・・」
どさくさ紛れにおねだり。
一番の自信作を差し出すジョール。
「うん。いいよ」




数十分後。

(・・・何・・・このアタマ)
銀髪がクルクル巻きにアレンジされて。
そのままちょっとしたパーティに行けそうな格好になっていた。
(マタニティドレス?これが?)
マタニティの機能を備えつつ、お洒落だ。
「ふぅっ」
ジョールにとってはいい気分転換になった。
包み隠さず話をした事で不安も和らぎ、やっといつもの調子が戻ってきた。
「ヒスイさん、お屋敷までお送りしますね」
共に屋敷へ引き返し、イズに謝らなければという気持ちもあって。


ジョールはヒスイを連れ、家を出た。
前モルダバイト王妃のヒスイが人目に付かないよう庇いつつ、街を抜け。
森の中、屋敷へと続く道。
「ヒスイさん」
「うん?」
「私も、子供の頃持っていたんです。くまさんの・・・」
「だからあんなに笑ったの?」
「はい。すみませんでした」


「ううん。じゃあ、同じだね。私達」
「ええ。同じですね」






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