「ううむ。いい体をしているな」
熾天使シトリンが唸る。
視線の先には・・・アクアマリン。愛称“アクア”。
コハクとヒスイの娘で、つまり、シトリンの妹だ。
誕生して16年。見事な爆乳娘へと成長していた。本来は巨乳の血統なのだ。
体格もいい。170cmを超える長身。シルエットで言えばシトリンと大差ない。
体質は吸血鬼寄り、母ヒスイと同じ銀髪翠瞳・・・だが、瞳は現在コンタクトで紅く染めている。
その風貌は祖母サンゴを思わせた。



12歳で家を出て、今は同棲中。

相手はサンゴの弟、コクヨウだ。
アクアの里帰り。
丁度そこにシトリンが遊びに来て。
久しぶりに姉妹が顔を合わせる事となった。
「実にパワフルだ!」と、シトリンは絶賛。
胸だけではなく、とにかくすべてがバランス良くデカイ。
・・・ついでに態度もデカイ。
小柄で華奢なヒスイと並ぶと尚更それが強調され、見た目からして強そうだ。
「鍛えれば、モノになるぞ!!騎士団に入れ!アクア!」
好戦的なのは熾天使の性。
シトリンはアクアと手合わせしてみたくてウズウズしていた。
アクアに秘められた戦闘力が知りたくて仕方がないのだ。
「やだぁ〜。メンドイもん」
「何を言う!鍛錬で己を磨くのは楽しいぞ!!」
めげずにシトリンが武士道を説く。
「アクア、オシャレしてるほ〜が楽しい」
磨くのは己ではなく爪だ、と言い放つ。
近頃ネイルアートにハマっているのだ。
「よし!ならば私を負かしてみろ!それができたら、服でもバックでも好きな物を買ってやる!!」
諦めきれないシトリン・・・ついにはそんな事まで言い出した。
「ホントぉ?」
「ああ!女に二言はない!!」
シトリンが勇ましく親指で“外に出ろ”の合図をして・・・物に釣られたアクアが応じる。


「何やってるの?」


そこで、ヒスイ。
娘二人の後をチョコチョコとついてくる。
激しい人見知りでも、娘となれば別だ。
仲間に入れて欲しそうに二人を見上げて。
(うぉぉ!!母上!!可愛いぞ!!)
デレッと緩むシトリンの顔。
思わず抱きしめてしまいたくなる衝動を堪え、「まぁ、何だ、修行のような〜」と、お茶を濁す。
「修行?私も混ぜて!」
ヒスイが言った。
「あ〜・・・母上はやめておいた方が・・・」
「何で?」
「やめときなよ〜。だってママちっさいもん。相手にならな〜い」
アクアは右手をヒスイの頭にのせた。
更に上から押さえつけ、ニヤリ。
ヒスイは当然ムッとして。
「ちょっと!子供扱いしないでよ!!」
「子供じゃ〜ん」
確かに見た目はアクアやシトリンよりはるかに幼い。
(だからって何で子供に子供って言われなきゃなんないのよっ!!)
カチンときてぷくっ!
ヒスイは頬を膨らませ抗議した。
「子供じゃないもん!」


『ママはぁ〜、パパとえっちしてればいいの』


「な・・・」
「アクア妹欲し〜。子分にするから早く産んで」
アクア節が炸裂し、怒ったヒスイが言い返す。
「自分で産めばっ!!」
「無理。アクア、子供嫌いだもん」
あっさり、きっぱり、アクアが宣言。
「・・・・・・」
口下手なヒスイはそれ以上何も言えずに。



「お兄ちゃぁん!!」



・・・コハクの元へ退却した。
「ママってぇ。虐めたくなるよね〜。アクアが男だったら、めっちゃくちゃに犯してるかも〜」
根底にあるのは“親愛”の気持ち。
なのに、そういう発言となってしまうのがアクアだ。
「口を慎め!!」
(シャレにならん!!)
シトリンはつい敏感に反応してしまい、口調が喧嘩腰に。
「いいか。妙な気起こすなよ?」
ギリギリまで顔を近づけ、アクア相手にメンチを切る。
睨み合い。巨乳と巨乳が押し合い圧し合い。
「おネェだって、さっきアヤシかったよ〜」
「あ、あれは!!遺伝子のせいだ!!」
それを言うならアクアもだが。
(兄上と同じ鬼畜系・・・)

ヒスイが産んだ子供達は大きく2タイプに分かれる。

好きな相手ほど虐めたい鬼畜系。
好きな相手ほど守りたい紳士系。

まさしく今、その二人が対峙していた。
「いくぞ!」「いいよぉ〜」

バッ!

お互い一旦後ろに飛ぶ。
なにせ姉妹間の戦い・・・武器の使用はなしだ。
距離をとったところで、思い思いに攻撃の構え。
せっかちなシトリンから攻撃に移った、が。


「あ、そうだ」


予想外なアクアの行動で、戦闘ムードが一変した。
何かを閃いた様子のアクアは戦いを放棄。
急に体の向きを変えた。
「おわっ!!」
拍子抜けして体勢を崩すシトリン。
前転しながら猫に戻る。
「これからデートだった〜」
里帰りの目的を思い出したアクア。
デートに着ていくための洋服を探しにきたのだ。
とっておきの一着。
ここにしかない一着を。
「おい!待て!!」
シトリンが言っても聞かず、アクアは裏口から室内へ戻ってしまった。




屋敷内。キッチンにて。

「お兄ちゃんっ!」
「ヒスイ、どうしたの?」
真っ赤な顔でヒスイが駆けてくる。
コハクは両手を広げ、ヒスイを迎えた。


『アクアが妹欲しいって!!』


「虐めるの!!」と、続ける前に。
「は〜い。じゃあ、えっちしようね〜」
ヒスイの話を最後まで聞かずに、求められたものと解釈。
「おにいちゃんっ!!ちがっ・・・」
コハクはそのままヒスイを抱き上げ、キッチンテーブルの上へ座らせた。
お尻が乗った時点で、そこはもう食卓ではなく愛用の簡易ベッドだ。
「そうじゃな・・・あ・・・」
ワンピースはすぐに脱がされてしまい、ブラの前ホックも外されて。
覗く、白い胸。
左の乳首は唇で摘まれ。
右の乳首は指で挟まれ。
ゆっくりと・・・上体が倒される。

ゴトッ。

「「あ・・・」」
テーブルの上。
無造作に投げ出されたヒスイの腕が当たり、蜂蜜の瓶が倒れた。
純度100%の蜂蜜が溢れ、ヒスイの指先を濡らす・・・。
コハクにとっても予想外のハプニングだったが、そこは逆手に取って。
当然、ヒスイの指を舐める。

指と。爪と。

その隙間まで。
知り尽くした舌先で。


「・・・っ・・・おにぃ・・・」
指を咥えるコハクの淫らな口元が、ヒスイをその気にさせる。
会話がちゃんと成立していない事など、もうどうでも良くなって。
じっとり・・・濡れる。
蜂蜜に負けない濃蜜。


どれ。どっちが甘いかな?


・・・と、そのまま愛液を啜るのも芸がないので。
「ちょっと待ってね」
コハクは棚から予備の蜂蜜瓶を取り出した。
「おにぃ・・・ちゃん?」
問いかけるヒスイの視線に何も語らず、ニッコリと微笑み・・・
「え!?あ・・・」
傾けた瓶から垂れた蜂蜜が、恥丘を滑り、割れ目へ流れ込んだ。
「なに・・・す・・・あ・・・ん」
「よ〜く混ぜようね」
わざわざ指で肉裂を開き、少し奥を舌の表面で撫でつけ、混ぜ合わせ。
咽せるほど甘い蜜を味わう。
コハクの喉が鳴った。
「あぅ・・・おにいちゃ・・・」
「ご馳走様」
これはそのお礼、と言って。
卓上M字開脚の正面。
膣内の性感帯を愛撫するのに最適なポジショニングだ。
左手で丁寧に小陰唇を広げ、右の手の平を上にして、中指と人差し指を膣口へ。


「おにい・・・あンッ!!」


甘美な愛液に包まれながら、根元まで埋める。
「うっ・・・んんっ!」
温かいヒスイの膣内で。
恥骨を裏側からなぞるように指を曲げると、そこに、ある。
「あ・・・ああんっ!!」
「よしよし。ここがね〜、気持ちいいんだよね?」
トントンと、指の腹で叩くと、ヒスイのカラダが反応し。


「んひぁっ!!」


髪を振り乱して喘ぐ。
コハクはまだ服を着ていた。
自分だけが裸で。
脚を開いて。
ビクビク震えて。
愛液を垂れ流している。
それが堪らなく恥ずかしい。
「あう・・・あぅぅ〜・・・」
ヒスイは縋るような目でコハクを見上げた。
「ほうら。おいで」
「う゛〜っ・・・おにいちゃぁ〜・・・」
しがみつくヒスイを床に降ろす。
こういう時のために、床は常に磨いてあるのだ。
ヒスイを床に寝かせ、上からキスをして。
コハクはシャツのボタンを外し、ベルトを緩めた。


「舐めてごらん?甘いよ」


挿入。その前に。
さっきまで膣内にあった二本の指をヒスイの口内へ移す。
「んふ・・・っ」
指を咥えさせたまま、正常位でペニス挿入――


「あ・・・むっ!!」


小振りの膣へ大振りのペニス。
毎回の事だが、受け入れる側のヒスイには相当な刺激だ。
「えふっ!!んぐっ!!!」
いつもなら。
喘いで発散する快感も、指で口を塞がれ、蓄積される。
涙と唾液と。結合部から噴き出す愛液と。

声にならない声。

ヒスイの表情が美しく歪んで。




(やっぱ父ちゃんすげぇ!!今日もエロい!!)
いかにしてエロティックなシチュエーションを作り出すか。
ジストはコハクのテクニックの虜になっていた。


「はぁ、はぁ・・・」
悩ましげな息遣いはジストのものだ。
ズボンの上から懸命に勃起を押さえ、覗き中。
「う・・・」
体もすっかり成長し、こういう場面では、もうただでは済まない。
「う・・・ん」
昔はもっと純粋に綺麗だと思えたのに。
ここ数年は特にムラムラ。
下半身が興奮し過ぎて最後まで見ていられないのだ。


「も・・・だめ・・・トイレっ!!」


限界が近づくと、トイレに移動するくらいの良識はある。
見逃した絶頂シーンは脳内妄想で補い、とりあえず出すモノを出してスッキリ。
「は〜・・・っ」


だが。


「に・・・兄ちゃんっ!?」
トイレ前でトパーズと出くわし、ギクッ!!と、ジストの身が竦む。
(ヒスイでヌイてるのバレたら絶対兄ちゃんに殺されるっ!!)
やましさに心臓バクバク。
(変じゃないよな!?トイレから出てきただけだもん)
「・・・・・・」
トパーズ、10年宣言、その後。
10年経ち、成人する頃にはジストも家を出ているだろうと思った。
それから、問答無用でヒスイを攫っていく予定だった・・・が。
スピネル・サルファーは10歳で家を出た。
アクアは12歳。
ところがジストは、家を離れる気配が全くない。
休日はいつも暇そうにしているので、恋人がいるとも考えにくい。
見た目は一丁前の美青年でも、ヒスイと昼寝をする趣味は変わらなかった。
ジストが居座るので、トパーズも動けず。


10年宣言は成就していない。


(・・・早く出てけ。馬鹿・・・)





(結局えっちしちゃった・・・)
「おかしいわね・・・何でこうなるの?」
散々快感を貪った後、我に返って思う。
コハクの勢いに流されて・・・は、いつもの事だ。
「そろそろ任務に行かなきゃね〜」と、コハク。
気が付けば日は沈み、夜の帳がおりて。


悪魔祓いの時間。


ヒスイに制服を着せるため、コハクは夫婦の部屋へ。
クローゼットの扉を開けた。



「あれ?ヒスイの制服がない・・・」





犯人は・・・次女アクアだった。

「おじ〜ちゃん。お待たせ〜。」
「お〜・・・似合うじゃん」

孫のアクアを仰ぎ見る祖父メノウ。
「へへっ。これだけはピッタリフィットぉ〜」
エクソシストの制服は特殊魔法素材で作られている。
伸縮自在なので体格差のあるヒスイのものでも着用可能だった。

・・・祖父メノウの入れ知恵だ。

「よく盗ってこれたなぁ」
「うん〜。今日はキッチンでえっちしてたから〜。簡単だったよ」
アクアの報告を受け、メノウは苦笑い。
「ほら、例の魔法陣、用意できてるからさ」
それは現在地・・・つまり、屋敷裏の森から、モルダバイト西の砂漠へと移動する魔法陣だった。
今夜、モルダバイト西の砂漠で任務遂行の予定なのだ。


コードネーム『国士無双』。
メノウとコクヨウによるエクソシストコンビだが、今夜はパートナー交代。
メノウに代わり、エクソシストの資格を持たないアクアが赴く。
・・・規約違反でも、気にしない家系だ。
エクソシスト志望のアクア。
同棲相手のコクヨウが断固として認めないので、実力を示し、考えを改めさせてやろうという意図があった。
ついでにコクヨウとの絆が深まれば・・・というメノウの気遣いでもある。
「あとこれ。お前に向いてると思うから」
メノウが与えたのは、アクア専用武器・・・トンファー。
ベテランのコクヨウが一緒なので、心配はしていないが、それでも身を守るための武器は必要だろう、と。
「じゃあ、アクアからはこれ〜」
かつて右手にぶら下げていた小さなバスケット。
トンファーを受け取る際一旦地面に置いたのだが、それを再び持ち上げ、取り出したのは、焼き立てのクッキーが詰まった包みだった。
「少し時間があったからぁ〜。寮に戻ってクッキー焼いたの」
突然変異的に。
アクアは料理上手だった。
安心して焼き立ての味を堪能できる。
「コクヨウにも食わしてやれば?」
「コクヨ〜甘い物嫌いだもん」
「お前は食うだろ?」
「いらな〜い。アクア、ダイエット中だし」


「これはおじ〜ちゃんのために作ったものだから、全部あげる」と、アクアは言った。


遺伝子の・・・不思議。
メノウに対してだけは、鬼畜でも意地悪でもなく、なぜかとても優しいアクア。
「そ?んじゃ、お言葉に甘えて」
受け取ったクッキーの包みを開け、次から次へと口の中へ放り込む・・・メノウは大の甘党だ。
「はい。おじ〜ちゃん」
「ん!サンキュっ!」
クッキーと共に持ってきた保温ポット。
中にはローズヒップの紅茶が入っていた。
メノウが喉を詰まらせないよう、内蓋コップに注いで手渡す。
そのおっとりとした仕草や気の遣い方が亡き妻と重なり、しんみりと嬉しく思うメノウだった。
好き嫌いがハッキリしているアクアの脳内ランキング。

一位 コクヨウ
二位 メノウ
三位 ヒスイ
四位 ジスト
五位 シトリン

・・・以下同列。祖父メノウは常に不動の二位をキープしていた。
つまり・・・グランドファザコン。おじいちゃん子だ。
「そろそろ本命デートの時間だろ」
代理人として孫のアクアを向かわせる事はコクヨウに告げていない。
「うん〜。コクヨ〜驚くかなぁ」
「そりゃ驚くさ」
メノウの悪戯好きは何年経っても変わらないのだった。
「おじ〜ちゃん。ありがと〜」
チュッ!お礼のキス。
アクアのふっくらした唇がメノウの頬に触れた。
「いってきまぁ〜す」
「頑張れよ〜」
メノウが用意した魔法陣を踏み、目的地へと。
激励の笑顔で送り出すも、少々寂しい。
「ま、しょうがないよな」
寂しさはクッキーの甘さで誤魔化して。
「さて、っと。ヒスイに怒られに帰るかぁ」
娘に怒られるのは案外嬉しいもので。
制服紛失事件の黒幕として自首しようと思う。
怒ってもイマイチ迫力に欠けるヒスイ。
可愛いと思うばかりで、少しも懲りない父メノウ。
怒った時、ヒスイが口にする言葉はいつも同じなのだ。
(うん。絶対こう言う)


「もうっ!お父さんはぁっ!!」




モルダバイト西の砂漠。

「何でお前が来てんだよ!?」
待ち合わせの場所に、一足先に到着していたコクヨウは、アクアの顔を見るなり大声で怒鳴った。
『国士無双』のエクソシスト、コクヨウ。
“銀”の吸血鬼一族の直系にして最後の生き残りでもある。
過去の失態から、今は狼に近い獣の姿をしていた。
(畜生!アイツ嵌めたな!!)
本来のパートナー、メノウを罵ったところでどうにもならない。
「今日はぁ、サービスデーなんだよ?」
「サービスデーだと?」
「ほぅらぁ」
「・・・!!」
制服のスカートを捲り上げると・・・いきなり割れ目。
アクアはなんとノーパンだった。
「コクヨ〜がいつでも入れられるよ〜にっ」
「入れねぇよ!!」
アクアのペースに早くも振り回されるコクヨウ。


今回の任務は・・・
砂漠で頻発している行方不明者の捜索、及び原因究明。
そして、可能であるならば、解決に至ること、だ。
先日、体液を吸われ干涸らびた死体が発見され、吸血鬼の仕業ではないかという噂が立ち始めていたのだ。
早急に事の真相を突き止めなくてはならない。
「アクア達吸血鬼のぉ、股間に関わる問題だよね〜」
「“股間”じゃねぇ!“沽券”だ!!バカ」
西の砂漠・・・これまでは至って平和な場所だった。
悪い噂が囁かれるようになったのは、一ヶ月ぐらい前からだ。
(コイツと一緒じゃ仕事になんねぇ)
アクアのボケにツッコミを入れるのにも疲れて。
「コクヨ〜。歩くの早いよ〜」
「うるせぇ!黙ってついてこい!」


月光が翳った時だった。


突如、足元の砂地が渦を巻き、すり鉢のような窪みを形成・・・巨大な蟻地獄だった。
「わぁ〜・・・・」惚けたアクアの悲鳴。
「チッ!」コクヨウは舌打ち。
二人は砂の流れに足を取られ、蟻地獄の中心部へと吸い込まれていった。
そこは・・・
地下洞窟。
天井部分から砂と一緒に落下する二人。
獣の優れたバランス感覚で、見事着地を決めたコクヨウ。
その上に・・・アクアが落ちてきた。

ドサッ!!
ウグッ!!

コクヨウは潰れたが、お陰でアクアは無事だった。
「重いんだよ!デブ!さっさと退け!」
「アクア、ダイエットしてるもん!」
言い争いをしている場合ではなかった。
二人が落ちた場所は地下空間の崖上で、崖下には広大な砂地が広がっていた。
そこに、まるで水面のような波紋が広がり、今回の事件の親玉モンスターが姿を現した。
落ちてきた獲物を捕らえ、喰らうために。
クワガタに似た頭部。
昆虫タイプの魔物で、かなりの巨体だ。
砂から覗かせた頭部だけでも5mはあった。
エクソシスト達は昆虫タイプの魔物を総称で“蟲”と呼ぶ。
早速食事にありつこうと、蟲は消化液を吐いた。
先に狙われたのは、銀の獣コクヨウだ。
「コクヨ〜!!危なぁ〜い!!」

ドンッ!!

愛しいコクヨウを毒牙にかけてなるものかとアクアが庇う、が。
それはかなり見当違いで。
助けがなくとも充分かわせるものだったというのに、勢いよく押し出され・・・
「バッ・・・何す・・・」
コクヨウは、崖から転落した。
「コクヨ〜に何するのよぉ!!も〜!!アクア怒ったよ!!」
アクアは蟲を睨みつけ、トンファーを構えた。


(お前がやったんだろ!!ボケ!蟲のせいにすんな!)
崖下の、コクヨウ。
不幸中の幸いで、一段下に落ちただけで済んだ。
もしそこに岩壁が突き出ていなかったら、今頃砂に沈んでいた。
突然の事だったので、受け身も取れず、全身打撲。
動けない程ではないが、こんな事なら消化液を浴びた方がまだマシだと思える。


「コクヨ〜はぁ、そこで見てて。アクアが殺るから」


実戦は初めてであろうアクア・・・少しも臆することなく崖から飛んだ。
蟲の脳天をトンファーで殴る。
しかもそこで炎の魔法が発動し、蟲は一瞬にして炎に包まれた。
専用武器の追加効果だ。
魔法が苦手なアクアのために、メノウが仕込んでおいたのだった。

ギィィィィ!!

昆虫系は大部分が火に弱い。あっけなく焼死した。
(度胸のある女だな・・・)
しかしそれもアクアの父親と母親の顔を思い浮かべれば納得がいく。
「あ〜あ。爪割れちゃった〜・・・」
口を尖らせながら、蟲の死骸を足場にコクヨウの待つ岩壁へと飛び移るアクア。
「ふ〜っ。疲れたぁ〜」
コクヨウの向かいに座り、アクアは大きく脚を開いた。
すると、性器丸見え。明らかに性的挑発だ。
「アクア、頑張ったから、ご褒美ちょうだ〜い。ここに」
「アァン?ご褒美だぁ?」
コクヨウはキレた表情で聞き返した。
「だってパパが〜」


ご褒美だよ。


「いつもそ〜言って、ママのアソコにオ×××ン入れてるよ?」
「・・・・・・」
(コイツのエロさは尋常じゃねぇ!!)
学校の成績不振はすべてこれが元凶か。
(それとも何か取り憑いてんのか!?)
真面目に、そんな事まで考えるコクヨウ。
「ね〜?コクヨ〜・・・えっちしよ?」
「ひとりでやってろ!!」
いつもと同じやりとりで、コクヨウはアクアの誘いを断った。
が、対するアクアの反応はいつもと違っていた。


「じゃあ、そ〜する」


暗い女性器の溝を指の腹で擦る。
濡れ出すと、躊躇いもせず自分の中指を割れ目に押し込んだ。

ぷちゅ・・・

「んっ・・・ぁ・・・はぁっ」
コクヨウの目前で、処女とは思えない大胆な自慰が展開される。
「何考えてんだよ!?オイっ!!やめろ!!」
「コクヨ〜がひとりでしろって言った」
グッ、グッ、と。
中指をコクヨウの陰茎に見立てて。
少しでも奥へ・・・健気に指を動かすのだ。
「コ・・・クヨぉ〜・・・あぁ・・・んっ!!」
グラグラと男心が揺さぶられ。
「お前・・・何でそんなにエロいんだよ!!」
遺伝、と答えればそれまでだが。
「アクアがこんなにえっちになるの・・・コクヨ〜といる時だけ・・・だよ?」
愛の殺し文句で、コクヨウの理性は崩壊寸前まで追い込まれた。
「バカ・・・何言ってんだよ・・・」
そんなに求められたら・・・男として、見て見ぬフリはできない。


しきりに動くアクアの指。
綺麗に伸ばした爪で、女性器を傷つけてしまいそうだ。
それならまだ自分の方が・・・
コクヨウを度々襲う心の葛藤。
「コクヨ〜・・・コクヨぉ〜・・・はぁっ・・・あんっ・・・」
(ここまできたらやるしかねぇ!!)
同棲期間4年。結局、愛があるのだ。
このままアクアを放ってはおけない。

固まる決意。

アクアとキスを交わし、人型へと変化する・・・
続けてすぐに、アクアが体勢を変えた。
四つん這いになり、お尻で更なる誘惑。
「準備オッケぇ〜!」
「ホントにいいんだな?」
「いいよぉ〜」
早く!早く!と急かすアクアの腰に、コクヨウの手が触れた瞬間・・・


ヒラリ。


一枚。金色の羽根。
「・・・・・・・・・」
「やあ。僕の事は気にせず続け・・・」
「・・・る訳ねぇだろ!!」
コクヨウの天敵、コハクの登場。
妻ヒスイの制服を取り戻しにやってきたのだ。
「君に“お義父さん”と呼ばれるのも複雑だなぁ〜」
熾天使コハクは上空から急にそんな事を言い出した。
「アクアは僕等の娘だからね」
忘れていたが、そういう系図なのだ。
「欲しいなら、ちゃんと挨拶にくること。その時は一発殴らせて貰うから。覚悟しててね」
「・・・チッ!」
これまでもコハクには散々殴られてきた。
自業自得とはいえ、何度撲殺されかかった事か。
(今更何が一発だ。極悪天使!!)
だが、アクアと結婚すれば、否応なくそういう関係にならざるを得ない。


究極の選択を前に。


「クソッ!!」
・・・今夜は退く。
「あっ!コクヨ〜!待って〜」
全裸という間抜けな格好で、コクヨウはコハクから逃げるように洞窟の奥へと姿を消した。
「パパぁ〜!!邪魔しないでよぉ〜!!」
「ははは!ごめん。ごめん」



実りそうで実らない、恋。


一家の次女。



アクアの春は・・・まだ遠い。





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