「羞花閉月って知ってる?」コハクが言った。


花も恥じらい、月も隠れる。


容姿の美しさの喩えだ。
「ほら・・・こんな風に」
羽根を広げ、窓から見える月を隠したりして。
「綺麗だよ・・・ヒスイ」
「ん・・・おにいちゃ・・・ん」


裸で絡み合う夫婦。


「ほら・・・ここもこんなに・・・」
ヒスイの両脚を腕で開き、股間への愛撫を予感させる。
毎晩の事でも、コハクの唇が割れ目に触れる瞬間は、恥ずかしさから腰が引けてしまうヒスイ。
月の満ち欠けの関係で、今夜はいつも以上に体が敏感になっていた。
「ヒスイ・・・」
コハクの舌が濡れた性器へとあてがわれた瞬間に。
ビクンッ!!
「あ・・・ごめ・・・」
大袈裟なくらいに反応してしまい、更に恥ずかしくなるヒスイ。
「大丈夫・・・可愛いよ、すごく」
真っ赤になったヒスイの頬を両手で包み、たっぷりと、キス。

それから・・・

「ひぁ・・・んっ!!」
ヒスイの脚を広げ、いきなりクリトリスに吸い付くコハク。
「うっ・・・あぁぁんっ」
浅く、深く、口に含んで。

くちゅ・・・ちゅ・・・ちゅくっ・・・ぴちゃっ・・くちゅくちゅ・・・

「あっ・・・はぁ・・・はぁ、あ、んっ・・・はっ」
「指よりもずっといいでしょ?」
愛液で濡れ輝くコハクの唇。
「ヒスイ・・・自分で剥ける?」
「う・・・んっ、あ・・・おにいちゃ・・・」
ヒスイ自身に剥き出させ、クリトリス集中的舐め。
まずは舌の中央に乗せ、グイッと押し上げる。
「・・・んっ!!」
膨らんだ肉粒を舌先で左右に揺らすと、ヒスイも震えて。
「あぁぁんっ!!」
「うん・・・コッチも可愛いね。それに・・・いい匂いがする」
生々しくも愛しい香りに心底嗅ぎ惚れ、コハクは強く鼻先を擦りつけた。
「やっ・・・ぁ・・・おに・・・あぁんっ!」
コハクの熱い鼻息がヒスイの割れ目にこもった。



月明かりの下。

ヒスイのお尻を膝に乗せて。
軽く手前に返すように脚を広げさせ、しっかり抱え込む。
あらわな格好・・・返されたヒスイの窪みが天へ向く。
滾々と湧き出る愛の泉。
そこには極上の愛液が湛えられ、淡い光を放っていた。
「おにい・・・ちゃぁ・・・」
これから与えられる快感をカラダが知っているので、ヒスイ自ら両手を使い、大きく脚を開いた。
「そうだね、いい子だ」
愛撫は丹念に。執拗に。
クリトリス、尿道口、膣口、それらを縁取る小陰唇と、アナル。
ヒスイの股間にあるものはすべて舐め尽くす。
「えぅ・・・っ!!おにぃ・・・んっ!!」
月光に照らされた静かな空間に、愛液を啜り上げる音が卑猥に響いた。


「次はコレでね」
開脚させたまま、ヒスイを仰向けに。
勃起したペニスを持ち、先端でクリトリスを擦る。
「っ・・・!!ううんっ!!」
下から上へ、繰り返し、繰り返し。抉るように。
強く押し付けては、滑らせる。
ムズムズと込み上げてくる快感に、ヒスイの膣から大量の愛液が漏れた。
「あっ!!ああっ!!」
ペニスの受け入れ準備は万全だ。


「入れる・・・ね?」


コハクの言葉に続き、ズプ・・・ッ。
「あ・・・っ!!」
ゆっくりと太いペニスが差し込まれた。


「あっあんっ!!あっ!あっ!あ・・・うっ!!」


コハクの腰の動きが段々早くなり、刺激もどんどん強くなってゆく。
「うっ・・・あ!!あっ!あぁぁっ!!」
正常位で突き上げられ、その上、クリトリスを弄られて。
「おにいっ・・・ちゃ・・・!!もっ・・・だめ・・・あんっ!!」
奥が痺れて、意識も遠のく・・・が。
「このまま・・・もう一回イこうね〜・・・」
コハクはペニスを抜かず、更に激しく腰を振った。
「えっ・・・あぅっ!!うっ!あっ・・・はぁんっ・・・」


「どう?また良くなってきたでしょ?」


一回イッた筈なのに、続けて強引に擦られ、再び快感に襲われるヒスイ。
「あっ!いっ・・・!!んんっ!!おにぃちゃぁんっ!!」
牙を剥きだし、大きく喘ぎ、そのまま・・・二度目の絶頂を迎えた。



「お〜、やってる、やってる」
今夜、夫婦の部屋を覗くのはメノウ。
(銀の吸血鬼は月光と相性抜群だから。こんな満月の夜は月光浴させてやるといいんだ)
「流石にちゃんとわかってるな」
窓を開け、部屋に直接月光を入れている。
ベッドの上の位置取りも抜かりない。
月光には美容成分があるのだ。
今夜はまた一段とヒスイの感度が良く、愛液の味も最高級。
(コハクがやり逃す訳ないか)
妻、サンゴともよく月光の下で愛し合った。
見事な満月だったので、堪らなく懐かしくなって。
サンゴの忘れ形見・・・ヒスイを見に来たら、セックスの真っ最中だった。
「娘がイクとこ二回も見ちゃったよ・・・」
覗くつもりで来たわけではなかったが、成り行き上、そういう事になってしまった。
常連のジストは任務で家を空けていた。
ムーンライトSEXを見逃したとあらば、さぞ残念がる事だろう。


「そういやあいつの背中に紋様刻んだのも、こんな満月の夜だったっけ」


ふとコハクの背中が目に付き、思い出す。
もう、何十年と前の話だ。




「羽根を折るって、腕とか足を無くすのと同じなんだろ?」
「まぁ、そうですけど。僕、どうしてもヒスイと一緒に生きてゆきたいんです」

天使のコハクと吸血鬼のヒスイ。

光に属する者と闇に属する者。

二人の肉体の相性は最悪で。

触れる事さえ叶わない・・・あの頃はまだそんな状態だった。


「どうしても?」
「どうしても」


喪失した羽根の数だけ、熾天使としての力も失われる。
コハクは本来六枚の羽根を持つ天使だったが、ヒスイに触れるための代償としてまずは二枚捨てると言った。
「いっぺんに折ったら、たぶん瀕死になると思うけど?」
「ああ、僕、血の気多いんで大丈夫です。気絶しても、そのままやっちゃってください」
「ふ〜ん。ま、お前がそう言うんなら」
「あと、この事はヒスイには絶対言わないでくださいね」


僕が愛したくてする事だから。


「ヒスイに愛されるかどうかとは別問題なんです」




(な〜んて言ってたけど)
あっさりヒスイにバラしてしまった。
コハクには散々文句を言われたが、今ではすっかりお馴染みとなった。





「何やってんだ、ジジイ」
仕事帰り、眼鏡スーツ姿のまま廊下を通りかかったトパーズが足を止めた。
扉の隙間から見えるものはわかっていたが、そこにジストではなくメノウがいる事が不思議だったのだ。
「お前は見ない方がいいよ」
メノウが小声で返答した。
「勃っちゃうだろ」
「・・・・・・」
さらりと下ネタがメノウらしい。
「・・・ヒトの事言えるのか」
トパーズも動じない。ネクタイを緩め、鼻で笑う。
普通に下ネタが飛び交う家庭なのだ。
こんな会話は日常茶飯事だ。
「勃つわけないじゃん。娘だよ?それに俺・・・ソッチの方は燃え尽きたし」
メノウは冗談っぽく笑い、それから少し真面目な声色で。


「もう何も残ってない。全部サンゴに捧げた」


「・・・・・・」
トパーズは何も言わずに、眼鏡越しの紅い瞳でメノウを見ていた。
「そうだ。お前も行く?」
「何処にだ?」
メノウはシャツの胸ポケットから懐中時計を取り出した。
時間移動に使用するレアアイテムだが、エネルギー切れでしばらくお蔵入りになっていたものだ。
メンテナンスをするのにたまたま持ち歩いていたのだが、唐突に閃いた。


「過去。ヒスイ観光の旅」





遡る事数十年・・・過去。
ヒスイ3歳の「世界」。
満月の夜とは打って変わって、時は日中。
曇り晴れの穏やかな気候だった。


「ほうら、甘いよ?」


指に付けたシロップを幼女ヒスイの口元へ寄せるコハク。
「あ〜んして、ヒスイ」
「あ〜ん」ぱくっ!
三時のおやつはプリンだ。
甘さ控えめ、その分シロップは濃厚に作ってあるが、プリンにはかけず、指に付けて舐めさせる・・・餌付け中、だ。


メノウとトパーズは窓の外で。
「昔からああやって食わせてたんだって」
“お兄ちゃん=甘い”って思うように。
「チョコとかクリームとか甘い物を自分の手から直接与えたって言ってた」
「・・・・・・」
「だからヒスイは今でもそう思ってるし、コハクが“甘い”って言えば、どんなものでも甘く感じるってワケ」
「どんなものでも、か。成る程」
「納得、だろ?」
ヒスイが日夜咥えているであろう甘いモノを想像し、二人は苦笑いを浮かべた。


「おにいたん、も〜おわり?」
「もっと欲しい?」
コハクの問いにコクコクと小さなヒスイが頷いた。
「じゃあ、もう一回だけね。虫歯になっちゃうから」
「うんっ!!おにいたんだいしゅきっ!!」
両手でコハクの手を取り、向けられた人差し指を懸命に舐めるヒスイ。
おやつタイムの次は、裏庭のハンモックでお昼寝タイムだ。
「おやすみ、ヒスイ」
コハクは得意の子守歌でヒスイを寝かしつけ、ふわふわの頬にキスをした。
「さて、洗濯物を・・・」
いそいそと動き出す。主夫は何かと忙しいのだ。
「夕食は野菜たっぷりのポトフにしよう。菜園でジャガイモ掘って・・・っと」
屋敷から一分ほど歩いた先の土地を耕し、ヒスイの好きな野菜を中心に栽培していた。
収穫用の籠を抱え、コハクは外出・・・チャンスだ。
「しばらく帰ってくんなよ〜」
影からコハクを見送り、早速二人はヒスイ観光へと向かった。







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